ティモシー・J・ストローマン(Timothy J. Strauman)の論文一覧:ちゃんと生きたい気持ちが、ときどき心を苦しくする謎を追った人
ティモシー・J・ストローマン(Timothy J. Strauman)のプロフィール
ティモシー・J・ストローマンは、ひとことで言うと、「人はなぜ理想の自分とうまく付き合えなくなるのか」を、かなり本気で追いかけてきた心理学者です。現在はデューク大学で心理学・神経科学の教授を務めていて、あわせて精神医学・行動科学の分野にも関わっています。つまり、「心の動き」を見るだけでなく、「その心がしんどくなると何が起きるのか」まで、ぐっと踏み込んで研究している人です。
学歴をたどると、デュケイン大学で学士号、シカゴ大学で修士号、そして1987年にニューヨーク大学で博士号を取得しています。きれいに階段を上るように学問の道を進んできた感じですが、研究テーマはぜんぜん冷たくなくて、「人が自分をどう見ているか」「そのズレが気分や心の不調にどうつながるか」という、かなり人間くさいところを扱っています。
ストローマン先生の研究の中心にあるのは、「自己調整」という考え方です。少しかたく聞こえますが、要するに「自分はこうありたい」と思う気持ちと、現実の自分との距離を、人はどう受け止め、どう動くのか、という話です。ここにうつや不安がどう関わるのか、治療で何が変わるのか、さらには脳の働きまで含めて見ていくので、「心の研究者」というより、「理想と現実のすれ違い捜査官」みたいな雰囲気があります。
経歴もなかなか骨太です。デューク大学では2006年から心理学・神経科学の教授を務め、2006年から2009年には心理学部門の共同チェアも担当していました。さらに精神医学・行動科学の分野にも長く関わっていて、脳画像解析や脳科学の関連センターにも所属しています。研究室の中だけで完結するというより、心理学と医学のあいだを行ったり来たりしながら、人の心を立体的に見ようとしてきた人だといえます。
なので、Straumanの論文を読むと、「自己不一致」とか「抑うつ」とか、言葉は少し学術っぽいのに、読んでいるうちにだんだん「それ、今の自分にも刺さる話では?」となりやすいです。理想があること自体は悪くない。けれど、その理想が厳しすぎると、心は静かに削られていく。ストローマン先生は、その見えにくい削れ方を、心理学の言葉で丁寧に見える形にしてきた研究者、と言うと伝わりやすいかもしれません。
参考文献・確認先:Duke University Scholars:Timothy J. Strauman 公式プロフィール / Duke Department of Psychiatry & Behavioral Sciences:Timothy J. Strauman プロフィール / Google Scholar:Timothy J. Strauman 論文・引用情報 / PubMed:Timothy J. Strauman 関連論文

ティモシー・J・ストローマン(Timothy J. Strauman)の研究から学べること
ティモシー・J・ストローマンさんの研究をひとことで言うなら、「人は“今の自分”と“なりたい自分”の距離が開きすぎると、心の中で迷子になりやすい。でも、その距離の測り方と歩き方を変えれば、少しずつ立て直せる」というお話です。
ストローマンさんは、デューク大学の心理学・神経科学の教授で、うつ、不安、自己調整、脳の働き、心理療法などを研究してきた心理学者です。デューク大学の研究者紹介では、彼の研究は「人がどのように目標を追い、困難に反応し、時間をかけて適応するか」という自己調整を中心にしていると説明されています。
ここでいう「自己調整」とは、ものすごく簡単に言えば、「自分を目的地へ連れていく心の運転技術」です。朝起きる、仕事へ行く、勉強する、人と話す、失敗しても戻ってくる、目標に向けて少しずつ進む。こういう日々の行動には、実は小さな心のハンドル操作がたくさんあります。
でも、うつっぽくなると、このハンドルが重くなります。アクセルを踏みたいのに踏めない。ブレーキばかりかかる。カーナビは「目的地に向かってください」と言っているのに、心の車は駐車場でしょんぼりアイドリングしている。ストローマンさんの研究は、この「なぜ前に進みにくくなるのか」を、気合い論ではなく、自己調整の仕組みとして見ようとします。
特に大事なのが、「今の自分」と「理想の自分」や「こうあるべき自分」とのズレです。
たとえば、心の中にこんな三人がいるとします。
今の自分は、「今日は疲れていて、あまり動けません」と言っています。
理想の自分は、「もっと成長したい。もっと自由に、いきいき生きたい」と言っています。
こうあるべき自分は、「ちゃんとしなさい。迷惑をかけてはいけません。失敗してはいけません」と腕組みしています。
この三人が仲よく会議してくれたらいいのですが、なかなかそうはいきません。理想の自分が遠すぎると、「自分は全然届いていない」と落ち込みやすくなる。こうあるべき自分が厳しすぎると、「ちゃんとできない自分はダメだ」と不安や罪悪感が強くなりやすい。ストローマンさんの初期の研究では、こうした自己のズレが、うつや社会不安の特徴と関係することが示されています。
これ、日常でかなりありますよね。
「もっと頼れる人になりたい」
「もっと明るくいたい」
「もっと成果を出したい」
「もっと家族を大事にしたい」
「もっと毎日を整えたい」
こうした願い自体は、悪いものではありません。むしろ、人を前に進ませる灯台です。でも、灯台が遠すぎると、今いる自分の場所が真っ暗に見えてしまうことがあります。「理想」は本来、道を照らすものなのに、いつの間にか自分を責めるサーチライトになってしまう。心の取り調べ室、開廷です。
ストローマンさんの研究から学べる一つ目のことは、「目標は、心を助けることもあれば、追い詰めることもある」ということです。
目標は大切です。でも、目標が大きすぎたり、曖昧すぎたり、他人の期待ばかりでできていたりすると、心は疲れてしまいます。「立派な人になる」では、どこに向かえばいいのかわかりません。「絶対に失敗しない」なんて目標は、ほぼ人間卒業試験です。そんなものを掲げたら、毎日が追試になります。
だから、ストローマンさんの研究を日常に活かすなら、「理想の自分」をいきなり山頂に置かないことが大切です。
たとえば、「完璧に仕事をこなす」ではなく、「今日の大事な確認を一つ増やす」。「誰からも好かれる」ではなく、「一人に丁寧に返事をする」。「毎日元気でいる」ではなく、「疲れた日は早めに休む」。理想を小さな行動に翻訳するのです。理想をそのまま抱えると岩になりますが、行動に砕くと小石になります。小石なら、ポケットに入れて歩けます。
二つ目に学べるのは、「うつは単なる気分の問題ではなく、“進む力”の問題としても見られる」ということです。
ストローマンさんは、うつを自己調整の問題として捉える研究を行ってきました。2017年の総説では、心の健康や精神的な不調を、目標追求、感情、脳の働き、行動の調整という広い枠組みで理解しようとしています。
これはとても大事です。うつっぽいとき、人はよく「やる気がない」「怠けている」と誤解されます。でも実際には、心のエンジン、燃料計、ナビ、ブレーキのどこかがうまく連動していない状態かもしれません。車が動かないときに「根性で走れ」と言っても無理がありますよね。まず点検です。バッテリーなのか、燃料なのか、タイヤなのか。心も同じです。
「なぜ動けないのか」を責めるのではなく、「何が動きにくくしているのか」を見る。これだけで、自分へのまなざしが少しやさしくなります。
三つ目に学べるのは、「自分の中の“前に進むシステム”と“危険を避けるシステム”のバランスを見ること」です。
人間には、ざっくり言えば、「近づく力」と「避ける力」があります。近づく力は、やってみたい、成長したい、喜びたい、達成したいという方向に働きます。避ける力は、傷つきたくない、怒られたくない、失敗したくない、恥をかきたくないという方向に働きます。
どちらも必要です。避ける力がなければ、危険な橋でも鼻歌まじりに渡ってしまいます。でも、避ける力が強すぎると、チャンスの前でも「危険です!」と心の警報機が鳴ります。すると、やりたいことがあっても動けない。人に会いたいのに避ける。挑戦したいのに引っ込む。心の玄関で靴を履いたまま、ずっと立ち尽くす感じです。
ストローマンさんたちは、うつの一部には「成長や達成に向かう目標をうまく追いにくい」タイプがあると考え、その人たちに合わせた治療法も研究しています。デューク大学の紹介記事によると、自己システム療法という治療は、成長・前進・達成に関わる目標を見つけたり追ったりすることが難しいタイプのうつの人に対して、認知療法より有効だった可能性が報告されています。
ここから学べるのは、「支援や治療は、みんな同じ型でよいわけではない」ということです。ある人には、考え方のクセを見直すことが大事かもしれない。別の人には、目標を見つけ直すことが大事かもしれない。さらに別の人には、安心できる人間関係や生活リズムの回復が先かもしれない。心は大量生産の家電ではありません。説明書が一枚で済まないところが、人間の面倒で、そして愛おしいところです。
四つ目に学べるのは、「“自分はダメだ”ではなく、“目標との関係がこじれている”と考えてみること」です。
これは、かなり救いのある見方です。
たとえば、何かを続けられないとき、「自分は意志が弱い」と思いがちです。でも、もしかすると目標が大きすぎるのかもしれない。目標が自分の本心ではなく、他人の期待から来ているのかもしれない。達成したときの喜びが想像できなくなっているのかもしれない。失敗したときの怖さが大きすぎるのかもしれない。
つまり、問題は「あなたという人間が不良品」なのではなく、「あなたと目標のつなぎ方」にあるのかもしれません。これは、靴ひもが絡まっているだけなのに、「自分の足が悪い」と思い込んでいるようなものです。まず靴ひもをほどきましょう。足に説教するのは、そのあとでも遅くありません。
五つ目に学べるのは、「心の回復には、“行きたい方向”を取り戻すことが大切」ということです。
うつや不安が強いとき、人は「苦しみを減らすこと」に意識が向きます。もちろん、それは大切です。痛いものは痛い。まず楽になりたい。それでいいのです。
でも、少し余裕が出てきたら、「何を減らすか」だけでなく、「何に近づきたいか」も大事になります。
何を大切にしたいのか。
どんな一日が少しだけ自分らしいのか。
誰とどんな関係をつくりたいのか。
どんな小さな達成が、自分の心に火を灯すのか。
ストローマンさんの自己調整の考え方は、ここに光を当てます。心の回復は、ただマイナスをゼロに戻すだけではありません。小さくても、「こっちへ行きたい」という方向感覚を取り戻すことでもあります。人生のカーナビが再起動する感じです。まだ道は混んでいるかもしれない。でも、「目的地が表示された」だけで、少し安心できることがあります。
日常で使うなら、まず「自分の理想」を小さくすることです。
「ちゃんとした人間になる」ではなく、「今日は一つだけ約束を守る」。
「自信を持つ」ではなく、「できたことを一つメモする」。
「不安をなくす」ではなく、「不安があっても一歩だけ進む」。
「人生を変える」ではなく、「今日の寝る時間を少し整える」。
こうやって、心の山を階段に変えていくのです。山を見上げると絶望しますが、一段なら登れる日があります。一段を笑ってはいけません。人生の大きな変化は、たいてい地味な一段の集団行動です。
次に、「べき」を点検することです。
「もっと頑張るべき」
「迷惑をかけるべきではない」
「いつも明るくあるべき」
「失敗してはいけない」
「人に頼ってはいけない」
こういう“べき”は、心の中の上司みたいなものです。必要な指示をくれることもありますが、残業命令ばかり出してくることもあります。もし“べき上司”が厳しすぎるなら、「それは本当に必要ですか」「誰が決めたルールですか」「少しゆるめても大丈夫ではないですか」と面談してみるのも大切です。
さらに、「理想の自分」と「今の自分」を敵同士にしないことも大事です。
理想の自分が、今の自分に向かって「なんでまだそこにいるんだ!」と怒鳴っていたら、今の自分はますます動けません。理想の自分は、鬼監督ではなく、少し先で手を振ってくれる案内人であってほしいのです。
「まだ届いていないからダメ」ではなく、「そっちへ向かっている途中」。
「できていない自分」ではなく、「練習中の自分」。
「遅れている自分」ではなく、「自分の速度で進んでいる自分」。
言い方ひとつで、心の空気は変わります。言葉は小さな窓です。開け方を変えると、入ってくる風が変わります。
ティモシー・J・ストローマンさんの研究から学べることは、結局こういうことです。私たちの心のしんどさは、ただ気分が落ちているだけではなく、「自分はどこへ向かいたいのか」「今の自分をどう見ているのか」「目標に近づく力と、危険を避ける力のバランスがどうなっているのか」と深く関係しています。
だから、落ち込んだときに必要なのは、自分への説教だけではありません。むしろ説教は、心の栄養にはなりにくいです。必要なのは、自分の目標を見直すこと。理想を小さな行動に分けること。厳しすぎる“べき”を点検すること。そして、「今の自分」と「なりたい自分」をケンカさせず、同じチームに戻してあげることです。
心の中には、ときどき会議室があります。今の自分、理想の自分、こうあるべき自分が、机を囲んでいます。うまくいかないときは、理想が怒鳴り、べきが資料を叩き、今の自分が椅子の下に隠れます。ストローマンさんの研究は、その会議にそっとお茶を出して、「まあまあ、まず今日できる一歩から話しましょう」と言ってくれるようなものです。
人生は、理想に一気に飛びつく競技ではありません。今の自分を連れて、少しずつ方向を直していく旅です。迷ってもいい。止まってもいい。目的地を変えてもいい。大切なのは、自分を責めて立ちすくむことではなく、「次の一歩を、どのくらいの大きさにすれば歩けるかな」と考えること。
ストローマンさんの研究は、そんな心の歩幅の見つけ方を教えてくれます。理想は鞭ではなく灯りに。反省は判決ではなく地図に。今の自分は敵ではなく、これから一緒に歩いていく相棒に。そう考えるだけで、心の中の道は少しだけ明るくなるのです。

ティモシー・J・ストローマン(Timothy J. Strauman)の論文一覧
1.『うつ病と社交不安を生む「理想の自分」と「現実の自分」のずれ』ストローマン(1989)
Timothy J. Strauman(1989). Self-discrepancies in clinical depression and social phobia: Cognitive structures that underlie emotional disorders? Journal of Abnormal Psychology, 98(1), 14-22. DOI:10.1037/0021-843X.98.1.14
「なんで落ち込みやすい人と、人前でガチガチになる人は、しんどさの形が違うんだろう?」そんな心の謎に、Straumanがずばっと切り込んだ論文です。ポイントは、“現実の自分”と“こうありたい自分”“こうあるべき自分”のズレ。うつと社交不安では、そのズレ方にちゃんと違いがあるらしい。心の不調を、気合いではなく“心の設計図”から見ていく感じが実におもしろい一本です。読みはじめると、自分の中の小さなズレまで気になってきます。

