ロビン・ハンティントン(Robin Huntington)の論文一覧:「会社って、私のことちゃんと見てます?」という社員の小声を研究室まで持ち帰った心理学者
ロビン・ハンティントン(Robin Huntington)のプロフィール
ロビン・ハンティントン(Robin Huntington)は、社会心理学を背景に、**「人と組織の関係って、数字でどこまで見えるんだろう?」**という世界に足を踏み入れた研究者です。
名前を聞いて、「ああ、あのハンティントン先生ね」と即答できる人は、かなりの組織心理学通でしょう。たぶん普通の本屋さんではなかなか遭遇しません。しかし、彼女が共同研究者として名前を連ねた1986年の論文は、その後の職場心理学にかなり大きな足跡を残しました。
その論文が、ロバート・アイゼンバーガーらと発表した**「知覚された組織的支援」**についての研究です。1986年当時、ハンティントンはデラウェア大学に所属していました。
テーマをものすごく簡単に言えば、
「社員は、会社から大切にされていると感じるのか?」
という話です。
これ、一見すると会社の飲み会で出てきそうな話ですよね。
「うちの会社さあ、社員のこと本当に大事にしてるのかな」
「どうだろう。誕生日に社長から定型文のメールは来たけど」
「それ、大切にされている判定に入ります?」
みたいな。
ところが心理学者たちは、ここで雑談を終わらせません。
「では、その“大切にされている感じ”を測ってみましょう」
と、急に質問紙を持ってきます。
心理学者、おそるべしです。
「会社への愛」だけでなく「会社からの愛」も見てみよう
当時、組織の研究では「社員が会社にどれくらい愛着を持っているか」という方向に目が向けられることが多くありました。
でも、ちょっと考えてみれば不思議です。
会社側から、
「君は会社を大切にしているのかね?」
と聞かれるばかりでは、社員としては、
「いやいや、そちらは私を大切にしているんですか」
と言いたくなります。
そこでアイゼンバーガー、ハンティントン、スティーブン・ハッチソン、デボラ・ソワらは、社員が**「組織は自分の貢献を評価し、自分の幸せを気にかけてくれている」**と感じる程度に注目しました。研究では、こうした感覚が欠勤などの行動とも関係することが示されました。
つまり、
「会社を好きになってください」
と社員にお願いする前に、
「社員から見て、その会社は好きになれそうな振る舞いをしていますか?」
という視点を持ち込んだわけです。
これ、地味に見えてかなり大きな発想の転換です。
人間関係でもそうですよね。
「もっと私を大切にしてよ」と言うだけではなく、
「ところで私は、あなたが“大切にされている”と感じられる接し方をしているだろうか」
と考えてみる。
職場の研究なのですが、なんだか夫婦関係や友人関係にも刺さってきます。心理学というものは、ときどき職場のドアから入ってきて、そのまま居間まで上がり込んできます。
研究室だけではなく「現場の数字」へ
公開されている経歴情報によると、ロビン・ハンティントン・ショアーズは社会心理学の博士号を持ち、その後は大学などの機関調査の仕事へ進んでいます。機関調査とは、大学の学生データや教育成果などを分析し、「この大学はいまどうなっているのか」「どこを改善すべきなのか」を考える仕事です。
本人の紹介によれば、最初は市場調査の仕事に就いたものの、そこから大学組織そのものを調べる仕事に深く関わるようになり、さまざまな教育機関で経験を積んできました。1999年以降は私立のリベラルアーツ大学で仕事を続けてきたとしています。
ここが、なかなか面白いところです。
大学院で社会心理学を学んだからといって、人生の最後まで研究室で白衣を着ている必要はありません。そもそも心理学者は、そんなに白衣を着ません。
ハンティントンの歩みはむしろ、
「人について研究していたら、いつの間にか組織そのものをデータで診察する仕事になっていた」
という感じです。
現在、スワースモア大学の公式ページでは、ロビン・ハンティントン・ショアーズは組織の有効性を担当する副学長補佐級の役職にあり、研究やデータ分析を大学の計画、意思決定、教育改善などにつなげる仕事を担っています。学生の学びがどれくらい成果につながっているかを評価したり、大学全体のデータ活用を支えたりする立場です。
つまり、
「データを集めました。グラフができました。きれいですね。以上」
では終わらない。
「で、この数字を大学を良くするためにどう使うの?」
というところまで持っていく人です。
これは、1986年の研究ともどこか通じています。
人の気持ちは目には見えません。でも、見えないからといって「まあ、なんとなく」で済ませてしまえば、組織はいつまでたっても変わりません。
だから測る。
調べる。
数字にする。
そして、その数字の向こう側にいる人を見る。
そんな姿勢が感じられます。
有名人ではなくても、研究はずっと働き続ける
ロビン・ハンティントンについて面白いのは、一般向けの心理学書を何冊も出しているタイプの研究者ではないことです。
ところが、1986年の「知覚された組織的支援」の論文は、その後も組織心理学の研究で非常に重要な出発点として引用され続けています。後の研究では、この考え方をもとに、上司からの支援、公平な扱い、職場環境、組織への愛着、離職など、さまざまなテーマが調べられてきました。
研究の世界には、こういう人がいます。
表紙に顔が大きく載るわけではない。
書店に行っても平積みされていない。
テレビで「職場心理学の専門家です」と登場することも、たぶんほとんどない。
でも、その人が昔、研究仲間と一緒に置いた一個の問いが、何十年もあとまで研究者たちに使われ続けている。
「社員は、会社から大切にされていると感じているだろうか」
この問いは、1986年で賞味期限が切れませんでした。
むしろ働き方が多様になり、転職が珍しくなくなり、職場の人間関係や心理的な働きやすさが注目される現在だからこそ、ますます重みを増しているようにも感じます。
会社というものは建物でも、ロゴでも、就業規則でもありません。
そこで働く人にとっての会社は、
「困ったときに助けてもらえた」
「頑張ったときに見てもらえた」
「失敗したときに人間として扱ってもらえた」
そんな小さな出来事の積み重ねによって形づくられていきます。
ロビン・ハンティントンが共同研究者として関わった研究は、そのぼんやりした感覚に、
「これは研究する価値のあるものですよ」
と椅子を一脚用意してくれました。
社員の心の中にある「うちの会社、私のことちゃんと見てくれているのかな」という小さなつぶやき。
それを「気にしすぎ」で片づけず、研究のテーブルに載せた。
ロビン・ハンティントンという研究者を知るうえで、まず覚えておきたいのは、そんな仕事に関わった人物だということなのだと思います。
参考文献・確認先:Swarthmore College:Robin Huntington Shores 公式プロフィール / Swarthmore College:Robin Huntington Shores 経歴紹介 / Google Scholar:Robin Huntington 論文・引用情報 / 代表論文:Perceived Organizational Support

ロビン・ハンティントン(Robin Huntington)の研究から学べること
ロビン・ハンティントンの研究から学べることをひとことで言うなら、
「人は、何をしてもらったかだけでなく、“自分は大切にされているのか”を見ながら働いている」
ということではないでしょうか。
これは、ロバート・アイゼンバーガーらと1986年に発表した「知覚された組織的支援」の研究から見えてくる、とても大切な視点です。
なんだか難しい名前ですが、日本語にしてしまえばそれほど怖くありません。
「この会社、私のことちゃんと気にしてくれてる?」
です。
はい。急に親しみやすくなりました。
会社の制度について調べているようでいて、実はものすごく人間くさい研究なのです。
人は「会社そのもの」に感情を持っている
会社というものは、不思議な存在です。
建物があります。
社名があります。
就業規則があります。
給与明細もあります。
でも、「会社」という人間はいません。
廊下を歩いていて、
「こんにちは、株式会社です」
と名刺を差し出してくる人物はいないわけです。
それなのに私たちは、
「この会社は冷たい」
「この会社は社員を大切にしてくれる」
「この会社には恩がある」
などと言います。
考えてみると、なかなか面白いですよね。
実際には、上司から声をかけてもらったり、困ったときに配慮してもらったり、努力を評価されたりする。その一つひとつの経験から、
「会社は自分をどう扱っているか」
という大きな印象を作っているのです。
ハンティントンたちの研究が面白いのは、この何となく存在していた感覚を、研究の対象としてきちんと取り上げたところです。
つまり、
「会社に大切にされている気がする」
という感覚は、単なる甘えでも、気分でもない。
働く人の行動を考えるうえで、ちゃんと見る価値のある心理なのです。
「ちゃんと給料を払っているから十分」ではないらしい
ここから、職場についてかなり重要なことが見えてきます。
経営側からすると、
「いや、給料払ってますよ」
「有給ありますよ」
「社会保険も入ってますよ」
と言いたくなるかもしれません。
もちろん、それらはものすごく大切です。
給料を払わずに、
「でも君のことは心から大切に思っている」
と言われても、
「その愛情、銀行口座にも振り込んでもらえます?」
となります。
ただ、人間は条件だけで職場を感じているわけでもありません。
同じ給料でも、
「いつも助かってるよ」
と言われる職場と、
「できて当然でしょう」
と言われる職場では、心の景色が違います。
体調を崩したとき、
「無理しないで」
と言われるのか、
「で、明日は来られるの?」
と言われるのかでも違います。
制度として同じ会社でも、体験としては別世界になる。
ここが大事なのだと思います。
小さな対応が「会社からのメッセージ」になる
私たちは案外、職場の小さな出来事から大きな意味を読み取っています。
たとえば、頑張った仕事について誰も何も言わなかった。
本人としては、
「まあ忙しかったんだろう」
と思うこともできます。
でも、それが何度も続くと、
「自分が何をしても、この会社は見ていないのかな」
という感覚になるかもしれません。
逆に、ものすごく豪華な表彰制度がなくても、
「昨日の対応、助かったよ」
と一言言われただけで、
「ちゃんと見てくれていたんだ」
と思えることがあります。
たった十文字ほどの言葉が、数万円の福利厚生より心に残ることすらある。
人間というのは、なかなか不思議な生き物です。
ですから、知覚された組織的支援という考え方から学べるのは、組織の文化は大きな制度だけで作られるものではないということです。
毎日の声かけ。
仕事の任せ方。
ミスをしたときの対応。
体調を崩した人への接し方。
意見を言った人への反応。
そういう小さな場面から、社員は毎日、
「私はここで、どういう存在として扱われているのだろう」
という答えを受け取っています。
会社は何も言っていないつもりでも、毎日かなりしゃべっているのです。
しかも本人に自覚がないまま。
「大切にしてください」ではなく「大切にされていると感じられるか」
ここには、もう一段深いポイントがあります。
会社側が、
「うちは社員を大切にしています!」
と言っていることと、社員が、
「私は大切にされている」
と感じていることは、同じではありません。
ここ、かなり重要です。
恋愛に置き換えるとわかりやすいでしょう。
「私はあなたを大事にしています」
と言いながら、誕生日を三年連続で忘れ、話をしている最中ずっとスマートフォンを見ていたら、
「その“大事”とは、いったいどの辞書に載っている意味でしょうか」
となります。
組織も似ています。
理念に、
「人を大切にする企業です」
と書くだけでは足りない。
ポスターに書くのは三分ですが、それを社員が実感できる職場にするには毎日の積み重ねが必要です。
つまり、大事なのは、
「会社が支援しているか」だけではなく、「働く人が支援されていると受け取れているか」
なのです。
この違いは小さそうで、実は巨大です。
支援とは「甘やかすこと」ではない
ここで、
「社員を大切にするって、何でも優しくすればいいの?」
と思うかもしれません。
もちろん、そういう話ではありません。
仕事なので、ときには注意も必要です。
厳しい課題を任せることもあるでしょう。
評価を伝えなければならないこともあります。
大切なのは、
「注意された」
ことだけではありません。
その奥に、
「成長してほしいと思っている」
「困ったときには助けてもらえる」
「成果だけではなく人間として扱われている」
という感覚があるかどうかです。
同じ「ここを直してください」でも、
「なんでこんなこともできないの?」
と、
「ここを直せば、かなり良くなると思う」
では、受け取る意味がまるで違います。
人間の心には、言葉を翻訳する装置があります。
上司は業務連絡をしたつもりでも、社員側では、
「あなたには期待していません」
と翻訳されているかもしれない。
逆に短い一言が、
「あなたはここにいていいですよ」
という意味になることもあります。
組織というのは、実に繊細な翻訳機の集まりです。
「辞めたい」の少し手前を見る
ハンティントンたちの研究から学べるもう一つのことは、職場の問題を「結果が出てから」考えるだけでは遅い場合がある、ということです。
社員が辞めた。
欠勤が増えた。
やる気が落ちた。
そこまで来て初めて、
「どうしたんだろう?」
と考える会社もあります。
でも、そのずっと前に、
「どうせ頑張っても見てもらえない」
「困っても助けてもらえない」
「自分は交換可能な部品みたいだ」
という小さな感覚が積もっていた可能性があります。
いきなり大きな音を立てて壊れるのではない。
毎日一ミリずつ、心のネジが緩んでいく。
そしてある日、
「もういいかな」
となる。
だから組織を見るときには、
「辞めた人は何人か」
だけではなく、
「ここで働く人は、自分が大切にされていると感じているか」
という問いも必要なのです。
数字に表れる前の「心の予報」を見る、と言ってもいいかもしれません。
私たち自身も「小さな組織」である
そして、この研究は管理職だけが読めばいい話ではないと思います。
同僚同士でも同じです。
「ありがとう」
「助かった」
「無理してない?」
「それ、いい考えだね」
「困ったら手伝うよ」
こういう言葉には、相手に、
「あなたはここにいていい人ですよ」
と伝える働きがあります。
私たちは社長ではなくても、誰かにとっての「職場」を構成している一人です。
隣の席の人にとって、会社とは経営理念ではありません。
朝、顔を合わせる私たちだったりします。
これは少し怖くもありますが、同時に希望でもあります。
会社全体を明日から変えることは難しい。
でも、
「助かったよ」
の一言なら今日から言える。
組織文化なんて聞くと巨大なタンカーを動かすような話に感じますが、実際には、コーヒーカップの横で交わされる十秒の会話から始まっているのかもしれません。
人は「役に立っているか」だけで働いているわけではない
私は、ハンティントンたちの研究から一番持ち帰りたいのは、ここです。
人は、
「私は役に立っているか」
だけを気にしているのではありません。
それと同じくらい、
「私は大切にされているか」
を見ています。
成果を出せば評価される。
それは大切です。
でも、人間は成果製造機ではありません。
調子のいい日もあれば、悪い日もある。
失敗することもある。
助けてもらわなければ立てない日もある。
そんなときにも、
「あなたはこの組織にとって大切な人です」
というメッセージが残っている職場は強いのではないでしょうか。
会社にできることは、必ずしも巨大な福利厚生を追加することだけではありません。
見ること。
聞くこと。
認めること。
助けること。
公平に扱うこと。
そして、
「あなたの仕事には意味があります」
と伝えること。
どれも派手ではありません。
会社案内の表紙にはなりにくいでしょう。
でも、働く人の心という静かな場所では、そういうものほど長く残ります。
ロビン・ハンティントンが共同研究者として関わった「知覚された組織的支援」の研究は、そんな当たり前すぎて見過ごされがちなことに、心理学の明かりを当ててくれました。
人は、働く場所からも「あなたは大切です」という返事を待っている。
そして、その返事は豪華な言葉でなくてもいい。
今日の「ありがとう」ひとつでも、ちゃんと届く。
そう考えると、職場という場所が少しだけ違って見えてくるのではないでしょうか。

ロビン・ハンティントン(Robin Huntington)の論文一覧
1.『職場は自分を大切にしてくれているのか? 従業員が感じる「組織からの支援」』ロバート・アイゼンバーガー、ロビン・ハンティントン、スティーブン・ハッチソン、デボラ・ソワ(1986)
Eisenberger, R., Huntington, R., Hutchison, S., & Sowa, D. (1986). Perceived organizational support. Journal of Applied Psychology, 71(3), 500–507.
DOI:10.1037/0021-9010.71.3.500
「会社って、私のことちゃんと大事にしてる?」そんな社員の心の声を、真正面から研究したのがこの論文です。アイゼンバーガーらは、社員が「会社は自分の貢献を認め、幸せを気にかけてくれている」と感じるほど、欠勤が少ない傾向を発見。つまり会社と社員も、ちょっとした“持ちつ持たれつ”らしい。「働いてくれ」だけでは片思い。「あなたを大切にしています」が伝わると、働く側の気持ちも変わる。職場の人間関係をぐっと身近にしてくれる、組織心理学の古典です。

