マイケル・H・カーニス(Michael H. Kernis)の論文一覧:自信がある顔をしていても、心の足元は案外ぐらつくと教えてくる研究たち
マイケル・H・カーニス(Michael H. Kernis)のプロフィール
マイケル・H・カーニスは、ひとことで言うと、「自己肯定感って、高ければそれで安心とは限らないよね?」を本気で掘った心理学者です。
アメリカの心理学者で、ジョージア大学(University of Georgia)の心理学教授として活動し、同大学のInstitute for Behavioral Research のリサーチフェローも務めていました。研究テーマは、自尊感情、真正性、自己概念、人間関係あたり。とくに有名なのは、自己肯定感を「高いか低いか」だけで見るのではなく、それが安定しているか、不安定に揺れているかまで見ようとした点です。
たとえば、ぱっと見は自信満々なのに、少し否定されると心の机がガタッと揺れる人がいますよね。カーニスは、そういう状態をただの「高い自己肯定感」としてひとまとめにせず、“fragile high self-esteem” つまり壊れやすい高い自尊感情として捉えました。これは彼の研究を語るうえでかなり大事なポイントで、「自信があるように見えること」と「心の土台がしっかりしていること」は、同じではないかもしれない、と教えてくれます。
さらに彼は、自己肯定感の安定性そのものを測る研究でも知られています。1992年の論文では、自己肯定感の“高さ”ではなく“揺れやすさ”に注目し、その後の研究でも、安定した高い自己肯定感のほうが心理的によい働きと結びつきやすいことを示していきました。要するにカーニス先生、心に向かって「元気そうに見えるけど、足元はどうですか」と、かなり鋭く問いかけてくるタイプです。
しかも研究の射程はそこだけではありません。authenticity(真正性)、つまり「自分らしくあること」にも関心を広げていて、Brian M. Goldmanとの研究では、真正性を多面的に捉える理論化も行っています。なので、彼の仕事をたどっていくと、「自己肯定感をどう上げるか」という単純な話ではなく、“ほんとうの自分に近い形で、自分を支えられているか” という、少し深くて、でも生きるうえではかなり切実な問いにたどり着きます。
参考文献・確認先:Michael H. Kernis プロフィール(Social Psychology Network) / Google Scholar:Michael H. Kernis 論文・引用情報 / PubMed:Michael H. Kernis 関連論文 / PubMed:自己肯定感の安定性に関する代表的論文

マイケル・H・カーニス(Michael H. Kernis)の研究から学べること
マイケル・H・カーニスさんの研究から学べることを、ひとことで言うなら、「本当に大事なのは、自信を大きく見せることではなく、自分の心がぐらぐらしすぎないこと、そして自分に正直に生きること」だと言えます。
自尊心というと、私たちはつい「高ければ高いほどいい」と思いがちです。まるで身長測定みたいに、「はい、自尊心180センチ、すばらしい!」という感じですね。でもカーニスさんの研究は、そこに待ったをかけます。大事なのは、自尊心の高さだけではありません。その自尊心が安定しているかどうかも、とても大切なのです。
たとえば、ほめられた日は「自分、天才かもしれない」と気分が上がる。でも、少し注意された日は「もう終わりだ。自分は社会の片隅でホコリとして生きるしかない」と落ち込む。こういう状態は、自尊心がジェットコースターに乗っているようなものです。上がったり下がったり、心の安全バーがきしみます。
カーニスさんは、アメリカのジョージア大学に所属し、自尊心の安定性や本来の自分らしさについて研究してきた心理学者です。研究者情報では、主な研究テーマとして「自尊心の不安定さ」や「自尊心」が挙げられています。 また、2005年の論文では、自尊心を理解するには「高さ」だけでなく、「安定しているか」という文脈が重要だと論じています。
ここで出てくる「自尊心の安定性」とは、ものすごく簡単に言えば、「自分の価値を、毎日の出来事で激しく上げ下げしすぎない力」です。
もちろん、人間ですから、ほめられたらうれしい。注意されたらへこむ。これは自然です。ロボットではありませんから、心の天気は変わります。でも、安定した自尊心がある人は、雨が降っても「私は価値のない人間だ」とまでは思いません。反対に、不安定な自尊心の人は、ちょっとした失敗で心の土台ごと揺れます。プリンの上に家を建てているようなものです。揺れます。かなり揺れます。
カーニスさんたちの研究では、自尊心が不安定な人ほど、自分が何者なのかという感覚がはっきりしにくく、自分で選んで動いている感覚も弱く、目標に向かうときに緊張しやすく興味を感じにくい傾向が示されています。 つまり、自尊心が高そうに見えても、それがグラグラしていると、心の中ではけっこう大変なことが起きているわけです。
これは、日常生活でもよくあります。
人に認められたら元気になる。でも、認められないと急に不安になる。
誰かに少し否定されると、自分の全部を否定された気がする。
失敗すると、「次はどうしよう」より先に、「自分はダメだ」が出てくる。
人前では平気そうにしているけれど、内心では評価にずっと振り回されている。
こういう状態は、心の中に「承認ください窓口」が24時間営業しているようなものです。しかも、店員さんが寝不足です。外からの評価が入るたびに、「本日の自分の価値を更新します!」と大騒ぎしてしまうのです。
ここから学べる一つ目の知恵は、「自信を高く見せるより、自信を安定させることが大事」ということです。
自分を大きく見せる必要はありません。「私はすごい」「私は完璧」「私は負けない」と心に無理やり大きな旗を立てても、風が吹けば倒れることがあります。大切なのは、もっと地味で、もっと強い自信です。
「うまくいく日もあるし、失敗する日もある。でも、それで自分の価値がゼロになるわけではない」
「人にほめられたらうれしい。でも、ほめられない日にも自分は存在していていい」
「注意された部分は直せばいい。人格まるごと返品しなくていい」
こういう自信です。派手ではありません。でも、折れにくい。心の中に鉄筋が入っている感じです。
二つ目の知恵は、「本来の自分らしさを大切にすること」です。
カーニスさんは、「本来の自分らしさ」についても研究しています。カーニスさんとブライアン・ゴールドマンさんの論文では、本来の自分らしさを、自己理解、自分の経験をゆがめずに見ること、自分の価値観に沿って行動すること、人間関係の中で自分を偽りすぎないことなどから考えています。
これも、かなり大事です。
「自分らしく」と聞くと、少しふわっとしていますよね。雑貨屋さんの木の看板に書いてありそうです。でも、カーニスさんの考える自分らしさは、ただ「好き勝手に生きる」という意味ではありません。むしろ、自分の気持ち、価値観、弱さ、願いをちゃんと見て、それにできるだけ正直に生きることです。
たとえば、本当は疲れているのに「大丈夫です」と言い続ける。
本当は嫌なのに、嫌われたくなくて笑って合わせる。
本当はやりたいことがあるのに、「どうせ無理」と言って最初から消す。
本当は傷ついているのに、平気なふりをする。
これらは、社会生活ではある程度必要なときもあります。いつでも全部本音を出せばいいわけではありません。会議中に突然「今、眠いです」と正直すぎる発表をする必要はありません。そこは大人の調整が必要です。
でも、ずっと自分を偽り続けると、心が迷子になります。自分が本当は何を感じているのか、何を大切にしたいのか、わからなくなってしまう。心のナビが「目的地を再検索しています」と言い続ける状態です。
カーニスさんたちの研究では、日々の自尊心、自分らしくいられる感覚、自分で選んでいる感覚、有能感、人とのつながりが関係していることも検討されています。 つまり、自分らしくいられることは、単なる気分のよさではなく、心の健康や人間関係の感覚ともつながっているのです。
三つ目の知恵は、「防衛的なプライドに注意すること」です。
自尊心が不安定なとき、人は自分を守るために、少し攻撃的になったり、言い訳が増えたり、他人を下げて自分を上げようとしたりすることがあります。これは、心が弱いからというより、心の土台が揺れているからです。
たとえば、少し注意されただけで、「でも、あなたもできていないですよね」と反撃する。
失敗したときに、「自分のせいではなく環境が全部悪い」と言い張る。
誰かが成功すると、「あの人は運がよかっただけ」と下げたくなる。
こういう反応は、心の甲冑です。本人は身を守っているつもりですが、周りから見るとトゲトゲしています。防御のつもりが、対人関係のサボテンになってしまうのです。
でも、本当に安定した自尊心があると、「できていない部分」を見ても、自分の全体が壊れません。だから、人の意見を聞きやすくなります。謝ることもできます。学び直すこともできます。
「そこは確かに直したほうがいいですね」
「自分では気づいていませんでした」
「次はこうしてみます」
こう言えるのは、弱いからではありません。むしろ、土台があるからです。自分の価値を守るために、毎回戦闘態勢にならなくていい。これは、とても大人の強さです。
では、カーニスさんの研究を日常にどう活かせばいいのでしょうか。
まず、自分の自尊心が揺れる場面を観察してみることです。
誰に評価されると、必要以上にうれしくなるのか。
誰に否定されると、必要以上に落ち込むのか。
どんな失敗で、自分の全部がダメに見えるのか。
どんな場面で、つい強がってしまうのか。
これを責める必要はありません。「なるほど、自分はここで揺れやすいのか」と知るだけでいいのです。心の地震計を見るようなものです。揺れを知れば、家具を固定できます。
次に、「出来事」と「自分の価値」を分ける練習です。
ミスをした。これは出来事です。
だから自分はダメな人間だ。これは飛躍です。
注意された。これは出来事です。
だから嫌われたに違いない。これは推測です。
うまく話せなかった。これは出来事です。
だから自分には価値がない。これは心の暴走列車です。停車ボタンを押しましょう。
出来事は見直せばいい。改善できるところは改善する。でも、自分の存在価値まで毎回裁判にかけなくていいのです。心の法廷、開きすぎです。休廷しましょう。
そして、自分らしさを守るためには、「小さな正直さ」を増やすことが役に立ちます。
「今日は少し疲れています」
「これは少し苦手です」
「私はこう考えています」
「少し時間をもらえると助かります」
「本当はこうしたい気持ちがあります」
いきなり人生全部をさらけ出す必要はありません。小さな正直さでいいのです。心に小窓を作る感じです。全部の壁を壊す必要はありません。換気できれば、空気は変わります。
支援や職場でも、カーニスさんの視点は役立ちます。
相手が強がっているとき、反発しているとき、過剰に落ち込んでいるとき、「性格が悪い」「扱いにくい」とだけ見るのではなく、「自尊心が不安定になっているのかもしれない」と見ることができます。すると、関わり方も変わります。
人格を否定しない。
できた部分と改善点を分けて伝える。
失敗しても関係が壊れないことを示す。
本人が自分の気持ちを言える余白をつくる。
過剰に持ち上げるより、具体的に認める。
こうした関わりは、相手の自尊心をジェットコースターから少し降ろす助けになります。人は、安心して失敗できる場所があると、少しずつ本物の自信を育てやすくなります。
マイケル・H・カーニスさんの研究が教えてくれるのは、「本当に健康な自尊心」とは、いつも自分をすごいと思うことではない、ということです。
本当に健康な自尊心とは、失敗しても自分の価値が消えないこと。
人にほめられなくても、自分を完全に見失わないこと。
弱さを見ても、自分から逃げないこと。
自分の気持ちや価値観に、できるだけ正直でいること。
これは、キラキラした自信ではありません。もっと静かで、根の深い自信です。花火のように夜空でドカンと光る自信ではなく、地面の下でじっと根を伸ばす木のような自信です。
自分を大きく見せなくていい。
完璧なふりをしなくていい。
失敗した日にも、自分を丸ごと捨てなくていい。
カーニスさんの研究は、そう教えてくれます。
人間の心は、外からの評価で揺れます。それは自然なことです。でも、その揺れが激しすぎると疲れます。だからこそ、外からの拍手だけでなく、自分の内側に静かな土台を作ることが大切です。
「今日はうまくいかなかった。でも、自分はここから直せる」
「人に認められたい。でも、認められない日にも自分を粗末にしない」
「弱さがある。でも、それも含めて自分を見ていく」
そんなふうに生きられると、自尊心は少しずつ安定していきます。
カーニスさんの研究は、心の中にある見栄の風船を少ししぼませ、そのかわりに、地面にしっかり根を張る方法を教えてくれる研究です。高く飛ぶより、深く根づく。そこに、本物の自分らしさが育っていくのです。

マイケル・H・カーニス(Michael H. Kernis)の論文一覧
1.『自己肯定感は“高いか低いか”だけでは足りない。心の働きを左右する“安定性”の重要性』マイケル・H・カーニス(2005)
Kernis, Michael H.(2005). Measuring Self-Esteem in Context: The Importance of Stability of Self-Esteem in Psychological Functioning. Journal of Personality, 73(6), 1569-1605. DOI:10.1111/j.1467-6494.2005.00359.x
「自己肯定感は高ければ勝ち」だと思っていたら、この論文、するっと足元をすくってきます。Kernisは、自尊心には“高さ”だけでなく“安定しているか”がある、と語ります。つまり、ふだんは自信満々でも、ひとこと言われただけで心がジェットコースター化するなら、それは別問題かもしれないという話です。見かけの元気さではなく、心の土台のゆれまで見にいく。自己肯定感を、ひとつ深い階で考えたくなる一本です。

