マンフレート・シュミット(Manfred Schmitt)の論文一覧:心のクセも社会のしくみも、まじめに見つめた研究たち
マンフレート・シュミット(Manfred Schmitt)のプロフィール
マンフレート・シュミットは、ドイツの心理学者です。ざっくり言うと、「人の心の中にある“それ、ずるくない?”センサーを、まじめに研究してきた先生」です。
所属としては、コブレンツ=ランダウ大学の心理学系で活動してきた研究者として確認できます。Google Scholarでは、研究分野として「パーソナリティ」「正義」「感情」が挙げられています。つまり、人の性格だけを見るのではなく、「人はどんなときに不公平を感じるのか」「そのとき怒りや罪悪感やモヤモヤはどう動くのか」という、なかなか日常生活に近いテーマを扱ってきた人です。
たとえば、誰かが自分だけ得をしているのを見たとき、心の中で小さな審判員が「ピーッ!それは反則では?」と笛を吹くことがありますよね。シュミットの研究は、まさにその“心の審判員”を調べるようなものです。心理学では、こうした不公平への感じやすさを「公正感受性」や「正義感受性」と呼びます。シュミットはこの分野で、かなり重要な研究を行ってきました。2003年の論文では、公正感受性をどのように測るか、そしてそれが性格の中でどのような位置にあるのかを扱っています。
おもしろいのは、シュミットが見ている「不公平感」は、ただの怒りっぽさではないところです。「自分が不公平な目にあったとき」だけでなく、「他人が不公平な目にあっているのを見たとき」や、「自分が得をしすぎてしまったとき」に、人がどう感じるかも関係してきます。つまり、心の中の正義感にはいくつかの座席があって、「被害者席」「目撃者席」「加害者かもしれない席」「得をしてしまった席」みたいに、立場によって反応が変わるわけです。なかなか人間くさい研究です。
また、シュミットは「人は不公平をどう覚え、どう解釈するのか」という点にも関わっています。関連研究では、公正感受性が高い人ほど、不公平に関する情報に注意を向けやすく、記憶や解釈にも影響が出る可能性が示されています。簡単に言えば、「ずるいこと探知機」の感度が高い人は、日常の中でも不公平の気配を拾いやすい、ということです。心のアンテナが、正義方面にぐいっと伸びている感じですね。
さらにシュミットは、心理測定にも強い研究者です。心理測定というと少し硬そうですが、要するに「心の中の見えないものを、できるだけ正確に測ろうとする技術」です。怒り、不公平感、性格、自尊心。こうしたものは体重計に乗せられません。だからこそ、質問紙や統計を使って、できるだけていねいに見える形にしていく必要があります。シュミットはこの“心のものさし作り”にも関わってきた人だと言えます。
自己肯定感の研究にも名前が見られます。ウルリッヒ・オルト、ユルゲン・メースとともに、ドイツの大規模データを使って、14歳から89歳までの人々の自己肯定感が人生の中でどう変化するのかを調べた論文に参加しています。この研究では、2,509人を対象に、4年間で3回の調査を行っています。つまりシュミットは、「不公平に敏感な心」だけでなく、「自分をどう評価しながら人生を歩くのか」というテーマにも関わっていたわけです。
まとめると、マンフレート・シュミットは、性格、感情、正義感、公平感、そして心理測定をつなげて研究してきた心理学者です。日常の言葉で言えば、「人はなぜ、ずるいことに腹が立つのか」「なぜ、他人の不公平まで気になってしまうのか」「その感じ方は性格や人生とどう結びつくのか」を、研究の虫めがねでじっくり見てきた人です。
なんとなく怒っている。なんとなくモヤモヤする。なんとなく納得できない。
そういう心の煙を、「では、その煙はどこから出ているのか」とたどっていく。マンフレート・シュミットは、そんな“心の火元調査員”のような研究者だと思うと、かなりわかりやすいです。
参考文献・確認先: RPTU公式プロフィール:Manfred Schmitt / Google Scholar:Manfred Schmitt 論文・引用情報 / ResearchGate:Manfred Schmitt プロフィール / SAGE Journals:著者紹介・正義感受性に関する研究 / CiNii Research:Justice Sensitivity 論文情報 / PubMed:Self-esteem development across the life span

マンフレート・シュミット(Manfred Schmitt)の研究から学べること
マンフレート・シュミットさんの研究から学べることを、ひとことで言うなら、「人は“不公平だ!”と感じるアンテナの感度が、それぞれかなり違う」ということです。
同じ出来事を見ても、ある人は「まあ、そういうこともあるよね」と受け流します。ところが別の人は、「いやいやいや、それはおかしいでしょう!心の法廷、ただいま開廷!」となります。机をドンッと叩きたくなる。眉間に小さな雷雲が発生する。つまり、人によって“不公平センサー”の反応が違うのです。
シュミットさんは、ドイツの心理学者で、「公正さへの敏感さ」、つまり不公平にどれくらい気づきやすく、どれくらい強く反応するかを研究してきた人物です。特に有名なのは、「自分が被害を受けたとき」「誰かが不公平に扱われているのを見たとき」「自分が得をしてしまったとき」「自分が加害側になってしまったとき」など、立場ごとに不公平への感じ方を分けて考えたことです。2005年の論文では、被害者・観察者・加害者という複数の立場から、公正さへの敏感さを測る尺度が開発されています。
これ、かなり面白いです。
ふつう「正義感が強い」と言うと、ひとまとめにしがちですよね。でも、実際にはいろいろなタイプがあります。
自分が損をしたときに、すぐ「納得できない」と感じる人。
誰かが不当に扱われているのを見ると、黙っていられない人。
自分だけ得をしてしまうと、申し訳なくなる人。
自分が誰かを傷つけたかもしれないと、強く気にする人。
全部「不公平に敏感」ではありますが、向いている方向が違います。正義のアンテナにも、チャンネルがあるわけです。NHKだけではありません。心の中には、被害者チャンネル、観察者チャンネル、加害者チャンネル、得してしまった人チャンネルが並んでいます。
シュミットさんたちの研究で大切なのは、「不公平に敏感なこと」には、良い面もあれば、しんどい面もあるということです。
たとえば、誰かが不公平に扱われていることに気づける人は、社会にとってとても大切です。いじめ、差別、職場の不当な扱い、ルールのえこひいき。そういうものを「まあまあ」と流しすぎると、弱い立場の人がずっと苦しむことになります。不公平に気づける力は、社会の火災報知器のようなものです。鳴ってくれるから、火事に気づける。ありがたい装置です。
一方で、自分が被害を受けることにとても敏感な人は、人間関係で苦しくなりやすいこともあります。たとえば、少し雑に扱われただけで、「軽く見られた」「利用された」「損をさせられた」と感じやすくなる。もちろん、本当に不公平なこともあります。でも、いつもセンサーが最大感度だと、日常の小さなズレまで非常ベルになります。トースターの煙で消防車が来る感じです。毎日それだと、心が疲れてしまいます。
公正さへの敏感さの研究では、不公平に対する感じ方は比較的安定した個人差として扱われ、自分が被害者になることへの敏感さは、他の立場の敏感さとは少し違った働きをする可能性が指摘されています。観察者・得をした人・加害者の立場での敏感さは、より社会全体の公正さを大切にする傾向と結びつきやすい一方で、被害者としての敏感さは「利用されたくない」「傷つけられたくない」という不安も混ざりやすいと整理されています。
ここから学べる一つ目の知恵は、「自分の“不公平センサー”の向きを知ること」です。
自分は、どんなときに強く反応するのか。
自分が損したときか。
誰かが傷つけられているのを見たときか。
自分だけ得をしたときか。
自分が相手に悪いことをしたかもしれないときか。
これを知るだけで、心の動きが少し見えやすくなります。「私は正義感が強いんだ」で終わらせず、「私は特に、自分が軽く扱われたと感じる場面で強く反応しやすいんだな」とわかると、対処しやすくなります。心の地図に、危険地帯の印をつける感じです。
二つ目の知恵は、「不公平への怒りを、すぐ爆発させず、いったん形にすること」です。
不公平だと感じたとき、人はすぐに反応したくなります。「それは違う!」「おかしい!」「なんで私だけ!」と、心の中で正義の騎士が馬に乗って飛び出してきます。しかも鎧がピカピカです。でも、すぐに突撃すると、あとで「言いすぎたかも」となることがあります。正義の馬、たまにブレーキが甘いのです。
そこで、まずはこう分けて考えるとよいです。
何が起きたのか。
自分は何を不公平だと感じたのか。
本当にルールや約束に反しているのか。
相手に悪意があったのか、それとも説明不足や手違いか。
自分は何を望んでいるのか。
この整理をすると、怒りが少し行動に変わります。ただ怒鳴るのではなく、「この点が不公平に感じました」「次回からはこうしてもらえると助かります」と伝えやすくなります。怒りを火炎放射器にしないで、懐中電灯にする感じです。照らす。燃やさない。ここ大事です。
三つ目の知恵は、「他人の正義感の形は、自分と違うかもしれない」と知ることです。
自分が不公平だと思うことに、相手がすぐ反応しないと、「なんで平気なの?」と思うことがあります。逆に、相手が強く怒っていることに対して、自分は「そこまで?」と思うこともあります。これは、どちらが人間として正しいかという話だけではありません。不公平センサーの向きや感度が違うのです。
たとえば、職場である人は「仕事量が偏っていること」に敏感かもしれません。別の人は「発言の機会が不平等なこと」に敏感かもしれません。さらに別の人は「感謝されないこと」に敏感かもしれません。同じ職場にいても、見えている不公平が違う。みんな同じ風景を見ているようで、実は心のカメラの焦点が違うのです。
だから、人間関係では「何を不公平と感じたのか」を言葉にすることが大切です。
「私は、仕事量が偏っているように感じました」
「私は、説明がないまま決まったことが不公平に感じました」
「私は、努力が見えないところで消えてしまったように感じました」
こう言えると、相手も理解しやすくなります。「なんでわかってくれないの!」だけでは、相手は地図なしで迷路に入ることになります。できれば地図を渡しましょう。できれば現在地もつけましょう。
シュミットさんの研究から支援や職場に活かせることも多いです。
たとえば、利用者さんや職員さんが「不公平だ」と強く感じているとき、それを単なるわがままと決めつけないことです。その人にとっては、尊重されていない、軽く扱われている、損をしている、ルールが守られていないという感覚が強いのかもしれません。そこには、大切にされたい、公平に扱われたい、安心して関わりたいという願いが隠れていることがあります。
ただし、不公平感が強すぎると、相手の意図を悪く取りやすくなることもあります。だから支援では、気持ちを受け止めつつ、事実を整理することが大切です。
「そう感じたんですね」
「どの部分が一番不公平に感じましたか」
「実際に起きたことを一緒に確認しましょう」
「相手の説明も確認してみましょう」
「次に同じことが起きないために、何を決めておくとよさそうですか」
こういう流れにすると、不公平感を否定せず、でも感情だけで暴走させずに済みます。心の裁判所に、ちゃんと証拠書類をそろえる感じです。裁判長、勢いだけで判決を出さないでください。
また、シュミットさんの研究は、「公平な職場づくり」にもつながります。職場の手続きが不公平だと感じられると、仕事の満足感や心身の健康に関係することが研究されています。1999年の論文では、職場での手続き上の不公正、公正さへの敏感さ、仕事満足、心身の健康感の関係が扱われています。
これは現場ではかなり大切です。人は、結果だけでなく「決め方」も見ています。
誰がどう決めたのか。
説明はあったのか。
意見を聞いてもらえたのか。
ルールは全員に同じように適用されたのか。
納得できる理由があったのか。
たとえ希望どおりの結果にならなくても、手続きが公正だと感じられれば、人はまだ受け止めやすいことがあります。逆に、結果が少しよくても、決め方が不透明だと不満が残ります。料理がおいしくても、厨房で何が起きていたのかわからないと少し不安になる、そんな感じです。
だから、職場や支援の場では「公平にすること」と同じくらい、「公平だと伝わること」が大事です。せっかく公平にしていても、説明が足りないと、不公平に見えることがあります。透明性は、人間関係の窓拭きです。曇っていると、外が晴れていても暗く見えます。
シュミットさんの研究が教えてくれるのは、不公平への敏感さは、面倒な性格ではなく、人間の大切な社会的アンテナだということです。ただし、そのアンテナは使い方が大事です。
感度が低すぎると、不公平を見逃します。
感度が高すぎると、日常の小さなズレでも傷つきます。
自分だけの損に敏感になりすぎると、人を疑いやすくなります。
他人の不公平にも気づけると、社会を少しよくする力になります。
つまり、不公平センサーは悪者ではありません。調整が必要な道具です。ラジオと同じです。周波数が合えば大事な声を拾えます。でも、ノイズまで全部拾うと疲れます。
日常で活かすなら、まず「不公平だ」と感じたときに、すぐ結論を出す前に一呼吸置くことです。
「私は今、何に反応しているのか」
「これは本当に不公平なのか、それとも不安や過去の経験が反応しているのか」
「相手に確認できることは何か」
「自分はどうなれば納得しやすいのか」
この問いがあると、正義感は人を傷つける刃ではなく、関係を整える道具になります。
マンフレート・シュミットさんの研究は、私たちにこう教えてくれます。
人は、不公平に対する感じ方がそれぞれ違います。
その違いを知らないと、関係はこじれます。
でも、その違いを理解できると、自分の怒りも、相手の反応も、少し扱いやすくなります。
不公平に敏感であることは、悪いことではありません。それは、社会のゆがみに気づける力でもあります。ただし、その力を自分や他人を責めるためだけに使うと、心が疲れてしまいます。大切なのは、不公平感を「爆発」ではなく「対話」につなげることです。
心の中の正義のベルが鳴ったとき、いきなり大砲を撃たなくていいのです。まずベルの音を聞く。何が起きたのかを見る。必要なら、言葉にする。相手と確認する。仕組みを整える。
シュミットさんの研究は、不公平に揺れる私たちの心に、「怒る前に、見よう。責める前に、整理しよう。そして、公平さを人間関係の中で育てよう」と教えてくれる研究なのです。

マンフレート・シュミット(Manfred Schmitt)の論文一覧
1.『自己肯定感は人生を通してどう育っていくのか ドイツの大規模縦断調査が明かした生涯発達の軌跡』ウルリッヒ・オルト、ユルゲン・メース、マンフレート・シュミット(2015)
Orth, U., Maes, J., & Schmitt, M.(2015). Self-esteem development across the life span: A longitudinal study with a large sample from Germany. Developmental Psychology, 51(2), 248–259. DOI:10.1037/a0038481
「自己肯定感って、若いうちにだいたい決まって、そのまま一生いくんでしょ?」と思っている人に、この論文はけっこう静かに反論してきます。いやいや、人の心はそんなに早く完成しませんよ、と。ドイツの大規模データを使って、自己肯定感が人生の中でどう変わるかを追ってみると、若い時期から中年にかけてじわじわ育ち、その後はまた少しずつ下がる傾向が見えてきました。つまり、自己肯定感にも人生の季節がある。今の自分を“固定キャラ”だと思いがちな人ほど、ちょっと読んでみたくなる論文です。

