ヨアヒム・I・クルーガー(Joachim I. Krueger)の論文一覧:自尊心の王冠に、そっと「ほんとに似合ってる?」と聞いた社会心理学のツッコミ職人
ヨアヒム・I・クルーガー(Joachim I. Krueger)のプロフィール
ヨアヒム・I・クルーガーは、アメリカのブラウン大学で心理学を教える社会心理学者です。研究テーマは、人が「自分」や「他人」や「集団」をどう見ているのか、そしてその見方が判断や行動にどう影響するのか、というところにあります。ブラウン大学の紹介でも、自己認識、対人関係、集団関係、信頼、権力、リーダーシップなどを研究テーマとしていることが示されています。
彼の研究をひとことで言うなら、
「人間の心の中にある“自分びいき係”を、となりで静かに観察している研究者」
という感じです。
私たちは、つい自分のことを少しよく見積もります。
「まあ、私は平均よりは親切かな」
「判断力も、まあまあ上の方じゃない?」
「人を見る目? ありますあります。自分で言うのもなんですが」
……と、心の中の小さな広報部が、今日もせっせと自分のパンフレットを刷っているわけです。
クルーガーは、そのパンフレットを見て、
「なるほど。では、その“平均より上”という平均は、いったいどこから来ましたか?」
と、やさしく赤ペンを入れるタイプの研究者です。
特に知られているテーマのひとつが、自己高揚バイアスです。これは、自分を実際より少しよく見たり、他人より好ましく見たりする心のクセのことです。クルーガーは、自分や他人をどう評価するか、そこにどんなズレが生まれるかを研究してきました。1998年の論文では、自己高揚バイアスを「社会的な基準」とのズレとしてとらえる考え方を示しています。
また、クルーガーの関心は「自尊心」だけにとどまりません。人が集団をどう見るか、相手を信頼するか、協力するか、それとも駆け引きするか。つまり、心の中の小さな会議室で、自分・他人・集団・損得・信頼がわちゃわちゃ議論している場面を、心理学の虫眼鏡でのぞいている研究者でもあります。
有名な共著論文には、ロイ・バウマイスターらと書いた「高い自尊心は、本当に良い成績や人間関係や幸福につながるのか?」という論文があります。タイトルだけ見ると「自尊心さん、ちょっと職員室まで来なさい」と呼び出されているような雰囲気です。自尊心は大事だけれど、「高ければ何でもうまくいく」というほど単純ではない。そんな、人間の心にありがちな“よさそうな話”を、落ち着いて点検した研究です。
クルーガーの魅力は、人間をバカにするのではなく、人間の判断のクセを、ちょっと笑えるくらい正直に見つめるところにあります。
私たちは、自分を守るために少し盛る。
人と比べるために、ものさしを取り出す。
集団を見るときには、つい「自分たち」と「あの人たち」に分けてしまう。
クルーガーの研究は、そんな心の小芝居を「だめだ」と叱るのではなく、
「うんうん、人間ってそういうところあるよね。でも、そこをちゃんと見てみようか」
と、静かなランプを灯してくれるような研究です。
つまり、ヨアヒム・I・クルーガーは、
自尊心の王冠が少し斜めにかぶられているときに、そっと鏡を差し出してくれる社会心理学者
なのです。
参考文献・確認先:ブラウン大学 公式プロフィール:Joachim Krueger / Google Scholar:Joachim Krueger 論文・引用情報 / PubMed:Joachim I. Krueger 関連論文

ヨアヒム・I・クルーガー(Joachim I. Krueger)の研究から学べること
ヨアヒム・I・クルーガーの研究から学べることは、ひとことで言えば、「人間は、自分のことをちょっと盛る。でも、それはただの見栄ではなく、心を守る工夫でもある」ということです。
私たちは、自分について考えるとき、完全に公平な審判員にはなかなかなれません。
「自分は平均より少し親切だと思う」
「人を見る目は、まあまあある方だと思う」
「判断力? うん、そこそこ信頼していいんじゃないかな」
こんなふうに、心の中の小さな応援団が、いつも自分にだけ少し大きめの旗を振ってくれるわけです。ありがたいですね。けれど、全員が「自分は平均以上」と思っていたら、平均とはいったい何者なのか。平均さん、会議室のすみで困っております。
クルーガーの研究は、そうした「自分をよく見る心のクセ」を、ただ笑って終わらせません。むしろ、「なぜ人はそう考えるのか」「その考え方は人間関係にどんな影響を与えるのか」を丁寧に見ていきます。
ここから学べる大切なことは、自分を信じることと、自分を過信することは別物だということです。
自分を信じることは、心の背中にあたたかい上着をかけるようなものです。寒い日にも歩いていける力になります。
でも、自分を過信することは、地図を見ずに「まあ、私なら着くでしょう」と森に入っていくようなものです。しばらくすると、木と木と木と木です。全部、木です。
つまり、自尊心は大切です。ただし、「自分はすごい」と大声で叫ぶだけでは足りません。そこに、「でも、私は間違えることもある」「他の人の見方にも学ぶところがある」という謙虚さが加わると、心のバランスがぐっとよくなります。
クルーガーの研究は、私たちにこう教えてくれます。
自分を少しよく見てしまうのは、人間らしい。
でも、そのまま突っ走ると、ちょっと危ない。
だから、自分の心の応援団の声を聞きつつ、ときどき審判員の声にも耳をすませよう。
これは、仕事でも、人間関係でも、とても役に立つ考え方です。
たとえば、誰かと意見が合わないとき。私たちはつい、「相手がわかっていない」と思いがちです。でも、もしかすると自分の見方にも、少しだけ都合のよい編集が入っているかもしれません。心の中の編集長が「ここはカットで」「ここは美談にしましょう」と、こっそり原稿を直しているのです。
そんなときに、クルーガーの研究は、そっと肩をたたいてくれます。
「その自信、本当に根拠がありますか?」
「相手の見方にも、一理ありませんか?」
「自分を守るために、少し話を盛っていませんか?」
少し耳が痛いですが、ありがたい問いです。まるで、心の鏡についた指紋を、やわらかい布でふいてくれるような研究です。
クルーガーの研究から学べるのは、自分を責めることではありません。
自分の心のクセに気づくことです。
人は、自分をよく見たい。
人は、自分の属する集団をよく見たい。
人は、自分の判断を正しいと思いたい。
それは自然なことです。けれど、その自然さに気づけると、私たちは少しだけ賢くなれます。自分の自信にブレーキをつけるのではなく、ハンドルをつけることができるのです。
ヨアヒム・I・クルーガーの研究は、「もっと自信を持とう」と単純に励ます研究ではありません。
むしろ、「自信を持つなら、ちゃんと鏡も見ようね」と教えてくれる研究です。
心の王冠をかぶるのは悪くありません。
ただし、ときどき角度を確認する。
それくらいのやわらかな自己理解が、私たちを人間関係の迷子から救ってくれるのです。

ヨアヒム・I・クルーガー(Joachim I. Krueger)の論文一覧
1.『高い自尊心は、本当に人生をよくするのか? – 成果・人間関係・幸福・健康的な暮らしをめぐる自尊心研究の大検証』ロイ・F・バウマイスター、ジェニファー・D・キャンベル、ヨアヒム・I・クルーガー、キャスリーン・D・ヴォース(2003)
Baumeister, R. F., Campbell, J. D., Krueger, J. I., & Vohs, K. D. (2003). Does High Self-Esteem Cause Better Performance, Interpersonal Success, Happiness, or Healthier Lifestyles? Psychological Science in the Public Interest, 4(1), 1–44. DOI:10.1111/1529-1006.01431
「自尊心が高ければ、成績も人間関係も健康もぜんぶ良くなるんでしょ?」と思ったあなた。はい、自尊心さん、ちょっと職員室へ。バウマイスターたちはこの論文で、「自信満々=人生万能説」をかなり冷静に点検します。結果は意外と辛口。自尊心は幸せ感とは関係しやすいけれど、成績や成功を魔法のように押し上げるとは限らない。心の王冠、かぶるのはいい。でもサイズ確認は必要です。

