ロビン・マーメルスタイン(Robin Mermelstein)の論文一覧:ストレスのメーターをのぞきこみ、心の煙と体のサインを読み解く心理学さんぽ
ロビン・マーメルスタイン(Robin Mermelstein)のプロフィール
ロビン・マーメルスタイン(Robin Mermelstein)は、アメリカの心理学者・健康行動研究者です。ざっくり言うと、「人はなぜたばこを吸い始め、なぜやめにくくなり、どんな心の状態や人間関係がそこに関わっているのか」を、じっくり追いかけてきた研究者です。
現在は、イリノイ大学シカゴ校で心理学の特別教授として活動し、同大学の健康研究・政策研究所の所長も務めています。また、公衆衛生や医学系の研究にも関わっており、心理学の部屋だけに閉じこもらず、健康、社会、政策の世界まで足を伸ばしているタイプの研究者です。いわば、白衣と心理学のノートを持って、たばこの煙の向こうにある「人間の行動のクセ」を見に行く人、という感じですね。
研究の中心は、たばこ使用、とくに若者の喫煙行動です。若い人がどのような流れでたばこを吸い始めるのか、ストレスや不安、気分、人間関係がどう影響するのか、そして大人になってから禁煙を進めるにはどんな支援が役立つのか。そうしたテーマを長年研究してきました。たばこを単なる「意志が弱いか強いか」の話にせず、心の天気、人間関係の風向き、生活環境の地形まで見ながら考えるところが、この人の研究の面白いところです。
マーメルスタインは、ストレス研究でも名前が知られています。特に、シェルドン・コーエン、トム・カマークとともに発表した「知覚されたストレスを測る尺度」の論文は有名です。これは、血圧計で血圧を見るように、「最近、自分はどれくらいストレスを感じているのか」を質問紙で測ろうとした研究です。心の中にある見えないモヤモヤを、そっと温度計に近づけるような研究と言えるでしょう。
また、ニコチン・たばこ研究の学会でも重要な役割を担ってきました。ニコチンとたばこ研究学会の会長を務めた経験があり、アメリカ国立衛生研究所の研究審査にも関わっています。さらに、たばこ製品を購入できる年齢を引き上げることの公衆衛生上の影響を検討した委員会にも参加しており、研究室の中だけでなく、社会のルールづくりにも関わる研究者です。
2014年には、イリノイ大学シカゴ校から「ウーマン・オブ・ザ・イヤー」に選ばれています。これは、女性の健康や専門職としての成長への貢献が評価されたものです。研究者として論文を書く人でありながら、次の世代や社会全体への橋もかけている人、という印象があります。
ひとことで言うなら、ロビン・マーメルスタインは、「たばこの煙の奥にある、ストレス・感情・人間関係のからくりを読み解く心理学者」です。たばこを吸う、やめたいのにやめられない、ストレスでつい手が伸びる。そうした人間くさい行動を、「根性が足りない」で片づけず、心と社会の両方から見つめてきた研究者です。研究テーマは少し硬そうに見えますが、中身はかなり身近です。たばこの話を入り口にして、私たちの「しんどいときの行動」「気分に引っぱられる習慣」「人との関わり方」まで見えてくる。まさに、心と健康の交差点で交通整理をしているような研究者ですね。
参考文献・確認先:

ロビン・マーメルスタイン(Robin Mermelstein)の研究から学べること
ロビン・マーメルスタインさんの研究をひとことで言うなら、「たばこを吸う・やめるという行動は、根性だけの話ではなく、気分、友人関係、家族、習慣、体の依存がからみ合った“生活のからくり”なんですよ」という研究です。
たばこについては、世の中でよく「吸わなきゃいいじゃん」「やめればいいじゃん」と言われます。言うだけなら、びっくりするほど簡単です。まるで「富士山?歩けば着くでしょ」くらいの軽さです。でも実際には、やめたいと思ってもやめにくい。吸い始めたころは「たまにだけ」のつもりでも、いつの間にか習慣になっている。そこには、体だけでなく、心と環境が細い糸でぐるぐる巻きついています。
マーメルスタインさんは、イリノイ大学シカゴ校の心理学教授で、健康行動やたばこ使用、とくに若者の喫煙や禁煙支援を長く研究してきた研究者です。大学の紹介では、若者の喫煙に関わる要因や、大人の喫煙量を減らすこと、禁煙支援、若者や若い成人への介入などが研究テーマとして説明されています。
ここから学べる一つ目のことは、「たばこを吸う人を、意志が弱い人と決めつけない」ということです。
もちろん、健康のためには吸わないほうがよいです。これは大前提です。たばこは体に悪い影響を与えますし、依存も起こします。でも、だからといって、吸っている人に「意志が弱い」「だらしない」とラベルを貼ってしまうと、問題の本体が見えなくなります。たばこは、単なる好みではなく、気分を落ち着かせる道具になっていたり、友人関係の中で始まったり、ストレスの逃げ場になっていたりします。
つまり、たばこは「一本の紙巻き」ではありますが、その背後には、気分、緊張、孤独、友だち、家族、学校、職場、広告、習慣がぞろぞろ並んでいます。まるで小さな煙の後ろに、行列のできる心理食堂があるようなものです。だから、ただ「やめなさい」と言うだけでは、相手の生活の中にある理由まで届きにくいのです。
二つ目に学べるのは、「若いころの“ちょっとだけ”を甘く見ない」ということです。
若者の喫煙では、「毎日吸っているわけじゃないから大丈夫」「友だちといるときだけだから平気」と思われがちです。でも、マーメルスタインさんが関わった研究では、思春期の早い段階で出てくるニコチン依存の症状が、その後の喫煙行動と関係することが示されています。たとえば、まだ毎日吸っていない若者でも、依存のサインがあると、将来の毎日喫煙につながる可能性が調べられています。
これは、かなり大事な視点です。依存というと、ものすごく大量に吸っている人だけの話に見えます。でも実際には、初期の小さなサインがある。たとえば、「吸えないと落ち着かない」「気分を変えるために吸いたくなる」「なんとなく吸う場面が決まってきた」。こういう小さな芽を見逃さないことが大切です。
雑草も、芽のうちなら抜きやすい。でも根が深くなると、なかなか手ごわいですよね。たばこの習慣もそれに近いところがあります。早い段階で気づければ、本人を責めずに、支援しやすくなるのです。
三つ目に学べるのは、「たばこは気分と結びつきやすい」ということです。
マーメルスタインさんの関連研究では、若者が「たばこを吸うと嫌な気分がやわらぐ」と期待することが、喫煙やニコチン依存と関係するかが調べられています。
これは、日常感覚としてもわかりやすい話です。イライラしたとき、落ち込んだとき、不安なとき、何かに頼りたくなる。ある人は甘いものに手が伸びる。ある人はスマホを見続ける。ある人は買い物をする。ある人はたばこを吸う。人間は、心がざわざわすると、何かしらの「小さな避難所」を探します。
ただ、問題は、その避難所が長い目で見ると体を傷つけたり、依存を強めたりする場合です。雨宿りのつもりで入った小屋が、いつの間にか出口の少ない迷路になっている。たばこには、そういう怖さがあります。だから禁煙支援では、「吸うな」と言うだけでなく、「吸いたくなる気分をどう扱うか」を一緒に考える必要があります。
四つ目に学べるのは、「人は環境にかなり影響される」ということです。
たばこを吸うかどうかは、本人の性格だけでは決まりません。親が吸っているか、友人が吸っているか、周囲でたばこがどれくらい身近か、学校や地域にどんな雰囲気があるか。こうした環境が関係します。マーメルスタインさんが関わった研究では、若者の喫煙リスクについて、親の喫煙やニコチン依存の役割が検討されています。
これは、「環境の力って、けっこう強いんですよ」という話です。人間は、自分で選んでいるようで、周りの空気にかなり左右されます。まわりがみんなラーメンを食べていたら、急にラーメンの口になる。職場でお菓子が置いてあったら、なぜか手が伸びる。たばこも同じで、周囲にあると、始めるきっかけや続ける理由になりやすいのです。
だから、若者の喫煙を防ぐには、本人に説教するだけでは不十分です。家庭、学校、友人関係、地域、広告、販売の仕組みまで含めて考える必要があります。人間の行動は、個人の中だけで完結していません。空気を吸って生きている以上、空気の影響を受けるのです。たばこの煙だけでなく、社会の空気も侮れません。
五つ目に学べるのは、「禁煙支援は、その人に合った形でないと続きにくい」ということです。
マーメルスタインさんの研究は、若者、若い成人、禁煙にあまり乗り気でない成人、特別な事情を持つ人たちなど、さまざまな人に向けた禁煙支援の開発や評価にも関わっています。研究紹介では、思春期・若年成人・成人喫煙者への禁煙支援や、効率的な研究方法を使った介入の検討が挙げられています。
ここで大事なのは、「同じ方法を全員に配ればよい」という話ではないことです。たばこを吸う理由は、人によって違います。ストレス対策として吸う人もいれば、友人関係の中で吸う人もいる。気分転換の儀式になっている人もいる。朝の一服が生活の句読点になっている人もいる。句読点が全部たばこだと、文章全体が煙たくなりますが、本人にとっては生活のリズムになっていることもあるわけです。
だから支援では、「あなたはなぜ吸いたくなるのか」「どの場面が危ないのか」「何が代わりになるのか」「誰が助けになりそうか」を一緒に探る必要があります。禁煙は、単なる我慢大会ではありません。生活の設計替えです。部屋の模様替えと似ています。大きな家具を動かすには、通り道を考えないと足の小指をぶつけます。
六つ目に学べるのは、「責める支援より、観察する支援のほうが役に立つ」ということです。
たばこの問題になると、つい正論が強くなります。「体に悪い」「やめたほうがいい」「周りにも迷惑」。どれも間違いではありません。でも正論だけを真正面からぶつけると、相手は防御態勢に入ります。心のシャッターがガラガラガラと下ります。
そこで大事なのは、まず観察することです。いつ吸いたくなるのか。誰といると吸いやすいのか。どんな気分のときに吸うのか。吸ったあとに何が起きるのか。吸わなかった日は、何が助けになったのか。こうやって見ていくと、たばこは「悪い習慣」という一言ではなく、「生活の中のパターン」として見えてきます。
パターンが見えれば、作戦が立てられます。イライラしたら深呼吸。食後すぐに席を立つ。たばこを吸う友人と会う時間を少し変える。代わりの飲み物を用意する。吸いたい波が来たら数分だけ待つ。こうした小さな作戦が、依存という大きなぬかるみに板を渡してくれます。
ロビン・マーメルスタインさんの研究からいちばん学べることは、「健康行動は、本人の意志だけではなく、気分と環境と人間関係の中で起きている」ということです。
これは、たばこに限らず、食事、運動、睡眠、スマホ、飲酒などにも通じます。人は、正しいとわかっていることを、いつも正しくできるわけではありません。疲れている日もある。さみしい日もある。友だちに流される日もある。ストレスで判断力が目減りする日もある。人間は、説明書どおりには動かない、ちょっと面倒で愛すべき生き物なのです。
だからこそ、健康を支えるには、叱るより、仕組みを整えることが大切です。本人が悪いと決めつける前に、吸いたくなる場面を減らす。相談しやすくする。代わりの行動を用意する。早い段階のサインに気づく。若者には、友人関係や気分の扱い方も含めて支える。
マーメルスタインさんの研究は、こう語りかけているようです。
「たばこを吸う人を責めるだけでは、煙は晴れません。なぜ吸いたくなるのか、その背景を見ましょう」
人の行動には、理由があります。よくない行動にも、本人なりの役割があることがあります。そこを見ずに取り上げるだけでは、別の困りごとが顔を出すかもしれません。だから、健康支援は、禁止の看板を立てるだけではなく、別の道を照らすことが必要なのです。
たばこは、体に悪い。これは大切な事実です。でも、吸っている人を悪者にしてしまうと、支援の入口が閉じてしまいます。マーメルスタインさんの研究から学べるのは、「人を責めずに、行動のしくみを見る」というまなざしです。
煙の向こうには、その人のストレス、習慣、つながり、さみしさ、安心したい気持ちがあるかもしれません。そこまで見て初めて、「では、どう支えようか」という話が始まります。禁煙とは、ただたばこを手放すことではありません。たばこが担っていた役割を、もっと健康的な方法に引っ越しさせることなのです。心の引っ越し作業、なかなか大変ですが、荷ほどきまで一緒に考える支援があると、人は少しずつ変わっていけるのだと思います。

ロビン・マーメルスタイン(Robin Mermelstein)の論文一覧
1.『心がどれだけ“ストレスを感じているか”を測る、知覚ストレスの総合尺度』シェルドン・コーエン、トム・カマーク、ロビン・マーメルスタイン(1983)
Cohen, S., Kamarck, T., & Mermelstein, R. (1983). A global measure of perceived stress. Journal of Health and Social Behavior, 24(4), 385–396. DOI:10.2307/2136404
ストレスって、体重計みたいに「はい、今日は何キロです」と測れたら便利ですよね。でも心のモヤモヤは、ポケットに入れた雲みたいに形がありません。この論文は、そんな見えないストレスを「最近、物事をコントロールできないと感じた?」「予想外のことで困った?」という質問で測ろうとした名作です。いわば、心の天気予報アプリの原型。自分では「まあ大丈夫」と思っていても、質問に答えるうちに「あれ、けっこう心の鍋がグツグツしてるぞ?」と気づけるかもしれません。ストレス研究の入口にぴったりの一本です。

