リチャード・M・ライアン(Richard M. Ryan)の論文一覧:やる気のエンジンルームで、人間の“したい”を整備した心理学者
リチャード・M・ライアン(Richard M. Ryan)のプロフィール
リチャード・M・ライアンは、人間の「やる気」について研究してきた心理学者です。エドワード・L・デシとともに、自己決定理論を発展させた中心人物として知られています。現在はオーストラリア・カトリック大学の教授で、ロチェスター大学の名誉教授でもあります。臨床心理学者としても活動してきた人物です。
ライアンのすごいところは、「人はアメとムチだけで動くんじゃないよね?」と、やる気の台所にそっと入っていったところです。
たしかに、ごほうびをもらえば人は動きます。叱られたくなくても動きます。でも、それだけだと、心のエンジンはだんだん咳き込みます。「やらされている感」が強くなると、やる気は焼き魚の煙みたいに、いつの間にか換気扇へ吸い込まれていくのです。
そこでライアンたちは、人間が元気に動くためには、主に3つの心の栄養が大事だと考えました。
ひとつめは、自分で選んでいる感覚。
ふたつめは、できるようになっている感覚。
みっつめは、人とつながっている感覚。
つまり、人は「命令されたから」だけではなく、「自分で選べている」「少しずつ上達している」「誰かとちゃんとつながっている」と感じたときに、内側からむくむく動き出す。ライアンの研究は、この人間らしいやる気の仕組みを、ていねいに言葉にしてくれたものだと言えます。
この視点は、学校、仕事、子育て、スポーツ、健康づくり、ゲームなど、いろいろな場面に広がっています。勉強しなさい、働きなさい、頑張りなさい、と外から押すだけではなく、「どうすれば、その人の中から力が出てくるのか」を考える研究なのです。
ライアンは、やる気を根性の問題として片づけません。
心の中に小さな作業場があるとして、彼はそこに土足で踏み込まず、「この人の自分で決めたい気持ちは守られているかな」「成長している実感はあるかな」「ひとりぼっちにされていないかな」と、工具箱を持って点検していくタイプの研究者です。
ひと言でいえば、リチャード・M・ライアンは、
人間のやる気を“燃料”ではなく、“育つもの”として見つめた心理学者です。
「頑張れ」と背中を叩くのではなく、
「その人が自分の足で歩きたくなる環境とは何か」を考えた人。
やる気という気まぐれな生き物に、ムチではなく、居場所と水と日当たりを用意した研究者なのです。
参考文献・確認先:Australian Catholic University:Richard M. Ryan 公式プロフィール / Google Scholar:Richard M. Ryan 論文・引用情報 / PubMed:Richard M. Ryan 関連論文

リチャード・M・ライアン(Richard M. Ryan)の研究から学べること
リチャード・M・ライアンの研究から学べることは、ひと言でいえば「人は、ただ命令されるだけでは元気に育たない」ということです。
いや、もちろん人間は命令されても動きます。
「やりなさい」と言われれば、しぶしぶ動くことはあります。
「これをやったらごほうび」と言われれば、急に背筋がピンと伸びることもあります。
人間のやる気、意外と現金です。財布の音には敏感です。
でもライアンの研究は、そこで終わりません。
「じゃあ、そのやる気は長続きするの?」
「本人は本当に元気になっているの?」
「心の中で、納得して動けているの?」
ここをじっと見つめたのが、ライアンのすごいところです。
ライアンが教えてくれるのは、人が本当にいきいき動くためには、外から押されるだけでは足りないということです。人の心には、ただ燃料を入れれば走る機械とは違うところがあります。ガソリンを入れたら走る車ではなく、水と光と土が必要な植物に近いのです。
そのために大切なのが、まず「自分で選んでいる感覚」です。
人は、「やらされている」と感じると、心の中に小さな反抗期の住人が現れます。表面上は「はい、やります」と言っていても、内側ではちゃぶ台がひっくり返っていることがあります。逆に、「自分で決めた」「自分にも選ぶ余地がある」と感じられると、人は同じ行動でもずっと前向きに取り組めます。
つまり、やる気を育てたいなら、ただ指示するだけではなく、「本人が選べる余白」を残すことが大切なのです。
次に大切なのは、「できるようになっている感覚」です。
どれだけ自由でも、まったく上達を感じられなければ、人はしんどくなります。ゲームでいえば、ずっと最初のスライムに負け続ける状態です。これはつらい。勇者の顔も曇ります。
人は、「前より少しできた」「昨日よりわかった」「自分にもできるかもしれない」と感じたときに、心の中で小さな拍手が起こります。この小さな拍手が、次の一歩を支えてくれます。
だから、教育でも仕事でも支援でも、「できていないところを責める」だけではなく、「できるようになったところに気づく」ことが大切になります。成長の芽は、怒鳴っても伸びません。見つけて、照らして、水をやるものです。
そしてもうひとつ大切なのが、「人とつながっている感覚」です。
人は、ひとりで頑張り続けるには少し寂しがり屋にできています。どれだけ立派な目標があっても、「誰にも見てもらえていない」「自分はここにいていいのかわからない」と感じると、心の電池はじわじわ減っていきます。
逆に、「自分のことを気にかけてくれる人がいる」「失敗しても関係が切れない」「ここにいていい」と感じられると、人は安心して挑戦できます。安心は、やる気の布団です。いきなり走らせる前に、まず心を冷やさないことが大事なのです。
ライアンの研究から学べる大きなポイントは、「人を動かす」のではなく、「人が動きたくなる環境をつくる」という考え方です。
これは、学校でも、職場でも、家庭でも、支援の場でも、とても大切です。
たとえば、部下や子どもや利用者さんに対して、「なんでやらないの?」と責める前に、少し立ち止まって考えることができます。
この人には、自分で選べる余地があるだろうか。
少しずつできるようになっている実感があるだろうか。
安心して相談できるつながりがあるだろうか。
この3つを見ていくと、やる気の問題が、ただの根性論ではなくなります。
「やる気がない人」と決めつける前に、もしかするとその人は、選ぶ余地を失っているのかもしれません。
「すぐ諦める人」と言う前に、できる感覚を持てない環境にいるのかもしれません。
「主体性がない」と見る前に、安心して動ける関係がまだ育っていないのかもしれません。
ライアンの研究は、人間を見る目を少しやさしくしてくれます。
やる気とは、無理やり引っぱり出すものではありません。
心の奥で、条件がそろったときに、そっと顔を出すものです。
「頑張れ」と叫ぶだけではなく、
「頑張りたくなる土台をつくれているかな」と考えること。
これが、リチャード・M・ライアンの研究から学べる、とても大きな知恵です。
人間の心は、スイッチひとつで動く家電ではありません。
どちらかといえば、気難しい観葉植物です。
水をやりすぎても弱るし、放っておいても枯れる。
光もいる。風通しもいる。なにより、「ここで育っていいんだ」と思える場所がいる。
ライアンの研究は、そのことを静かに教えてくれます。
やる気を叩き起こすのではなく、やる気が目を覚ましたくなる朝をつくる。
そこに、人を育てるヒントがあるのです。

リチャード・M・ライアン(Richard M. Ryan)の論文一覧
1.『自己決定理論とは何か:内発的動機づけ、社会的成長、そしてウェルビーイングを育てる心理学』リチャード・M・ライアン、エドワード・L・デシ(2000)
Ryan, R. M., & Deci, E. L. (2000). Self-Determination Theory and the Facilitation of Intrinsic Motivation, Social Development, and Well-Being. American Psychologist, 55(1), 68–78. DOI:10.1037/0003-066X.55.1.68
「やる気って、ごほうびをぶら下げれば出るんでしょ?」と思ったあなた、ちょっと待ったです。この論文は、人間のやる気を“アメとムチ”だけで見るのをやめて、「自分で選んでいる感覚」「できるようになる感覚」「人とつながる感覚」が大事だと教えてくれます。心は馬車馬ではなく、観葉植物。叩くより、育つ環境がいるのです。自己決定理論の入口として、かなり読みごたえのある一本です。


2.『ごほうびは、やる気の火を強めるのか消すのか:外からの報酬が内なる意欲に与える影響を読み解くメタ分析レビュー』エドワード・L・デシ、リチャード・ケストナー、リチャード・M・ライアン(1999)
Deci, E. L., Koestner, R., & Ryan, R. M. (1999). A meta-analytic review of experiments examining the effects of extrinsic rewards on intrinsic motivation. Psychological Bulletin, 125(6), 627–668. DOI:10.1037/0033-2909.125.6.627
「ごほうびをあげれば、やる気はモリモリ育つ!」……と思いきや、この論文はそこに静かに待ったをかけます。デシ、ケストナー、ライアンは多くの実験をまとめ、外からの報酬が“自分からやりたい気持ち”にどう影響するかを検証しました。すると、報酬は万能の栄養剤ではなく、使い方を間違えると心の芽に日傘をさしてしまうことも。やる気の正体を知りたい人に刺さる一本です。

