ミシェル・M・トゥガデ(Michele M. Tugade)の論文一覧:心がへこんだ日も、感情のバネはこっそり伸びているレジリエンス研究さんぽ
ミシェル・M・トゥガデ(Michele M. Tugade)のプロフィール
ミシェル・M・トゥガデ(Michele M. Tugade)は、アメリカのヴァッサー大学で心理学を教えている研究者です。
彼女が長年見つめてきたのは、「人の心は、つらい出来事のあと、どうやって立ち直るのか」という問題です。
人生というものは、ときどきこちらの予定表を無視して、急に困りごとを宅配してきます。
「ご注文の失敗です」
「頼んでいません」
「返品できません」
そんな日、人は悲しみや不安を感じます。それは当然のことです。トゥガデは、「いつでも笑顔でいれば大丈夫ですよ」という、少々まぶしすぎる話をしているわけではありません。
彼女が注目したのは、苦しい状況のなかでも、ほんの少し感じられる喜び、感謝、愛情、安心感などです。
たとえば、仕事で失敗して落ち込んでいるとき、友人のひと言に救われる。帰宅すると犬が、こちらの事情など知らずに全力で歓迎してくれる。温かい飲み物を飲んで、「まあ、今日はもう店じまいでいいか」と肩の力が抜ける。
こうした小さな前向きな感情は、問題を魔法の煙に変えて消してくれるわけではありません。しかし、縮こまった心を少しゆるめ、考え方や行動の選択肢を取り戻す手助けをしてくれます。
トゥガデの研究で特に知られているのが、立ち直る力の高い人は、前向きな感情を上手に利用して、嫌な出来事によって高ぶった心や身体を早く落ち着かせるという発見です。
つまり、立ち直る力のある人は、鋼鉄の心を持つ無敵の人ではありません。
落ち込むときは落ち込む。傷つくときは傷つく。ただし、その心の片隅には、小さな換気扇がついています。喜びや感謝が回り始めると、部屋いっぱいにたまった重たい空気が、少しずつ外へ出ていくのです。
現在はヴァッサー大学で教授を務めるとともに、心の回復力を研究する研究所を率いています。また、研究室の中だけにとどまらず、心の健康や幸福、心と身体のつながりなどについて、講演や研修を通して多くの人へ伝えています。
トゥガデの研究が教えてくれるのは、「つらいときこそ明るく考えなさい」という乱暴な精神論ではありません。
悲しみを追い出さなくてもいい。不安に退去命令を出さなくてもいい。その隣に、小さな喜びの椅子を一脚置いてみる。すると心は、思っていたよりもしなやかに、次の一歩を探し始めます。
ミシェル・M・トゥガデは、そんな人間の心に備わった、静かで頼もしい立ち直り方を研究している心理学者なのです。
参考文献・確認先:ヴァッサー大学:ミシェル・M・トゥガデ公式プロフィール / Google Scholar:Michele M. Tugade 論文・引用情報 / PubMed:Michele M. Tugade 関連論文

ミシェル・M・トゥガデ(Michele M. Tugade)の研究から学べること
ミシェル・M・トゥガデの研究から学べることは、「心の強さとは、へこまないことではない」ということです。
人生では、こちらが頼んでもいないのに、失敗、不安、気まずい会話などが、着払いで届くことがあります。
「本日の荷物です」
「受け取り拒否でお願いします」
「できません」
そんなとき、落ち込むのは弱いからではありません。心がきちんと出来事を受け止めている証拠です。
では、立ち直る力のある人は、何が違うのでしょうか。
トゥガデの研究が注目したのは、つらい状況のなかでも感じられる、喜び、感謝、愛情、安心といった小さな前向きな感情です。
たとえば、仕事で失敗した帰り道に、空が少しきれいだった。家族から「お疲れさま」と言われた。お風呂が思った以上に気持ちよかった。
問題そのものは、何も解決していません。
失敗はまだ失敗ですし、上司は急に仏像のような穏やかな顔にはなりません。それでも、心のなかに小さな余白ができます。
この余白が大切なのです。
人は強いストレスを感じると、考え方が狭くなります。
「もうだめだ」
「全部うまくいかない」
「私は人類代表として失敗した」
心の視野が、ストローの穴くらい細くなってしまうのです。
そこに小さな喜びや安心が入ると、心の視野が少し広がります。
「今日は失敗した。でも毎日ではない」
「誰かに相談してみよう」
「とりあえず、ご飯を食べてから考えよう」
立ち直る力とは、問題を笑顔で踏みつぶす力ではありません。縮こまった心をゆるめ、次にできることを探し直す力なのです。
また、前向きな感情は、悲しみや不安を追い出すための警備員でもありません。
「悲しみさん、退場してください」
「不安さん、ここは満席です」
そんなふうに無理やり感情を排除しようとすると、かえって苦しくなることがあります。
大切なのは、悲しいままでも、少しほっとする瞬間を持つことです。
不安が心のソファに座っていても、その隣に喜びや感謝が腰かけてもよい。心は一種類の感情しか入れないワンルームではありません。案外、相席のできる広い食堂なのです。
トゥガデの研究から学べるもう一つのことは、前向きな感情は、大事件でなくてもよいということです。
人生が変わるほどの幸福を、毎日準備する必要はありません。
好きな音楽を聴く。温かいものを飲む。誰かと少し笑う。今日できたことを一つ思い出す。
こうした小さな出来事が、心の回復を助けることがあります。
つまり、立ち直る力は、生まれつき装備された特別な鎧だけではありません。日々のなかで、小さな安心や喜びに気づくことで、少しずつ育てていける力でもあります。
もちろん、つらいときに「感謝しなければ」「楽しいことを探さなければ」と自分を追い込む必要はありません。
前向きな感情は宿題ではなく、休憩所です。
見つからない日は、そのまま休んでもいい。見つかった日は、「こんなところに椅子があったのか」と、少し腰かけてみればいいのです。
ミシェル・M・トゥガデの研究は、私たちにこう語りかけているようです。
「転ばない人にならなくていい。転んだ場所で、小さなうれしさを杖にして、ゆっくり起き上がればいい」
心の強さとは、傷つかない硬さではありません。
傷ついても、もう一度しなやかに形を取り戻していく力なのです。

ミシェル・M・トゥガデ(Michele M. Tugade)の論文一覧
1.『心が折れそうなとき、前向きな感情が助走になる-レジリエンスの高い人が、つらい経験から立ち直るしくみ』ミシェル・M・トゥガデ、バーバラ・L・フレドリクソン(2004)
Tugade, M. M., & Fredrickson, B. L. (2004). Resilient individuals use positive emotions to bounce back from negative emotional experiences. Journal of Personality and Social Psychology, 86(2), 320–333. DOI:10.1037/0022-3514.86.2.320
「立ち直る力がある人って、嫌なことにも平気な鉄人?」。いいえ、ちゃんと落ち込みます。この論文が見つけたのは、そんな人ほど喜びや感謝などの前向きな感情を使い、ストレスで高ぶった心と身体を早く平常運転へ戻していること。つまり心の強さとは、へこまない装甲ではなく、へこんでも戻る“感情のバネ”なのです。つらい日に小さな笑いが役立つ理由を、心拍の変化まで調べて確かめた一篇。あなたの心にも、見えないバネが眠っているかもしれません。

