サキ・F・サントレリ(Saki F. Santorelli)の論文一覧:心の嵐にお茶を出す、マインドフルネス臨床研究さんぽ
サキ・F・サントレリ(Saki F. Santorelli)のプロフィール
サキ・F・サントレリさんは、ざっくり言うと、「医療の現場に“深呼吸の椅子”を運び込んだ人」です。病院という場所は、どうしても検査、診断、治療、薬、数値……と、心が白衣のポケットにぎゅっと押し込まれがちです。そこにサントレリさんは、「ちょっと待って。人間は体だけじゃなく、心も一緒に病院へ来ているんですよ」と、静かなランプを灯したような存在です。
サントレリさんは、アメリカのマサチューセッツ大学医学部で、医学・医療・社会におけるマインドフルネスセンターの中心人物として活動しました。もともとジョン・カバットジンが始めたマインドフルネスストレス低減法、つまり「今ここに注意を向けながら、ストレスや痛み、不安とつき合っていく方法」の発展に深く関わった人です。1981年には、そのストレス低減クリニックで最初の実習生として関わり始め、のちに副責任者、さらに責任者、センターの代表へと歩んでいきました。まるで、瞑想の道場で雑巾がけから始めた人が、いつの間にか「心の体育館の館長」になっていたような感じですね。
特に有名なのは、マインドフルネスストレス低減法を医療現場に広げたことです。これは、怪しい魔法でも、根性論でもありません。「不安さん、こんにちは」「痛みさん、また来ましたね」と、自分の内側で起こっていることを無理に追い払わず、少し距離をとって見つめる練習です。サントレリさんは、この考え方を患者さんだけでなく、医師や看護師、支援者、教育者にも伝えてきました。つまり、心の火災報知器が鳴りっぱなしの現代社会に、「いったん煙の正体を見てみましょう」と言ってくれる人です。
また、サントレリさんは教育者、瞑想指導者、作家としても知られています。代表的な著作には、自分自身を癒やすことをテーマにした本があります。タイトルを日本語っぽく言うなら、「自分を癒やすということ」くらいの雰囲気です。ここでの“癒やす”は、ふわふわした気休めというより、「自分の苦しみから逃げるのではなく、そっと向き合う力を育てる」という意味合いが強いです。心の中に散らかった書類を、怒鳴らず、責めず、一枚ずつ机に並べていくような仕事ですね。
2017年には、マサチューセッツ大学医学部での教授職やセンター代表、ストレス低減クリニック責任者の役職を退いたとされています。ただし、退いたからといって「はい、瞑想終了。鐘を鳴らして解散です」という人ではなく、その後も講座や研修、対話の場などを通じて、マインドフルネスを伝える活動を続けている人物として紹介されています。
サントレリさんの研究や活動の面白さは、マインドフルネスを「静かに座る趣味」に閉じ込めなかったところにあります。病気、不安、痛み、ストレス、仕事の疲れ、人間関係のざわざわ。そういう生活の生々しい場所に、マインドフルネスを持ち込んだのです。言ってみれば、心の高級旅館ではなく、日々の台所や職場の休憩室に“気づき”を置いた人。だからサントレリさんのプロフィールを一言でまとめるなら、「人間のしんどさに、静けさという小さな道具箱を届けてきたマインドフルネス医療の案内人」と言えるでしょう。
参考文献・確認先:

サキ・F・サントレリ(Saki F. Santorelli)の研究から学べること
サキ・F・サントレリ(Saki F. Santorelli)の研究から学べることは、ひとことで言うと、「心を整えるとは、無理に元気になることではなく、今の自分に静かに気づき、そこから少しずつ回復していくこと」だと思います。
サントレリさんは、マインドフルネスを医療や健康支援の現場に広げてきた人物のひとりです。マサチューセッツ大学医学部の「マインドフルネスセンター」で長く活動し、ストレス低減クリニックや専門家養成にも関わってきました。特に、ジョン・カバットジンさんたちとともに、不安障害のある人への瞑想を中心としたストレス低減プログラムの研究にも参加しています。この研究では、不安やパニック症状を持つ人に集団プログラムを行い、不安やパニック症状の改善が報告されました。
ここで大事なのは、「瞑想をしたら、心の中に白い鳩が飛んで、すべて解決!」という話ではないことです。そんな都合のよい心の掃除機があれば、みんな毎朝5分で悟りのタンスを開けています。現実の心はもっと生活感があります。昨日の疲れ、明日の不安、言われた一言、やり残した仕事、冷蔵庫のプリンを誰が食べたか問題。いろいろなものが、心の部屋に散らかっています。
サントレリさんの研究と実践から学べるのは、その散らかった部屋をいきなり完璧に片づけようとしなくていい、ということです。まずは「あ、散らかっているな」と気づく。怒りがある。不安がある。疲れがある。胸がぎゅっとしている。肩に力が入っている。呼吸が浅い。そうやって、今の自分の状態を見つめるところから始まります。
これが、マインドフルネスの大切なところです。日本語でやわらかく言うなら、「今ここに気づく練習」です。過去の失敗会議に出席し続けるのでもなく、未来の不安映画を何本も上映するのでもなく、いったん今の呼吸、今の身体、今の気持ちに戻る。心の迷子センターで、「はい、現在はこちらですよ」と案内してもらう感じです。
不安が強いとき、人の心はすぐ未来へ走ります。
「またうまくいかなかったらどうしよう」
「変に思われたらどうしよう」
「このまま悪くなったらどうしよう」
脳内の脚本家が、未来の災害映画をせっせと書き始めます。しかもなぜか毎回、主演は自分、ジャンルは絶望、上映時間は長めです。そこでマインドフルネスは、「その映画、いま本当に上映する必要がありますか?」と、そっと照明をつけてくれます。
もちろん、不安を無理に消すわけではありません。不安に向かって「消えろ!」と叫ぶと、不安はだいたい居座ります。まるで、帰ってほしいお客さんに「帰って!」と言えば言うほど、お茶をおかわりするようなものです。だから、消そうとするより、「不安があるな」と気づく。そして呼吸に戻る。身体に戻る。今できる一歩に戻る。
サントレリさんが大切にしてきたマインドフルネスの世界は、心を力ずくで押さえ込むものではありません。むしろ、心の中で暴れている感情に対して、「まあまあ、そこにいるんですね」と場所を与えるようなものです。感情を追い出すのではなく、感情に飲み込まれすぎない。これがなかなか大人の技です。
たとえば、職場で嫌なことを言われたとします。ふつうなら、心の中で再放送が始まります。
「あの言い方、なんだったの?」
「自分が悪かったのかな」
「いや、でも相手もひどいよね」
「次に会ったらどうしよう」
もう頭の中は、昼ドラの特番です。ここで「考えないようにしよう」とすると、逆に考えてしまいます。白いクマを考えないでくださいと言われたら、白いクマが堂々と入場してくるのと同じです。しかも、なぜかマフラーまで巻いています。
そこで、「今、自分はあの言葉を思い出して、胸が苦しくなっているんだな」と気づく。呼吸が浅くなっていることに気づく。足の裏が床についていることに気づく。そうすると、出来事そのものは消えなくても、自分と出来事のあいだに少しすき間ができます。このすき間が大切です。すき間がないと、感情に全身を持っていかれます。すき間があると、「では、どう対応しようか」と考える余地が生まれます。
サントレリさんは、マインドフルネスを単なるリラックス法としてではなく、医療・健康・社会の中で人が自分自身と向き合う方法として広げてきた人物です。1983年にはカバットジンさんのストレス低減クリニックで最初の実習生となり、のちにストレス低減クリニックの責任者やマインドフルネスセンターの代表を務めました。
ここから学べるのは、「支援する人自身も、自分の内側に気づく必要がある」ということです。医療、福祉、教育、相談支援、職場のマネジメント。人を支える仕事をしていると、つい相手のことばかり見ます。相手の困りごと、相手の状態、相手の課題。もちろん大切です。でも、自分の心がへとへとになっているのに気づかないまま支援を続けると、いつか内側の台所から焦げたにおいがしてきます。
人を支える人にも、呼吸があります。疲れます。腹も立ちます。悲しくもなります。完璧な菩薩ロボットではありません。だからこそ、まず自分の状態に気づくことが大切です。「今、自分は焦っているな」「この相談を聞いて、胸が重くなっているな」「相手を助けたい気持ちが強すぎて、自分が前のめりになっているな」。そう気づけると、支援の質も変わります。
マインドフルネスは、心をきれいな展示品にするためのものではありません。むしろ、泥がついた心をそのまま見つめる練習です。「汚れているからダメ」ではなく、「ここに泥がついているね」と見る。そこから洗うのか、乾かすのか、少し休むのかを選べるようになります。
日常で活かすなら、難しいことをしなくても大丈夫です。いきなり一時間座る必要はありません。朝、椅子に座って三回だけ呼吸に気づく。仕事の前に、足の裏の感覚を感じる。イラッとしたときに、「怒りが来ている」と心の中で名前をつける。夜、布団に入ったら、今日一日働いた身体に「おつかれさま」と声をかける。それだけでも、心の流れは少し変わります。
ポイントは、うまくやろうとしすぎないことです。マインドフルネスを始めると、多くの人が「雑念ばかり出てきて、自分には向いていません」と言います。でも雑念が出るのは、失敗ではありません。心が動いている証拠です。空に雲が出るようなものです。雲が出たから空が失格、とは言いませんよね。心も同じです。考えが出たら、「考えが出たな」と気づいて、また戻る。それを何度もくり返すだけです。
サキ・F・サントレリの研究と実践からたどりつく学びは、とても静かで、でも力強いものです。
人は、不安をゼロにしなくても生きていける。
痛みやストレスを完全に消せなくても、それとの関わり方を変えることはできる。
自分を責める代わりに、自分に気づくことから回復は始まる。
心がざわざわするとき、私たちはすぐに答えを探します。「どうすれば消える?」「どうすれば楽になる?」「どうすれば元通りになる?」と。でも、ときには答えの前に、ただ今の自分に気づくことが必要です。心の前に椅子を置いて、「まあ、少し話を聞かせてください」と座るようなものです。
サントレリさんの研究は、私たちにこう教えてくれます。心を整えるとは、心を支配することではない。心と敵対することでもない。心の声に耳をすませ、身体に戻り、今この瞬間にそっと根を下ろすことなのだと。
人生はいつも静かな湖ではありません。風も吹きます。波も立ちます。ときには、心の水面にアヒルの大群が着水するような日もあります。でも、波が立っていることに気づけたら、そこから少しずつ戻れます。
呼吸に戻る。
身体に戻る。
今ここに戻る。
その小さな帰り道を何度も歩くことが、心の回復力を育てていくのだと思います。

サキ・F・サントレリ(Saki F. Santorelli)の論文一覧
1.『不安障害の治療における、瞑想にもとづくストレス低減プログラムの効果』ジョン・カバットジン、アン・O・マシオン、ジーン・クリステラー、リンダ・ゲイ・ピーターソン、ケネス・E・フレッチャー、ロリ・プバート、ウィリアム・R・レンダーキング、サキ・F・サントレリ(1992)
Kabat-Zinn, J., Massion, A. O., Kristeller, J., Peterson, L. G., Fletcher, K. E., Pbert, L., Lenderking, W. R., & Santorelli, S. F. (1992). Effectiveness of a meditation-based stress reduction program in the treatment of anxiety disorders. American Journal of Psychiatry, 149(7), 936–943. DOI:10.1176/ajp.149.7.936
この論文、ざっくり言うと「不安で頭の中が非常ベル状態の人に、瞑想という“心の消音ボタン”は効くのか?」を調べた研究です。対象は不安障害やパニック障害のある22人。みんなで瞑想ベースのストレス低減プログラムに取り組んだところ、不安やパニックの症状がやわらぎ、その効果も続きやすいことが示されました。つまり、心に向かって「落ち着け!」と怒鳴るのではなく、「まあ座ろうか」と隣に腰かける作戦。マインドフルネス研究の入口として、かなり読みたくなる一本です。

