ポール・シュロット(Paul Schrodt)の論文一覧:夫婦ゲンカの沈黙から、家族の会話の迷宮まで。言いたいのに言えない心を追いかけるコミュニケーション心理学さんぽ
ポール・シュロット(Paul Schrodt)のプロフィール
ポール・シュロット(Paul Schrodt)は、アメリカのテキサス・クリスチャン大学でコミュニケーション学を教えている研究者です。肩書きとしては、同大学のコミュニケーション研究の教授で、大学院教育にも関わっています。専門は、ざっくり言うと「人と人は、なぜ会話でこじれるのか」「家族や夫婦は、どんな話し方をすると関係が良くなったり悪くなったりするのか」を研究する分野です。
特に有名なのが、夫婦や家族の会話で起こる「要求する人」と「黙って引く人」のすれ違いです。たとえば、片方が「ちゃんと話してよ!」と追いかけ、もう片方が「今は無理……」と心のシャッターをガラガラ閉める。すると、追う側はさらに追い、逃げる側はさらに逃げる。まるで会話の追いかけっこが、いつの間にか家庭内マラソン大会になるような状態です。シュロットは、こうしたパターンが関係満足度や心の健康にどう関わるのかを調べてきました。
また、家族コミュニケーション、親子関係、ステップファミリー、対人葛藤なども重要な研究テーマです。ステップファミリーとは、再婚などによって新しくできた家族関係のことです。家族というのは、血のつながりだけでなく、日々の言葉づかいや気づかいで少しずつ編まれていく布のようなもの。シュロットの研究は、その布がどこでからまり、どこをほどけばよいのかを見ようとする、かなり実生活に近いコミュニケーション研究だと言えます。
おもしろいのは、彼の研究が「仲良くしましょう、以上!」みたいなふわっとした話で終わらないところです。会話の型、沈黙、対立、親子の板ばさみ感、家族内の空気などを、きちんと研究データとして見ていきます。家庭のリビングで起こる「なんでそこで黙るの問題」を、学問の虫めがねでじっくり観察している感じですね。
つまりポール・シュロットは、人間関係の“会話の詰まり”を研究するコミュニケーション学者です。夫婦ゲンカの沈黙、親子のすれ違い、家族の中で言葉が迷子になる瞬間。そうした日常の小さな火種を、「ただの性格の問題」で片づけず、関係のしくみとして読み解こうとする研究者です。言うならば、家族会話の交通整理員。赤信号だらけの人間関係に、「ここ、いったん深呼吸レーンを作りましょう」と教えてくれる人です。
参考文献・確認先:Texas Christian University:Paul Schrodt 公式プロフィール / Google Scholar:Paul Schrodt 論文・引用情報 / PubMed:Paul Schrodt 関連論文 / ResearchGate:Paul Schrodt 研究プロフィール

ポール・シュロット(Paul Schrodt)の研究から学べること
ポール・シュロットさんの研究から学べることを、ひとことで言うなら、「人間関係は、気持ちだけでできているのではなく、日々の“話し方のクセ”で、あたたかくもなるし、こじれもする」ということです。
これは、家族、夫婦、恋人、職場、支援の現場、どこでも使える話です。人間関係というと、つい「相性がいい」「性格が合わない」「価値観が違う」といった言葉で片づけたくなります。もちろん、それもあります。でもシュロットさんの研究を見ると、「どんなふうに話し合っているか」が、関係の空気をかなり左右していることがわかります。
シュロットさんは、テキサス・クリスチャン大学のコミュニケーション研究者で、対人コミュニケーションや家族コミュニケーションの分野で知られています。同大学の紹介では、全米コミュニケーション協会の対人コミュニケーション部門・家族コミュニケーション部門で役職を務めたことや、専門誌『Communication Monographs』の編集長であることが紹介されています。
シュロットさんの研究で特にわかりやすくて大事なのが、「要求する人」と「引っ込む人」のすれ違いです。
たとえば、夫婦や恋人、親子、職場の関係で、こんな場面はありませんか。
片方が「ちゃんと話してよ」「どう思ってるの?」「なんで返事してくれないの?」と迫る。
もう片方が「今は話したくない」「またその話?」「もういいよ」と黙る、避ける、部屋を出る。
すると、追う側はますます不安になって追いかける。逃げる側はますます息苦しくなって逃げる。はい、ここで人間関係の洗濯機が脱水モードに入ります。ぐるぐる回って、どちらも目が回るのに、問題はあまり乾かない。
この「片方が話し合いを求め、片方が引っ込む」というやり取りについて、シュロットさんは多数の研究をまとめた分析を行っています。その研究では、74件の研究、合計14,255人分のデータを整理し、このすれ違いの型が、人間関係の満足度やコミュニケーションの結果と中程度に意味のある関係を持つことが示されています。
ここから学べるのは、「会話がこじれるのは、どちらか一人だけが悪いとは限らない」ということです。
もちろん、暴言や無視、支配的な態度など、明らかに問題のある行動はあります。そこはきちんと分けて考える必要があります。でも、日常のすれ違いでは、「追いかける側」と「逃げる側」が、お互いに相手の不安を大きくしてしまうことがあります。
追いかける人は、関係を大事にしたいから話したい。
逃げる人は、責められている気がして守りに入る。
追いかける人は、逃げられるほど「大事にされていない」と感じる。
逃げる人は、追われるほど「自分の居場所がない」と感じる。
こうなると、二人とも本当は安心したいだけなのに、会話の形が不安を増やしてしまいます。まるで、火を消そうとして灯油を持ってくるようなものです。本人たちは一生懸命なのに、なぜか炎が大きくなる。人間関係あるあるの悲しい手品です。
シュロットさんの研究から学べる一つ目の知恵は、「話し合いは、内容より先に“型”を見ること」です。
たとえば、「お金のこと」「家事のこと」「仕事のこと」「子どものこと」「連絡の頻度」など、話題はさまざまです。でも、毎回同じように、片方が責めるように話し、片方が黙って引くなら、問題はその話題だけではありません。会話の型そのものが、関係をこじらせている可能性があります。
これは職場でも同じです。
上司が「報告して」「なんで言わないの」と詰める。
部下が「すみません」と言いながら、次からもっと報告しなくなる。
上司は「また隠している」と感じる。
部下は「言ったら怒られる」と感じる。
そして、報告・相談の橋が落ちます。現場には川だけが残ります。渡れません。
こういうときに必要なのは、「もっとちゃんと話しなさい」と言うことだけではありません。むしろ、「話しやすい形になっているか」を見直すことです。
「責めるためではなく、状況を一緒に整理したいです」
「まず事実だけ確認しましょう」
「今すぐ答えが出なくても大丈夫です」
「次から早めに言えるように、どこで詰まったか見ましょう」
こういう言葉があると、相手は少し話しやすくなります。会話の入口に、いきなり門番ではなく案内係を立たせる感じです。
二つ目の知恵は、「沈黙にも意味がある」と見ることです。
誰かが黙ると、つい「無視された」「やる気がない」「逃げている」と感じます。もちろん、無視で相手を傷つける場合もあります。そこは注意が必要です。ただ、黙る人の中には、頭の中で言葉を探している人、責められるのが怖い人、感情があふれそうで一度距離を取りたい人もいます。
つまり、沈黙はいつも「あなたなんてどうでもいい」という意味ではありません。ときには、「今話すと壊れそうだから、いったん止まっている」という心の非常停止ボタンかもしれません。
ただし、黙る側にも工夫が必要です。黙ったまま長時間放置されると、相手の不安はふくらみます。心の風船に空気が入り続けます。最後はパンッです。だから、黙るときには、こう言えると関係は少し守られます。
「今すぐ話すと強い言い方になりそうなので、少し時間をください」
「話したくないわけではなく、整理してから話したいです」
「30分後にもう一度話してもいいですか」
この一言があるだけで、沈黙は「拒絶」ではなく「整理の時間」になります。会話の一時停止ボタンに、ちゃんと説明書を貼るわけです。
三つ目の知恵は、「追いかける側も、言い方を少し変えると話し合いが変わる」ということです。
不安なときほど、人は強い言い方になります。「なんで?」「どうして?」「いつもそう」「ちゃんとして」。でも、この言葉は相手にとって、会話の招待状ではなく、召喚状に見えることがあります。呼ばれた瞬間、心が裁判所モードになります。
そこで、少しだけ言い方を変えます。
「責めたいわけではなく、不安になっているから確認したいです」
「あなたがどう考えているのか知りたいです」
「私はこう感じました。あなたの考えも聞きたいです」
「今後どうしたらお互いに楽になるか、一緒に考えたいです」
これだけで、相手の防御が少し下がることがあります。言葉は、同じ内容でも角度によって刺さったり、届いたりします。包丁も刃を向ければ怖いですが、料理に使えばおいしい味噌汁ができます。言葉にも持ち方があります。
シュロットさんの研究について、テキサス・クリスチャン大学の紹介記事では、この「要求と引きこもり」の型は、関係がすでに苦しいカップルほど悪影響が大きく、いったん大事なコミュニケーションの道がふさがると、再び開くのは難しくなりやすいと説明されています。
これは少し怖い話ですが、同時に大切な合図でもあります。
つまり、関係が完全にこじれる前に、「いつもの悪い回転」に気づくことが大事なのです。
「あ、また私が追いかけて、相手が逃げる形になっている」
「あ、また黙ることで相手を不安にさせている」
「あ、今は話題そのものより、話し方が危なくなっている」
こう気づけると、そこで一度ブレーキを踏めます。人間関係の事故は、スピードが上がる前に減速できるとかなり違います。
日常で使うなら、まずは「今、私たちは何について争っているのか」だけでなく、「どんな型で争っているのか」を見ることです。
片方が問い詰め、片方が黙る。
片方が説明しすぎ、片方が聞かなくなる。
片方が正論を並べ、片方が感情的になる。
片方が冗談で流し、片方がさらに傷つく。
こうした型に名前をつけると、少し距離が取れます。「あなたが悪い」ではなく、「この型がまた出てきたね」と見られるからです。これは、二人で敵を間違えないために大事です。敵は相手ではなく、こじれた会話の型かもしれません。
支援の場面でも、シュロットさんの視点は役立ちます。
利用者さんが話し合いを避けるとき、家族が強く迫っているのかもしれません。
家族が強く迫る背景には、不安や心配があるのかもしれません。
本人が黙るほど家族は不安になり、家族が迫るほど本人は黙る。
この輪っかを見つけられると、支援者は間に入って、会話の交通整理ができます。
「まずは責める言葉ではなく、心配していることを伝えてみましょう」
「本人さんは、今すぐ答えるより少し考える時間があると話しやすいかもしれません」
「今日は結論を出すより、互いに何に困っているかを整理しましょう」
こうすると、会話は少し安全になります。支援者は正解を押しつける人ではなく、こじれた糸をほどく人になります。糸は引っ張るほど結び目が固くなるので、そこは職人技です。
ポール・シュロットさんの研究が教えてくれるのは、人間関係の問題は「気持ちがあるかないか」だけではなく、「気持ちをどう伝え、どう受け取るか」によって大きく変わるということです。
大切に思っていても、責める形で伝えると相手は逃げます。
傷つけたくなくても、黙り続けると相手は不安になります。
解決したくても、会話の型がこじれていると、同じ場所をぐるぐる回ります。
だからこそ、人間関係では「正しいことを言う」だけでなく、「相手が受け取れる形で言う」ことが大切です。そして、相手が黙ったときにも、すぐに悪意と決めつけず、「今、何が起きているのか」を見ることが大切です。
会話は、ボール投げに似ています。強く投げすぎると相手は受け取れません。投げずに隠しても、キャッチボールは始まりません。相手が受け取れる速さで投げる。受け取ったら、ちゃんと返す。難しそうに見えますが、まずはこの小さな調整からでいいのです。
シュロットさんの研究は、私たちにこう語りかけています。
関係がこじれたとき、相手の性格を裁く前に、会話の型を見てみましょう。
追いかけすぎていないか。
引っ込みすぎていないか。
責める言葉になっていないか。
黙る理由を伝えられているか。
人間関係は、巨大なドラマのようでいて、実は日々の小さな言葉の積み重ねでできています。たった一言でこじれることもあります。でも、たった一言でほどけることもあります。
「責めたいわけじゃないんです」
「少し時間をください。でも後で話します」
「あなたの考えを聞きたいです」
「一緒に整理したいです」
こういう言葉は、人間関係の潤滑油です。ギシギシ鳴っていた扉が、少しだけ開きやすくなる。シュロットさんの研究は、その油の差し方を、コミュニケーションの視点から教えてくれるのです。

ポール・シュロット(Paul Schrodt)の論文一覧
1.『話し合いたい人、逃げたくなる人。関係をすれ違わせる“要求/撤退パターン”と、その心・関係・会話への影響を読み解くメタ分析レビュー』ポール・シュロット、ポール・L・ウィット、ジェナ・R・シムコウスキー(2014)
Schrodt, P., Witt, P. L., & Shimkowski, J. R. (2014). A Meta-Analytical Review of the Demand/Withdraw Pattern of Interaction and Its Associations with Individual, Relational, and Communicative Outcomes. Communication Monographs, 81(1), 28–58. DOI: 10.1080/03637751.2013.813632
「ねえ、ちゃんと話してよ!」と迫る人。
「今は無理……」と心のシャッターを閉める人。
この論文は、そんな夫婦やカップルに起こりがちな“追う人・引く人”の会話パターンを、過去の研究をまとめて大調査したものです。まるで恋愛版・会話の交通渋滞調査。すると、このすれ違いは関係満足度の低下やストレス、コミュニケーションの悪化と深く関係していることが見えてきます。読めば、「あ、うちの会話にも小さな渋滞あるかも」と思わず苦笑いしてしまう一本です。

