ユリア・フリーデリケ・ソヴィスロ(Julia Friederike Sowislo)の論文一覧:自己評価が低いと、心まで勝手にしょんぼりするのか会議
ユリア・フリーデリケ・ソヴィスロ(Julia Friederike Sowislo)のプロフィール
ユリア・フリーデリケ・ソヴィスロさんは、ざっくり言うと、「自己肯定感って、心の天気予報にどれくらい関係しているの?」を、かなりまじめに追いかけてきた心理学者です。
特に有名なのは、ウルリッヒ・オースと一緒に発表した研究で、「自己肯定感の低さは、うつや不安をあとから強めるのか?」というテーマを、たくさんの縦断研究をまとめて検討した論文です。縦断研究というのは、同じ人たちを時間をかけて追いかける研究のことです。つまり、一瞬の写真ではなく、心のアルバムを何ページもめくって見るような研究ですね。PubMedでは、この論文が2013年に『Psychological Bulletin』に掲載され、バーゼル大学心理学部所属として紹介されています。
この研究で大事なのは、「自己肯定感が低いから、あとでうつっぽくなりやすいのか」「それとも、うつになるから自己肯定感が傷つくのか」という、ニワトリと卵ならぬ、“心の卵焼き問題”に踏み込んだところです。結果としては、うつについては、低い自己肯定感が後のうつ症状を予測するという「脆弱性モデル」を支持する結果が示されています。ERICの要約でも、77件のうつ研究と18件の不安研究を対象に分析したこと、うつでは自己肯定感からうつへの影響のほうが強かったことが説明されています。
その後のソヴィスロさんは、自己肯定感だけでなく、境界性パーソナリティ障害、心理療法、対人関係、感情の動きなどにも研究の幅を広げています。スイス国立科学財団の情報では、彼女の研究キーワードとして、自己肯定感、縦断研究、構造方程式モデリング、臨床心理学、境界性パーソナリティ障害、うつ、心理療法などが挙げられています。研究テーマの棚を開けると、「自分をどう見るか」「人とどう関わるか」「心のつらさはどう変化するか」という箱が、きれいに並んでいる感じです。
また、近年の公開情報では、ワイル・コーネル医科大学やニューヨーク・プレスビテリアン病院のパーソナリティ障害研究所に関わる研究者としても紹介されています。2023年の会議資料では、スイス出身の客員研究者であり、ワイル・コーネル医科大学の精神医学分野で心理学講師、さらにパーソナリティ障害研究所の上級研究員とされています。バーゼル大学で博士号を取得し、スイスで精神力動的心理療法士の資格を持つことも記載されています。
ひとことで言えば、ソヴィスロさんは「自己肯定感は、ただの気分の飾りではなく、心の健康に関わる大事な土台かもしれない」と、データを使って丁寧に示してきた研究者です。しかもその関心は、自己肯定感の研究室だけに閉じこもらず、心理療法やパーソナリティの問題へと広がっています。
たとえるなら、心の中にある「自分は大丈夫だろうか」という小さな温度計を、ただ眺めるだけでなく、「その温度が下がると、その後の人生の天気はどう変わるのか」まで調べようとしている人です。派手な花火タイプというより、暗い部屋で静かにランプをともして、「ここに心が傷つきやすくなる道がありますよ」と教えてくれるタイプの研究者ですね。
参考文献・確認先:スイス国立科学財団:Julia Friederike Sowislo 関連情報 / Google Scholar:Julia Friederike Sowislo 論文・引用情報 / PubMed:Julia Friederike Sowislo 関連論文 / PubMed:低い自己肯定感とうつ・不安に関する代表的論文

ユリア・フリーデリケ・ソヴィスロ(Julia Friederike Sowislo)の研究から学べること
ユリア・フリーデリケ・ソヴィスロさんの研究から学べることを、ひとことで言うなら、「自分を低く見すぎる心は、うつや不安の“ただの結果”ではなく、これから心がしんどくなる入口にもなりうる」ということです。
これは、かなり大切な話です。自尊心、つまり「自分には価値がある」「自分はここにいていい」と感じる心の土台は、メンタルの世界では地味だけれど超重要です。家で言えば基礎工事です。壁紙がきれいでも、土台がぐらぐらしていたら、強い風の日に家全体が「ちょっと相談があるんですが」と揺れ始めます。
ソヴィスロさんは、ウルリッヒ・オルトさんとともに、自尊心とうつ・不安の関係について、長い期間人を追った研究をまとめた大きな分析を行いました。その研究では、「自尊心が低いことが、あとからうつや不安を強めるのか」、それとも「うつや不安があることで、あとから自尊心が下がるのか」という両方向の関係を調べています。論文は2013年に『Psychological Bulletin』に掲載され、DOIは10.1037/a0028931です。
ここで出てくる考え方を、やさしく言うとこうです。
ひとつは、「自尊心の低さが、心の不調を起こしやすくする」という見方です。これは、自尊心が低いと、失敗や人間関係のストレスを受けたときに、「やっぱり自分はダメだ」「どうせ嫌われる」「自分には価値がない」と受け止めやすくなり、気分が落ち込みやすくなる、という考え方です。
もうひとつは、「うつや不安を経験することで、自尊心に傷が残る」という見方です。つらい時期が続くと、「自分は弱い」「また同じことになるかも」と感じ、自分への見方が下がってしまうことがあります。心に残る擦り傷のようなものです。見えないけれど、ふれると痛い。
ソヴィスロさんたちの分析では、低い自尊心が後のうつや不安を予測する関係が示されました。また、うつが後の自尊心を下げる方向も一部見られますが、全体としては「自尊心の低さが後の心の不調につながる」という方向がより強く支持されています。
これを日常の言葉にすると、「自分なんて」と思うクセは、ただの口ぐせで終わらないことがある、ということです。
たとえば、仕事で小さなミスをしたとします。自尊心がある程度安定している人は、「今回は確認が足りなかったな。次は気をつけよう」と考えやすいです。もちろん落ち込みます。でも、ミスと自分の存在価値を分けられます。
一方、自尊心が低くなっていると、「やっぱり自分はダメだ」「また迷惑をかけた」「自分はここにいないほうがいい」と、ミスが人格まるごと裁判に発展します。心の法廷、開廷です。しかも裁判官がやたら厳しい。弁護人は寝坊しています。これはしんどい。
ソヴィスロさんの研究から学べる一つ目の知恵は、「自尊心は、心のぜいたく品ではなく、予防の土台でもある」ということです。
自尊心というと、「自分を好きになりましょう」という少しキラキラした話に聞こえるかもしれません。でも、ここで大切なのは、ナルシストになることではありません。毎朝鏡の前で「私は世界の王です」と宣言する必要はありません。近所が心配します。
大切なのは、「失敗しても、自分の価値がゼロになるわけではない」と感じられることです。
「うまくいかない日があっても、自分は生きていていい」
「人に注意されても、自分の全部が否定されたわけではない」
「できないことがあっても、自分にはまだできる部分がある」
こういう土台です。派手ではありません。でも、心が雨の日にすべりにくくなります。自尊心は、心のすべり止めマットなのです。
二つ目の知恵は、「自分への言葉づかいを軽く見ないこと」です。
人は、他人には言わないような厳しい言葉を、自分には平気で投げることがあります。
「ほんと自分はダメ」
「何回やっても無理」
「自分には価値がない」
「どうせ嫌われる」
こういう言葉は、心に小石を入れるようなものです。一個なら我慢できるかもしれません。でも、毎日靴の中に小石を入れたまま歩いたら、だんだん足が痛くなります。自己否定も同じです。小さく見えても、積み重なると気分の靴ずれになります。
だから、自分への言葉は、少しだけ言い換えてあげるとよいです。
「自分はダメ」ではなく、「今日はうまくいかなかった」
「何回やっても無理」ではなく、「まだ合うやり方を見つけられていない」
「どうせ嫌われる」ではなく、「嫌われるかもしれないと不安になっている」
この言い換えは、現実逃避ではありません。むしろ、現実を正確に見るための工夫です。自分を責める言葉は、たいてい話を大きくしすぎます。小さな火を見て「町が全焼しました」と実況してしまう。そこを、「火元はここです。消火できます」と言い直すのです。
三つ目の知恵は、「うつや不安の支援では、自尊心も一緒に見たほうがよい」ということです。
気分が落ち込んでいる人に、「元気を出して」「前向きに考えて」と言っても、なかなか届かないことがあります。本人の中では、自分への信頼がかなり弱っているかもしれません。心のバッテリーが残り3%で、しかも充電ケーブルが見つからない状態です。
そんなときに必要なのは、いきなり大きな励ましではなく、小さな「自分にもできるかもしれない」という経験です。
たとえば、
「今日は予定通り起きられた」
「相談できた」
「一つだけ作業できた」
「しんどい中でも来られた」
「前より早めに休めた」
こういう小さな事実を、ちゃんと拾っていくことです。自尊心は「すごい人になれば育つ」のではありません。小さなできたを積み重ね、「自分にも少しは力がある」と感じることで育ちます。心の貯金箱に、小銭を一枚ずつ入れていく感じです。いきなり札束はいりません。まず一円からでいいのです。
四つ目の知恵は、「自尊心の低さを本人の性格として決めつけないこと」です。
自尊心が低い人を見ると、「ネガティブな人」「自信がない人」「考えすぎる人」と見えてしまうことがあります。でも、その背景には、失敗体験、比較され続けた経験、否定された経験、安心できる関係の少なさがあるかもしれません。
「自分なんて」と言う人は、本当は「自分にも価値があると思いたい」のかもしれません。
「どうせ無理」と言う人は、本当は「できなかったときに傷つくのが怖い」のかもしれません。
「迷惑をかけたくない」と言う人は、本当は「関係を壊したくない」のかもしれません。
つまり、自己否定の言葉の奥には、安心したい気持ちや、大切にされたい気持ちが隠れていることがあります。表面の言葉だけを見て「またネガティブなことを言って」と片づけると、その奥の声を聞き逃してしまいます。
ソヴィスロさんの研究を支援や職場に活かすなら、「自尊心を守る関わり」がとても大切になります。
人格を否定しない。
ミスと本人の価値を分ける。
できたことを具体的に伝える。
比較ではなく、前回からの変化を見る。
小さな役割を渡す。
相談しても迷惑ではないと伝える。
こうした関わりは、派手ではありません。でも、相手の心の土台に小さな杭を打つようなものです。風が吹いても倒れにくくするための、地味だけれど大切な工事です。
たとえば、誰かがミスをしたときに、「なんでできないの?」と言うと、本人は「自分はダメだ」と受け取りやすくなります。代わりに、「ここで確認が抜けたんですね。次はこの手順を一緒に入れましょう」と言えば、ミスは改善点になります。人格裁判ではなく、作業改善会議になります。これは大きな違いです。
また、本人が「自信がない」と言ったときには、「自信を持ってください」と急がせなくてもいいのです。自信は押しボタン式ではありません。ポチッと押して点灯するなら苦労しません。むしろ、「自信がない中でも、ここまでできていますね」と、事実を一緒に確認するほうが効くことがあります。
自尊心は、言い聞かせるだけでは育ちません。経験によって少しずつ育ちます。
「できた」
「受け止めてもらえた」
「失敗しても終わりではなかった」
「自分の話を聞いてもらえた」
「役に立てた」
こうした経験が、心の土にしみ込んでいきます。雨が一度降っただけで森になるわけではありません。でも、何度も水がしみ込むと、芽が出ます。
ソヴィスロさんの研究が教えてくれるのは、低い自尊心とうつ・不安は、ぐるぐる関係しやすいということです。自尊心が低いと、落ち込みや不安が強まりやすい。落ち込みが続くと、さらに自分を低く見やすくなる。このぐるぐるは、まるで心の洗濯機です。回っているのに、なかなか乾かない。
だからこそ、どこかで回転をゆるめる必要があります。
自分への言葉を少しやわらかくする。
小さな成功を見つける。
信頼できる人に話す。
比較を減らす。
休息を取る。
自分の価値と失敗を分ける。
こうした小さな工夫が、ぐるぐるの勢いを弱めることがあります。劇的な変化でなくていいのです。心の洗濯機も、まず一時停止ボタンが大事です。
ユリア・フリーデリケ・ソヴィスロさんの研究は、私たちにこう教えてくれます。
自分を低く見すぎることは、ただの性格ではありません。
それは、うつや不安につながる大切なサインかもしれません。
だからこそ、自尊心を育てることは、心の健康を守るための大事な土台なのです。
人は、いつも自信満々でなくていいのです。むしろ、そんな人がいたら少し怖いです。大切なのは、失敗した日にも自分を全否定しないこと。落ち込んだ日にも、自分の存在価値まで捨てないこと。不安な日にも、「自分は今、不安なんだ」と見られることです。
自尊心は、王冠ではありません。心の靴底です。見えにくいけれど、そこが薄いと歩くたびに痛くなります。ソヴィスロさんの研究は、その靴底を少しずつ厚くしていく大切さを教えてくれる研究なのです。

ユリア・フリーデリケ・ソヴィスロ(Julia Friederike Sowislo)の論文一覧
1.『自己肯定感の低さは、うつや不安を招くのか? 縦断研究を統合したメタ分析』ソヴィスロ、オース(2013)
Sowislo, J. F., & Orth, U. (2013). Does low self-esteem predict depression and anxiety? A meta-analysis of longitudinal studies. Psychological Bulletin, 139(1), 213–240. DOI:10.1037/a0028931
「自己肯定感が低いと、気分までずるずる沈むの?」
この論文は、そんな素朴だけど切実な疑問に、たくさんの縦断研究をかき集めて本気で答えにいったメタ分析です。読んでみると、ただの“気のせい”では片づけられない心の流れが見えてきます。自尊感情はうつを先回りしてしまうのか、不安とも関係するのか。心の天気予報を論文でのぞくような一本です。


2.『「傷つきやすい自己肯定感」とは何か? 低い自己肯定感・不安定な自己肯定感・条件つきの自己肯定感が、抑うつ症状にどう影響するかを比較した縦断研究』ジュリア・フリーデリケ・ソヴィスロ、ウルリッヒ・オルト、ラウレンツ・L・マイヤー(2014)
Julia Friederike Sowislo, Ulrich Orth, Laurenz L. Meier(2014). What Constitutes Vulnerable Self-Esteem? Comparing the Prospective Effects of Low, Unstable, and Contingent Self-Esteem on Depressive Symptoms. Journal of Abnormal Psychology, 123(4), 737-753. DOI:10.1037/a0037770
「自己肯定感って、高いか低いかだけ見ればええんでしょ?」と思ったあなたに、この論文は静かに首を振ります。いやいや、低いだけでなく、不安定だったり、何かに依存して揺れたりする“もろさ”もあるんですと。では、いちばん心をしんどくしやすいのは何者なのか。そこを追いかけた、なかなか鋭い一本。自尊心の正体が、ただの“気分”ではなく見えてきます。

