ジャクリーン・A・ローレンス(Jacqueline A. Lawrence)の論文一覧:人の心を調べていたら、日常のモヤモヤまで顔を出してきた論文たち
ジャクリーン・A・ローレンス(Jacqueline A. Lawrence)のプロフィール
ジャクリーン・A・ローレンスは、ロンドン・サウスバンク大学(London South Bank University)で心理学を教えている研究者・講師です。ResearchGate では Lecturer として掲載されていて、担当分野には カウンセリング心理学 や 依存に関する心理学・カウンセリング が挙げられています。教育歴としては、同大学で 2005年9月から2014年7月まで心理学を学んだことも示されています。
「人の心って、なんでこんなにややこしいんですかね?」
という問いに、ちゃんと研究で向き合っているタイプの先生です。とくに、自己肯定感の低さや自分を責め続けてしまう心の動きに関心があるようで、2016年には自己批判的な反すうと低い自己肯定感の関係を扱った論文に参加し、2018年にはフェネル・モデルに基づく低自尊心へのCBT介入をまとめたシステマティックレビューとメタ分析の共著者にもなっています。
つまりこの方、ざっくり言うと、
「心の中で延々と開かれる反省会、あれ何なんですか」を、
気合いではなく心理学で見に行く人です。
しかも、ただ“つらいですね”で終わらず、どうすれば少し楽になれるかまで視野に入れているところが魅力です。研究テーマも、机の上だけで完結する感じではなく、日常のしんどさにちゃんと足がついています。
参考文献・確認先: ResearchGate:Jacqueline Lawrence プロフィール / London South Bank University Research Portal:Jacqui Lawrence 関連研究業績 / Kingston University:自己批判的反すうと低自尊心に関する論文情報 / PubMed:低自尊心へのCBT介入に関するシステマティックレビュー / ScienceDirect:Fennellモデルに基づく低自尊心へのCBT介入研究

ジャクリーン・A・ローレンス(Jacqueline A. Lawrence)の研究から学べること
ジャクリーン・A・ローレンス(Jacqueline A. Lawrence)の研究から学べることは、ひとことで言うと、「自分を責める声は、ただの性格ではなく、“考え方についての考え方”によって強くなることがある」ということです。
ちょっとややこしいですよね。「考え方についての考え方」って、心の中に会議室があって、その会議についてまた別の会議をしている感じです。人間の心、どれだけ会議好きなんですか。議事録だけで棚が埋まります。
ローレンスさんは、低い自尊心、自分への批判、ぐるぐる考え続ける思考、そして心理療法に関わる研究に名前が見られる心理学研究者です。たとえば、低い自尊心を持つ人の「自分を責める反すう」に、メタ認知、つまり「自分の考えをどうとらえているか」がどう関わるのかを調べた研究に参加しています。そこでは、自分を責める考えそのものだけでなく、「この考えは役に立つ」「考えるのを止められない」といった考え方への信念も重要なテーマになっています。
たとえば、仕事でミスをしたとします。
「またやってしまった」
「自分はダメだ」
「なんでいつもこうなんだ」
「もう信用されないかもしれない」
ここまでは、つらいときによくある心の反応です。ところが、そこにもう一段階の声が乗ってくることがあります。
「このことを考え続けないと、また同じ失敗をする」
「自分を責めておかないと、反省したことにならない」
「考えるのを止めたいけど、止められない」
これが厄介なのです。自分を責める考えが出てくるだけでもしんどいのに、その考えを「必要なもの」「止められないもの」と信じてしまうと、心の反省会が終わりません。会議室の電気が消えない。議長も帰らない。お茶も冷めているのに、まだ「では次の議題です」と言ってくる。これは疲れます。
ローレンスさんたちの研究から学べるのは、「自分を責めている内容」だけでなく、「自分はなぜ責め続けているのか」に目を向ける大切さです。
たとえば、「自分を責めることで成長できる」と思っている人がいます。たしかに、反省は大切です。ミスを見直し、次に活かすことは必要です。でも、自分を責めることと、改善することは同じではありません。ここを混ぜると、心がブラック企業化します。
「反省しろ!」
「もっと自分を追い込め!」
「寝る前にも思い出せ!」
「朝起きたら続きを考えろ!」
心の中の上司が、なかなか帰らせてくれません。でも本当の改善に必要なのは、自分を痛めつけることではなく、原因を見て、次の行動を決めることです。たとえば「確認が足りなかったから、次はチェック表を使おう」。これでいいのです。「自分は人間として終わっている」まで行く必要はありません。そこまで行くと、反省ではなく、心の自爆装置です。
ローレンスさんが関わった別の研究では、低い自尊心に対する認知行動療法の効果を調べた複数研究のまとめもあります。この研究では、低い自尊心に対する認知行動療法が有効である可能性が示されていますが、うつへの治療とどの程度ちがう効果なのかなど、まだ検討が必要な点もあるとされています。
ここからわかるのは、「自尊心が低い人に、ただ“自信を持ちなさい”と言っても難しい」ということです。
「自信を持て」は、言う側からすると便利な言葉です。でも、言われた側からすると、「はい、では今から空を飛んでください」と言われるくらい難しいことがあります。羽、どこですか。取扱説明書はありますか。という話です。
低い自尊心の人は、自分に対する見方がかなり厳しくなっていることがあります。
「失敗したら、自分には価値がない」
「人に迷惑をかけたら、自分は嫌われる」
「完璧にできないなら、やる意味がない」
「少し注意されただけで、自分の全部が否定された気がする」
こういう考えが心の底にあると、毎日の出来事がすぐに「自分の価値判定」に変わってしまいます。仕事のミスも、人間関係のすれ違いも、ちょっとした沈黙も、全部が試験問題になる。人生が毎日小テストです。しかも採点者が自分にだけ異常に厳しい。赤ペンが暴れ馬です。
認知行動療法の考え方から見ると、こうした自分への見方は、少しずつ点検できます。「本当にそう言い切れるのか」「別の見方はないか」「自分が友人に同じことを言われたら、同じように責めるだろうか」と問い直していくのです。
これは、無理やり前向きになることではありません。
「私は最高!」
「全部うまくいく!」
「失敗なんて気にしない!」
と、心に派手なポスターを貼ることではないのです。むしろ、極端に暗くなっている心の照明を、少しだけ調整する感じです。「全部ダメ」ではなく、「ここは失敗した。でも全部ではない」。「自分には価値がない」ではなく、「今、自信が下がっている」。このくらいでいいのです。心に必要なのは、いきなり太陽ではなく、まず豆電球です。
また、ローレンスさんが関わる研究には、救急隊員や消防士など、強いストレスを受けやすい仕事に就く人たちの心の健康に関するものもあります。たとえば、第一対応者の職業上のストレスと心的外傷後ストレス、うつ、不安との関係において、社会的な支えが重要な役割を持つ可能性が示されています。
これも大事です。人は、強い人ほど平気なのではありません。強く見える人にも、支えが必要です。救急や消防のように、人の危機に向き合う仕事では、「自分がしっかりしなければ」と思いやすいかもしれません。でも、心の荷物は、どれだけ立派な制服を着ていても重いものは重いのです。
これは私たちの日常にもつながります。職場で責任がある人、支援する立場の人、家族を支える人、まわりから「しっかりしている」と見られやすい人ほど、弱音を飲み込みやすいことがあります。でも、飲み込んだ弱音は消えるわけではありません。心の奥で、冷めたお弁当みたいに残ります。時々ふたを開けて、「まだここにいます」と言ってきます。
だからこそ、ローレンスさんの研究から学べるのは、「心のしんどさは、本人の弱さだけで説明してはいけない」ということです。自尊心の低さも、自分を責める反すうも、強い職業ストレスも、ただ「気合いが足りない」で片づけられるものではありません。そこには、考え方のクセ、考え方への信念、支えの有無、環境の負荷がからんでいます。
日常に活かすなら、まず自分を責めているときに、こう聞いてみるとよいです。
「私は今、反省しているのか。それとも、自分を傷つけているだけなのか」
これはかなり大事な問いです。反省は、次の行動につながります。自分責めは、ただ心の体力を削ります。反省は地図を描く作業です。自分責めは、地図を燃やしながら迷子になる作業です。似ているようで、かなり違います。
次に、「自分を責め続けることに、どんな意味があると思っているのか」を見てみることです。
「責めないと成長できない」と思っているのか。
「責めることで責任を取った気になっている」のか。
「責めるのをやめると、また失敗する気がする」のか。
「そもそも考えを止められないと思っている」のか。
ここが見えてくると、心のからくりが少しわかります。からくりがわかると、少し調整できます。古い時計も、いきなり叩くより、どの歯車が引っかかっているかを見るほうが直しやすいですよね。心も同じです。叩くより、見る。責めるより、ほどく。
そして、しんどいときは支えを使うことです。人に話す。相談する。紙に書く。専門家につながる。これは弱さではありません。心の荷物を、片手持ちからリュックに入れ替えるようなものです。同じ荷物でも、持ち方が変われば歩きやすくなります。
ジャクリーン・A・ローレンスの研究からたどりつく学びは、とても現実的です。
自分を責める心は、ただの性格ではありません。
その背景には、「責めることは必要だ」「止められない」「考え続けないと危ない」といった、考え方についての思い込みがあるかもしれません。
そして、その思い込みは、少しずつ見直すことができます。
自信がない人に必要なのは、根性の注射ではありません。
自分を見るものさしを点検することです。
心の中の厳しすぎる採点者に、「その採点基準、本当に妥当ですか」と聞いてみることです。
人生では、失敗もあります。注意される日もあります。自分にがっかりする日もあります。でも、そのたびに「自分はダメだ」と結論を出していたら、心は毎日判決文を書かされてしまいます。
だから、少しだけ言い方を変えてみる。
「私はダメだ」ではなく、「今回はうまくいかなかった」。
「また失敗した」ではなく、「次に直せる点が見つかった」。
「考え続けないといけない」ではなく、「考える時間を区切ってもいい」。
「自分を責めないと反省にならない」ではなく、「自分を責めなくても改善はできる」。
この小さな言葉の入れ替えが、心の出口になります。
ローレンスさんの研究は、私たちに教えてくれます。心の中で続く自分責めの会議は、必ずしも出席し続けなくていい。必要な議題だけを扱い、次の行動を決めたら、会議を閉じてもいいのです。お茶を片づけ、電気を消し、心を少し休ませる。
反省は大切です。でも、自分を人質にした反省会は、そろそろ閉会してもいいのだと思います。

ジャクリーン・A・ローレンス(Jacqueline A. Lawrence)の論文一覧
1.『低い自己肯定感にCBTは効くのか-フェネルモデルにもとづく介入研究を読み解く系統的レビューとメタ分析』ダニエル・C・コルビンスキ、ダニエル・フリングス、アナ・V・ニクチェヴィッチ、ジャクリーン・A・ローレンス、マルカントニオ・M・スパーダ(2018)
Kolubinski, D. C., Frings, D., Nikcevic, A. V., Lawrence, J. A., & Spada, M. M.(2018).
A systematic review and meta-analysis of CBT interventions based on the Fennell model of low self-esteem.
Psychiatry Research, 267, 296–305.
DOI:10.1016/j.psychres.2018.06.025
「自己肯定感が低いんです……」に対して、
この論文は「気合いで上げましょう」ではなく、CBTでちゃんと立て直せるのかを本気で点検した一作です。成人の低い自己肯定感を対象に、フェネルモデルに基づく8研究を集め、7研究でメタ分析まで実施。週ごとの介入は効果が大きく、抑うつの軽減にも似た改善が見られました。つまり、心の中の「私はダメかも会議」、意外と議事録を書き換えられるかもしれません。読むと、自己肯定感を“根性論”から救い出したくなります。

