ウルリッヒ・ライニングハウス(Ulrich Reininghaus)の論文一覧:「心がつらい」はどこから来るのかを、かなり本気で探りにいった論文たち

ウルリッヒ・ライニングハウス(Ulrich Reininghaus)の論文を読む女性
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ウルリッヒ・ライニングハウス(Ulrich Reininghaus)のプロフィール

ウルリッヒ・ライニングハウスさんは、ひとことで言うと、「心の不調を“病院の中だけの話”で終わらせず、日常の現場まで追いかけている研究者」です。現在はドイツのCentral Institute of Mental Health(CIMH)でPublic Mental Health部門の責任者を務めていて、あわせてKing’s College LondonのVisiting Professorでもあります。肩書きだけ見るとかなり硬派なのですが、やっている研究はむしろとても“生活に近い”です。

研究の中心にあるのは、精神保健、公衆衛生、精神病理、そしてデジタル技術を使った支援です。たとえば、「人はふだんの暮らしの中で、どんなときにしんどくなりやすいのか」「そのしんどさを、スマホなどを使ってその場で少しでも支えられないか」といったテーマに力を入れています。研究室の机の上だけで完結するというより、“現実の毎日で役立つ心理学・精神医学”をどう作るかを考えている人、という印象です。

とくに近年は、SELFIE試験のように、子ども時代の逆境体験がある若者の自己肯定感を高めるためのスマホを使った介入研究でも知られています。つまり、「つらさを調べる」だけではなく、そのつらさをどう支えるかまで研究しているわけです。ここが、なんとも頼もしいところです。心の研究者というより、“こころの天気予報士”に、ちょっとした応急手当セットを持たせたような人と言うと、雰囲気が伝わるかもしれません。

参考文献・確認先: King’s College London:Ulrich Reininghaus 公式プロフィール / Central Institute of Mental Health(CIMH):Ulrich Reininghaus プロフィール / Google Scholar:Ulrich Reininghaus 論文・引用情報 / PubMed:Ulrich Reininghaus 関連論文 / ORCID:Ulrich Reininghaus 研究者情報 / PubMed:SELFIE Randomized Clinical Trial

阿部牧歌(管理人)
阿部牧歌(管理人)

ウルリッヒ・ライニングハウス(Ulrich Reininghaus)の研究から学べること

ウルリッヒ・ライニングハウスさんの研究から学べることは、ひとことで言うと、「心の不調は、診察室の中だけで起きているのではなく、毎日の暮らしの中で揺れ動いている。だから支援も、暮らしの中に届く形が大切」ということです。

これ、かなり大事です。

心の支援というと、どうしても「病院に行く」「相談室で話す」「検査を受ける」というイメージがあります。もちろん、それはとても大切です。でも、心が本当に揺れるのは、診察室の椅子に座っているときだけではありません。朝起きた瞬間、学校や職場に向かう途中、人と話したあと、SNSを見たあと、夜にひとりで考え込む時間。心の天気は、日常のいろんな場所でころころ変わります。まるで、気まぐれな猫が家じゅうを歩き回るように、心もあっちへ行ったり、こっちへ行ったりするのです。

ライニングハウスさんは、精神病の予防や早期支援、若者のメンタルヘルス、日常生活の中でのストレス反応、そしてスマートフォンなどを使った支援に関わる研究者です。Google Scholarの研究者ページでも、精神医学における「日常の瞬間に合わせた介入」や、精神病予防・早期支援に関する研究が確認できます。

ここでいう「精神病」という言葉は、少し硬く聞こえますね。ものすごくざっくり言えば、現実の感じ方や考え方が大きく揺れ、強い不安や混乱が起きる状態です。たとえば、人から悪く思われている気がして仕方ない、見張られているように感じる、聞こえないはずの声が聞こえる、などです。こうした体験は、本人にとってかなり怖いものです。心の中で防災無線が鳴りっぱなしになり、しかも音量ボタンが見つからない。そんな状態に近いかもしれません。

ライニングハウスさんの研究の面白いところは、このような心の揺れを「日常生活の中でどう起きているか」として見ようとするところです。たとえば、ストレスを感じたその瞬間、心はどう反応するのか。人と関わったあとに気分はどう変わるのか。自己評価が低いとき、どんな場面でつらさが強まるのか。こういう“その場その場の心の動き”を大事にしています。

これは、日常的にもすごく納得しやすい視点です。

私たちも、「今日はずっと不安だった」と言うことがあります。でも実際には、朝はまあまあだったのに、昼に上司から一言言われて沈み、夕方に友人から連絡が来て少し戻り、夜に布団の中で考えすぎてまた落ちる、みたいなことがあります。心の一日は、一本の直線ではありません。小さな山あり谷あり、たまに謎の落とし穴ありの、なかなか忙しい地形です。

ライニングハウスさんの研究から学べる一つ目のことは、「心の不調は、平均だけで見ると見えにくい」ということです。

たとえば、「この1週間の気分はどうでしたか」と聞かれると、人はだいたいまとめて答えます。「まあまあ悪かったです」「少し不安でした」と。でも、その中にはいろんな瞬間があります。とてもつらかった瞬間もあれば、少し安心できた瞬間もある。誰かと話して楽になった時間もあれば、ひとりで検索しすぎて不安が増えた時間もある。平均にすると、その細かい動きがぺたんこになります。心の立体地図が、のっぺりした紙になってしまうのです。

だから、日常の中で細かく心の動きを見ることには意味があります。「どんな場面でつらくなるのか」「何をすると少し楽になるのか」「誰といると落ち着くのか」「どんな考えが出てくると苦しくなるのか」。こうしたことがわかると、支援はずっと具体的になります。

二つ目の学びは、「支援は、困っているその瞬間に届くと力を持ちやすい」ということです。

ライニングハウスさんが関わる研究では、スマートフォンなどを使い、日常生活の中でその人に合わせた支援を届ける方法が扱われています。たとえば、若者の重い精神的不調の予防や早期支援を目指した「EMIcompass」という研究では、思いやりに焦点を当てた、日常生活の中で使える支援が検討されています。2023年の探索的な無作為化比較試験では、この方法が実施可能であり、ストレスへの反応を減らし、生活の質を高める可能性を示す初期的な結果が報告されています。

これを日本語でやわらかく言うなら、「つらくなったあとに、後日まとめて振り返るだけでなく、つらくなっているその場で、小さな助けが届く仕組み」です。

たとえば、心がしんどいときに、スマホから「今、体に力が入っていませんか」「少し呼吸に注意を向けてみましょう」「自分を責める言葉が出てきたら、友人に言うような言葉に置き換えてみましょう」といった支援が届く。これは、心のポケットに小さな相談員がいるような感じです。もちろん、スマホが魔法の杖になるわけではありません。でも、困っている瞬間に、ほんの少し立ち止まるきっかけをくれることがあります。

三つ目の学びは、「思いやりは、心の回復力を支える技術になる」ということです。

EMIcompassの研究では、「自分や他者への思いやり」に焦点を当てた支援が使われています。思いやりというと、ふわっとした道徳の話に聞こえるかもしれません。でも、ここではかなり実用的です。自分を責めすぎる人、不安に飲み込まれやすい人、ストレスに敏感な人にとって、「自分にどう声をかけるか」は大きな問題です。2021年の予備的研究でも、若者のストレスへの回復力を高めるために、思いやりに焦点を当てた日常的な支援が検討されています。

たとえば、失敗したときに「やっぱり自分はだめだ」と考えると、心はどんどん沈みます。心の中で自分を裁く裁判が始まり、検察官がやたら元気になります。「証拠その1、過去の失敗!証拠その2、昨日のミス!」と、いらない資料まで山盛り出してくる。困ったものです。

でも、そこで「今はつらい。けれど、失敗したから自分の価値がなくなるわけではない」「まず一息つこう」「次にできる小さなことを考えよう」と言えると、心の空気が少し変わります。思いやりは、甘やかしではありません。心の中の裁判所を、相談室に変える力です。

四つ目の学びは、「若い時期の支援は、未来の大きな不調を防ぐ可能性がある」ということです。

ライニングハウスさんの研究は、重い精神的不調がはっきり大きくなる前の段階、つまり早めの支援にも関心を向けています。心の問題は、完全にこじれてから対処するより、早めに気づき、早めに支えるほうがよい場合があります。これは、虫歯と少し似ています。痛みが限界まで来てから歯医者に行くより、「あれ、少ししみるな」の段階で見てもらったほうが、工事が小さくて済むことがあります。心も同じで、小さなサインの段階で支えられると、後の苦しさを減らせる可能性があります。

もちろん、早めに気づくことは「危ない人を見つけてラベルを貼る」という意味ではありません。そこは大切です。人を診断名やリスクだけで見ると、その人の人生が小さく見えてしまいます。大事なのは、「この人はいま、どんな場面で困っているのか」「どんな助けがあれば暮らしやすくなるのか」を見ることです。支援は、札を貼る作業ではなく、足場をつくる作業です。

日常に置き換えると、ライニングハウスさんの研究はこんなことを教えてくれます。

「なんとなくずっとしんどい」と感じるとき、ただ根性で乗り切ろうとするのではなく、しんどさが強まる場面を観察してみる。朝なのか、夜なのか。人と会ったあとか、ひとりになったときか。SNSを見たあとか、仕事の連絡が来たあとか。体の疲れと関係しているのか。こうして見ていくと、自分の心の説明書が少しずつできてきます。

そして、しんどさが出やすい場面には、あらかじめ小さな支援を置いておく。夜に考えすぎるなら、寝る前の検索を減らす。人間関係で緊張しやすいなら、終わったあとに安心できる時間をつくる。自分を責めやすいなら、あらかじめ「友人に言うなら何と言うか」と考える。こうした小さな工夫は、心の避難経路になります。

ウルリッヒ・ライニングハウスさんの研究から学べることをまとめるなら、「心の支援は、生活から切り離さず、日常の中で、その人に合う形で届けることが大切」ということです。

心は、診察室だけで生きているわけではありません。学校で揺れ、職場で揺れ、家庭で揺れ、スマホの画面の前で揺れ、夜の布団の中で揺れます。だからこそ、支援もまた、暮らしの中に入っていく必要があります。

大きな理論も大切です。専門的な治療も大切です。でも、その人が本当に困っているのは、「水曜日の夕方、帰り道で急に不安になる」とか、「人と話したあと、自分を責めてしまう」とか、「夜にひとりになると考えが止まらない」といった、具体的な瞬間だったりします。そこに届く支援は、派手ではないけれど、とても強いです。

ライニングハウスさんの研究は、心にこう語りかけているように思います。

「あなたのしんどさは、生活の中で起きている。だから、生活の中に助けを置いていいんですよ。」

これは、とてもやさしい視点です。心の不調を、遠くの専門用語だけで囲い込まない。毎日の時間、場所、人間関係、スマホ、睡眠、ストレス、自分への言葉。その一つひとつを見ながら、回復の道をつくる。

心の支援は、大きな病院の白い壁の中だけにあるものではありません。ポケットの中の小さなメッセージにも、帰り道の深呼吸にも、夜の自分へのやさしい一言にも、支援の芽はあります。

ウルリッヒ・ライニングハウスさんの研究は、その小さな芽を、日常の土の中に植えていく研究なのだと思います。

阿部牧歌(管理人)
阿部牧歌(管理人)

ウルリッヒ・ライニングハウス(Ulrich Reininghaus)の論文一覧

1.『傷ついた過去を抱える若者の「自分を大切にする力」は育てられるのか-日常に寄り添うSELFIE試験』ウルリッヒ・ライニングハウス他(2024)

Reininghaus, U., Daemen, M., Postma, M. R., Schick, A., Hoes-van der Meulen, I., Volbragt, N., Nieman, D., Delespaul, P., de Haan, L., van der Pluijm, M., Breedvelt, J. J. F., van der Gaag, M., Lindauer, R., Boehnke, J. R., Viechtbauer, W., van den Berg, D., Bockting, C., & van Amelsvoort, T. (2024). Transdiagnostic Ecological Momentary Intervention for Improving Self-Esteem in Youth Exposed to Childhood Adversity: The SELFIE Randomized Clinical TrialJAMA Psychiatry, 81(3), 227-239. DOI: 10.1001/jamapsychiatry.2023.4590

「自己肯定感って、気合いで上げるものではなく、もう少し“その場で助ける仕組み”が必要では?」。そんな発想から生まれたのがこのSELFIE試験です。子ども時代のつらい体験をもつ12〜26歳を対象に、スマホも使いながら自己肯定感を立て直せるかを検証。しかもランダム化比較試験でしっかり勝負しているのが頼もしいところ。心の応急手当箱をポケットに入れる感じ、ちょっと読んでみたくなりませんか。

阿部牧歌(管理人)
阿部牧歌(管理人)
この論文の要約を読む
【論文要約】自己肯定感はあとから育て直せるのか? 逆境を経験した若者を支えたSELFIE試験
【論文要約】自己肯定感はあとから育て直せるのか? 逆境を経験した若者を支えたSELFIE試験
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