ウィルマー・B・シャウフェリ(Wilmar B. Schaufeli)の論文一覧:燃え尽きた心に消火器を、働く元気に再点火をする職場心理学さんぽ
ウィルマー・B・シャウフェリ(Wilmar B. Schaufeli)のプロフィール
ウィルマー・B・シャウフェリは、ひとことで言うと、「働く人の心の燃料メーターを研究してきた心理学者」です。
「もう無理、心のスマホ電池が3%です……」という状態から、「仕事って大変だけど、ちょっと前向きに動けるかも」という状態まで、人が仕事の中でどう疲れ、どう元気を取り戻すのかを長年研究してきた人物です。
シャウフェリは1953年生まれ。オランダのユトレヒト大学で、仕事と組織の心理学の名誉教授を務め、ベルギーのルーヴェン・カトリック大学でも特別研究教授として活動してきました。専門は、働く人の健康を心理学から考える分野です。ざっくり言えば、「職場で人はなぜ燃え尽きるのか」「どうすれば仕事に前向きに関われるのか」を、虫眼鏡と聴診器とコーヒー片手に調べてきた先生、という感じです。
もともとは臨床心理学を学び、1978年にオランダのフローニンゲン大学を卒業しました。その後、1988年に博士号を取得しています。博士論文のテーマは、失業と心理的健康に関するもの。つまり、最初から「人と仕事の関係」にかなり深く向き合っていたわけです。仕事というものを、単なる給料発生装置ではなく、人の心・生活・尊厳にまで影響する巨大な生き物として見ていたのですね。
彼の名前がよく出てくる分野のひとつが、燃え尽き症候群です。これは、がんばりすぎて心の中の薪が全部灰になってしまうような状態です。「疲れた」だけなら休めば少し戻ることもありますが、燃え尽きはもっと根っこが深い。仕事への熱が消え、人との関わりもしんどくなり、自分の力まで信じにくくなる。シャウフェリは、そうした状態を研究し、測定し、理解するための仕事に大きく関わってきました。
もうひとつ大事なのが、ワーク・エンゲイジメントです。これは英語っぽく聞こえますが、日本語で言えば「仕事への前向きな関わり」や「仕事に向かう元気と集中感」に近いものです。つまり、燃え尽きの反対側にあるような状態ですね。「仕事、しんどいだけじゃなくて、うまくハマると人を元気にすることもあるんですよ」という、働く心の明るい面にも注目したところがシャウフェリ研究の魅力です。公式サイトでも、現在の教育・研究テーマは働く人の健康心理学だと紹介されています。
また、シャウフェリはとても多作な研究者です。本人の公式サイトでは、400本以上の科学論文・章・書籍を発表してきたと紹介されています。これはもう、研究界の「論文製造工場」ではなく、「働く心の地図をひたすら描き続ける地図職人」と言ったほうが近いかもしれません。
特に有名なのは、仕事の負担と資源のバランスから燃え尽きや意欲を考える研究です。たとえば、仕事量、人間関係のストレス、時間のプレッシャーなどが増えると心は削られます。一方で、上司の支援、裁量、達成感、仲間とのつながりなどがあると、人は踏ん張りやすくなります。要するに、「職場のしんどさ」と「職場の助け舟」のせめぎ合いを見ていくわけです。職場の心は、根性論だけでは動かない。ちゃんと燃料も、休憩所も、応援団も必要なのです。
最近では、燃え尽きの評価法や、部下の前向きな働き方を支えるリーダーシップについての研究にも関わっています。2021年には、仕事への前向きな関わりを高めるリーダーシップに関する論文も発表しています。つまり、個人のメンタルだけでなく、「どんな職場環境なら人は元気に働けるのか」という組織側の問題にも目を向けているのです。
まとめると、ウィルマー・B・シャウフェリは、働く人の“心の電池”を研究してきたオランダ出身の心理学者です。燃え尽き、仕事への前向きな関わり、職場のストレス、働く人の健康。こうしたテーマを通じて、「人はどうすれば壊れずに、できれば少しごきげんに働けるのか」を探り続けてきました。
なんともありがたい研究者です。職場という名のジャングルで、「その疲れ、あなたの気合い不足じゃなくて、環境の設計ミスかもしれませんよ」と言ってくれる。そんな、働く人の心にヘルメットをかぶせてくれるような先生です。
参考文献・確認先:Wilmar Schaufeli 公式サイト / ユトレヒト大学:Wilmar Schaufeli プロフィール / Google Scholar:Wilmar Schaufeli 論文・引用情報 / PubMed:Wilmar B. Schaufeli 関連論文

ウィルマー・B・シャウフェリ(Wilmar B. Schaufeli)の研究から学べること
ウィルマー・B・シャウフェリさんの研究から学べることは、ひとことで言うと、「仕事で人が燃え尽きるのは、本人の根性が足りないからではなく、仕事の負担と支えのバランスが崩れているからかもしれない」ということです。
これは、職場でとても大事な考え方です。
私たちはつい、疲れている人を見ると「もう少し頑張れないの?」「気持ちの問題じゃない?」「休みの日にリフレッシュしたら?」と言ってしまいがちです。でも、シャウフェリさんの研究を読むと、そんな軽い言葉だけでは済まされないことがわかります。水漏れしている船に向かって「明るい気持ちで漕ごう!」と言っても、いやいや、まず穴をふさぎましょう、という話です。
シャウフェリさんは、燃え尽きや仕事への前向きな関わりを長く研究してきた職場心理学の研究者です。とくに、仕事の負担と仕事の資源という考え方を使って、職場の不調と元気を説明する研究でよく知られています。デメルーティさん、バッカーさん、ナハライナーさんとともに発表した2001年の論文では、仕事の条件を大きく「仕事の負担」と「仕事の資源」に分けて考え、負担は主に疲れ切った状態に、資源の不足は仕事から心が離れていく状態に関係すると説明されています。
ここでいう「仕事の負担」とは、仕事量が多い、締め切りがきつい、感情を使う、責任が重い、人間関係がしんどい、といったものです。つまり、心と体のバッテリーをじわじわ削る要素です。反対に「仕事の資源」とは、上司や同僚の支え、自分で工夫できる余地、成長の機会、正当な評価、仕事の意味が見えることなどです。こちらは、心の充電器です。
つまり、職場には「電池を減らすもの」と「電池を回復させるもの」があるわけです。
これ、すごくわかりやすいですよね。毎日、仕事量という掃除機に心の電池を吸われているのに、相談できる人もいない、評価もない、休憩もない、裁量もない。そんな状態で「もっと元気に働きましょう」と言われたら、心の中の小人たちは全員、労働組合を結成します。「充電器を要求します!」と、プラカードを掲げる案件です。
シャウフェリさんの研究から学べる一つ目のことは、「燃え尽きは、個人の弱さだけで説明してはいけない」ということです。
燃え尽きとは、ざっくり言えば、仕事によって心身が疲れ果て、仕事に対して冷めた気持ちになり、以前のように力を出せなくなる状態です。本人だけを見ると、「最近やる気がない」「態度が冷たい」「前より仕事が遅い」と見えるかもしれません。でも、その背景には、長く続く高い負担や、支えの少なさがある場合があります。表面だけ見て「やる気がない人」と決めつけるのは、煙が出ている家を見て「この家、雰囲気が暗いですね」と言っているようなものです。いや、火元を見ましょう。
二つ目の学びは、「元気に働くことは、ただ疲れていない状態ではない」ということです。
ここがシャウフェリさんの研究の面白いところです。彼は、燃え尽きだけでなく、仕事に前向きに関わる状態も研究しました。いわゆる「ワーク・エンゲイジメント」と呼ばれるものですが、日本語では「仕事への前向きな関わり」「働く元気」と言うとわかりやすいです。これは、ただ「疲れていない」というだけではありません。活力がある。仕事に意味を感じる。集中して取り組める。そういう、仕事と心がよい関係を結んでいる状態です。
シャウフェリさんたちは、この「働く元気」を測るための質問票も開発しました。短縮版の研究では、働く元気は活力、熱意、没頭という三つの面から考えられ、複数の国の大きなデータで質問票の性質が検討されています。
ここで大切なのは、「疲れていない人」イコール「元気に働いている人」ではないということです。
たとえば、燃え尽きてはいないけれど、仕事に意味も感じない。淡々とこなしているだけ。心の中では「本日の業務、無感情で処理中です」とアナウンスが流れている。こういう状態もあります。逆に、忙しくても、支えがあり、意味があり、自分の成長を感じられると、「大変だけど、やりがいはある」と思えることがあります。仕事の元気とは、単に負担が少ないことではなく、心に火が灯る条件があることなのです。
三つ目の学びは、「よい職場とは、楽な職場ではなく、支えのある職場である」ということです。
もちろん、負担が多すぎるのはよくありません。仕事量が毎日、山盛りどころか富士山盛りになっていたら、人はしんどくなります。でも、負担をゼロにすればよいかというと、そう単純でもありません。人は、ほどよい挑戦があり、それを乗り越えるための支えがあるときに成長しやすくなります。
大事なのは、重い荷物を持たせないことだけではありません。荷物を持つなら台車を用意することです。坂道を登るなら地図と水筒を渡すことです。困ったときに「それ、ひとりで抱えなくていいよ」と言える人がいることです。職場の支援とは、心のインフラ整備なのです。
シャウフェリさんの研究は、支援の現場や職場づくりにもそのまま使えます。
たとえば、誰かが疲れているとき、「本人の気持ちの問題」として終わらせない。仕事量は多すぎないか。説明はわかりやすいか。相談できる人はいるか。感謝や評価はあるか。自分で工夫できる余地はあるか。休憩や回復の時間はあるか。こうした問いを持つだけで、支援の質はぐっと変わります。
「頑張ってください」という言葉は、悪い言葉ではありません。でも、それだけでは足りないことがあります。心がガス欠の人に「走れ」と言っても、車は動きません。必要なのは、燃料です。あるいは、そもそも道がぬかるみすぎていないかを見ることです。
四つ目の学びは、「働きすぎと働く元気は、似ているようで違う」ということです。
仕事に熱心な人を見ると、「この人は元気に働いている」と思いがちです。でも、そこには注意が必要です。仕事が好きで前向きに取り組んでいる状態と、休めない、止まれない、やめると不安になる状態は違います。前者は心に火が灯っている状態ですが、後者は心が火事になっている可能性があります。
働く元気は、仕事からエネルギーを得ている状態です。一方で、働きすぎは、仕事に追い立てられている状態です。外から見るとどちらも忙しそうですが、中身は違います。おいしくカレーを煮込んでいる鍋と、底が焦げついて煙が出ている鍋くらい違います。どちらも熱いですが、片方はごちそう、片方は警報です。
だから、職場では「よく働いているから大丈夫」と決めつけないことも大切です。よく働いている人ほど、助けを求めるのが遅れることがあります。「自分が止まったら迷惑がかかる」と思って、心の警告ランプを見ないふりしてしまう。そういう人には、「頑張ってるね」だけでなく、「ちゃんと休めてる?」「抱えすぎてない?」と聞くことが大事です。
ウィルマー・B・シャウフェリさんの研究から学べることをまとめるなら、「人を元気に働かせたいなら、気合いを足す前に、負担と資源のバランスを見よう」ということです。
燃え尽きは、突然やってくる怪物ではありません。長く続く負担、少ない支え、見えない努力、報われない感覚が積み重なって、じわじわ育ってしまうものです。反対に、働く元気も、突然天から降ってくるやる気の妖精ではありません。意味のある仕事、周囲の支え、自分で工夫できる余地、成長できる機会、認められる経験の中で、少しずつ育つものです。
つまり、職場の元気は、個人の心だけでなく、環境の設計によって変わるのです。
シャウフェリさんの研究は、職場を見る目を変えてくれます。「あの人は弱い」「あの人はやる気がない」と決めつける前に、「この職場は、人の電池を減らしすぎていないか」「充電器は足りているか」と考える。そうすると、職場の問題は、人を責める話から、仕組みを整える話へ変わっていきます。
これは、とても人間的な視点です。
人は、無限に働ける機械ではありません。感情があり、疲れがあり、誇りがあり、意味を求める生き物です。だから、仕事の場には、負担を減らす工夫と、元気を育てる資源の両方が必要です。
シャウフェリさんの研究は、心にこう語りかけているようです。
「燃え尽きた人を責めるより、なぜ燃え尽きるまで火を使わせたのかを見ましょう。」
これは、職場にとってかなり大切な問いです。人を大事にする職場とは、ただ優しい言葉をかける場所ではありません。人が壊れないように負担を見直し、人が前向きに働けるように資源を整える場所です。
仕事の元気は、根性の畑に勝手に生える野菜ではありません。土を整え、水をやり、日当たりを見て、嵐の日には支柱を立てる。そうして初めて育つものです。
ウィルマー・B・シャウフェリさんの研究は、その育て方を教えてくれる、職場心理学の頼れる園芸書のようなものなのです。

ウィルマー・B・シャウフェリ(Wilmar B. Schaufeli)の論文一覧
1.『燃え尽きを読み解く、仕事の負荷と資源モデル』エヴァンゲリア・デメルーティ、フリートヘルム・ナハライナー、アーノルド・B・バッカー、ウィルマー・B・シャウフェリ(2001)
Demerouti, E., Nachreiner, F., Bakker, A. B., & Schaufeli, W. B. (2001). The Job Demands-Resources model of burnout. Journal of Applied Psychology, 86(3), 499–512. DOI:10.1037/0021-9010.86.3.499
「仕事って、なんでこんなに心のバッテリーを食うの?」という疑問に、真正面から挑んだのがこの論文。仕事量、人間関係、時間のプレッシャーが心を削る一方で、裁量や支援、成長の機会があると、人は意外と踏ん張れる。つまり職場は、ただの労働場所ではなく、疲労と元気が綱引きする小さな劇場なのです。バーンアウトの正体を知りたい人には、かなり頼れる一冊ならぬ一本です。

