リサ・フェルドマン・バレット(Lisa Feldman Barrett)の論文一覧:怒りも不安も“いきなり発生”ではなかった?感情のからくりをかなり本気で調べた論文たち

リサ・フェルドマン・バレット(Lisa Feldman Barrett)の論文を読む女性
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リサ・フェルドマン・バレット(Lisa Feldman Barrett)のプロフィール

リサ・フェルドマン・バレットは、ひとことで言うと、「感情って、勝手にポンと出てくるものじゃないのでは?」を、かなり本気で追いかけてきた研究者です。心理学と脳の研究をまたぎながら、人の気持ちのしくみを調べてきた人で、現在はノースイースタン大学の特別教授を務め、マサチューセッツ総合病院やハーバード大学医学部にも関わっています。しかも、心理学と神経科学の分野で、とても多く引用されている研究者の一人です。

この人のおもしろいところは、「怒りは怒りの顔」「悲しみは悲しみの顔」みたいな、いかにも教科書っぽい整理で止まらないところです。むしろ、「感情は脳がその場その場で組み立てている面がある」と考えていて、感情を“できあいの商品”ではなく、“脳の即席料理”のように見ようとした研究者なんですね。代表的な考え方として、感情は生まれつき完全な形で並んでいるのではなく、身体の状態や過去の経験、文化などが合わさって形づくられるという立場で知られています。

経歴をたどると、カナダのトロント生まれで、トロント大学やウォータールー大学で学びました。もともとは臨床心理の道を目指していたものの、大学院時代に研究でうまく再現できない現象に何度もぶつかり、そこから「感情って、そもそも何だろう?」という大きな問いに進んでいったようです。ペンシルベニア州立大学、ボストンカレッジ、そして現在のノースイースタン大学へと研究の場を広げながら、感情研究の中心人物になっていきました。

一般向けの本でもよく知られていて、『感情はこうしてつくられる』や『脳についての七つ半の話』のような本で、専門的な研究を「なるほど、脳ってそんな手つきで世界を見ているのか」と思える形にして届けています。研究者なのに、話している内容が「難しい」だけで終わらず、「え、じゃあ自分がいつも感じている不安や怒りの見え方も変わるの?」と日常にまで侵入してくる。そこが、この人の強さです。

参考文献・確認先: Northeastern University:Lisa Feldman Barrett 公式プロフィール / Lisa Feldman Barrett 公式サイト / Google Scholar:Lisa Feldman Barrett 論文・引用情報 / PubMed:Lisa Feldman Barrett 関連論文

阿部牧歌(管理人)
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リサ・フェルドマン・バレット(Lisa Feldman Barrett)の研究から学べること

リサ・フェルドマン・バレットさんの研究から学べることを、ひとことで言うなら、「感情は、心の奥からポンッと出てくる完成品ではなく、脳が体の状態・過去の経験・今の状況を材料にして作っている“意味づけ”である」ということです。

これ、かなり面白い話です。ふつう私たちは、「怒り」「悲しみ」「不安」「喜び」みたいな感情が、体の中に最初から箱詰めされていて、何かが起きるとその箱がパカッと開く、と思いがちです。怒り箱、悲しみ箱、不安箱。脳内に感情の押し入れがあって、状況に応じて係員が「今回は怒りですね」と取り出してくる感じです。

でも、バレットさんの研究は、その見方に「ちょっと待った」をかけます。

バレットさんは、アメリカのノースイースタン大学の心理学・神経科学の研究者で、感情が脳の中でどのように作られるのかを研究してきました。彼女の有名な考え方は「構成された感情の理論」と呼ばれ、感情は脳の中に最初から固定された部品として存在するのではなく、脳がその場その場で作り出しているものだと考えます。2017年の論文でも、従来の感情研究が「怒り」「恐怖」などの日常的な感情分類を脳の中にそのまま探そうとしてきたことに疑問を投げかけています。

では、感情はどう作られるのでしょうか。

ざっくり言うと、脳はいつも「今、体はどうなっている?」「この状況は何を意味する?」「過去に似た場面はあった?」と予測しています。心臓がドキドキしている。胃が重い。肩に力が入っている。目の前に上司がいる。メールの件名に「至急」と書いてある。こういう材料を脳がまとめて、「これは不安かもしれない」「これは怒りかもしれない」「これはワクワクかもしれない」と意味づけるのです。

つまり、感情は脳の料理です。

材料は、体の感覚、過去の記憶、言葉、文化、今の状況。脳という料理人が、それらをまな板の上に並べて、「今日の一品は不安の煮込みです」と出してくる。しかも、この料理人、けっこう予測で作ります。注文が入ってから作るのではなく、「たぶんこういう料理が必要でしょう」と先回りするのです。バレットさんは一般向けの著書でも、脳が感情生活を作り出すしくみを説明しています。

ここから学べる一つ目の知恵は、「感情を事実そのものだと思い込みすぎないこと」です。

たとえば、朝起きて体が重い。眠い。胃が少しもたれている。すると脳は、「今日は最悪の日かもしれない」と解釈することがあります。でも実際には、単に寝不足かもしれません。昨日の夕食が重かっただけかもしれません。天気が悪いだけかもしれません。

つまり、「なんだか不安だ」は、「危険が確定した」という意味ではありません。

「イライラする」は、「相手が悪いに決まっている」という意味ではありません。

「落ち込む」は、「人生が終わった」という意味ではありません。

感情は大切な情報ですが、絶対的な判決ではないのです。心の裁判官が木槌を振り下ろす前に、「証拠を確認しましょう」と言っていいのです。

二つ目の知恵は、「体の状態を整えると、感情も変わりやすい」ということです。

バレットさんは、脳の重要な仕事を「体の予算管理」として説明しています。脳は、体のエネルギーをどう使うかを予測し、調整しています。睡眠不足、空腹、疲労、慢性的な緊張があると、脳の予測もネガティブ寄りになりやすい。つまり、心が荒れていると思っていたら、実は体の会計が赤字だった、ということがあるのです。バレットさんの関連書籍サイトでも、脳は体の必要を予測しながらエネルギーを管理する存在として説明されています。

これは日常でかなり使えます。

「自分はメンタルが弱い」と思う前に、まず寝たかどうか。

「人間関係が全部つらい」と結論づける前に、まず食べたかどうか。

「もう何もかも嫌だ」と思う前に、まず休めているかどうか。

もちろん、睡眠とごはんですべて解決するわけではありません。でも、体がガソリン切れのまま人生の高速道路を走ろうとすると、感情はかなり荒れます。車に燃料がないのに「なぜ走れないんだ、根性を出せ」と叫んでも、車は困ります。人間も同じです。

三つ目の知恵は、「感情の言葉を増やすと、自分を助けやすくなる」ということです。

バレットさんの考え方では、感情は脳が意味づけるものなので、感情を表す言葉や概念をたくさん持っていることが大切になります。たとえば、全部を「しんどい」でまとめてしまうと、対処もぼんやりします。

「しんどい」の中身が、疲労なのか。

不安なのか。

怒りなのか。

孤独なのか。

緊張なのか。

罪悪感なのか。

寂しさなのか。

ここを分けられると、対処が変わります。

疲労なら休む。

不安なら情報を整理する。

怒りなら境界線を考える。

孤独なら人とつながる。

緊張なら体をゆるめる。

感情の名前を細かくすることは、心の道具箱を増やすことです。ドライバー一本で家中を修理しようとすると大変です。ねじにはドライバー、釘には金づち、ゆるんだ心には休憩。道具は多いほうが助かります。

四つ目の知恵は、「表情だけで人の感情を決めつけないこと」です。

バレットさんの研究は、「怒っている顔」「悲しんでいる顔」のように、表情と感情が一対一で決まるという考え方にも慎重です。人は怒っていても笑うことがあります。悲しくても無表情になることがあります。不安でも平気な顔をすることがあります。文化や状況によっても、表情の意味は変わります。感情は固定された顔写真ではなく、文脈の中で作られるものなのです。

これは支援や職場でとても大事です。

「笑っているから大丈夫」

「黙っているから不満がない」

「表情が硬いから怒っている」

「泣いていないからつらくない」

こう決めつけるのは危険です。人の内側は、外側だけではわかりません。外は晴れマークでも、心の地下では水漏れしていることがあります。

だから、相手の気持ちは当てにいくより、聞いたほうがいいのです。

「今、どんな感じですか」

「疲れていますか。それとも不安のほうが強いですか」

「表情が少し硬く見えたのですが、何か気になることがありますか」

こう聞くと、決めつけではなく確認になります。会話は占いではありません。聞いていいのです。

五つ目の知恵は、「感情は変えられる余地がある」ということです。

もし感情が体の中に最初から固定されたスイッチなら、私たちはかなり無力です。「怒りスイッチ入りました。終了です」「不安スイッチ入りました。撤退です」となる。でも、バレットさんの理論では、感情は脳が予測し、意味づけて作るものです。ということは、体を整える、状況を見直す、言葉を増やす、経験を重ねることで、感情の作られ方にも少しずつ影響できる可能性があります。

たとえば、人前で話す前のドキドキを「危険だ」と意味づけると不安になります。でも「体が準備している」と意味づけると、少し違って感じられることがあります。

仕事前の緊張を「失敗の予兆」と見るか、「集中するための準備」と見るか。

誰かの無表情を「嫌われた」と見るか、「相手も疲れているのかも」と見るか。

体のだるさを「人生が重い」と見るか、「睡眠不足の請求書が来た」と見るか。

意味づけが変わると、感情も少し変わります。もちろん、魔法のように一瞬で消えるわけではありません。でも、感情との付き合い方は変えられます。

支援の場面では、この考え方はとても使えます。

利用者さんが「不安です」と言ったとき、ただ「大丈夫ですよ」と言うだけではなく、「その不安は、どんな体の感じとして出ていますか」「何が起きると脳が予測している感じですか」「別の見方をするとしたら、どんな可能性がありますか」と一緒に整理できます。

これは、感情を否定することではありません。むしろ、感情を材料ごとに見ていくことです。カレーが辛すぎるときに、「辛いと思うな」と言っても無理です。材料を見る。スパイスが多いのか、煮込みすぎたのか、水を足せるのか。感情も同じです。

リサ・フェルドマン・バレットさんの研究が教えてくれるのは、感情は私たちを支配する謎のモンスターではなく、脳が体と世界を理解しようとして作る“意味の物語”だということです。

だから、感情が出てきたときに、すぐ「これが真実だ」と思わなくていい。

体の状態を確認していい。

言葉を細かくしていい。

文脈を見直していい。

相手の感情を決めつけず、聞いていい。

感情は、敵ではありません。脳が「今の状況をこう理解しました」と出してくる仮の説明です。ときどき当たります。ときどき外れます。たまに寝不足でかなり雑な説明をしてきます。

バレットさんの研究は、私たちにこう語りかけています。

「感情に飲み込まれる前に、その感情がどう作られているかを見てみましょう」

「体の声、過去の経験、今の状況、言葉の使い方が、感情を作っています」

「だからこそ、感情は大切にしながらも、少し距離を取って扱えるのです」

人間の感情は、冷凍食品のように完成品で出てくるわけではありません。脳が毎日、体と経験と世界を混ぜ合わせて作る手料理です。焦げる日もあります。味が濃い日もあります。でも、材料を知れば、少しずつ味つけを変えられる。

バレットさんの研究は、その感情料理の台所をのぞかせてくれる、なんとも刺激的で実用的な研究なのです。

阿部牧歌(管理人)
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リサ・フェルドマン・バレット(Lisa Feldman Barrett)の論文一覧

1.『親密さは、人と人とのやりとりの中で育つ――自分を語ること、相手が語ってくれること、そして「ちゃんと受けとめてもらえた」と感じることの大切さ』ジャン=フィリップ・ロランソー、リサ・フェルドマン・バレット、ポーラ・R・ピエトロモナコ(1998)

Laurenceau, Jean-Philippe, Barrett, Lisa Feldman, & Pietromonaco, Paula R. (1998). Intimacy as an Interpersonal Process: The Importance of Self-Disclosure, Partner Disclosure, and Perceived Partner Responsiveness in Interpersonal Exchanges. Journal of Personality and Social Psychology, 74(5), 1238-1251. DOI: 10.1037/0022-3514.74.5.1238

親密さって、「深い話をしたら自動で生まれるんでしょ?」と思いがちですが、この論文は「いや、そこに“ちゃんと受け止めてもらえた感じ”がないと育ちません」と教えてくれます。自分が話すこと、相手も話してくれること、そして「わかろうとしてくれた」と感じること。この三つがそろって、心の距離はじわっと縮む。恋愛も友情も、会話はただの言葉の交換じゃないぞ……と、静かに胸を刺してくる一本です。

阿部牧歌(管理人)
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この論文の要約を読む
【論文要約】人はどうやって親しくなるのか? 研究からわかった「わかってもらえた」が心を近づけるしくみ
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