正田佑一(Yuichi Shoda)の論文一覧:「人はブレる。でも、そのブレ方にはクセがある」性格のパターンを見つけた心理学者
正田佑一(Yuichi Shoda)のプロフィール
正田佑一(Yuichi Shoda)は、アメリカのワシントン大学で教授を務める心理学者です。専門は、社会心理学、パーソナリティ心理学、そして心理学を数字で読み解く計量心理学。現在も、「平均的な人間」を研究するだけではなく、一人ひとりの中で心がどう動いているのかを丁寧に調べる研究を続けています。
この人の研究を一言で表すなら、
「人間って、そんなに一枚岩じゃないですよね?」
という話になるかもしれません。
たとえば、こんな人がいたとします。
会社ではものすごく冷静なのに、家では猫がくしゃみしただけで「大丈夫!?病院行く!?」と大騒ぎする。
知らない人には無口なのに、親しい友人の前では漫談家のようにしゃべる。
普段は温厚なのに、「プリン食べた?」と聞かれた瞬間だけ防御力が急上昇する。
さて、この人の性格は「冷静」なのでしょうか。「心配性」なのでしょうか。「社交的」なのでしょうか。
正田の研究は、この問題に対して、
「全部、その人なんじゃないですか?」
と考えていきます。
もともとは、心理学一直線ではなかった
ここがまた面白いところなのですが、正田は最初から「私は人間の心を研究するぞ」と心理学の門を叩いたわけではありません。
1970年代には北海道大学で物理学を専攻していました。その後、アメリカのカリフォルニア大学サンタクルーズ校で心理学を学び、1981年に学士号を取得。大学院ではスタンフォード大学で心理学を学んだのち、コロンビア大学へ進み、1990年に心理学の博士号を取得しています。博士論文では、状況によって変化して見える人間の行動の中に、どのような一貫性があるのかを研究しました。
つまり、ざっくり言えば、
「宇宙や物質の法則を調べようと思っていたら、いつの間にか人間というもっと予測不能な物体を研究していた」
という経歴です。
物理学なら、ボールを落とせばだいたい下に落ちます。
ところが人間は、
昨日は怒った。
今日は笑った。
明日は既読だけつけて寝る。
……法則はどこへ行った。
正田が向き合ったのは、まさにそんな「人間のややこしさ」でした。
「性格がブレる」は、本当にブレているのか?
正田の名前をパーソナリティ心理学の世界で特に有名にしたのが、心理学者ウォルター・ミシェルとの研究です。
二人は1995年、人間の性格を単純な「明るい」「暗い」「まじめ」「怒りっぽい」といった固定した特徴だけで見るのではなく、その人がどんな状況をどう受け取り、何を考え、何を感じ、どう行動するのかという仕組みそのものを見る必要があるとする理論を発表しました。
これが、認知と感情の仕組みから性格を考える理論です。
難しそうな名前ですが、考え方は意外と身近です。
たとえば、
「批判されたときは黙り込む」
「信頼している人に批判されたときは素直に聞ける」
「知らない人に批判されたときは腹が立つ」
という人がいるとします。
一見すると、
「この人、反応バラバラじゃん」
と思いますよね。
でも正田たちの考え方では、そこにこそ注目します。
“もし、この状況なら、こう反応する”
という組み合わせを何度も見ていくと、その人なりのパターンが浮かび上がってくる。
つまり、人間の一貫性とは、
「いつでも同じ行動をすること」
ではなく、
「状況が変わったときの変わり方に、その人らしいパターンがあること」
なのです。
これは、なかなか人間を見る目が変わる話です。
「昨日と言ってること違うじゃん」とツッコミを入れる前に、
「どんな状況になると、この人はこうなるんだろう?」
と考えてみる。
すると「矛盾している人」が、「ちゃんと理由のある人」に見えてくることがあります。
実は「マシュマロ実験」にも深く関わった人
正田には、もうひとつ有名な研究とのつながりがあります。
心理学好きなら一度くらい耳にしたことがあるかもしれない、いわゆるマシュマロ実験です。
子どもの前にお菓子を置き、
「今なら1個食べられる。でも少し待てば2個もらえるよ」
という状況をつくり、どれくらい待てるかを調べた研究です。
正田は大学院生時代から、この研究の長期追跡やデータ分析に関わりました。そしてウォルター・ミシェル、フィリップ・ピークらとともに、幼児期の「待つ力」と、その後の成長との関係を調べる研究に携わっています。2015年には、この長期研究への貢献によって3人がゴールデン・グース賞を受賞しました。
ただし、ここで注意したいのが、
「マシュマロを我慢できた子=人生成功確定!」
という単純な話ではないことです。
正田自身も、幼いころに待てなかった子どもの中にも、その後幸せで充実した人生を送った人がいることや、待つための心理的な工夫は学ぶことができると説明しています。
つまり、
「4歳でマシュマロ食べちゃった。人生終了です」
ではありません。
そんな恐ろしいお菓子ではありません。
むしろ大切なのは、
人間の行動は、環境や考え方や工夫によって変わっていく
ということです。
ここにも、正田らしい「人を固定しない視点」があります。
「平均的人間」だけを研究して、本当に人間がわかるのか
そして現在の正田の研究には、さらに面白い方向性があります。
心理学では普通、多くの人を集めて、
「平均すると、この条件ではこうなりました」
という形で結果を出します。
もちろん、これはとても大切です。
でも正田は、そこでちょっと立ち止まります。
「その“平均的な人”って、実際どこにいるんですか?」
という問題です。
たとえば10人の平均睡眠時間が7時間だったとしても、
全員が7時間寝ているとは限りません。
3時間の人もいれば、10時間の人もいるかもしれない。
平均するときれいな数字になりますが、その裏では一人ひとりがかなり違う人生を送っています。
そこで正田たちは、同じ一人の人から何度もデータを集める方法を使い、「この人の場合は何が気分を変えるのか」「この人はどんな状況に敏感なのか」を調べています。正田の研究室では、このような一人ひとりを中心に考える研究を重要なテーマとして掲げています。
これは心理学にとって、けっこう大きな問いです。
「人間一般ではこうです」
だけで終わらず、
「では、あなたの場合はどうですか?」
まで降りていく。
正田佑一の研究は、心理学という巨大な地図に、最後まで消えずに残っている小さな点、「一人の人間」を見つめ続けているようにも見えます。
人はブレる。でも、ブレ方にはその人がいる
正田佑一の研究を眺めていると、「性格」という言葉の見え方が少し変わってきます。
私たちはつい、
「あの人は優しい人」
「あの人は怒りっぽい人」
「私は人見知り」
「私は意志が弱い」
と、人間にペタペタとラベルを貼ります。
便利なんです、ラベル。
収納ケースにも貼りますし。
でも人間は収納ケースではありません。
優しい人にも腹が立つ日はあるし、内向的な人でも大好きな話題なら二時間しゃべることがあります。普段は勇敢な人が、ある場面では怖くなって逃げることもある。
だからといって、その人に「本当の性格がない」わけではありません。
むしろ正田の研究が教えてくれるのは、
その変化の仕方そのものに、その人らしさがある
ということです。
「この人はどんな人なんだろう?」
そう思ったとき、性格診断の結果を一枚見るだけではなく、
「どんなときに笑うんだろう」
「どんなときに黙るんだろう」
「誰といると安心するんだろう」
「何を言われたときに傷つくんだろう」
そんなふうに見ていく。
人間は、一つの形容詞に収まるほど小さくありません。
正田佑一は、その当たり前だけれど忘れやすい事実を、心理学という道具を使って長年追いかけてきた研究者なのだと思います。
人はブレる。けれど、そのブレの中にも、ちゃんと「その人」がいる。
正田佑一の研究のおもしろさは、そんな人間の複雑さを「誤差」として捨てず、むしろそこから人間を理解しようとしたところにあるのです。
参考文献・確認先:ワシントン大学:正田佑一 公式プロフィール / 正田研究室:論文・研究業績一覧 / Google Scholar:正田佑一 論文・引用情報 / PubMed:正田佑一 関連論文

正田佑一(Yuichi Shoda)の研究から学べること
正田佑一の研究から学べることを一言でまとめるなら、
「人間は、ラベルよりずっと複雑です」
ということだと思います。
私たちはつい、自分にも他人にも名札をつけます。
「私は人見知りです」
「あの人は短気です」
「私は意志が弱いです」
「あの人は冷たい人です」
便利なんですよね、こういう言葉。
数秒で説明できますから。
でも正田佑一の研究を知ると、その名札をいったん机の上に置きたくなります。
「本当に、その人は“いつでも”そうなんだろうか?」
と。
「性格」ではなく、「どんなときにそうなるか」を見る
たとえば、「怒りっぽい人」がいるとします。
でもよく観察すると、
店員さんの失敗には怒らない。
家族に約束を破られると怒る。
上司には怒らない。
自分が馬鹿にされたと感じたときだけ、急に声が大きくなる。
こうなると、
「この人は怒りっぽい」
だけでは、かなり雑ですよね。
正田佑一の研究が教えてくれるのは、
性格を見るなら、行動だけではなく、その行動が出た“条件”まで見よう
ということです。
つまり、
「怒る人」
ではなく、
「大切に扱われていないと感じたとき、怒りやすい人」
かもしれない。
「無口な人」
ではなく、
「評価される場面では無口になるけれど、安心できる相手にはよく話す人」
かもしれない。
こう考えるだけで、人を見る目がずいぶん変わります。
人間って、説明書の最初の一行だけ読んで判断できるほど単純じゃないんですよね。
「昨日と言ってること違うじゃん」は、悪いこととは限らない
私たちは、人が状況によって変わると、
「一貫性がない」
と言いがちです。
昨日は積極的だったのに、今日は消極的。
家では明るいのに、職場では静か。
友達には優しいのに、家族には不機嫌。
すると、
「本当のあなたはどっちなの?」
と言いたくなります。
でも正田佑一の研究から見ると、
どっちも本人です。
むしろ重要なのは、
「なぜ、こちらの状況ではこうなり、別の状況ではこうなるのか」
という変化のパターンです。
これは、自分を責めすぎないためにも大切な考え方です。
たとえば、
「仕事では堂々と話せるのに、初対面の集まりでは何も話せない」
という人がいたとします。
そこで、
「自分はコミュニケーション能力がない」
と結論を出してしまう。
でも、それは少し早い。
仕事では話せているなら、「話す能力」がないわけではありません。
もしかすると、
「役割がはっきりしている場面なら話せる」
「何を話していいかわからない場面だと緊張する」
という特徴なのかもしれません。
だったら必要なのは、
「私はダメだ」
という自己反省会ではなく、
「私はどんな条件なら力を出しやすいんだろう?」
という観察です。
この違い、大きいです。
自己否定は心を閉じますが、観察は扉を開きます。
「意志が弱い」で終わらせない
正田佑一が関わった研究には、いわゆるマシュマロ実験の長期研究があります。
ここから学べることも、
「我慢できる人が偉い」
という単純な話ではありません。
むしろ面白いのは、
人間は、工夫によって行動を変えられる
というところです。
目の前にお菓子があったら、そりゃ食べたくなります。
人間ですから。
そこで、
「自分は意志が弱い……」
と落ち込む。
でも実際には、
見えない場所に置く。
別のことを考える。
注意をそらす。
誘惑に近づかない。
こうした工夫で、行動は変わります。
つまり、
意志の強さだけに頼らず、状況を設計する
という発想です。
これは勉強でも、ダイエットでも、仕事でも使えます。
スマホを机の上に置いたまま、
「集中できない!私は根性がない!」
と言うより、
スマホを別の部屋に置いたほうが早い。
精神論より、配置換え。
心より先に、机を動かす。
人間って、案外それくらいで助かることがあります。
「平均的にはこうです」が、自分に当てはまるとは限らない
正田佑一の研究には、もうひとつ大切な視点があります。
それは、
多くの人の平均と、一人の人間の中で起こっていることは同じではない
という考えです。
たとえば研究で、
「運動をすると気分が良くなる人が多い」
という結果が出たとします。
それは参考になります。
でも、あなたの場合も必ずそうだとは限りません。
朝に運動すると元気になる人もいれば、疲れて午後が終わる人もいる。
人と話すと回復する人もいれば、一人になると回復する人もいる。
日記を書くと落ち着く人もいれば、書いているうちに考えすぎて眠れなくなる人もいる。
平均は地図です。
でも、あなた自身は地図ではなく現地です。
地図に「ここは平地」と書いてあっても、実際に歩いたら坂だった。
そんなこともあります。
だから、
「一般的には効果があるらしい」
という知識を持ちながら、
「では、自分の場合はどうだろう?」
と確かめる。
この姿勢が大切になります。
人を理解するときは、「性格」より「条件」を聞いてみる
正田佑一の研究は、人間関係にも役立ちます。
たとえば職場で、
「あの人、感じ悪いよね」
となったとします。
もちろん、本当に失礼な場合もあります。
でも少しだけ条件を見てみる。
忙しいときだけ口調が強くなる。
大人数だと話さない。
質問されると防御的になる。
一対一では穏やか。
すると、
「あの人は感じが悪い」
という人物評価から、
「余裕がなくなると強い言い方になる人」
という理解に変わります。
この変化は小さく見えて、かなり大きいです。
なぜなら、
人物を否定すると出口がありませんが、
条件がわかれば対策が考えられるからです。
「この人とは、忙しい時間帯を避けて話そう」
となる。
人間関係の取扱説明書が、少しずつ増えていきます。
自分にも「もし○○なら、こうなる」がある
正田佑一の研究を日常に活かすなら、自分についてこんなふうに考えてみると面白いです。
「私はどんなときに不安になる?」
「どんな人の前では自然に話せる?」
「いつなら集中できる?」
「どんな言葉を言われると防御的になる?」
「疲れているとき、私はどんな行動を取りやすい?」
この質問を続けていくと、
「私はダメな人」
という巨大で曖昧な自己評価が、
「睡眠不足になると悲観的になりやすい」
「評価される場面では緊張しやすい」
「準備時間があると力を発揮しやすい」
という、具体的な特徴に変わっていきます。
具体的になれば、対応できます。
ここが大事です。
「私は弱い」
だと、どう直せばいいかわからない。
でも、
「突然質問されると頭が真っ白になりやすい」
なら、
「事前に質問を想定しておこう」
という作戦が立てられる。
人生は、自分への悪口を具体化すると、少し攻略しやすくなります。
人は、矛盾しているのではなく、複雑なのかもしれない
正田佑一の研究を読んでいると、人間を見るときの言葉が少し優しくなります。
「ブレている」
ではなく、
「状況に反応している」。
「一貫性がない」
ではなく、
「条件によって違う面が出ている」。
「性格が悪い」
ではなく、
「ある状況では、そういう反応が出やすい」。
もちろん、だからといって何でも許せばいいわけではありません。
人を傷つける行動には、きちんと線を引く必要があります。
ただ、人間を理解するときに、
一回の行動だけで人物全体を判決しない。
これは、とても大切な態度だと思います。
人は、一枚の写真ではありません。
むしろ長い映画に近い。
怒る場面もある。
笑う場面もある。
逃げる場面もある。
勇気を出す場面もある。
その全部を見て、ようやくその人の輪郭が見えてきます。
正田佑一の研究は、
「人間をひとことで片づけるには、人間はちょっと複雑すぎますよ」
と教えてくれているように感じます。
そして、その複雑さは欠点ではありません。
むしろそこに、
「この人は、こういうときにこうなる」
という、その人だけの物語があります。
自分を理解するときも、他人を理解するときも、
「どんな人か」だけではなく、
「どんなときに、どうなる人なのか」
まで見てみる。
それだけで、性格というものは固定された石ころではなく、状況によって表情を変える、生きたものに見えてきます。
正田佑一の研究から学べる最大のことは、もしかすると、
人を決めつけるより、観察するほうが、人間はずっと面白くなる
ということなのかもしれません。

正田佑一(Yuichi Shoda)の論文一覧
1.『「子どもは『今すぐ』を我慢できる? ごほうびを待つ力から見える自己コントロールの発達」』ウォルター・ミシェル、正田佑一、モニカ・ラレア・ロドリゲス(1989)
Mischel, W., Shoda, Y., & Rodriguez, M. L. (1989). Delay of gratification in children. Science, 244(4907), 933–938. DOI:10.1126/science.2658056
「今すぐ1個もらう? それとも待って2個もらう?」そんな子ども泣かせの二択から、心の仕組みを探った有名な研究です。ミシェル、正田佑一、ロドリゲスらは、子どもが“待つ”ときに何を考え、どう誘惑をやり過ごすのかを分析しました。ポイントは、意志の強さだけではありません。お菓子から目をそらす、別のことを考えるなど、待つための“心の作戦”が大きく関わっていたのです。「我慢強い子が勝つ」という単純な話ではなく、誘惑との付き合い方を学べる。読むと、目の前のケーキを見る目まで少し変わる論文です。

