スティーヴァン・E・ホブフォール(Stevan E. Hobfoll)の論文一覧:失うとつらい、でも取り戻せる。心の資源をめぐるストレス心理学
スティーヴァン・E・ホブフォール(Stevan E. Hobfoll)のプロフィール
スティーヴァン・E・ホブフォール(Stevan E. Hobfoll)は、ひとことで言うと、「ストレスって、気合いの問題じゃなくて、心の持ち物が減っていく問題なんじゃない?」と考えた心理学者です。ストレス研究の世界ではかなり有名な人物で、特に**「資源保存理論」**を提唱したことで知られています。これは、人が大切にしているもの、たとえば時間、体力、お金、人間関係、自信、安心できる居場所などが失われたり、失われそうになったりすると、ストレスが強くなるという考え方です。心の世界に、家計簿と防災バッグを持ち込んだような理論ですね。なかなか実用的です。
ホブフォールは、アメリカの心理学者・臨床心理士で、ケント州立大学で心理学の特別教授を務め、その後、ラッシュ大学医療センターでも行動科学・医学・予防医学・看護学などに関わる教授職を務めた人物です。研究だけでなく、実際のストレス治療や災害・戦争・テロ後の心理支援にも関わってきた、いわば「研究室の机だけでなく、現場の泥も知っているタイプ」の専門家です。
彼の代表的な考え方である資源保存理論では、人間は自分にとって大切な「資源」を守り、増やそうとする存在だと考えます。ここでいう資源とは、単にお金や物だけではありません。健康、睡眠、仕事、家族、友人、自己肯定感、社会的な立場、未来への希望なども含まれます。つまり、人生を動かすための“心の燃料”です。これが減ると、人は「まずい、タンクが空になってきたぞ」と感じ、ストレスが発生します。逆に、資源が増えたり守られたりすると、人は少しずつ回復しやすくなります。
おもしろいのは、ホブフォールがストレスを「本人の受け止め方だけ」で説明しようとしなかったところです。もちろん考え方も大事ですが、彼は「いやいや、実際にお金がない、仕事を失った、支えてくれる人がいない、戦争や災害で生活が壊れた、そういう現実のしんどさを見ないとダメでしょう」と考えました。つまり、ストレスを“心の中の嵐”だけでなく、“生活の屋根が飛ばされている状態”として見たわけです。このあたりが、彼の理論の強いところです。
また、ホブフォールは戦争、テロ、災害、大規模な危機のあとに、人や地域社会がどう回復していくのかにも深く関わりました。湾岸戦争の時期にはアメリカ心理学会のストレスと戦争に関する委員会に関わり、2009年のフォートフッド銃撃事件後には、アメリカ陸軍の回復支援にも関わったとされています。彼の考え方は、軍や災害支援の分野でも参照されてきました。心理学が白衣を着て静かに語るだけでなく、非常ベルの鳴る現場へ走っていく感じがあります。
著作や論文も非常に多く、ストレス、トラウマ、燃え尽き、社会的支援、職場ストレス、災害後の心理支援など、かなり広い範囲で研究を行っています。心理学系の紹介では、14冊の本の執筆・編集、300本以上の論文・章・報告書に関わったと紹介されています。まさに「ストレス研究界の大型書店」みたいな人です。棚を見ても棚を見ても、ストレス、資源、回復、またストレス。
ホブフォールのすごさは、ストレスを根性論にしなかったことだと思います。「がんばれ」「前向きに考えよう」だけでは、人は回復できないことがあります。なぜなら、寝る時間もない、相談できる人もいない、お金もない、安心できる場所もない状態では、心は前向きになる前にまず充電器を探しているからです。ホブフォールの理論は、そんな当たり前だけど見落とされがちなことを、心理学の言葉でしっかり説明しました。
つまり、スティーヴァン・E・ホブフォールは、「人は何を失うと苦しくなり、何を取り戻すと立ち上がれるのか」を研究した心理学者です。ストレスを「心が弱いから」ではなく、「大事な資源が削られているから」と見る。その視点は、働く人の燃え尽き、災害後の支援、家族や地域の支え、就労支援などにもつながる、とても人間味のある考え方です。心の財布が空っぽになった人に、「もっと笑顔で!」と言うのではなく、「まず何を補えば、また歩けるかな」と一緒に中身を点検する。ホブフォールの心理学は、そんな温度を持った研究だと言えます。
参考文献・確認先:Stevan E. Hobfoll 公式サイト / Psychology Today:Stevan E. Hobfoll プロフィール / Google Scholar:Stevan E. Hobfoll 論文・引用情報 / PubMed:Stevan E. Hobfoll 関連論文

スティーヴァン・E・ホブフォール(Stevan E. Hobfoll)の研究から学べること
スティーヴァン・E・ホブフォール(Stevan E. Hobfoll)の研究から学べることは、ひとことで言うと、「ストレスとは、心が弱いから起こるのではなく、大切なものを失いそうなとき、または実際に失ったときに起こる自然な反応である」ということです。
ホブフォールさんは、「資源保存理論」というストレス理論で知られています。むずかしい名前ですが、考え方はかなり生活に近いです。人は、自分にとって大切なものを守りたいし、増やしたい。時間、体力、お金、仕事、家族、安心できる居場所、自信、信頼、健康、社会的な支え。こういうものが、その人の「資源」です。ホブフォールさんは、人がストレスを感じるのは、こうした資源が失われそうなとき、実際に失われたとき、または頑張ったのに資源が増えなかったときだと考えました。
これ、ものすごくわかりやすいですよね。ストレスというと、つい「気にしすぎ」「メンタルが弱い」「もっと前向きに」と言われがちです。でもホブフォールさんの考え方では、ストレスはふわっとした気分ではありません。心の財布から、大事なものがどんどん出ていっている状態です。体力が減る。時間が減る。お金が減る。安心が減る。信頼が減る。自信が減る。そりゃつらいです。心の家計簿が真っ赤です。
たとえば、仕事が忙しいだけなら、まだ耐えられることがあります。でもそこに、「相談できる人がいない」「努力しても評価されない」「休む時間がない」「ミスしたら責められる」「自分の裁量がない」が重なると、資源が一気に減っていきます。これは、スマホで重たいアプリを何個も開いたまま、充電器なしで一日過ごすようなものです。そろそろバッテリーが悲鳴を上げます。画面に「残り3%」と出ているのに、「気合いで光れ」と言われても困ります。
ホブフォールさんの研究で大切なのは、「資源の損失は、資源の獲得よりも強く人に響きやすい」という見方です。つまり、人は何かを得ることもうれしいけれど、それ以上に、大切なものを失うことに強く反応しやすいのです。100円もらうより、100円失うほうが痛い。信頼を少し得るより、信頼を失うほうがずしんとくる。心の会計係は、損失にかなり敏感です。関連する解説でも、資源の損失は資源の獲得より大きな影響を持つという原理が紹介されています。
これは日常でもよくあります。たとえば、上司から一回ほめられても、同じ日に強く注意されると、頭の中では注意のほうが大音量で再生されます。「よかった点」より「ダメだった点」ばかり思い出す。まるで心の音響係が、嫌な記憶だけスピーカーを最大にしている感じです。困ったものです。そこにイヤホンを差し替えたい。
さらにホブフォールさんの理論では、資源が少ない人ほど、さらに資源を失いやすいという悪循環も重視されます。これが怖いところです。体力が少ないから休みたい。でも休めないからさらに体力が減る。お金が少ないから余裕がない。余裕がないから判断が雑になり、さらに損をする。相談相手が少ないから孤立する。孤立するから、さらに助けを求めにくくなる。資源の少なさが、次の損失を呼ぶのです。雪だるま式ならぬ、ストレスだるま式です。ぜんぜん可愛くありません。
一方で、資源が増えると、よい循環も起こりやすくなります。少し休めたから、考える余裕が出る。相談できたから、次の行動が決まる。小さな成功があったから、自信が少し戻る。安心できる人がいるから、挑戦しやすくなる。資源が資源を呼ぶわけです。ホブフォールさんの資源保存理論は、職場ストレス、燃え尽き、外傷体験など幅広い分野で使われてきた重要な考え方です。組織心理学の文脈でも、資源保存理論は長く引用され、仕事の要求と資源の研究にも大きな影響を与えています。
ここから学べることは、とても実用的です。
まず、しんどいときは「自分の資源が何に削られているのか」を見てみることです。単に「疲れた」で終わらせず、何が減っているのかを分けてみます。睡眠か、時間か、安心感か、自信か、お金か、人とのつながりか、体力か、自由に決められる感覚か。これが見えると、対策も見えやすくなります。
たとえば、体力が減っているなら休息が必要です。時間が減っているなら、やることを減らすか、優先順位を変える必要があります。自信が減っているなら、小さく達成できる課題を作ることが助けになります。人とのつながりが減っているなら、短い相談や雑談でもいいから、関係の糸をつなぎ直すことが大切です。ストレス対策は、気合いの追加ではなく、資源の補充なのです。
これは、職場でもかなり使えます。部下や同僚が疲れているとき、「もっと頑張って」だけでは資源は増えません。むしろ減ります。必要なのは、「何が足りなくなっているのか」を見ることです。時間がないのか。人手が足りないのか。情報が不足しているのか。裁量がないのか。感謝や承認が足りないのか。相談できる関係がないのか。そこを見ずに「やる気を出して」は、空の財布に向かって「もっと買い物しろ」と言うようなものです。無茶です。
支援の現場でも同じです。しんどい人に必要なのは、説教ではなく資源です。安心できる場所、話を聞いてくれる人、生活リズム、少しのお金、見通し、役割、できた経験、休む時間。こうしたものが少しずつ戻ってくると、人は立て直しやすくなります。人は、心だけで立ち上がるのではありません。足元に踏み台が必要なのです。
ホブフォールさんの研究がやさしいのは、「人は失うことに弱い」と認めてくれるところです。大切なものを失ったとき、平気でいられないのは当然です。仕事を失う。健康を失う。信頼を失う。居場所を失う。時間を失う。希望を失う。そういうときに心が揺れるのは、あなたが弱いからではありません。大切な資源が傷ついているからです。心はちゃんと反応しているのです。
だから、ストレスを感じたときは、こう考えてみるとよいと思います。
「私は何を失いそうで怖いのか」
「実際に何が減っているのか」
「これ以上減らさないために、何を守る必要があるのか」
「少しでも増やせる資源は何か」
この問いは、心の家計簿をつけるようなものです。赤字が見えれば、どこを守るか考えられます。もちろん、すぐに黒字にはならないかもしれません。でも、「何が足りないかわからない」状態よりは、ずっと動きやすくなります。
日常でできる小さな資源づくりもあります。睡眠時間を30分守る。朝に予定を一つ減らす。信頼できる人に短く相談する。机の上を少し整える。今日できたことを一つだけ書く。嫌な予定のあとに休憩を入れる。スマホを見すぎて削られる時間を少し取り戻す。どれも派手ではありません。でも、心の貯金箱に小銭を戻すような働きがあります。
スティーヴァン・E・ホブフォールの研究からたどりつく学びは、とても現実的です。
人は、大切なものを守りながら生きています。体力、時間、安心、人間関係、自信、役割、希望。これらが減ると、人はストレスを感じます。だからストレス対策とは、「もっと強くなること」だけではありません。大切な資源を守り、失った資源を少しずつ回復し、新しい資源を育てることです。
心がしんどいとき、自分にムチを打つ前に、まず心の倉庫を見てみましょう。食料は残っているか。灯りはあるか。誰かに連絡できる道はあるか。休む毛布はあるか。もし足りないものがあるなら、それを足すことが必要です。
ストレスは、根性不足のお知らせではありません。
「大切なものが減っていますよ」という、心からの在庫アラートです。
そのアラートを無視せず、少しずつ資源を守ること。ホブフォールさんの研究は、私たちにその大切さを教えてくれるのだと思います。

スティーヴァン・E・ホブフォール(Stevan E. Hobfoll)の論文一覧
1.『ストレスとは「大切なものを失いそうになること」だった:資源保存理論から見たストレスの新しい考え方』スティーヴァン・E・ホブフォール(1989)
Hobfoll, S. E. (1989). Conservation of resources: A new attempt at conceptualizing stress. American Psychologist, 44(3), 513–524. DOI:10.1037/0003-066X.44.3.513
ストレスって、「気の持ちよう」で片づけられがちですよね。でもホブフォール先生は言います。「いやいや、人は大事なものを失いそうになるから苦しいんです」と。時間、お金、健康、人間関係、自信、安心感。これらは全部“心の資源”。この論文は、ストレスを心の根性論ではなく、資源の出入りで見るという画期的な提案です。まるで心の家計簿を開いて、「あれ、最近ずっと赤字じゃない?」と気づかせてくれる一篇。読むと、疲れの正体が少し見えてきます。

