フィリッパ・ラリー(Phillippa Lally)の論文一覧:「三日坊主ですけど何か?」を、ちゃんと育つ習慣に変える研究者

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フィリッパ・ラリー(Phillippa Lally)のプロフィール

「新しい習慣は21日で身につきます」。
世の中には、ずいぶん景気のいい言葉があります。まるでカレンダーを3週間ぶん破ったら、急に早起きが好きになり、野菜が親友になり、運動靴が自分から玄関に並ぶかのようです。

けれどフィリッパ・ラリーは、その話にちょっと待ったをかけた心理学者です。彼女が見つめたのは、「人は何日で変わるのか」という魔法の数字ではありません。むしろ、「人はどうしたら、考えなくても自然に行動できるようになるのか」という、もっと生活にくっついた問いでした。

ラリーはイギリスで心理学を学び、大学卒業後は健康心理学を専門にしました。現在はサリー大学で心理学の上級講師を務め、習慣づくり、行動の変化、健康に関する心理学を研究しています。とくに、がんの治療後を生きる人々の健康行動にも関心を広げており、「知識を増やすだけでは、人はなかなか動けない」という現実に、研究の光を当て続けています。

彼女の名前が広く知られるきっかけになったのは、2010年の習慣形成に関する研究です。参加者に「朝食後に果物を食べる」「夕食後に歩く」といった行動を、決まった場面で毎日続けてもらい、「それがどれくらい自然にできるようになったか」を追いかけました。ここで大事なのは、ラリーが習慣を“気合いで続けること”ではなく、“ある場面に出会うと、あまり考えず行動できること”として捉えた点です。朝食が終わると歯をみがく。玄関で靴を履くと鍵を確認する。あの「考える前にもうやっている」感じこそ、習慣の正体なのです。

この研究から生まれた有名な数字が「平均66日」です。ただし、ここで数字だけをお弁当に詰めて持ち帰ると、少し困ったことになります。ラリー自身も、「66日ぴったりで習慣が完成するわけではない」と説明しています。研究では、習慣化までの期間に18日から254日までの幅がありました。つまり、早く身につく行動もあれば、のんびり屋さんの習慣もある。人間の心は、工場のベルトコンベアではありません。焦って「まだ身についていない」と自分を責めるより、「いま習慣は発芽中かもしれない」と考えるほうが、研究の中身に近いのです。

また、ラリーの研究がやさしいのは、「一度サボったらすべて終わり」という根性論を採らなかったところです。一回できなかったこと自体は、習慣づくりを大きく壊すわけではない。問題になるのは、続ける場面そのものが毎回ばらばらになり、行動との結びつきが育ちにくくなることです。たとえば「毎日運動する」よりも、「夕食後に、家の周りを10分歩く」と決めたほうが、生活の中の合図が行動を呼び出しやすくなります。意志力に毎朝フル出勤してもらうのではなく、暮らしの流れに仕事を任せる。ラリーの研究は、そんな“がんばりすぎない工夫”を教えてくれます。

フィリッパ・ラリーは、三日坊主を裁く人ではありません。「続かないのは、あなたの根性が足りないからです」と説教する代わりに、「行動が自然に出てくる仕組みを、一緒につくりましょう」と考えた研究者です。習慣とは、立派な決意を毎日大声で叫ぶことではなく、小さな行動を、同じ暮らしの景色の中に何度も置いていくこと。気づけばそれは、努力の重たい荷物ではなくなり、いつもの自分をそっと支える手すりになっているのかもしれません。

参考文献・確認先:サリー大学:フィリッパ・ラリー公式プロフィール / Google Scholar:Phillippa Lally 論文・引用情報 / PubMed:Phillippa Lally 関連論文

阿部牧歌(管理人)
阿部牧歌(管理人)

フィリッパ・ラリー(Phillippa Lally)の研究から学べること

新しいことを始めると、私たちはつい焦ります。

「今日から毎日、運動するぞ」
「明日から読書するぞ」
「もう夜ふかしはしない。私は生まれ変わるのだ」

そして三日後。
ソファの上でスマホを持ち、運動靴を視界のすみに置いたまま、「人間とは、なぜこうも変われない生き物なのか」と遠い目をする。あるあるです。人類は何度、未来の自分に過大な期待を寄せてきたのでしょう。

フィリッパ・ラリーの研究は、そんな私たちに少し肩の力が抜ける話をしてくれます。習慣は、強い決意を一度打ち上げれば完成するロケットではありません。毎日の生活のなかで、小さな行動を同じ場面に置き続けることで、ゆっくり育っていくものです。

たとえば、「運動する」という目標は立派です。でも、少し広すぎます。
運動という言葉だけでは、脳内の担当者が困ってしまうのです。

「いつやるんですか?」
「どこでやるんですか?」
「何を何分やるんですか?」
「こちらでは判断材料が足りません」

そこで役に立つのが、「何を、いつ、どんな場面でやるか」をはっきり決めることです。

たとえば、「夕食後に食器を片づけたら、家の周りを10分歩く」。
あるいは、「朝、コーヒーを入れたら、その待ち時間にスクワットを5回する」。

これなら脳も迷いません。夕食後の食器、朝のコーヒーという毎日の景色が、「そろそろ歩く時間ですよ」「スクワット係、出番です」と合図を出してくれます。習慣とは、意志力を毎日むち打つ技術ではなく、暮らしのなかに“行動の呼び鈴”をつける工夫なのです。

そして、ラリーの研究から学べる、もうひとつ大事なことがあります。

それは、「何日で習慣になるか」を気にしすぎなくていい、ということです。

世の中には、「習慣は21日で身につく」という話がよく出回っています。でも人間の暮らしは、そんなにきれいに日数で割り切れません。早く身につく行動もあれば、なかなか体になじまない行動もあります。

朝にコップ一杯の水を飲むことと、仕事終わりに30分走ることでは、難しさが違います。前者はコップと水があれば始められますが、後者には体力、時間、天気、着替え、気分、そして「今日はもういいかな」という心の小悪魔との交渉が必要です。

だから、習慣づくりが遅いからといって、「自分は意志が弱い」と結論づける必要はありません。単に、その行動があなたの生活になじむまで、もう少し時間がかかっているだけかもしれません。

習慣は、電子レンジではありません。
ボタンを押して66日後に「チン!」と完成するものではないのです。

むしろ、植物に近いものです。水をやっても、翌朝にジャングルにはなりません。けれど、毎日同じ場所に水をやり続けていると、ある日ふと、「あれ、前より自然にできているな」と気づきます。意識して頑張っていた行動が、少しずつ日常の風景にまぎれ込んでいく。その変化は派手ではありませんが、長く人生を支えてくれます。

また、ラリーの研究は、「一回できなかったら終わり」という考えにも、やんわり赤ペンを入れてくれます。

たとえば、夜に日記を書くと決めていたのに、疲れて寝落ちしてしまった。
朝の散歩を続けていたのに、雨の日は布団に敗北した。
勉強する予定だったのに、動画を一本だけ見るつもりが、気づけば猫がピアノを弾く動画を眺めていた。

そんな日もあります。人間ですから。

一度抜けたことだけで、積み重ねが全部ゼロになるわけではありません。大切なのは、「もう失敗したから全部やめよう」と、習慣づくりそのものを退職させないことです。

できなかった日は、「今日は休みだった」と受け止めて、次の合図が来たらまた戻ればいいのです。夕食後に歩くと決めたなら、昨日歩かなかったとしても、今日の夕食後にはまた靴を履けばいい。習慣は皆勤賞を狙うゲームではなく、何度でも自分の暮らしに帰ってくる練習なのです。

もちろん、続かなかったときには見直しも必要です。

「毎朝5時に1時間走る」が続かないなら、あなたが怠け者なのではなく、その計画が少し勇ましすぎるのかもしれません。朝5時のあなたは、未来を変えるランナーではなく、布団と停戦協定を結びたい外交官かもしれません。

そんなときは、目標を小さくしてみましょう。

「朝、玄関の外に出る」
「靴を履く」
「家の前を30秒歩く」

それで十分です。小さすぎると思うかもしれませんが、習慣の最初の仕事は、立派な成果を出すことではありません。「この場面になったら、私はこれをする」という結びつきを育てることです。

大きな目標は、習慣が育ってからでも遅くありません。まずは生活のなかに、小さなレールを一本敷く。毎日同じ合図で、そのレールの上を少しずつ進む。するとある日、以前なら気合いが必要だった行動を、思ったより静かに始めている自分に出会えます。

フィリッパ・ラリーの研究は、私たちに「もっと根性を出しなさい」とは言いません。

その代わりに、こう問いかけているようです。

「その行動は、いつ、どこで始めますか?」
「毎日、あなたを思い出させてくれる合図はありますか?」
「一度できなかったとき、自分を追放していませんか?」

習慣は、自分を厳しく管理するための鎖ではありません。忙しい日も、疲れた日も、迷いの多い日も、自分が望む方向へ少し戻りやすくするための手すりです。

三日坊主になったとしても大丈夫です。四日目に戻れば、それはもう「三日坊主の続き」です。人生は、きれいな連続記録ではなく、何度もやり直しながら、自分の望む景色へ近づいていく長い散歩なのです。

阿部牧歌(管理人)
阿部牧歌(管理人)

フィリッパ・ラリー(Phillippa Lally)の論文一覧

1.『習慣は、どうやって身につくのか:日常のなかで「続く行動」が育つまでを追った習慣形成モデル』フィリッパ・ラリー、コーネリア・H・M・ファン・ヤールスフェルト、ヘンリー・W・W・ポッツ、ジェーン・ウォードル(2010)

Lally, P., van Jaarsveld, C. H. M., Potts, H. W. W., & Wardle, J. (2010). How are habits formed: Modelling habit formation in the real world. European Journal of Social Psychology, 40(6), 998–1009. DOI:10.1002/ejsp.674

「習慣は21日で完成です!」という景気のいい説に、ラリーらが生活の現場から待ったをかけます。朝食後に果物、夕食後に散歩。96人に「同じ場面で同じ行動」を12週間続けてもらうと、習慣は直線ではなく、最初は伸び、やがてゆるやかに育つことが見えてきました。しかも一日サボっただけで全滅、ではない。何日で身につくのかにも大きな個人差あり。大事なのは気合いの大盛りより、毎日現れる合図との結びつきです。本論文は、「続かない私」を責める前に、習慣の育て方をそっと教えてくれる一冊です。

阿部牧歌(管理人)
阿部牧歌(管理人)
この論文の要約を読む
【心理学論文】習慣は何日で身につく?「続けられる人」が無意識に育てている習慣化のしくみ
【心理学論文】習慣は何日で身につく?「続けられる人」が無意識に育てている習慣化のしくみ

2.『健康を「考えなくても続く習慣」にする――習慣形成の心理学と、日常診療でできること』ベンジャミン・ガードナー、フィリッパ・ラリー、ジェーン・ウォードル(2012)

Gardner, B., Lally, P., & Wardle, J. (2012). Making health habitual: the psychology of ‘habit-formation’ and general practice. British Journal of General Practice, 62(605), 664–666.
DOI:10.3399/bjgp12X659466

「健康のために毎日歩くぞ!」と宣言したのに、三日後にはスニーカーだけが玄関で反省会。そんな“続かない人類”へ、この論文は根性論ではなく、生活の仕組みを差し出します。習慣は、同じ場面で小さな行動をくり返し、「考えなくてもやる」状態へ育てるもの。朝食のあとに薬を飲む、帰宅したら野菜を切る。大事なのは壮大な決意より、行動を呼び出す合図です。しかも一度抜けても即・全滅ではない。意志力に残業をさせず、健康を日常に住まわせる方法をのぞいてみませんか。

阿部牧歌(管理人)
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この論文の要約を読む
【心理学論文】健康習慣はどう身につく?「続ける力」ではなく「習慣」を育てる3つの考え方
【心理学論文】健康習慣はどう身につく?「続ける力」ではなく「習慣」を育てる3つの考え方
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