マルティン・グロッセ・ホルトフォルト(Martin grosse Holtforth)の論文一覧:心のもつれをほどきに来たはずが、気づけば人生の説明書まで渡してくる論文たち

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マルティン・グロッセ・ホルトフォルト(Martin grosse Holtforth)のプロフィール

マルティン・グロッセ・ホルトフォルトは、「人の心って、そんなに雑に見てはいけませんよ」と静かに言いながら、研究ではかなり細かいところまで見にいくタイプの心理学者です。現在はスイスのベルン大学で准教授を務めており、臨床心理学と心理療法の分野で研究と教育を続けています。ベルン大学の公式プロフィールでは、2009年から2014年にチューリッヒ大学でSNSFリサーチプロフェッサーを務め、その後2013年からベルン大学の准教授となっていることが示されています。

学歴をたどると、まずドイツのベルリン自由大学で心理学を学び、1992年から1993年にはフルブライトでアメリカのデューク大学に留学しています。その後、ベルン大学で臨床心理学の博士号を取得し、さらに同大学でハビリテーションも修めています。経歴だけ見ると、かなり「研究の王道ルート」を歩いている人で、地図でいえばドイツからアメリカを経由してスイスにしっかり根を張った感じです。

研究テーマは、心理療法、臨床心理学、パーソナリティ評価、行動面の理解などが中心です。研究者プロフィールでは、臨床健康心理学、行動心理学、臨床精神医学、パーソナリティ評価といった領域が挙げられていて、「人はなぜしんどくなるのか」だけでなく、「どうすれば回復に向かいやすいのか」まで見ようとしている人物だとわかります。

しかもこの方、若い頃からかなり評価されています。ベルン大学の公式ページによると、2006年には心理療法研究学会から若手研究者としての優れた業績賞を受け、2011年にはAPA第29部門で共同著者として優秀研究出版賞を受賞しています。つまり、ただ真面目なだけではなく、ちゃんと「この研究、いいですね」と周りから拍手をもらってきた研究者です。

参考文献・確認先: ベルン大学:Martin grosse Holtforth 公式プロフィール / Google Scholar:Martin grosse Holtforth 論文・引用情報 / PubMed:Martin Grosse Holtforth 関連論文 / ORCID:Martin grosse Holtforth 研究者情報

阿部牧歌(管理人)
阿部牧歌(管理人)

マルティン・グロッセ・ホルトフォルト(Martin grosse Holtforth)の研究から学べること

マルティン・グロッセ・ホルトフォルトさんの研究から学べることを、ひとことで言うなら、「人の悩みを見るときは、症状だけでなく、その人が本当は何を求め、何を避けようとしているのかまで見ることが大切」ということです。

心理療法や支援の場面では、どうしても目に見える困りごとに注目しがちです。「眠れない」「落ち込む」「不安が強い」「人と関われない」「仕事に行けない」。もちろん、これらはとても大切です。火災報知器が鳴っているなら、まず火元を見ないといけません。でも、ホルトフォルトさんの研究の面白いところは、そのさらに奥にある「その人の願い」や「満たされていない大事なもの」に目を向けるところです。

ホルトフォルトさんは、スイスのベルン大学心理学研究所に所属する臨床心理学・心理療法研究の研究者で、心理療法の過程、カウンセリング、精神的な不調、治療、臨床評価などを専門領域として紹介されています。研究業績も多く、心理療法の中で何が変化を生み出すのかを長く研究してきた人物です。

ここで大切になるのが、「人は症状だけでできているわけではない」という見方です。

たとえば、ある人が「仕事に行くのが怖い」と言ったとします。表面だけ見ると、「不安が強い人」になります。でも、その奥にはいろいろな物語があるかもしれません。「失敗して責められたくない」「人に迷惑をかけたくない」「ちゃんと役に立ちたい」「安心して認められたい」「自分のペースを守りたい」。つまり、不安の下には、その人が大切にしている願いが隠れていることがあります。

心の悩みは、ただの故障ランプではありません。ときには、「本当はこうしたい」「でも怖い」「近づきたいけど傷つきたくない」という心の内線電話が鳴っている状態です。しかもその電話、たまに保留音が長い。本人も「何が言いたいんだ、私の心よ」と困っていることがあります。

ホルトフォルトさんは、「避けたい気持ち」が心理的な問題や心理療法にどう関わるかについても論じています。ある論文では、心理的な問題や治療において、苦痛や失敗、拒絶などを避けようとする動機が重要であることが扱われています。

これを日常の言葉にすると、「人は、ただ怠けているから動けないのではなく、何かを避けることで自分を守ろうとしている場合がある」ということです。

たとえば、面接に行けない人がいるとします。外から見ると、「行けばいいのに」と思うかもしれません。たしかに、予定としては行けばいい。地図アプリもある。服もある。履歴書もある。電車も走っている。なのに行けない。ここで「やる気がない」と決めつけると、心の地下室を見落とします。

本人の中では、「失敗したらどうしよう」「うまく話せなかったら恥ずかしい」「また落ちたら立ち直れない」「面接官に否定されたら怖い」という思いが渋滞しているかもしれません。つまり、行かないことで、短期的には傷つく危険を避けているのです。避けることは、本人なりの防御策です。ただ、その防御策が長く続くと、今度は人生の選択肢まで狭くしてしまう。心の門番が真面目すぎて、来客どころか本人まで外に出られなくなる感じです。

ここから学べる一つ目の知恵は、「避けている行動を、ただ責めないこと」です。

もちろん、避け続けることで困ることはあります。仕事、通院、人間関係、生活習慣。避けるほど問題が大きくなることもあります。でも、避けている人に「逃げているだけ」と言うと、相手の心はますます防御態勢に入ります。甲羅にこもったカメに向かって、拡声器で「出てこい!」と叫ぶようなものです。カメ、さらにこもります。

大切なのは、「何を避けているのか」「なぜそれがそんなに怖いのか」「本当は何を守ろうとしているのか」を一緒に見ることです。

「行きたくないんですね」で終わらず、

「行くと、どんなことが起きそうで怖いですか」

「一番避けたいのは、失敗ですか。怒られることですか。恥ずかしさですか」

「本当は、どうなれたら少し安心ですか」

こう聞いていくと、症状の奥にある願いや怖さが見えてきます。支援とは、相手の逃げ道をふさぐことではなく、逃げたくなる理由を一緒に地図に描くことなのです。

二つ目の知恵は、「その人の強みに注目すること」です。

ホルトフォルトさんは、クリストフ・フリュッキガーさんとともに、心理療法の中で患者さんの強みに治療者の注意を向ける研究にも関わっています。その研究は、外来心理療法において患者さんの強みに焦点を当てることが変化のしくみを育てる可能性を検討したものとして紹介されています。

これは、すごく大切です。

心理療法や支援では、どうしても「問題探し」が中心になります。何に困っているか。何ができないか。どこでつまずくか。もちろん、それは必要です。でも、問題だけを見ていると、その人が「困りごとの集合体」に見えてしまいます。まるで、履歴書の特技欄に「不安、落ち込み、回避、自己否定」とだけ書かれているようなものです。いやいや、それだけではありません。その人には、必ず生きてきた力があります。

たとえば、何度も失敗しても相談に来ているなら、それは「助けを求める力」です。

人に気をつかいすぎて疲れる人は、見方を変えれば「相手の反応に気づける力」を持っています。

不安が強い人は、「危険を予測する力」が強すぎる状態かもしれません。

完璧主義の人は、「責任感」や「質を大事にする力」が過剰に働いているのかもしれません。

強みは、いつもキラキラした形で出てくるわけではありません。ときには困りごとの服を着て現れます。だから支援者は、「この困りごとの中に、どんな力が隠れているか」を見る目が必要なのです。心理学の宝探しです。スコップはやさしさ、地図は観察力です。

三つ目の知恵は、「治療や支援では、希望や期待も大事」ということです。

ホルトフォルトさんは、うつ病や慢性の抑うつ、治療反応、治療への期待に関する研究にも関わっています。たとえば研究業績の中には、うつ病治療における変化への希望や、治療の成果をどう予測するかに関わる研究が見られます。

これは、現場感覚としてもとても自然です。

人は、「どうせ変わらない」と思っていると、動きにくくなります。何かを試す前から、心の受付で「本日は終了しました」の札が出ます。逆に、「少しは変わるかもしれない」と思えると、小さな行動が起こりやすくなります。希望は、派手な花火ではありません。暗い道に置かれた小さな足元灯です。全部は照らせなくても、次の一歩くらいは見える。

支援で大切なのは、無理に「大丈夫、絶対よくなります!」と断言することではありません。それはときに、相手の苦しさを軽く見ているように聞こえます。そうではなく、「今は難しく感じるけれど、一緒に小さく試せることはあります」「前に少しできた場面を手がかりにしましょう」「変化は一気ではなく、少しずつ起こることがあります」と伝えることです。

希望は押しつけるものではありません。火のついていない薪に、いきなり巨大バーナーを当てると焦げます。小さな火種を守りながら、風を送りすぎず、消えないように育てる。支援の希望づくりは、焚き火職人の仕事に近いのです。

四つ目の知恵は、「人間関係の問題も、うつや不調に深く関わる」ということです。

ホルトフォルトさんは、うつ病の人たちの対人関係上の問題や、心理療法の初期における治療関係の質についても研究しています。研究業績の中には、うつ病と診断された外来患者さんの対人関係の特徴と、治療の初期段階での協力関係を扱ったものがあります。

これは、かなり重要です。

落ち込みというと、本人の心の中だけの問題のように見えます。でも、人間はひとりで生きる壺ではありません。人との関係の中で、傷ついたり、安心したり、期待したり、あきらめたりします。人間関係で「拒絶されたくない」「迷惑をかけたくない」「本音を言うと嫌われる」と思い続けていると、心はじわじわ疲れます。

たとえば、いつも相手に合わせすぎる人がいます。表面上は「いい人」です。でも心の中では、自分の気持ちが行方不明になっています。心の迷子センターで、「私の本音さん、いらっしゃいますか」とアナウンスが流れている状態です。

逆に、人に近づくのが怖くて距離を取り続ける人もいます。傷つかないためには安全ですが、孤独も深まります。鍵をかければ泥棒は入りにくい。でも、友だちも入りにくい。心の防犯対策、強すぎると寂しくなるのです。

だから、支援では症状だけでなく、「その人が人との関係でどんなパターンを持っているか」を見ることが大切になります。いつも我慢しすぎるのか。頼れないのか。拒絶を恐れているのか。怒りを出せないのか。人との距離が近すぎるのか、遠すぎるのか。こうしたことが、回復の鍵になることがあります。

では、ホルトフォルトさんの研究を日常や支援の場にどう活かせばいいのでしょうか。

まず、「困りごとの裏にある願い」を見ることです。

不安の裏には、安心したい願いがあるかもしれません。

回避の裏には、傷つきたくない願いがあるかもしれません。

怒りの裏には、大切に扱われたい願いがあるかもしれません。

落ち込みの裏には、もう一度意味を感じたい願いがあるかもしれません。

症状は、心の騒音のように聞こえることがあります。でも、その奥には「助けてほしい」「わかってほしい」「守りたい」「変わりたい」という声が隠れているかもしれません。支援者は、その小さな声を拾う耳を持つことが大切です。

次に、「できないこと」だけでなく「できていること」を一緒に確認することです。

「今日は来られた」

「話せた」

「不安を言葉にできた」

「少し休めた」

「前より早く相談できた」

こうした小さな変化は、見逃すと砂粒のように消えてしまいます。でも、拾い集めると道になります。心理療法でも支援でも、変化はドカンと起きるだけではありません。しれっと起きます。玄関先に小さな芽が出るように、気づきにくい形で始まることがあります。

そして、「その人に合った目標」を大切にすることです。

周りが「こうなったほうがいい」と思う目標と、本人が本当に大事にしたい目標がずれていることがあります。支援者が就職を急いでいても、本人はまず生活リズムを整えたいかもしれません。家族は外に出てほしいと思っていても、本人はまず安心して眠れるようになりたいかもしれません。

もちろん、現実的な課題もあります。でも、本人の願いが置いてけぼりになると、支援は「いいことをしているようで、本人の心が乗っていない列車」になります。列車は走っているけれど、乗客がいない。これは寂しい。

ホルトフォルトさんの研究が教えてくれるのは、心理療法や支援では、「症状を減らすこと」と同じくらい、「その人が何を大切にしたいのか」を見ることが大切だということです。

人は、ただ不安をなくしたいだけではありません。

安心して人と関わりたい。

自分の力を使いたい。

誰かに認められたい。

傷つかずに挑戦したい。

自分らしく生きたい。

そういう願いが、悩みの奥にあります。症状は、その願いがうまく満たされないときに出てくる心のサインかもしれません。

マルティン・グロッセ・ホルトフォルトさんの研究は、私たちにこう語りかけているようです。

「その人を、症状の名前だけで見ないでください」

「避けている行動の奥にある怖さを見てください」

「問題の中に隠れた強みを探してください」

「本人が本当に求めているものに耳を澄ませてください」

心の支援とは、壊れた部品を交換する作業ではありません。もっと人間くさい、もっと繊細なものです。その人の中にある怖さ、願い、強み、希望を一緒に見つけていく作業です。

人は、ただ「治される」だけでは元気になりません。自分の願いを思い出し、自分の力に気づき、小さな希望を持てたとき、少しずつ前に進めます。

ホルトフォルトさんの研究は、その道筋を照らしてくれる研究です。症状という煙だけを見るのではなく、その奥で何が燃えているのか、そしてどこにまだ小さな火種が残っているのかを見ようとする。そんな、心理療法のあたたかい灯台のような研究なのです。

阿部牧歌(管理人)
阿部牧歌(管理人)

マルティン・グロッセ・ホルトフォルト(Martin grosse Holtforth)の論文一覧

1.『セルフ・コンパッションと全体的自己肯定感は、日々のポジティブ感情・ネガティブ感情、そしてストレスへの揺れやすさとどう結びつくのか:スマートフォン調査から見えてきたこと』トビアス・クリーガー、ヘレナ・ヘルマン、ヨハネス・ツィンマーマン、マルティン・グロッセ・ホルトフォルト(2015)

Krieger, T., Hermann, H., Zimmermann, J., & Grosse Holtforth, M. (2015). Associations of self-compassion and global self-esteem with positive and negative affect and stress reactivity in daily life: Findings from a smart phone studyPersonality and Individual Differences, 87, 288-292. DOI:10.1016/j.paid.2015.08.009

この論文、ざっくり言うと「落ち込んだ日にあなたを救うのは、すごい自信より“自分へのやさしさ”かもしれませんよ」という話です。参加者は2週間、スマホでその日の気分やストレスを記録。すると、セルフ・コンパッションが高い人ほど気分が安定しやすく、ストレスで心が荒れにくい傾向が見えました。自己肯定感との違いまでちゃんと比べているので、「似ているようで別ものなんだ」が腑に落ちる一本です。

阿部牧歌(管理人)
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