ダニエル・フリングス(Daniel Frings)の論文一覧:人の心を研究していたら、いつのまにか私たちの“めんどうな本音”まで見つけてしまった論文たち
ダニエル・フリングス(Daniel Frings)のプロフィール
ダニエル・フリングスさんって、どんな人なの?
ひとことで言うと、「人の心と集団のふしぎを、かなり本気で追いかけている社会心理学者」です。現在は ロンドン・サウスバンク大学(London South Bank University)の社会心理学の教授で、同大学では研究・イノベーション担当の役職も務めています。プロフィールでは、健康と福祉に関わる研究センターや、苦悩の当事者経験、ニコチン・たばこ・ベイピング研究の領域にも関わっていることが示されています。
「社会心理学って、つまり何を見ている人?」
はい、そこが面白いところです。ダニエル・フリングスさんの関心は、人がひとりで考える心というより、人が集団の中でどう動くか、どう感じるかという部分にあります。Google Scholarでも専門は Social Psychology とされていて、実際に、社会的アイデンティティや依存からの回復、健康行動、感染リスクの見方など、かなり“人間のリアルな場面”に近いテーマで研究しています。
たとえば、
「人はグループに所属すると、どう変わるのか?」
「依存から立ち直るとき、仲間とのつながりはどんな意味を持つのか?」
「自分は大丈夫、と楽観的に思いすぎるのはなぜか?」
みたいな、人生のあちこちで出くわす“人間のくせ”を、研究でじわじわ照らしている感じの人です。机の上だけの心理学というより、社会の空気の中で起きる心の動きをつかまえにいくタイプですね。
しかもこの方、研究だけしている人ではありません。PhD取得者で、博士課程の学生受け入れも行っており、教育や研究指導にも関わっています。さらに、著書として Social Psychology: The Basics もあり、「社会心理学って何?」を整理して伝える役割も担っていることがわかります。研究者であり、案内人でもあるわけです。ちょっとずるいですね。できる人の香りがします。
参考文献・確認先:London South Bank University:Daniel Frings 公式プロフィール / Google Scholar:Daniel Frings 論文・引用情報 / PubMed:Daniel Frings 関連論文 / ResearchGate:Daniel Frings 研究プロフィール

ダニエル・フリングス(Daniel Frings)の研究から学べること
ダニエル・フリングスさんの研究をひとことで言うなら、「人は“意志の力”だけで変わるのではなく、“自分がどんな仲間の一員だと思っているか”によって、行動がぐぐっと変わることがある」というお話です。
たとえば、ダイエットでも、禁煙でも、断酒でも、勉強でも、運動でも、「よし、今日から自分は変わるぞ!」と決意する瞬間がありますよね。あの瞬間の心は、なかなか勇ましいです。脳内ではファンファーレが鳴り、心の中の旗がばさっと立つ。でも、三日後にはその旗が洗濯物のタオルみたいにしおれている。人間、あるあるです。決意は強そうに見えて、実は天気に左右される紙飛行機みたいなところがあります。
そこでフリングスさんの研究が教えてくれるのは、「変わりたいなら、自分ひとりの根性だけに頼らず、“所属する場所”や“自分の肩書き”を変えることが大事かもしれませんよ」ということです。
フリングスさんは、ロンドン・サウスバンク大学に所属する心理学者で、依存からの回復、集団への所属、社会的な自分らしさ、健康行動などを研究してきた人物です。特に、依存から回復する人が「自分は依存に支配される人間だ」という見方から、「自分は回復していく仲間の一員だ」という見方へ移っていくことに注目しています。
ここで出てくる大事な考え方が、「社会的な自分らしさ」です。ちょっと固い言葉なので、やわらかく言うと、「自分はどのチームの人間だと思っているか」ということです。人は、自分をただの個人としてだけ見ているわけではありません。「私は家族の一員」「私は職場のスタッフ」「私はランナー」「私は読書好き」「私は支援者」「私は回復を目指す仲間」。こうした“心の名札”をいくつも持っています。
この名札が、行動に影響します。
たとえば、「自分はだらしない人間だ」と思っている人は、少し失敗しただけで「やっぱり自分はこうだ」と戻りやすくなります。ところが、「自分は少しずつ整えていく人間だ」と思えている人は、同じ失敗をしても「まあ、今日は乱れたけど、また戻せばいい」と考えやすくなります。心の名札が変わると、同じ出来事の意味も変わるのです。
フリングスさんが関わった研究では、依存からの回復において、回復を支える集団に所属し、その集団の一員だと感じることが、再発の少なさや自己効力感、つまり「自分はやれる」という感覚と関係していることが示されています。アルコールや薬物の自助グループ、禁煙後の人たちなどを対象にした研究では、「依存していた自分」よりも「回復している自分」という自分らしさを強く持つことが、良い結果と結びついていました。
これ、かなり大きな話です。
依存というと、つい「本人の意志が弱い」「我慢が足りない」という見方をされがちです。でもフリングスさんたちの研究は、そこに「いやいや、話はそんなに単純ではありませんよ」と、研究室から静かにツッコミを入れます。人の行動は、本人の性格だけでなく、周りにいる人、所属している集団、自分をどう説明しているかに大きく影響されるのです。
たとえば、お酒をやめたい人が、毎晩飲む仲間の中にだけいるとします。そこでは「飲むのが普通」「飲めないのはつまらない」「一杯くらいいいじゃないか」という空気が流れている。これは、心にとってなかなか強い向かい風です。逆に、同じように回復を目指す人たちの中にいると、「飲まない日を重ねること」が普通になります。「今日も飲まなかった」が、地味だけど立派な勲章になる。すると、自分の行動を支える物語が変わっていきます。
人間は、空気を吸って生きていますが、同時に“場の空気”も吸って生きています。どんな空気の中にいるかで、心の肺活量が変わるのです。
フリングスさんの研究から学べることは、依存の回復だけに限りません。私たちの日常にも、かなり応用できます。
たとえば、運動を続けたいなら、「運動しなきゃ」と自分を追い込むだけではなく、「歩く人たち」「健康を大事にする人たち」「少しずつ体を整える人たち」の輪に入る。勉強を続けたいなら、「自分は飽きっぽい」と言い続けるより、「毎日少し学ぶ人」という名札を自分につけてみる。仕事で成長したいなら、「ミスしたら終わりの人」ではなく、「改善していく人」という集団感覚を持つ。これだけで、心の姿勢が少し変わります。
つまり、人は「私はこういう人間です」という説明に合わせて、行動を選びやすくなるのです。心の中の自己紹介文が、人生の進路案内板になります。
さらに、フリングスさんたちが関わった研究では、依存に向かう道と、そこから回復する道には、人によって違う「自分らしさの変化」があることも示されています。ある人は、依存が始まる中で大切にしていた役割やつながりを失い、回復の中でそれを取り戻していきます。一方で、もともと孤立していた人にとっては、依存の場が初めての「居場所」になってしまうこともあります。そして回復の中では、新しい学び、仕事、家族、仲間といった新しい自分らしさを作っていくことが大切になります。
ここが、人間の難しくて、でもとても大切なところです。
「悪い習慣をやめればいい」と言うのは簡単です。でも、その習慣がその人にとって、孤独を埋める居場所だった場合、ただ取り上げるだけでは心に穴が空きます。たとえるなら、古い家を壊したのに、新しい家を建てていない状態です。雨が降ったら、そりゃ困ります。だから回復には、「やめること」だけでなく、「新しい居場所」「新しい役割」「新しい自分の説明」が必要になるのです。
これは、就労支援や職場支援にもつながる視点です。
たとえば、長く働いていなかった人が、いきなり「働く人」になるのは簡単ではありません。履歴書に書く肩書きだけの問題ではなく、心の中で「自分は社会の中で役割を持てる人だ」と感じられることが大切です。小さな作業を任される。ありがとうと言われる。朝、同じ場所に通う。仲間とあいさつする。こうした小さな経験が、「自分はここにいていい」「自分にもできることがある」という新しい名札を作っていきます。
この名札は、派手ではありません。でも、かなり強いです。高級な盾ではないけれど、心を守る布のようなものです。やわらかいけれど、あるのとないのでは違います。
フリングスさんの研究は、「人を変えるには、説教よりも所属が大事なことがある」と教えてくれます。もちろん、知識も大事です。ルールも大事です。本人の努力も大事です。でも、人は「こうしなさい」と言われるだけでは、なかなか変われません。「自分もあの人たちのように変われるかもしれない」「ここでは変わろうとしている自分が受け入れられる」と感じたとき、行動が少しずつ変わり始めます。
言葉で言うなら、「禁止」より「参加」です。
「飲むな」「吸うな」「怠けるな」「落ち込むな」と言われるより、「一緒に回復していこう」「一緒に歩こう」「ここで少しずつ整えていこう」と言われるほうが、人は前を向きやすい。人間の心は、命令で動く機械ではなく、関係の中であたたまるエンジンなのです。
そして、フリングスさんの研究からもうひとつ学べるのは、「自分を変えるときは、周囲の人間関係を見直したほうがいい」ということです。
たとえば、何かをやめたい、始めたい、続けたいと思ったとき、私たちはすぐに「自分の意志が弱いからだ」と考えます。でも、その前に見てほしいのです。自分の周りには、その行動を応援してくれる人がいるか。新しい自分を笑わずに受け止めてくれる場所があるか。変化した自分を「いいね」と言ってくれる仲間がいるか。
人は、ひとりで決めても、ひとりでは続きにくいものです。決意はマッチの火、仲間は炭火です。マッチは一瞬明るいけれど、風が吹くと消えやすい。炭火は地味ですが、じんわり長くあたためます。
だから、フリングスさんの研究を日常に活かすなら、まずは「なりたい自分に近い集団に近づく」ことです。大きなことをしなくてもいいです。健康的に暮らしたいなら、健康の話を自然にできる人と関わる。前向きに働きたいなら、誠実に働く人の近くにいる。文章を書きたいなら、書いている人たちの空気に触れる。学びたいなら、学び続ける人の輪に入る。
そして、自分への言葉も少し変えてみる。
「私は続かない人」ではなく、「続ける練習をしている人」。
「私は失敗した人」ではなく、「立て直している途中の人」。
「私は孤独な人」ではなく、「つながりを作り直している人」。
こうした言い換えは、ただの気休めではありません。自分をどんな物語の主人公として見るかが、次の行動を変えることがあるからです。
もちろん、集団の力は良い方向にも悪い方向にも働きます。だからこそ、「どんな仲間に囲まれるか」はとても大事です。周りの空気がいつも誰かを責めるものなら、自分も責める人になりやすい。周りの空気が「どうせ無理」なら、自分の心にもカビが生えやすい。反対に、「少しずつやろう」「失敗しても戻ればいい」「あなたの変化を応援するよ」という空気の中にいると、心は少しずつ呼吸を取り戻します。
ダニエル・フリングスさんの研究から学べることは、結局こういうことです。人は、自分ひとりの気合いだけで生きているのではありません。自分が属している場所、自分につけている名札、周りからのまなざし、仲間とのつながりによって、行動も心も変わっていきます。
だから、何かを変えたいときは、自分を責める前に、こう考えてみてもいいのです。
「自分は今、どんな空気の中にいるだろう」
「自分は自分に、どんな名札をつけているだろう」
「なりたい自分を支えてくれる仲間や場所はあるだろう」
人は弱いから群れるのではありません。人は群れの中で、弱さを支え合い、少しずつ強くなるのです。ひとりの決意が小さな火なら、仲間とのつながりは風よけの囲炉裏です。そこに身を寄せながら、人は「もう一度やってみよう」と思える。
フリングスさんの研究は、そんな人間のあたたかい仕組みを教えてくれます。変化とは、ひとりで崖を登ることではなく、ときに誰かとロープを結び合うこと。回復とは、過去の自分を消すことではなく、新しい居場所の中で「これからの自分」を少しずつ育てていくことなのです。

ダニエル・フリングス(Daniel Frings)の論文一覧
1.『低い自己肯定感にCBTは効くのか-フェネルモデルにもとづく介入研究を読み解く系統的レビューとメタ分析』ダニエル・C・コルビンスキ、ダニエル・フリングス、アナ・V・ニクチェヴィッチ、ジャクリーン・A・ローレンス、マルカントニオ・M・スパーダ(2018)
Kolubinski, D. C., Frings, D., Nikcevic, A. V., Lawrence, J. A., & Spada, M. M.(2018).
A systematic review and meta-analysis of CBT interventions based on the Fennell model of low self-esteem.
Psychiatry Research, 267, 296–305.
DOI:10.1016/j.psychres.2018.06.025
「自己肯定感が低いんです……」に、CBTはどこまで効くのか。そんな切実なテーマを、フェネルモデルにもとづく研究だけ集めて、きちんと見直したのがこの論文です。結果は、“わりと効きそう”。ただし、「ほんまにそれ、自己肯定感に特化した効果?」という慎重な目線も忘れていません。希望をくれるのに、浮かれすぎない。論文なのに足元がしっかりしていて、読んでいると「その自己評価のグラつき、ちゃんと研究されてたんだ」と少し救われます。

