フィリップ・シェイヴァー(Phillip Shaver)の論文一覧:恋のドキドキから心のよりかかり方まで、愛着の正体をかなり本気で追いかけた論文たち
フィリップ・シェイヴァー(Phillip Shaver)のプロフィール
フィリップ・シェイヴァーは、ひとことで言うと「恋愛って、ただの気分じゃなくて“心のよりかかり方”でもあるのでは?」と本気で掘り進めた心理学者です。アメリカの社会心理学者で、カリフォルニア大学デービス校の心理学の特別功労教授を務め、同大学の成人愛着研究室を率いてきました。2014年末に退職後も、相談や研究面で関わっていると大学プロフィールにあります。
この人のおもしろいところは、「好きです、付き合ってください」で話を終わらせなかったところです。恋愛を、子どもが親に感じるような“安心できる相手を求める心のしくみ”とつなげて考え、大人の愛にも愛着の理論が使えることを広く知らしめました。とくにシンディ・ヘイザンとの1987年の論文は、恋愛研究の世界でとても有名です。
研究テーマはかなり幅広くて、愛着だけではありません。親しい人との関係、感情のしくみ、悲しみや喪失、宗教との結びつき、さらには組織やリーダーシップにまで話が伸びています。つまり、「人は誰とどうつながり、どう安心し、どう揺れるのか」を、いろいろな角度から見てきた研究者です。
経歴もなかなか立派で、ニューヨーク州立大学バッファロー校で教授を務めたのち、1992年からカリフォルニア大学デービス校の教授となり、学科長も歴任しています。のちに特別功労教授となりました。論文や著作は300点を超え、対人関係研究や実験社会心理学の主要な学会でも要職を務めました。
さらに近年の評価としては、2015年に人格・社会心理学の分野で功績をたたえる賞を受け、2023年にはアメリカ芸術科学アカデミーの会員にも選ばれています。研究者の世界でいえば、「その人の名前が出てきたら、はいはい大御所ですね」と少し背筋が伸びるタイプです。
参考文献・確認先: UC Davis:Phillip Shaver 公式プロフィール / UC Davis Adult Attachment Lab / Google Scholar:Phillip R. Shaver 論文・引用情報 / PubMed:Phillip R. Shaver 関連論文 / American Academy of Arts & Sciences:Phillip R. Shaver 会員プロフィール

フィリップ・シェイヴァー(Phillip Shaver)の研究から学べること
フィリップ・シェイヴァーさんの研究から学べることを、ひとことで言うなら、「人は、安心してつながれる相手がいると、心の荒波を渡りやすくなる」ということです。
これは、恋愛だけの話ではありません。家族、友人、職場、支援の場面にも関係します。人間の心には、どうやら「安心できる港を探す力」があります。外の世界で疲れたり、不安になったり、傷ついたりしたとき、「この人ならわかってくれるかもしれない」「ここなら少し肩の力を抜ける」と感じられる場所があると、人は立て直しやすくなります。心にも避難所が必要なのです。しかも、できれば雨漏りしないやつです。
シェイヴァーさんは、アメリカのカリフォルニア大学デービス校の心理学者で、大人の愛着、親密な人間関係、感情などを研究してきた人物です。同大学の紹介では、心理学の特別教授であり、大人の愛着研究室の責任者として紹介されています。また、300本以上の本や論文を発表してきた研究者でもあります。
ここで大事なのが「愛着」という考え方です。
愛着というと、少し固い言葉に聞こえますが、ものすごくざっくり言えば、「不安なときに、誰を頼りたくなるか」「人と近づくことを安心と感じるか、それとも怖いと感じるか」という心のクセのことです。子どもは、こわいことがあると親や養育者のところへ行きますよね。転んだら泣いて駆け寄る。雷が鳴ったら布団にもぐる。知らない人が来たら後ろに隠れる。あれは、心が「安全基地」を探している状態です。
シェイヴァーさんたちの大きな功績は、この愛着の考え方を大人の恋愛や親しい関係にも広げたことです。シンディ・ヘイザンさんとの有名な論文では、恋愛を「大人同士の愛着のしくみ」として考えられるのではないかと提案しました。つまり、恋人同士のつながりも、子どもが安心できる人を求めるしくみと似た部分がある、という発想です。
たしかに、恋愛中の人を見ていると、けっこう納得できます。
好きな人から返事が来ないと、スマホを何度も見る。相手がそっけないと、「何かしたかな」と不安になる。大切な人に抱きしめられると、世界の騒音が少し小さくなる。もう心の中では、小さな管制塔が「安心信号、受信しました」と点滅しているわけです。恋愛はロマンチックな花火でもありますが、同時に、心の安全確認システムでもあるのです。
シェイヴァーさんの研究から学べるのは、「人間関係の不安には、ちゃんと理由がある」ということです。
たとえば、ある人は相手から少し返信が遅れるだけで、「嫌われたかも」「見捨てられるかも」と不安になります。これは、心の警報機が敏感に鳴りやすい状態です。煙が出ていないのに火災報知器が鳴るようなものです。本人も疲れますし、周りもびっくりします。
一方で、別の人は親しくなりそうになると、急に距離を取りたくなります。「頼るのは苦手」「深い話は重い」「ひとりのほうが楽」と感じる。これは、心が「近づきすぎると危ないぞ」とブレーキを踏んでいる状態です。まるで、心の玄関に「本日、親密さは休業中」と札がかかっているような感じです。
愛着研究では、こうした傾向を大きく「不安が強いタイプ」「避けやすいタイプ」「安定しやすいタイプ」といった形で考えます。もちろん、人間は分類シール一枚で説明できるほど単純ではありません。冷蔵庫のタッパーではないのです。でも、自分の心のクセを知る手がかりにはなります。シェイヴァーさんの研究室でも、大人の愛着のしくみや、それが自尊感情、性格、死への不安、思いやりや利他的な行動とどう関わるかが研究テーマとして紹介されています。
ここがとても面白いところです。愛着は、恋愛の「好き・嫌い」だけでは終わりません。人が不安をどう扱うか、自分をどう見るか、他人を信じられるか、困ったときに助けを求められるか。そういう生活のあちこちに、ひそかに顔を出します。愛着は、心の裏方スタッフです。舞台には出てこないけれど、照明や音響をかなり動かしています。
たとえば、支援の場面で考えてみましょう。
ある人が、相談したいことがあるのに、なかなか本音を話せないとします。その人は「話したら迷惑かもしれない」「どうせわかってもらえない」と思っているのかもしれません。あるいは逆に、不安が強くて何度も確認したくなる人もいます。「これで大丈夫ですか」「本当に大丈夫ですか」「怒っていませんか」と、心の確認ボタンを連打してしまうのです。エレベーターの閉ボタンより多めに押してしまう。
そんなとき、「面倒な人だな」と見るだけでは、表面しか見ていません。シェイヴァーさんの研究から考えるなら、「この人は安心を確認したいのかもしれない」「人を頼ることに不安や怖さがあるのかもしれない」と見方を広げることができます。すると、関わり方も変わります。
不安が強い人には、急に突き放すより、見通しを伝えることが助けになります。
「次はこの流れで進めますね」
「困ったらここで確認できますよ」
「今日はここまでできていますよ」
こういう言葉は、心に手すりをつけるようなものです。階段そのものが消えるわけではありませんが、上り下りしやすくなります。
逆に、人を頼るのが苦手な人には、「もっと話して」「心を開いて」と急かしすぎないことが大切です。心の扉をノックせずに開けようとすると、相手はさらに鍵を増やします。そうではなく、「話せるところからで大丈夫です」「必要なときに声をかけてください」と、距離を尊重しながら関わる。安心は、押し売りすると不安に変わります。やさしさにも、ちょうどいい温度があります。
恋愛や夫婦関係でも、シェイヴァーさんの研究はかなり役立ちます。
たとえば、相手が不安そうにしているとき、「また心配してるの?」と笑ってしまうと、相手の心の警報機はさらに大音量になります。そこで、「返信が遅くて不安になったんだね」と受け止めるだけでも、少し落ち着きます。反対に、相手が距離を取りたがるとき、「なんで話してくれないの!」と詰め寄ると、相手の心は全力でシャッターを下ろします。ガラガラガラ、閉店です。そこで、「今は少しひとりで整理したいんだね。あとで話せそうなら聞かせて」と言えると、関係の安全度が上がります。
つまり、愛着の視点を持つと、相手の行動をただの「わがまま」「冷たい」「重い」と決めつけにくくなります。その奥にある不安や防衛反応を見ることができるからです。人の行動は、心の氷山の先っぽです。水面下には、過去の経験、怖さ、期待、傷つき、安心への願いが沈んでいることがあります。
もちろん、愛着のタイプを知ったからといって、すべてが一瞬で解決するわけではありません。「私は不安型だから仕方ない」「あなたは回避型だからダメ」とラベル貼り大会を始めると、心理学がただの占いカードになってしまいます。大切なのは、分類して終わることではなく、「では、どうすれば少し安心して関われるか」を考えることです。
シェイヴァーさんの研究が教えてくれるのは、人は変われないということではありません。むしろ、安心できる関係の中で、人は少しずつ変わっていけるということです。心のクセはすぐには消えません。でも、信頼できる人との経験が積み重なると、「頼っても大丈夫かもしれない」「近づいても飲み込まれないかもしれない」「自分は大切にされてもいいのかもしれない」と、心の古い地図が少しずつ書き換わっていきます。
これは、人生における小さな地図修正です。
昔の地図には「ここから先は危険」と書かれていた場所に、今の経験が「ここには橋があります」と書き足してくれる。昔は渡れなかった川を、少しずつ渡れるようになる。人間関係の回復とは、そういう静かな工事なのかもしれません。
日常で活かすなら、まず自分の反応を観察することから始めるとよいです。
相手の返信が遅いとき、自分は不安になりやすいのか。
誰かに頼られたとき、重く感じて逃げたくなるのか。
親しくなるほど、相手を試したくなるのか。
困っていても、「大丈夫です」と言ってしまうのか。
こうした反応を責める必要はありません。「なるほど、自分の心はこうやって身を守ろうとしてきたんだな」と見るだけでいいのです。心のクセは、敵ではありません。昔の自分を守ってくれた古い防具です。ただ、今の生活では少し重すぎることがある。だから、脱げるところから少しずつ脱いでいけばいいのです。
フィリップ・シェイヴァーさんの研究は、私たちにこう教えてくれます。人は、安心できるつながりを求める生き物です。そして、そのつながり方には人それぞれのクセがあります。不安になりやすい人もいれば、近づくのが怖い人もいる。どちらも、ただ面倒な性格なのではなく、心が安全を探している姿なのです。
人間関係は、いつもスムーズな高速道路ではありません。ときどき渋滞します。道を間違えます。料金所で小銭が見つからないこともあります。でも、「自分はどんなときに不安になるのか」「相手はどんなときに距離を取りたくなるのか」を知ると、少し運転しやすくなります。
愛着の研究は、心のナビのようなものです。目的地まで勝手に連れて行ってくれるわけではありません。でも、「ここで不安が強まりやすいですよ」「この道は過去の経験で避けやすくなっていますよ」と教えてくれる。シェイヴァーさんの研究は、そのナビを通して、私たちに静かに語りかけています。
人は、安心できる誰かがいると、少し勇敢になれる。
そして、誰かにとっての安心できる存在になることは、その人の心に小さな港をつくることなのです。

フィリップ・シェイヴァー(Phillip Shaver)の論文一覧
1.『恋愛を“愛着のプロセス”としてとらえる』シンディ・ヘイザン、フィリップ・シェイヴァー(1987)
Hazan, Cindy, & Shaver, Phillip R.(1987). Romantic Love Conceptualized as an Attachment Process. Journal of Personality and Social Psychology, 52(3), 511-524.
DOI:10.1037/0022-3514.52.3.511
「恋愛って、ときめきとか相性の話でしょ?」と思っていたら、この論文はそこに「いや、その好き、じつは“心のよりかかり方”かもしれません」と切り込んできます。大人の恋愛を、子どものころの愛着のしくみとつなげて考えた、かなり有名な一本です。好きになると安心したい、不安になる、離れるとつらい。あの感じ、ただの気分ではなかったのか…と、恋を見る目がちょっと変わります。恋愛をロマンだけで終わらせず、心の土台からのぞいてみたい人にぴったりです。

