スーザン・E・ジャクソン(Susan E. Jackson)の論文一覧:職場のストレスからチームの化学反応まで、人と組織をほぐす心理学さんぽ
スーザン・E・ジャクソン(Susan E. Jackson)のプロフィール
スーザン・E・ジャクソンは、ざっくり言うと「職場という人間ドラマの研究者」です。
会社やチームを、ただの“働く場所”として見るのではなく、「人が燃え尽きたり、支え合ったり、ぶつかったり、力を発揮したりする小さな社会」として見つめてきた心理学・経営学系の研究者です。
ジャクソンは、アメリカのラトガース大学で人的資源管理、つまり「人をどう雇い、育て、活かすか」を研究してきた名誉教授です。ラトガース大学の公式プロフィールによると、専門は、環境にやさしい組織づくり、戦略的な人材管理、仕事による燃え尽き、職場チームの多様性などです。つまり研究テーマを日本語で言うなら、「会社の中で人がしんどくならず、しかもちゃんと力を出せるにはどうしたらいいの?」という、働く人にとってかなり切実なテーマです。職場の健康診断士みたいな存在ですね。聴診器の代わりに論文を持っているタイプです。
学歴としては、ミネソタ大学で心理学と社会学を学び、その後、カリフォルニア大学バークレー校で組織心理学・社会心理学の修士号と博士号を取得しています。さらにチューリッヒ大学から名誉博士号も授与されています。心理学、社会学、組織、働き方を横断してきた人なので、研究の目線が「個人の心」だけに閉じていません。人のしんどさを見るときも、「その人が弱いから」ではなく、「職場の仕組み、役割、人間関係、チームの空気はどうなっている?」と、舞台装置ごと見る感じです。
特に有名なのは、クリスティーナ・マスラックとともに、仕事の燃え尽きを測る研究に関わったことです。1981年の論文「経験された燃え尽きの測定」は、燃え尽き研究の世界でとても重要な位置にあります。ここでのポイントは、燃え尽きを「なんとなく疲れた」では終わらせなかったことです。心のガソリンメーターを作るように、「どのくらい消耗しているのか」「人に対して冷たくなっていないか」「仕事の達成感が落ちていないか」といった形で、見えにくい疲れを研究のテーブルに乗せました。燃え尽きに名前と物差しを与えた、というわけです。
もうひとつの大きなテーマが、職場の多様性です。年齢、性別、専門分野、経験、考え方が違う人たちが同じチームで働くと、うまくいけば「知恵の鍋料理」になります。でも、煮込み方を間違えると、ただのギスギス鍋になります。ジャクソンは、そうしたチームの違いが、意思決定や協力、人間関係、離職などにどう影響するのかを研究してきました。多様性を「いいことです!」で終わらせず、「では、どうすれば力に変えられるのか」まで見ようとした研究者です。
また、人材管理の分野でも大きな業績があります。ラトガース大学の退職記事では、ジャクソンの戦略的な人材管理に関する基礎的研究が、その後30年以上の研究の土台になったと紹介されています。要するに、「人事は単なる事務作業ではありませんよ。会社の未来を左右する、かなり大事な設計図ですよ」と示してきた人です。採用、配置、評価、育成、チームづくり。そうした一つひとつが、会社という船の帆の張り方になる。ジャクソンの研究は、その帆の張り方を科学的に考える仕事だったと言えます。
近年の研究関心としては、環境に配慮した組織づくりにも目を向けています。つまり、「人にやさしい職場」だけでなく、「地球にもやさしい職場」をどう作るか、という方向です。人材管理と環境問題をつなげるあたり、研究の守備範囲がなかなか広いです。職場のメンタル、チームの多様性、人事制度、環境への配慮まで見ているので、研究室の机の上が論文で渋滞していそうです。
まとめると、スーザン・E・ジャクソンは、「働く人の心」と「組織の仕組み」をつなげて考えた研究者です。燃え尽きる人を見て「もっと頑張れ」と言うのではなく、「なぜ燃え尽きる構造になっているのか」と問い直す。多様なチームを見て「仲良くしましょう」で済ませるのではなく、「違いを力に変える条件は何か」と考える。人事を見て「書類と面接の仕事」と見るのではなく、「人と組織の未来をデザインする仕事」と見る。
ひとことで言えば、ジャクソンは職場の“人間くささ”を、ちゃんと研究の言葉にしてくれた学者です。
会社という、ときにコーヒーより苦く、ときに昼休みのプリンより救いになる場所。その中で人がどう疲れ、どう支え合い、どう力を発揮するのかを追いかけた、働く人のための組織研究者と言えるでしょう。
参考文献・確認先:Rutgers University:Susan E. Jackson 公式プロフィール / Google Scholar:Susan E. Jackson 論文・引用情報 / PubMed:Susan E. Jackson 関連論文 / ORCID:Susan E. Jackson 研究者情報

スーザン・E・ジャクソン(Susan E. Jackson)の研究から学べること
スーザン・E・ジャクソン(Susan E. Jackson)の研究から学べることは、ひとことで言うと、「働く人の疲れは、本人の根性不足ではなく、仕事の作り方・役割のあいまいさ・職場のしくみによって大きく変わる」ということです。
ジャクソンさんは、組織心理学や人材管理の分野で知られる研究者で、クリスティーナ・マスラックさんとともに「燃え尽き」を測る研究にも関わっています。1981年の有名な論文では、燃え尽きには、心のエネルギーがすり減ること、人に対して冷たく距離を取ってしまうこと、自分の仕事に手応えを感じにくくなること、という三つの面があると整理されました。
これ、かなり大事です。なぜなら職場で疲れている人ほど、「自分が弱いからだ」「もっと頑張らないと」と思い込みやすいからです。でも、ジャクソンさんたちの研究は、そこで「ちょっと待った。心の電池が切れた理由を、本人だけに押しつけるのは雑すぎませんか」と言ってくれるわけです。まるで職場の天井裏をのぞいて、「あ、配線がだいぶ焦げていますね」と見つけてくれる電気屋さんです。
たとえば、毎日仕事量が多すぎる。何を優先すればいいかわからない。上司Aと上司Bの指示が違う。責任だけ重いのに、決める権限はない。頑張っても認められない。相談しても「まあ、うまくやって」と返される。こういう状態が続くと、心はじわじわ焦げつきます。最初は「少し疲れたな」くらいでも、だんだん「朝起きた時点で、もう帰りたい」という状態になります。まだ家なのに、心だけ退勤済みです。
ジャクソンさんの研究から学べるのは、燃え尽きは「頑張り屋さんの失敗」ではなく、「人と仕事のかみ合わせが悪くなったサイン」だということです。仕事の要求が多すぎるのに、支える資源が少ない。役割があいまいで、何を求められているのかわからない。人間関係の負荷が高く、感謝や達成感が少ない。こうなると、心の台所では火力が強すぎるのに、水も出汁も足されていない状態です。そりゃ鍋も焦げます。鍋に向かって「根性を出せ」と言っても、焦げは取れません。
特に大切なのが、「役割のあいまいさ」と「役割の衝突」です。役割のあいまいさとは、「結局、自分は何をどこまでやればいいの?」が見えない状態です。役割の衝突とは、「こっちからは急げと言われ、あっちからは丁寧にやれと言われる」ように、求められることがぶつかっている状態です。これは、右足に「走れ」、左足に「止まれ」と命令されているようなものです。結果、本人は職場の廊下で心の股裂き状態になります。つらいです。
ここから日常に持ち帰れる知恵は、「疲れている自分を責める前に、仕事の設計を点検すること」です。
仕事量は多すぎないか。
何を優先すべきかは見えているか。
相談できる相手はいるか。
自分で決められる範囲はあるか。
頑張りが見える形で認められているか。
人間関係の摩擦が多すぎないか。
こういう点を見ていくと、疲れの正体が少し見えてきます。「自分が弱い」のではなく、「この環境では誰でも削られる」ということもあります。これは大事です。砂漠で喉が渇いた人に、「水を欲しがるなんて弱い」と言うのは変ですよね。必要なのは精神論ではなく、水です。職場でも同じで、必要なのは根性のポスターではなく、仕事量の調整、役割の明確化、相談できる体制、感謝や承認の文化です。
ジャクソンさんは、燃え尽き研究だけでなく、組織の人材管理や多様性、働く人の能力をどう活かすかという分野でも知られています。つまり、人を「使う」のではなく、「どうすれば人が力を発揮できる環境になるのか」を考える研究者でもあります。これは、かなり現場に効く視点です。
職場では、できる人ほど仕事が集まりがちです。「あの人ならできる」と言われて、どんどん荷物を載せられる。最初は期待に応えようと頑張る。でも気づけば、心の軽トラックに冷蔵庫、洗濯機、ピアノ、なぜか巨大な招き猫まで積まれている。そろそろ車軸が悲鳴をあげます。そこで「あなたは優秀だから大丈夫」と言われても、いや、優秀でも重量制限はあります、という話です。
だから、管理する側にとっても、ジャクソンさんの研究は大切です。部下や同僚が疲れているとき、「やる気がない」と見る前に、「仕事の量や役割が無理な形になっていないか」を見る必要があります。人は、ちゃんと支えられていると力を発揮しやすいです。逆に、あいまいな指示、過剰な負荷、不公平感、感謝のなさが続くと、どれだけ優秀な人でも燃料切れになります。高性能な車でも、ガソリンなしでは走れません。しかも、ガソリンの代わりに「気合い」と書いた紙を入れても動きません。
働く本人ができることもあります。まず、「自分が抱えている仕事を見える化する」ことです。頭の中だけで抱えていると、仕事は実際より巨大に見えます。紙や表に書き出して、「急ぎ」「重要」「相談が必要」「後回しでよい」に分ける。これは心の荷物整理です。押し入れに詰め込まれた布団を一回出して、どれを使うか見る感じです。
次に、「確認する勇気」を持つことです。役割があいまいなときは、「この件は私がどこまで担当すればよいでしょうか」「優先順位はどちらが高いですか」と聞いていいのです。これは能力不足ではありません。仕事の地図を確認しているだけです。地図なしで山に入って迷ったら、「なぜ根性で登らないのか」と言われても困ります。まず地図です。
そして、「疲れのサインを軽く見ないこと」です。以前より人に冷たくなった。仕事に手応えを感じない。朝から重い。小さなミスが増えた。休んでも回復しにくい。こういうときは、心の火災報知器が鳴っているかもしれません。報知器はうるさいですが、敵ではありません。「このまま燃やし続けると危ないですよ」と知らせてくれているのです。
スーザン・E・ジャクソンの研究からたどりつく学びは、とても現実的です。
働く人を守るには、「強い人になれ」だけでは足りません。仕事の量、役割、裁量、支援、評価、人間関係を整える必要があります。燃え尽きは、個人の心が弱いから起こるのではなく、職場のしくみと人のエネルギーが合わなくなったときに起こる警報でもあります。
だから、疲れたときは自分を責める前に、こう聞いてみるとよいです。
「私は何に燃料を使いすぎているのか」
「どこで役割があいまいになっているのか」
「誰に相談できるのか」
「減らす、分ける、明確にする、のどれが必要なのか」
仕事は人生の大事な一部です。でも、人生そのものを燃やし尽くす炉ではありません。ちゃんと火加減を見て、空気を入れ、燃料を足し、焦げそうなら鍋を一度火から下ろす。ジャクソンさんの研究は、働く人の心を守るために、その火加減を見る大切さを教えてくれるのだと思います。

スーザン・E・ジャクソン(Susan E. Jackson)の論文一覧
1.『「燃え尽き」はどう測れるのか:体験されたバーンアウトをとらえるための尺度研究』クリスティーナ・マスラック、スーザン・E・ジャクソン(1981)
Maslach, C., & Jackson, S. E. (1981). The measurement of experienced burnout. Journal of Organizational Behavior, 2(2), 99–113. DOI:10.1002/job.4030020205
「燃え尽きって、ただの疲れと何が違うの?」という素朴な疑問に、心理学界が白衣を着て本気で向き合った名論文です。マスラックとジャクソンは、仕事で心の電池が切れていく状態を、感覚ではなく“測れるもの”として整理しました。感情の消耗、人への冷たさ、達成感の低下。職場のため息に名前をつけた、バーンアウト研究の名探偵回です。

