ロバート・W・レヴェンソン(Robert W. Levenson)の論文一覧:心は顔に出る、体にも出る。夫婦・感情・老いをめぐる、人間観察の名探偵ノート
ロバート・W・レヴェンソン(Robert W. Levenson)のプロフィール
ロバート・W・レヴェンソンは、アメリカの心理学者で、カリフォルニア大学バークレー校の心理学教授として知られる研究者です。専門は、ざっくり言うと「感情は、心の中だけでなく、体にもちゃんと出るんですよ研究」です。怒ったときの心拍、悲しいときの表情、夫婦で話し合っているときの体の反応などを、まるで心の気象予報士のように観察してきた人です。
レヴェンソンの研究でおもしろいところは、「人は何を感じているか」だけでなく、「そのとき体は何をしているか」まで見るところです。たとえば、本人は平静を装っていても、心拍や表情や声の調子は「いやいや、けっこう動揺してますよ」と小声で暴露していることがあります。レヴェンソンは、そうした感情・行動・体の反応のつながりを長年研究してきました。研究テーマには、人間の感情、加齢、文化、脳の病気、親密な人間関係、認知症の家族を介護する人の健康などが含まれます。
特に有名なのが、長く結婚生活を続けている夫婦を対象にした研究です。夫婦に研究室へ来てもらい、関係に関する大事な話題について自然に話し合ってもらう。そしてその様子を観察しながら、表情や会話、体の反応を調べる。つまり、研究室の中に小さな「夫婦会議室」を作り、そこに心理学の虫眼鏡をそっと置いたような研究です。ケンカの火花、沈黙の重み、笑いの温度まで、夫婦関係の空気をかなり細かく見ていきます。
また、ジョン・M・ゴットマンとの共同研究でも知られています。ゴットマンが「夫婦関係の未来予測」で有名なら、レヴェンソンはそこに体の反応という“裏メニュー”を持ち込んだ名コンビの一人、と言えます。言葉では「大丈夫」と言っていても、体は「いや、ぜんぜん大丈夫じゃないです」とベルを鳴らすことがある。そうした人間関係の見えない信号を読み解く研究に大きく貢献しました。
さらに、レヴェンソンは感情と年齢の関係にも注目しています。若いころと年を重ねてからでは、怒り方、笑い方、悲しみ方、人との向き合い方が少しずつ変わっていく。人生の後半になると、人は感情をどう扱うのか。長年連れ添った夫婦は、どんなふうに感情を調整し合うのか。そうしたテーマを、きれいごとではなく、実際の会話や体の反応から調べてきたところに、レヴェンソン研究の味わいがあります。
まとめると、ロバート・W・レヴェンソンは、「感情とは、心の中のふわっとしたもの」ではなく、「表情にも、声にも、心拍にも、人間関係にも現れる、とても現実的な現象」として研究してきた心理学者です。怒りも悲しみも笑いも、ただの気分ではなく、体と人生が一緒に奏でる小さなオーケストラ。その音を、実験室でじっと聴き続けてきた人。それがレヴェンソンです。夫婦ゲンカの湯気まで研究対象にしてしまうあたり、心理学界の“感情温度計職人”と言いたくなる人物ですね。
参考文献・確認先:カリフォルニア大学バークレー校:Robert W. Levenson 公式プロフィール / Google Scholar:Robert W. Levenson 論文・引用情報 / PubMed:Robert W. Levenson 関連論文

ロバート・W・レヴェンソン(Robert W. Levenson)の研究から学べること
ロバート・W・レヴェンソンさんの研究をひとことで言うなら、「感情は、頭の中だけで起きている小さな劇ではなく、表情、声、心拍、汗、呼吸、人間関係まで巻き込む大きなオーケストラなんですよ」という研究です。
私たちはふだん、「悲しい」「腹が立つ」「楽しい」「不安だ」と、感情を心の中の出来事として考えがちです。たしかに、感情は心で感じます。でもレヴェンソンさんは、「そのとき体では何が起きているのか」「人とのやりとりの中で、感情はどう動くのか」をとても丁寧に調べてきました。カリフォルニア大学バークレー校の紹介でも、彼の研究は、人間の感情を、生理的な反応、年齢・性別・文化・病気による違い、人間関係の中での役割から研究していると説明されています。
つまりレヴェンソンさんは、心の中にマイクを置くだけでなく、体にも、人間関係にも、そっと測定器を置いた人です。感情研究界の「心身まるごと観察係」ですね。白衣を着た感情探偵、と言ってもよさそうです。
まず学べる一つ目のことは、「感情は体に出る」ということです。
怒っているとき、心拍が速くなる。緊張すると手に汗をかく。悲しいとき、胸のあたりが重くなる。楽しいとき、顔がゆるむ。こうした反応は、ただの気のせいではありません。感情は、体の中のいろいろな装置を動かします。心臓、呼吸、筋肉、表情。まるで、心の中で「ただいま感情イベント開催中です」とアナウンスが流れると、体内スタッフが一斉に動き出す感じです。
たとえば、怒りがわいたときに「私は冷静です」と言っても、心拍は「いや、こちら現場、かなり盛り上がっております」と報告しているかもしれません。人間、口ではごまかせても、体内の小さな実況アナウンサーはなかなか正直です。
ここから大事なのは、「感情を理解するには、体の声も聞く必要がある」ということです。自分が疲れているのか、緊張しているのか、怒っているのか、実は自分でもよくわからないことがあります。そんなときは、体を見てみる。肩が上がっていないか。呼吸が浅くなっていないか。胃が固まっていないか。眠りが浅くなっていないか。体は、心の掲示板みたいなものです。けっこう大事な連絡が貼り出されています。
二つ目に学べるのは、「感情は、人間関係の中で増えたり、しぼんだりする」ということです。
レヴェンソンさんは、結婚している夫婦のやりとりや、親しい関係の中で感情がどう動くかにも注目しました。たとえば、夫婦が話し合っているとき、言葉だけでなく、表情、声の調子、体の反応も一緒に変化します。ある研究では、夫婦の会話中の生理反応や感情が、その後の関係満足度の変化と関係することが調べられています。
これ、なかなかおもしろいです。人間関係は、言葉だけのキャッチボールではありません。表情のボール、沈黙のボール、ため息のボール、ちょっとした笑いのボールも飛んでいます。しかも、ときどき変化球が混ざります。「別に怒ってないよ」という直球に見せかけた、鋭いフォークボール。受け取る側は、なかなか大変です。
レヴェンソンさんの研究から考えると、人間関係をよくするには、「何を言ったか」だけでなく、「どんな温度で言ったか」が大事になります。同じ「大丈夫?」でも、やわらかく言えば安心になりますし、責めるように言えば「大丈夫じゃないことを責められている気分」になります。言葉には温度があります。熱すぎるとやけどしますし、冷たすぎると心の指先がかじかみます。
三つ目に学べるのは、「感情を抑え込むだけでは、うまくいかないことがある」ということです。
もちろん、大人として感情をそのまま爆発させないことは大切です。会議中に怒りを火山みたいに噴火させたり、スーパーのレジで悲しみの独唱会を始めたりすると、社会生活はだいぶ難しくなります。感情を調整する力は必要です。
でも、「感じないふりをする」「全部のみこむ」「いつも平気な顔をする」ばかりだと、体や関係性に負担がかかることがあります。感情は、完全に消すものというより、扱い方を覚えるものです。火と同じです。放っておくと燃え広がる。でも、消しすぎると料理もできない。大事なのは、火加減です。
レヴェンソンさんが長く研究してきた領域には、感情をどう表すか、どう調整するか、またそれが人間関係や体の反応にどう関係するかというテーマがあります。アメリカ芸術科学アカデミーの紹介でも、彼の貢献分野として、感情に特有の自律神経の反応、感情調整、文化、結婚、人生の発達、脳科学などが挙げられています。
つまり、「怒らない人が偉い」「泣かない人が強い」と単純に決めるのではなく、「その感情を、どう安全に、どう相手に伝わる形で扱うか」が大切なのです。感情は、心の台所にある包丁みたいなものです。危ない道具でもありますが、上手に使えば生活を助けてくれます。
四つ目に学べるのは、「年齢を重ねると、感情とのつき合い方も変わる」ということです。
レヴェンソンさんの研究では、感情と加齢の関係も大きなテーマです。年を取ると、感情が鈍くなるだけではありません。むしろ、何を大事にするか、どんな場面で感情が動くか、どう感情を調整するかが変わっていきます。夫婦を長く追った研究では、年齢を重ねるにつれて、否定的なやりとりが減り、ユーモアややわらかいやりとりが目立つようになることが報告されています。
これは、人生の味わい深いところです。若いころは、正しさの旗をぶんぶん振って「どちらが正しいか」を争いがちです。でも長く生きてくると、「まあ、お茶でも飲みましょうか」という心の座布団が増えてくる。もちろん、すべての人がそうなるわけではありませんが、年齢とともに感情の扱いが熟していく可能性があるのは、とても希望のある話です。
人間関係でも、若いころは「わかってほしい」が強くなりやすい。年齢を重ねると、「全部はわからなくても、一緒に過ごせるならまあいいか」という余白が生まれることがあります。これはあきらめではなく、関係を長持ちさせる知恵かもしれません。心の角が、少しずつ丸くなる。ヤスリで削られるというより、川の石が流れの中でなめらかになる感じです。
五つ目に学べるのは、「感情は、病気や脳の変化とも関係している」ということです。
レヴェンソンさんの研究は、認知症などの神経の病気によって、感情の表れ方や人との関わり方がどう変わるかにも及んでいます。バークレー校の研究紹介では、彼の研究が、神経の病気、通常の加齢、文化が感情の仕組みにどう影響するか、また認知症の家族を介護する人の健康にも関わっているとされています。
ここから大事なのは、「感情の変化を、性格だけで決めつけない」ということです。たとえば、以前より怒りっぽくなった。表情が変わった。共感しにくくなった。急に泣きやすくなった。こうした変化をすぐに「わがままになった」「冷たくなった」と決めつけるのではなく、脳や体の変化、病気、疲労、介護負担などの影響も考える必要があります。
これは介護や支援の現場でも大切です。人の感情は、その人の人柄だけでできているわけではありません。脳、体、環境、関係性、疲れ、安心感。いろいろな糸が絡んでいます。感情は、一本の糸ではなく、編み物です。どこか一か所だけを引っ張ると、全体がゆがむことがあります。
六つ目に学べるのは、「よい関係には、同じ感情を一緒に味わう時間が効く」ということです。
レヴェンソンさんの研究室につながる研究では、親しい人どうしが同じ場面で同じような感情を味わうことが、関係の質と関係することも示されています。特に、楽しい気持ちを一緒に経験することは、関係のよさと結びつきやすいとされています。
これは、なんだか日常にもそのまま使えます。関係をよくするために、いつも深刻な話し合いをしなければならないわけではありません。一緒に笑う。一緒においしいものを食べる。一緒に「なんだこれ」と言いながら変な動画を見る。一緒に季節の花を見る。一緒に小さな達成を喜ぶ。こういう何気ない時間が、関係の接着剤になることがあります。
つまり、愛情や信頼は、立派な言葉だけで育つのではありません。しょうもない冗談、同じ景色、同じ鍋をつつく時間、駅まで並んで歩く沈黙。そういう日常の小石みたいな時間が、いつの間にか関係の土台になります。
ロバート・W・レヴェンソンさんの研究からいちばん学べることは、「感情を、心だけの問題にしない」ということです。
感情は、体に出ます。人間関係に出ます。年齢とともに変わります。文化や病気の影響も受けます。そして、誰かと一緒にいることで、強まったり、やわらいだりします。
だから、感情を扱うときは、「気持ちを変えよう」とするだけでは足りないことがあります。呼吸を整える。体の緊張に気づく。言い方を変える。相手の表情を見る。関係の温度を下げる。笑える時間を増やす。疲れているなら休む。病気や加齢の影響も考える。そうやって、心の周りにあるたくさんの環境も一緒に見ていく必要があります。
レヴェンソンさんの研究は、私たちにこう教えてくれます。
「感情は、心の中の独り言ではありません。体と、人との関係が一緒に奏でている音楽です」
怒りも、悲しみも、不安も、喜びも、全部が人間らしさの一部です。大事なのは、それを否定することではなく、聞き分けること。いま体は何を言っているのか。相手との間で何が起きているのか。この感情は、守ろうとしているのか、助けを求めているのか、それとも少し休みたいだけなのか。
感情は、なかなかのおしゃべりです。ただし、少し遠回しに話します。レヴェンソンさんの研究は、その遠回しな声を、表情や体の反応や人間関係の中から読み解くための、やさしい翻訳機のようなものです。心の声を聞くには、耳だけでなく、体と関係性にも目を向ける。そこに、人間理解の豊かな入口があるのです。

ロバート・W・レヴェンソン(Robert W. Levenson)の論文一覧
1.『夫婦関係の崩壊を予測するプロセス – 行動・生理反応・健康から見た結婚のゆくえ』ジョン・M・ゴットマン、ロバート・W・レヴェンソン(1992)
Gottman, J. M., & Levenson, R. W. (1992). Marital processes predictive of later dissolution: Behavior, physiology, and health. Journal of Personality and Social Psychology, 63(2), 221–233. DOI: 10.1037/0022-3514.63.2.221
夫婦ゲンカって、ただの「言い合い」では終わらないんです。この論文では、夫婦の会話や表情、心拍などの体の反応をじっくり観察し、「この結婚、将来どうなる?」という少しドキドキするテーマに迫ります。言葉では平気そうでも、体はこっそり本音をしゃべっているかもしれません。愛の行方を、心理学の虫眼鏡でのぞくような一論文です。夫婦関係の“天気予報”が気になる方におすすめです。

