心理学の論文・著者検索「い」:意志も依存も「い」から始まる、心の研究者名鑑
「い」から始まる心理学の論文著者一覧
心理学における「い」とは?
心理学における「い」は、もしかすると「いったい、どうして?」の「い」かもしれません。
「いったい、どうして早く寝ようと思った夜ほど、動画をもう一本だけ見てしまうんだろう」
「いったい、どうして人に好かれたいのに、肝心なところでそっけない返事をしてしまうんだろう」
「いったい、どうして昨日はやる気満々だったのに、今日は靴下をはくだけで一仕事なんだろう」
人の心を見つめていると、「いったい、どうして?」が次から次へと出てきます。ひとつ解決したと思ったら、心の奥から別の疑問がぴょこんと顔を出す。まるで、叩いても叩いても別の穴から出てくるモグラたたきです。ただし相手はモグラではなく、自分の感情です。しかも、ときどき妙に理屈っぽい。
「今日は疲れているから休もう」
ここまではわかります。
ところが心は続けます。
「疲れているので、休む前に三時間くらいSNSを見ておこう」
どうしてそうなるのでしょう。休むなら、静かに休めばよさそうなものです。それなのに人間は、自分でも説明できない行動をして、あとから自分に首をかしげます。心理学は、そんな心の珍行動を笑って終わらせず、「そこにはどんな仕組みがあるのだろう」と考える学問です。
意志は、思っているほど一枚岩ではない
「い」と聞いて、まず思い浮かぶ心理学の言葉のひとつが「意志」です。
私たちは、意志が強ければ何でもできると思いがちです。
「明日から早起きする」
「今度こそ運動を続ける」
「甘いものは週末だけにする」
決意した瞬間の自分は、なかなか立派です。頭の中ではすでに朝日を浴びながら走り、健康的な朝食を食べ、仕事もてきぱき片づけています。未来の自分が、広告写真の人物みたいに輝いています。
ところが翌朝。
目覚まし時計が鳴ります。
未来の自分は、布団の中で丸まっています。
「本日の営業は終了しました」
まだ朝なのに、閉店です。
心理学は、こうした意志と行動のずれを研究してきました。人は「やりたい」と思うだけでは、必ずしも行動できません。周囲の状況、習慣、感情、疲れ、他人からの期待、自分にもできそうだという感覚など、いくつもの要素が絡み合っています。
つまり、意志は心の中に一本だけ立っている太い柱ではありません。細い糸が何本も集まり、なんとか一つの行動を引っぱっているようなものです。どれか一本が切れただけで、決意は玄関まで来たのに、靴をはかずに帰ってしまいます。
「やる気がないからできない」と自分を責める前に、「何が行動を止めているのだろう」と考えてみる。これだけでも、心との付き合い方は少し変わります。
依存は、心の弱さだけでは説明できない
「い」から始まる言葉には、「依存」もあります。
依存という言葉を聞くと、私たちはつい「意志が弱いからだ」と考えてしまいます。しかし、人が何かに頼りすぎてしまう背景は、そんなに単純ではありません。
寂しさをごまかすためかもしれません。
不安から逃げるためかもしれません。
うまくいかない現実の中で、そこだけが安心できる場所になっているのかもしれません。
人は、理由もなく何かにしがみつくわけではありません。外から見ると不思議な行動でも、本人の心の中では、なんとか今日を乗り切るための作戦になっていることがあります。
もちろん、その作戦が長く続けば、かえって生活を苦しくしてしまう場合もあります。しかし、「そんなもの、やめればいい」と言うだけでは、心は簡単に手を離してくれません。
心にも事情があります。
しかも、その事情を本人にさえ詳しく説明してくれないことがあります。
「どうしてやめられないんですか?」
「それがわかれば苦労しません」
まったく、そのとおりです。
心理学は、依存という行動だけを見るのではなく、その奥にある孤独、不安、安心感、報酬、習慣、人間関係などにも目を向けます。責めるためではなく、ほどくために見るのです。
結び目を力ずくで引っぱれば、ひもはもっと固くなります。けれど、「どこから絡まったのだろう」と丁寧に見ていけば、少しずつゆるむ場所が見つかります。
意欲は、待っていれば来るとは限らない
「い」には「意欲」もあります。
意欲は、かなり気まぐれです。
呼んでも来ない日があります。
「そろそろ作業を始めたいんですが」
返事がありません。
「締め切りが近いんですが」
まだ来ません。
「もう今日しかないんですが」
すると夜中になって、突然やって来ます。
「お待たせしました。今から本気を出しましょう」
遅いのです。
心理学の研究では、人の意欲は、単なる気分ではないと考えられています。「自分にもできそうだ」と思えるか。「やる意味がある」と感じられるか。自分で選んでいる感覚があるか。努力した先に、どんな未来が待っているか。そうしたものが意欲を支えています。
反対に、失敗ばかり続いたり、誰かに命令されている感じが強かったり、頑張っても報われないと思ったりすると、意欲はしぼみます。
心の中の風船から、ゆっくり空気が抜けるように。
それなのに私たちは、空気の抜けた風船に向かって言います。
「もっと飛べ」
風船も困るでしょう。
飛ぶためには、気合いだけではなく、空気が必要です。人の場合、その空気にあたるものが、安心感や達成感、意味、自信、周囲からの支えなのかもしれません。
「いま」の心も、研究の入り口になる
心理学における「い」は、「いま」の「い」でもあります。
心の問題は、いつも過去や未来にあるとは限りません。
「昔の失敗を引きずっている」
「将来が不安でたまらない」
そうした悩みもありますが、実際に私たちが生きているのは「いま」です。
いま、少し息が詰まっている。
いま、なぜか誰かの言葉が胸に残っている。
いま、頑張りたいのに、疲れて動けない。
その「いま」の感覚は、小さく見えても大切です。人の心は、いきなり大声で助けを求めるとは限りません。最初は、なんとなく落ち着かない、妙に眠い、いつものことが面倒に感じるといった、小さな変化として現れることがあります。
心は、ときどき遠慮深いのです。
玄関のチャイムを鳴らさず、窓の外からこちらを見ています。
「できれば気づいていただけると助かります」
そんな顔をしています。
心理学は、その小さな変化を見逃さないための視点を与えてくれます。原因をすぐに決めつけるのではなく、「いま、自分の中で何が起きているのだろう」と立ち止まる。その問いかけが、心を守る最初の一歩になることがあります。
「い」から始まる研究者たちを訪ねて
このページでは、「アドラーの昼寝」に収録している人物のうち、名前が「い」から始まる研究者を紹介しています。
研究者の名前だけを見ると、少し堅そうに感じるかもしれません。
論文タイトルも、たいてい一度では頭に入りません。
読んだ直後に、
「なるほど、つまり何だったっけ?」
となることもあります。
けれど、その研究の出発点をたどってみると、意外なほど身近な疑問に出会います。
なぜ人は、決めたことを実行できないのか。
なぜ誰かに頼りすぎてしまうのか。
なぜやる気が出る日と出ない日があるのか。
なぜ同じ出来事でも、人によって受け止め方が違うのか。
研究者たちは、白衣を着て人間の心を遠くから眺めていたわけではありません。私たちが日々つまずく場所にしゃがみ込み、「ここには何があるんだろう」と、長い時間をかけて観察してきた人たちです。
心理学の論文には、グラフや数字や専門用語が並びます。けれど、その奥には必ず、人間の生活があります。
朝起きられない人。
自信をなくした人。
誰かに愛されたくて疲れている人。
目標を立てたのに続かない人。
頑張っているのに、なぜか空回りしてしまう人。
論文は冷たい数字の集まりに見えて、実は、人の困りごとを何とか理解しようとした記録でもあるのです。
「い」から始まる研究者たちのページをたどりながら、あなた自身の中にある「いったい、どうして?」にも、そっと耳を澄ませてみてください。
意志が弱いと決めつけていたことに、別の理由が見つかるかもしれません。
依存だと思っていた行動の奥に、寂しさが隠れているかもしれません。
意欲がないと思っていた自分に、ただ休息が必要だったと気づくかもしれません。
心理学は、人をきれいに分類するための棚ではありません。
「あなたはこういう人です」と札を貼るための学問でもありません。
むしろ、簡単には説明できない人間の心を前にして、「なるほど、そんな事情もあったのか」と、見方を増やしてくれる学問です。
心は、ときどき面倒です。
気分屋です。
昨日と今日で言うことが変わります。
それでも、その面倒くささごと人間なのだと思います。
心理学の「い」は、「意志」や「依存」や「意欲」の「い」。
そして何より、「いったい、どうして?」と問いかける「い」です。
その問いは、自分を責めるためではありません。
自分をもう少し理解し、少しだけ扱いやすくするための問いです。
このページが、あなたの心にある小さな「いったい?」を、研究者たちと一緒に眺める入口になればうれしく思います。

アメリカ
- E・J・マシカンポ(E. J. Masicampo):人間の頭の中に居座る「まだ終わっていませんよ」という声を研究してきた社会心理学者
- イツェク・アイゼン(Icek Ajzen):「人は、なぜ“やろう”と思ったことを、実際にはやらないのか」という、人類が何度も負け続けてきた問題を研究した社会心理学者