ロバート・アイゼンバーガー(Robert Eisenberger)の論文一覧:「会社は私を大事にしてくれてる?」という心のつぶやきを、ちゃんと研究にした心理学者
ロバート・アイゼンバーガー(Robert Eisenberger)のプロフィール
ロバート・アイゼンバーガーは、ひと言でいえば、「社員は会社のことをどう思っているのか」ではなく、「社員は“会社が自分をどう思っている”と感じているのか」に注目した心理学者です。
……ちょっと待ってください。
似たような文章なのに、ずいぶん意味が違います。
「私は会社が好きです」は、社員から会社への矢印です。
でも、
「この会社、私のことをちゃんと大切にしてくれているのかな」
となると、今度は会社から社員への矢印を、社員側がどう受け取っているかという話になります。
アイゼンバーガーは、この一見すると居酒屋の仕事帰りに出てきそうな問いを、きちんと心理学の研究テーマにした人物です。
現在、アメリカのヒューストン大学で心理学と経営学の教授を務めています。博士号はカリフォルニア大学リバーサイド校で取得しています。研究の中心には、働く人と組織との関係があります。
「会社は私を大切にしている?」を研究してみた
アイゼンバーガーの名前を語るうえで欠かせないのが、**「知覚された組織的支援」**という考え方です。
名前だけ見ると、なかなか立派な鎧を着ています。
「ちかくされた、そしきてき、しえん……?」
と、読むだけで昼休みが半分くらい終わりそうですが、意味はそれほど難しくありません。
ざっくり言えば、
「自分の働きを会社はちゃんと評価してくれている」「会社は自分のことを気にかけてくれている」と、社員がどのくらい感じているか
ということです。
アイゼンバーガーたちは1986年、この感覚を本格的に研究した論文を発表しました。彼自身の説明によれば、この研究の出発点には、なかなか面白い逆転の発想があります。
会社側はよく、
「社員は、うちの会社にどれくらい愛着を持っているんだろう?」
と気にします。
でも社員の側だって、
「ところで会社さん、あなたは私のことをどれくらい大事にしてくれているんですか?」
と気にしている。
会社だけが片思いの相手の気持ちを確認している場合ではなかったのです。
この視点から、アイゼンバーガーは、働く人が「会社から支えられている」と感じることが、仕事への満足感、気分、ストレス、仕事ぶり、欠勤や離職などとどのように関係するのかを研究していきました。後年の研究でも、この「会社は自分の貢献を評価し、自分の幸せを気にかけてくれている」という感覚が、働く人の心や行動を理解する重要な鍵として検討されています。
人間は給料明細だけを見て働いているわけではない
この研究が面白いのは、職場にいる人間を「給料をもらえば動く装置」として扱っていないところだと思います。
もちろん、お給料は大切です。
「感謝しているから給料はありません」
と言われたら、それはそれで全力で困ります。
でも、人が職場で感じているものは、お金だけではありません。
困ったときに上司が助けてくれた。
努力をきちんと認めてもらえた。
事情があるときに柔軟に対応してくれた。
意見を公平に扱ってもらえた。
そういう一つひとつの経験から、人は少しずつ、
「ここでは自分は大切にされているらしい」
あるいは、
「どうも私は部品として数えられているだけらしい」
という感覚をつくっていきます。
アイゼンバーガーたちの研究では、公平な扱い、上司からの支援、人事制度や働く環境などが、こうした組織からの支援感覚に関わる重要な要素として扱われています。特に、「会社が仕方なくやった」のではなく、「会社が自分の意思で自分を大切に扱ってくれた」と受け止められることが重要だと考えられています。
ここが、人間の心のちょっと面白いところです。
同じ「休んでいいですよ」でも、
「法律で決まってるんで」
と言われるのと、
「大変でしたね。今日は無理しないでください」
と言われるのでは、心に届く温度が違う。
制度だけではなく、その制度の向こう側にどんな意図を感じるかまで、人は案外ちゃんと見ているわけです。
研究対象は「会社のやさしさ」だけではない
アイゼンバーガーの研究は、組織からの支援だけにとどまりません。
ヒューストン大学の紹介によると、彼はさらに、職場における感謝や怒りといった道徳的な感情、そして組織の中で起こる非倫理的な行動についても研究しています。
たとえば、
「会社に良くしてもらったから、ちょっと恩返ししたい」
という気持ち。
あるいは、
「こんな扱いをされて、納得できない」
という怒り。
こうした感情は、会社の入口にあるタイムカードを押した瞬間に消えるわけではありません。
人間は会社員になると突然、感情をロッカーに預ける生き物になるわけではないのです。
むしろ、誰からどう扱われたか、なぜそう扱われたと思ったか、その経験にどんな感情を抱いたか。それらが仕事への姿勢や行動にもつながっていく。
アイゼンバーガーの研究には、そんな**「職場にも普通に人間がいますよ」**という、ごく当たり前なのに時々忘れられてしまう視点が流れているように感じます。
「大切にされている」は、ふわっとした話では終わらない
さらに興味深いのは、「会社から大切にされている感覚」が、単なる気分の問題として扱われていないことです。
研究の積み重ねでは、組織からの支援を強く感じることは、心理的な健康や仕事ぶりと良い方向で関係し、欠勤や離職とは反対方向に関係することが報告されています。
つまり、
「社員を大切にしましょう。なんとなく雰囲気がいいから」
という道徳の話だけではない。
社員を大切にすることは、その人自身にとって重要であるだけでなく、長い目で見れば組織の働き方にも関係してくる可能性があるわけです。
会社と社員は、契約書だけでつながっているわけではありません。
その間には、
「ちゃんと見てもらえている」
「困ったときには助けてもらえる」
「ここにいてもいいらしい」
という、目には見えない糸があります。
アイゼンバーガーは、その糸を心理学の言葉でつかまえ、測り、研究してきた人だと言えるでしょう。
人を大切にすることは、「余裕があったらやること」なのか
アイゼンバーガーの研究を眺めていると、最後にひとつ、こちら側へ問いが返ってきます。
職場で人を大切にすることは、
業績が良くなって、お金も時間も余って、それから考えればいい「おまけ」なのでしょうか。
それとも、
人が安心して働き、力を出していくための、仕事そのものの土台なのでしょうか。
彼の研究は、後者を考えるための材料を長年積み上げてきました。
豪華な福利厚生を用意しなければ、人を大切にできないわけではありません。
話を聞く。
努力を認める。
公平に扱う。
困っているときに支える。
「あなたの仕事をちゃんと見ています」と伝える。
そんな地味な行動が、人と組織との関係を少しずつ形づくっていく。
ロバート・アイゼンバーガーは、職場という少々無機質になりがちな場所に、**「ところで、その人はここで大切にされていると感じていますか?」**という椅子を一脚置いた心理学者なのかもしれません。
そして、その椅子は今も、世界中の職場に向かって静かに置かれています。
参考文献・確認先:ヒューストン大学:Robert Eisenberger 公式プロフィール / Google Scholar:Robert Eisenberger 論文・引用情報 / PubMed:Robert Eisenberger 関連論文 / 産業・組織心理学会:Robert Eisenberger 略歴・追悼記事

ロバート・アイゼンバーガー(Robert Eisenberger)の研究から学べること
ロバート・アイゼンバーガーの研究から学べることを、ものすごく短く言ってしまうなら、
「人は、“何をしてもらったか”だけではなく、“自分がどう扱われていると感じたか”によって動く」
ということだと思います。
これ、職場だけの話に見えて、かなり人生全般に刺さってきます。
たとえば会社が立派な制度をたくさん用意していたとしましょう。
有給休暇があります。
研修制度があります。
相談窓口があります。
福利厚生もあります。
パンフレットだけを見ると、もうピカピカです。
「社員を大切にしています!」
と大きく書いてある。
ところが社員が、
「いや、困って相談したら露骨に嫌な顔をされたんですけど……」
と感じていたら、話は急に変わります。
制度として「支援があること」と、本人が「支えてもらえている」と感じることは、同じではない。
アイゼンバーガーの研究は、この小さなズレをものすごく真面目に扱ってきました。
人は「会社の気持ち」を勝手に読み取っている
会社というものには、本来、心臓も脳みそもありません。
株式会社○○さんが夜中に布団へ入り、
「今日、田中さんにちょっと冷たくしちゃったな……」
と反省しているわけではありません。
それでも私たちは、
「この会社は社員を大切にしている」
「この会社は数字しか見ていない」
「困ったときには守ってくれそうだ」
「たぶん倒れるまで働いても気づかれない」
と、会社そのものに人格があるかのように受け取ります。
なぜでしょう。
私たちは、上司の態度、評価のされ方、会社の制度、困ったときの対応、給与や昇進、公平さなど、さまざまな経験をひとつにつなげて、
「この組織は、自分をどんな存在として扱っているのか」
という物語をつくっているからです。
これはアイゼンバーガーの研究から学べる、とても大事な視点です。
つまり、人を支えるときには、
「支援制度を置きました。以上!」
では足りない。
その支援が、
「あなたを大切に思っているから用意しました」
という意味として本人に届くところまで考える必要があるのです。
「ありがとう」は、思っているだけでは届かない
これを日常生活に置き換えると、もっとわかりやすくなります。
たとえば家族に、
「もちろん感謝してるよ」
と思っている。
でも、一度も言わない。
手伝わない。
話も聞かない。
誕生日も忘れる。
その状態で、
「なんで感謝してないと思うの?」
と言われても、相手としては、
「いや、その感謝、現在どこを走行中ですか?」
となります。
心というのは不思議なもので、こちら側にある気持ちは、そのまま相手へ転送されません。
Wi-Fiではないのです。
相手が受け取れる形にして初めて、「大切にされている」という感覚になります。
職場でも同じです。
上司が部下を心の中で高く評価していても、一度も伝えなければ、部下にはわかりません。
「よく頑張っているな」
と思っていても、
口から出てきた言葉が、
「で、次の案件なんだけど」
だけなら、評価は心の倉庫で眠ったままです。
アイゼンバーガーの研究から学べるのは、支援や評価は、存在するだけではなく、相手に知覚されて初めて力を持つということです。
公平さは、思っている以上に大きい
もうひとつ重要なのが、「公平に扱われている」という感覚です。
人間は、びっくりするほど周囲を見ています。
「あの人には認めたのに、自分には認めてくれなかった」
「あの人の失敗は笑って済ませたのに、自分は強く叱られた」
「あの人の意見は聞くのに、自分の話は途中で切られる」
こういうことは、給与明細には載りません。
でも心の明細書には、しっかり載ります。
しかも保存期間が長い。
数年前の一件まで、
「平成○年、人事部、あの件」
みたいな顔で残っていたりします。
だから組織が人を大切にするというのは、単に優しくすることではありません。
むしろ、
理由がわかること。公平であること。説明があること。話を聞いてもらえること。
こうした地味な積み重ねが大切になります。
人は完璧な職場を求めているわけではありません。
すべての希望が通る必要もありません。
でも、
「ちゃんと自分も一人の人間として扱われている」
と感じられること。
この感覚は、とても大きいのです。
「大切にされる」と、人も何かを返したくなる
アイゼンバーガーの研究には、もうひとつ人間らしい話があります。
人は誰かから大切にされると、
「自分も何か返したいな」
という気持ちを持ちやすい。
たとえば、困っているときに職場が助けてくれた。
上司が自分の努力をちゃんと見てくれた。
自分の事情を理解して働き方を調整してくれた。
そんな経験が積み重なると、
「じゃあ、自分もこの職場のために少し頑張ろうかな」
という気持ちが生まれることがあります。
これは、
「社員に優しくすれば働かせ放題!」
という話ではありません。
そこまで行くと、せっかくの研究が急に悪徳商法の説明会みたいになります。
大切なのは、人間関係には交換があるということです。
それも単純な、
「100円あげたから100円返して」
という交換ではありません。
信頼をもらったから、信頼で返す。
助けてもらったから、今度は自分が誰かを助ける。
認めてもらったから、この場所に貢献したくなる。
人と組織の関係は、契約書だけでは説明できない「気持ちの往復」でできているのです。
管理職でなくても、この研究は使える
ここまで読むと、
「なるほど。経営者の皆さん、よろしくお願いします」
とページを閉じたくなるかもしれません。
でも、この研究は管理職だけのものではありません。
私たちは誰でも、誰かにとっての「環境の一部」です。
同僚に、
「助かったよ」
と言う。
誰かの提案に、
「それ、面白いですね」
と返す。
新人が困っていたら声をかける。
休んでいた人が戻ってきたら、
「大丈夫だった?」
と聞く。
たったそれだけでも、その人にとって職場は少し違って見える可能性があります。
会社という巨大な建物を一人で変えることは難しくても、
自分の半径3メートルくらいの職場なら、少し温度を変えられる。
これはかなり希望のある話ではないでしょうか。
「あなたは大切です」は、行動で翻訳する
アイゼンバーガーの研究を日常に持ち帰るなら、私はこの一言にまとめたいと思います。
「大切に思っているなら、相手が“大切にされている”と感じられる形に翻訳する。」
感謝しているなら伝える。
評価しているなら伝える。
困っていたら助ける。
決定に理由があるなら説明する。
話を聞く。
公平に扱う。
たったこれだけです。
……と言いつつ、人間社会では、この「たったこれだけ」が意外と難しいのですが。
私たちはつい、
「言わなくてもわかるでしょう」
を使います。
しかし、「言わなくてもわかるでしょう」は、人間関係の世界ではかなり故障率の高い通信機器です。
だからこそ、伝える。
行動にする。
届いているかを見る。
ロバート・アイゼンバーガーの研究は、会社という大きな話を扱いながら、最後にはとても小さなところへ帰ってくるように思います。
今日、目の前にいる人に、
「あなたの存在をちゃんと見ていますよ」
と、どう伝えるか。
豪華な制度より先に、そこから始められることもある。
そして案外、人が長く覚えているのは、大きなスローガンではなく、
忙しい日に誰かが言ってくれた、
「大丈夫? 手伝おうか」
という一言だったりするのです。

ロバート・アイゼンバーガー(Robert Eisenberger)の論文一覧
1.『職場は自分を大切にしてくれているのか? 従業員が感じる「組織からの支援」』ロバート・アイゼンバーガー、ロビン・ハンティントン、スティーブン・ハッチソン、デボラ・ソワ(1986)
Eisenberger, R., Huntington, R., Hutchison, S., & Sowa, D. (1986). Perceived organizational support. Journal of Applied Psychology, 71(3), 500–507.
DOI:10.1037/0021-9010.71.3.500
「会社は社員に尽くしてほしい。でも、社員だって会社から大事にされたいですよね?」。そんな職場の片思い問題に切り込んだのが、アイゼンバーガーらの1986年の研究です。研究チームは、社員が「会社は自分の貢献を評価し、幸せを気にかけてくれている」と感じる度合いに注目。すると、その感覚は組織への愛着や、「頑張れば報われそう」という期待と結びついていました。会社と社員の関係は、給料だけではできていない。そんな当たり前だけど深い話を、心理学として形にした一篇です。

