ルイーズ・ワシルキウ(Louise Wasylkiw)の論文一覧:心の中をのぞいたつもりが、人間関係の空気まで読まされる論文たち
ルイーズ・ワシルキウ(Louise Wasylkiw)のプロフィール
ルイーズ・ワシルキウさんは、カナダの心理学者で、マウント・アリソン大学の心理学分野で活動してきた研究者です。社会心理学やパーソナリティ心理学寄りの視点を持ちながら、とくに「自分をどう見ているか」「自分にどう接するか」といった、心のなかなか繊細なところを研究している人として知られています。たとえば、セルフ・コンパッションとボディイメージの関係を調べた研究では、「自分にやさしい人ほど、見た目に振り回されにくいのでは」という、なんとも現代人の急所をつくテーマに取り組んでいます。
研究テーマは、セルフ・コンパッション、自己評価、ボディイメージ、ストレスやバーンアウトなどが中心です。つまり一言でいうと、「心がしんどくなるポイント」と「そこから少し楽になるヒント」のあいだを、まじめに、でも人間くさく見つめている研究者、という感じです。2022年にも、大学職員のストレスや燃え尽きにセルフ・コンパッションがどう関わるかを扱った論文を発表しており、関心の軸が一貫していることもうかがえます。
もう少しやわらかく言うなら、ルイーズ・ワシルキウさんの研究は、「もっと頑張れ」ではなく、「そんなに自分をいじめなくていいのでは」と、学問の顔をしながらそっと言ってくるタイプです。読んでいると、論文なのに妙にこちらの生活へ近づいてくる感じがあるんですね。見た目の悩み、自己評価の揺れ、仕事の消耗感。そういう、誰にも少しずつ覚えのある場所に、心理学の明かりを当てている研究者だと言えそうです。
参考文献・確認先: Mount Allison University:心理学部門 教員・研究教授一覧 / Mount Allison Psychology:Louise Wasylkiw インタビュー / PubMed:Louise Wasylkiw 関連論文 / Google Scholar:Louise Wasylkiw 論文・引用情報 / ResearchGate:Louise Wasylkiw 研究業績

ルイーズ・ワシルキウ(Louise Wasylkiw)の研究から学べること
ルイーズ・ワシルキウさんの研究から学べることを、ひとことで言うなら、「自分の体や見た目に厳しすぎると、心はどんどん窮屈になる。でも、自分に思いやりを向ける力があると、その窮屈さを少しゆるめられる」ということです。
体型や見た目の悩みって、なかなか手ごわいですよね。鏡を見る。写真を見る。服を選ぶ。誰かと比べる。すると、心の中のダメ出し職人がスッと出勤してきます。「ここが気になる」「もっと細ければ」「この服は似合わないかも」「昨日食べすぎたのでは」。しかもこの職人、朝から晩までよく働く。できれば有給休暇を取ってほしいところです。
ワシルキウさんは、自己への思いやりと女性の身体イメージの関係を研究した心理学者です。2012年の論文では、女子大学生を対象に、自分への思いやりが、体型や体重へのこだわり、身体への心配、食べることへの罪悪感などとどう関係するかを調べています。その研究では、自分への思いやりが高い人ほど、体への心配や食べることへの罪悪感が少ない傾向が示されました。
ここでいう「自分への思いやり」とは、「私はすばらしい!」と無理やり自分をほめることではありません。そうではなく、失敗したとき、落ち込んだとき、自分の嫌なところが気になったときに、自分をいきなり裁判にかけない態度です。
たとえば、食べすぎた日に、
「最悪。私は意志が弱い」
ではなく、
「今日は疲れていて食べたかったんだな。次の食事から整えよう」
と声をかける。
鏡を見て落ち込んだ日に、
「この体はダメだ」
ではなく、
「今、自分の見た目に厳しい目を向けているな。体は今日も動いてくれているんだな」
と少し立ち止まる。
これが、自分への思いやりです。甘やかしではありません。自分の心にいきなり竹刀を振り下ろさないことです。心の道場、毎日スパルタだと続きません。
ワシルキウさんの研究から学べる一つ目の知恵は、「自尊心だけでは、見た目の悩みを守りきれないことがある」ということです。
自尊心は大切です。「自分には価値がある」と思えることは、心の土台になります。でも、見た目の悩みはとても強い比較の世界に巻き込まれやすいです。周りの人、広告、SNS、写真、体重計、服のサイズ。あちこちに比較の物差しが置いてあります。もう人生が文房具売り場です。測られすぎです。
ワシルキウさんたちの研究では、自分への思いやりは、自尊心とは別に、身体へのこだわりや体重・体型への心配を説明する力を持つことが示されています。つまり、「自分に価値がある」と思うことに加えて、「欠点や不完全さがあっても、自分を責めすぎない」ことが大切なのです。
これはかなり実用的です。
なぜなら、自尊心は日によって揺れます。ほめられた日は上がる。写真写りが悪い日は下がる。体重が増えた日は下がる。お気に入りの服が似合った日は上がる。自尊心がジェットコースターになることもあります。
でも、自分への思いやりは、「今日は自信がないけれど、それでも自分をいじめない」という支えになります。心の床に敷くマットのようなものです。転ばない魔法ではありません。でも、転んだときの痛みを少しやわらげてくれます。
二つ目の知恵は、「体への悩みは、体そのものだけの問題ではない」ということです。
「体型が気になる」と言うと、体の話に見えます。でも実際には、そこに自己評価、人との比較、不安、完璧主義、食べることへの罪悪感、落ち込みがからんでいます。体の悩みは、体の形だけでなく、心の見方とも深く関係しているのです。
たとえば、同じ体型でも、ある日は「まあ、これも自分だ」と思える。別の日は「もう全部だめ」と感じる。体が一晩で劇的に変わったわけではありません。変わったのは、体を見る心のレンズです。しかもそのレンズ、寝不足や疲れやSNSの見すぎで、すぐ曇ります。
ワシルキウさんの研究では、身体へのこだわりと抑うつ症状の関係にも、自分への思いやりが関わる可能性が検討されています。つまり、体のことで悩むことが心の不調につながる背景には、自分にどれだけ厳しく接しているかが関係しているかもしれないのです。
三つ目の知恵は、「食べることへの罪悪感を、自己攻撃にしないこと」です。
食べることは、本来、生きるための大切な行為です。おいしいものを食べて「幸せだな」と感じる時間も、人間にとって大事な栄養です。ところが、体型への不安が強くなると、食べることが裁判になります。
「これを食べていいのか」
「太るのでは」
「また我慢できなかった」
「明日から厳しくしないと」
もう食卓が法廷です。ごはんが証拠品みたいに見えてきます。これはつらい。
ワシルキウさんたちの研究では、自分への思いやりが高い人ほど、食べることへの罪悪感が少ない傾向が示されています。 これは、「好きなだけ食べればいい」という話ではありません。そうではなく、食べたあとに自分を責めすぎないことが大切だということです。
もし食べすぎたなら、次に整えればいい。
もし甘いものを食べたなら、それを人生の敗北にしなくていい。
もしダイエットが予定通りいかなかったなら、「自分はダメ」ではなく、「やり方を見直そう」でいい。
食事は、自己価値を決める試験ではありません。食べたものひとつで、自分の人間としての価値が上下するわけではないのです。ケーキ一切れで人格が崩壊するなら、人類はとっくに滅んでいます。
四つ目の知恵は、「自分への思いやりは、現実から目をそらすことではない」ということです。
ここは誤解されやすいところです。自分にやさしくするというと、「努力しなくなるのでは」「だらしなくなるのでは」と心配する人がいます。でも、自分を責めまくっても、必ずしもよい行動につながるわけではありません。むしろ、自己嫌悪が強くなると、「もういいや」と投げやりになりやすいこともあります。
自分への思いやりは、問題を見ないことではありません。問題を見ながら、自分を壊さないことです。
「今の生活習慣は少し整えたい」
「でも、自分を嫌いになる必要はない」
「健康のために動きたい」
「でも、体を罰するために運動するのではない」
「食事を見直したい」
「でも、食べた自分を責め続けるのはやめたい」
このバランスです。自分を大切にするからこそ、健康的な行動を選ぶ。自分を嫌いだから罰する、ではないのです。これはかなり大きな違いです。
五つ目の知恵は、「見た目の悩みを抱える人に、安易な励ましをしないこと」です。
誰かが「自分の体が嫌だ」と言ったとき、周りはつい「そんなことないよ」「細いじゃん」「かわいいよ」と言いたくなります。もちろん善意です。でも、本人の悩みが深いと、その言葉はあまり届かないことがあります。むしろ、「そう見えないだけで、本当は悩んでいるのに」と孤独になることもあります。
大切なのは、見た目の評価を別の評価で上書きするだけではなく、本人の苦しさを受け止めることです。
「そう感じるくらい、つらいんですね」
「体のことを考える時間が多くて疲れているんですね」
「自分にかなり厳しい目を向けている感じがありますね」
こういう言葉は、相手の心に椅子を出します。いきなり解決するのではなく、まず座ってもらう。そこから一緒に考えるのです。
支援の場面でも、この視点はとても役立ちます。
体型や食事に悩む人に対して、「気にしすぎです」「健康ならいいじゃないですか」と言うだけでは足りません。本人にとっては、体型や食事が自己価値と強く結びついている場合があります。そこをほどくには、時間と安心が必要です。
「体のどこが気になるのか」
「その気持ちはいつ強くなるのか」
「誰かと比べているのか」
「食べたあと、どんな言葉を自分にかけているのか」
「自分にもう少しやさしい言葉をかけるなら、何と言えそうか」
こうやって、体そのものだけでなく、体を見る心のクセを一緒に見ていくことが大切です。
ルイーズ・ワシルキウさんの研究が教えてくれるのは、体の悩みには、自分への接し方が深く関わるということです。
自分の体をどう見るか。
食べることをどう受け止めるか。
欠点が気になったとき、自分をどう扱うか。
失敗したとき、責めるのか、立て直すのか。
ここが、心の健康に大きく関わります。
人間の体は、評価されるためだけにあるものではありません。歩く。働く。眠る。笑う。抱きしめる。食べる。生きる。体は、毎日こちらを支えてくれています。もちろん、好きになれない日もあります。鏡を見てため息が出る日もあります。でも、そんな日にも、自分の体を敵にしなくていいのです。
ワシルキウさんの研究は、こう語りかけているようです。
「自分の体を好きになれない日にも、自分をいじめないでください」
「自信が持てない日にも、自分に思いやりを向けることはできます」
「完璧な体を目指すより、自分を責めすぎない心を育てましょう」
体への悩みは、鏡の中だけにあるのではありません。心の言葉の中にもあります。だからこそ、鏡を変えられない日には、せめて自分にかける言葉を少し変えてみる。ダメ出し職人に、今日は早退してもらう。
それだけでも、心の部屋には少し風が通ります。ルイーズ・ワシルキウさんの研究は、その風の通し方を教えてくれる、やさしく実用的な研究なのです。

ルイーズ・ワシルキウ(Louise Wasylkiw)の論文一覧
1.『大学生女性におけるセルフ・コンパッションとボディイメージのつながりを探る』ルイーズ・ワシルキウ、アナ・L・マッキノン、アレカ・M・マクレラン(2012)
Wasylkiw, L., MacKinnon, A. L., & MacLellan, A. M.(2012). Exploring the link between self-compassion and body image in university women. Body Image, 9(2), 236-245. DOI: 10.1016/j.bodyim.2012.01.007
「見た目が気になる…」と鏡の前で心がざわつく日、ありますよね。Wasylkiwらの2012年の研究は、大学生女性を対象に、自分にやさしくできる人ほど体へのこだわりや体重・体型への不安が少なく、自己肯定感とは別の形でその効果が見られることを示しました。つまり、美しく見える方法の前に、自分を責めすぎない心のほうが案外だいじかもしれない。そんな発見がのぞける一本です。

