キース・F・ワイダマン(Widaman)の論文一覧:数字は静かに並んでいるのに、人間のややこしさがちゃんと見えてくる研究棚
キース・F・ワイダマン(Widaman)のプロフィール
キース・F・ワイダマンは、数字を並べるだけの研究者ではなく、「その数字の向こうで、人がどう生きているか」をちゃんと見ようとするタイプの研究者です。現在はカリフォルニア大学リバーサイド校(UC Riverside)大学院教育学研究科の Distinguished Professorとして紹介されており、1982年にオハイオ州立大学で博士号を取得しています。研究テーマとしては、子どもや青年の適応行動の測定、メキシコ系家族における発達への家族の影響、遺伝と環境の相互作用(GxE)、そして理論を統計モデルでどう確かめるかといった分野が挙げられています。
もう少しやわらかく言うと、この人は「人の心や発達を知りたい。でも、ふんわり語るだけでは終わりたくない」という学者です。心理学の世界には、ときどき“いい話だけど、ほんまにそうなん?”と聞きたくなる場面がありますが、ワイダマンはそこに統計と測定の道具を持って現れるタイプです。しかも、ただ数字に厳しいだけではなく、扱っているテーマは発達や家族、子どもの適応など、かなり人間くさい。白衣の顔をしながら、ちゃんと生活の匂いがする研究をしている人、と言うと伝わりやすいかもしれません。
受賞歴もなかなか立派で、2019年にはオハイオ州立大学心理学部から Alumnus of the Year Awardを、同じ年にAPA第5部門から Samuel J. Messick Award for Distinguished Contributionsを受けています。つまり、「その道の人たちから見ても、この人の仕事はかなり効いている」と言ってよさそうです。
なので、キース・F・ワイダマンをひとことで紹介するなら、
「人の発達や自己理解を、統計で冷たく切るのではなく、統計を使ってむしろ丁寧に見ようとした研究者」
という感じです。
数字の人なのに、数字だけの人ではない。そこが、この人のおもしろいところです。
参考文献・確認先:カリフォルニア大学リバーサイド校:Keith F. Widaman 公式プロフィール / Google Scholar:Keith F. Widaman 論文・引用情報 / PubMed:Keith F. Widaman 関連論文 / UC Riverside:APA Samuel J. Messick Award 受賞記事

キース・F・ワイダマン(Widaman)の研究から学べること
キース・F・ワイダマン(Keith F. Widaman)の研究から学べることは、ひとことで言うと「人の心を測るなら、まず“ものさし”が曲がっていないか確かめよう」ということです。
これは地味に見えて、かなり大事です。心理学というと、「性格とは何か」「自信は人生にどう影響するのか」「親子関係は子どもの成長にどう関わるのか」みたいな、心のドラマ本編に目が行きがちです。でもワイダマンさんが見ているのは、その手前にある「そもそも、その測り方で本当に大丈夫ですか?」という部分です。いわば、心理学界の測量士。心の土地を測る前に、メジャーの端っこが伸びきっていないか確認する人です。
たとえば、「自尊心を測る質問紙」があるとします。「私は自分に価値があると思う」「私は物事をうまくやれると思う」みたいな質問に答えてもらい、点数を出すわけです。ここで普通は、「点数が高い人は自尊心が高いんだな」と考えますよね。ところがワイダマンさん的には、ここで一度、白衣の袖をまくります。
「その質問、日本の若者にも、アメリカの若者にも、同じ意味で伝わっていますか?」
「男性と女性で、同じように答えられていますか?」
「10代と40代で、“自分に価値がある”という言葉の重みは同じですか?」
はい、急に会議室の空気がピリッとしました。なんとなく使っていた質問紙に、数学の虫めがねが向けられます。
ワイダマンさんは、心理測定、つまり心を数値として扱う方法の研究で知られており、とくに「測定の同等性」に関する研究で重要な仕事をしています。これは簡単に言うと、別々の集団を比べるときに、その道具が本当に同じ意味で使えているかを確かめる考え方です。彼は、確認的因子分析、項目反応理論、測定の同等性などを扱う心理測定の方法論についても論じています。
たとえば、国語のテストを考えるとわかりやすいです。大阪の人と東京の人に同じテストをして平均点を比べるなら、問題がどちらにも同じ意味で伝わっている必要がありますよね。もし片方の地域だけにしか通じない言葉が入っていたら、それは国語力の差ではなく、問題文のクセの差かもしれません。
心理学でも同じです。
ある質問に対して、文化や年齢、性別、経験によって受け取り方が違うなら、点数の差をそのまま「心の差」と見なすのは危険です。たとえば「私は人前で堂々と話せる」という質問があったとして、ある文化では積極性の表れかもしれませんが、別の文化では「控えめさに欠ける」と感じられるかもしれません。すると、点数の差は性格の差というより、文化ごとの“答え方の作法”の差かもしれないのです。
ここがワイダマンさんの研究から学べる、かなりおもしろいところです。
数字は、いかにも正しそうな顔をします。平均点、相関係数、偏差値、グラフ。これらはみんな、スーツを着た説得力でこちらを見てきます。「私は客観的ですけど?」という顔をしています。でも、その数字を生み出した質問や測定方法がズレていたら、数字もまたズレます。曲がった定規で測った身長は、どれだけ小数点まで細かく書いても、やっぱり曲がっています。
だからワイダマンさんの研究は、こう教えてくれます。
「データを信じる前に、データの生まれ方を見よう」と。
これは心理学だけでなく、仕事や日常にもかなり使えます。たとえば職場でアンケートを取ったとします。「職場に満足していますか?」「上司に相談しやすいですか?」「仕事にやりがいを感じますか?」という質問です。結果だけ見れば、「満足度は70点です」と出るかもしれません。でも、その70点が本当に何を意味しているのかは、少し立ち止まって考える必要があります。
ある人は「まあ辞めるほどではない」という意味で高めにつけるかもしれません。ある人は「本音を書いたらあとで面倒かも」と思って無難に答えるかもしれません。ある人は「やりがい」という言葉を、成長と受け取るかもしれないし、感謝されることと受け取るかもしれません。アンケート用紙は静かですが、その裏では人間たちの解釈がわちゃわちゃ踊っているのです。
つまり、測るとは、ただ数字を集めることではありません。相手がその質問をどう受け取っているのか、どんな背景で答えているのか、同じ点数でも同じ意味なのかを考えることです。
ワイダマンさんの研究は、心理学に「測定の公平さ」という大切な視点を持ち込んでいます。人と人を比べるなら、まず比べ方が公平でなければならない。これはとても当たり前のようで、実際には忘れられがちです。運動会で片方の人だけスタート地点が3メートル後ろだったら、結果だけ見て「足が遅い」と言うのはおかしいですよね。心理測定でも、同じようなことが起こり得るのです。
そして、この考え方は人間関係にも応用できます。
私たちはつい、自分のものさしで人を測ります。「普通はこうするでしょ」「これくらいわかるでしょ」「なんでそんな反応なの?」と。でも、その“普通”というものさしは、自分の経験で作られたものです。相手の育ってきた環境、性格、疲れ具合、不安の強さ、これまで受けてきた言葉によって、同じ出来事でも感じ方は違います。
だから、ワイダマンさん流に言うなら、人間関係でも「測定の同等性」を少し考えたほうがいいのです。
「この人の反応は、私と同じ前提で出てきたものだろうか?」
「同じ言葉を、同じ意味で受け取っているだろうか?」
「私は相手を、自分専用のものさしで測っていないだろうか?」
こう考えるだけで、少しやさしくなれます。相手を甘やかすという意味ではありません。雑に決めつけない、ということです。
キース・F・ワイダマンの研究から学べることは、派手な結論を急がない知性です。数字が出た。差が出た。だからこうだ。はい終了。ではなく、「その差は本当に中身の差ですか? 測り方の差ではありませんか?」と一歩立ち止まる。そこには、研究者としての慎重さと、人を見るうえでの誠実さがあります。
心を測ることは、心を冷たく数字に閉じ込めることではありません。むしろ、雑に決めつけないために測るのです。ちゃんとしたものさしを使うことで、「この人は低い」「この集団は高い」と乱暴に言うのではなく、その人の状態や背景をより正確に見ようとする。
ワイダマンさんの研究は、静かにこう教えてくれます。
人を比べる前に、比べ方を点検しよう。
数字を見る前に、数字を生んだ質問を見よう。
結論を出す前に、ものさしの歪みを疑おう。
心理学の世界では、心は目に見えません。だからこそ、測り方が大切になります。見えないものを扱うときほど、道具の正確さが問われるのです。
そして日常でも同じです。人を理解したいなら、相手を測る前に、自分のものさしを見直すこと。そこから、少しだけ丁寧な理解が始まります。数字にも、人にも、いきなり判決を下さない。ワイダマンさんの研究は、そんな“心の裁判官”を少し休ませてくれる、知的でやさしいブレーキなのです。

キース・F・ワイダマン(Widaman)の論文一覧
1.『自己肯定感は人生を通してどう育つのか そしてそれが大切な人生の結果にどんな影響を与えるのか』ウルリッヒ・オース、リチャード・W・ロビンス、キース・F・ワイダマン(2012)
Orth, U., Robins, R. W., & Widaman, K. F. (2012). Life-span development of self-esteem and its effects on important life outcomes. Journal of Personality and Social Psychology, 102(6), 1271–1288. DOI:10.1037/a0025558
自己肯定感って、今日ちょっと元気だから高い、失敗したから低い、みたいな“その日の気分大会”だと思っていませんか。ところがこの論文、そこに静かにツッコミを入れてきます。自己肯定感は人生の中で少しずつ変わっていき、しかも仕事や人間関係など、大事な人生の結果にもじわっと関わっているかもしれないというのです。心の話を、ふわっとした根性論で終わらせず、人生まるごとで見にいった研究。自分との付き合い方を考えたくなった人に、じんわり刺さる一本です。

