ジャニス・K・キーコルト=グレイザー(Janice K. Kiecolt-Glaser)の論文一覧:ストレスという名の小石が、体の池に波紋を広げる心理学さんぽ

ジャニス・K・キーコルト=グレイザー(Janice K. Kiecolt-Glaser)の論文を読む女性
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ジャニス・K・キーコルト=グレイザー(Janice K. Kiecolt-Glaser)のプロフィール

ジャニス・K・キーコルト=グレイザーは、アメリカの健康心理学者・臨床心理学者です。現在はオハイオ州立大学医学部で、行動医学研究所の所長を務める研究者として紹介されています。専門は、ざっくり言うと「心のストレスが、体の免疫や炎症、ホルモン、代謝にどう影響するのか」を調べる分野です。つまり、心と体のあいだにある“見えない連絡網”を、虫眼鏡でじっくり見てきた人ですね。

彼女の研究のおもしろいところは、「ストレスって気分の問題でしょ?」で終わらせないところです。たとえば、夫婦げんか、介護の負担、うつ気分、日々のいらだちなどが、免疫や炎症反応にまで影響することを研究してきました。心の中で「もう勘弁してくれ」と小さな係長が叫んでいると、体の奥の免疫チームまで「え、こちらも緊急会議ですか?」とざわつき始める。そんな心身のつながりを、科学的に明らかにしてきた研究者です。

特に有名なのは、ストレスと免疫の関係、夫婦関係と健康、傷の治り方、炎症、加齢、うつ、食事と体の反応などに関する研究です。オハイオ州立大学の紹介でも、彼女の研究は「ストレスやうつが、免疫・内分泌・代謝・腸内細菌にどう影響するか」に焦点を当てているとされています。ここまでくると、心理学というより「心の天気が、体の農作物にどう影響するか」を調べる学問みたいで、なかなか壮大です。

また、彼女は「精神神経免疫学」という分野の先駆者の一人としても知られています。これは名前だけ見ると、研究室の扉に貼ってあったら三度見するくらい難しそうですが、意味はかなり身近です。心、脳、神経、免疫がバラバラに働いているのではなく、じつは同じグループチャットに入っている、という考え方です。嫌なことが続くと体調を崩しやすい、安心できる関係があると回復しやすい。そうした日常感覚を、きちんと実験やデータで確かめてきたのが、キーコルト=グレイザーの大きな功績です。

受賞歴も立派で、アメリカ心理学会の「科学的貢献賞」を2018年に受賞しており、心理・社会的要因がホルモン、免疫、代謝反応に与える影響の理解に大きく貢献したことが評価されています。また、アメリカ国立医学アカデミーの会員にも選ばれていると紹介されています。

ひとことで言うなら、ジャニス・K・キーコルト=グレイザーは、「心のストレスが、体の奥の会議室でどんな議題になっているのか」を調べ続けてきた研究者です。夫婦げんか、介護疲れ、うつ、孤独、ストレス。そうした人生の“しんどい小石”が、免疫や炎症という体の水面にどんな波紋を広げるのか。彼女の研究は、その波紋をていねいに読み解く、心と体の翻訳機のような仕事だと言えます。

参考文献・確認先:オハイオ州立大学医学部:Janice K. Kiecolt-Glaser 公式プロフィール / Google Scholar:Janice K. Kiecolt-Glaser 論文・引用情報 / PubMed:Janice K. Kiecolt-Glaser 関連論文

阿部牧歌(管理人)
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ジャニス・K・キーコルト=グレイザー(Janice K. Kiecolt-Glaser)の研究から学べること

ジャニス・K・キーコルト=グレイザー(Janice K. Kiecolt-Glaser)の研究から学べることは、ひとことで言うと、「心のストレスや人間関係の空気は、体の中までちゃんと届いている」ということです。

これ、なかなか衝撃的です。私たちはつい、心と体を別々の部屋に住まわせて考えがちです。「心は心、体は体。はい、別会計でお願いします」みたいな感じですね。でもキーコルト=グレイザーさんの研究を見ていると、どうやらそう簡単には分けられません。心の部屋で大騒ぎが起きると、体の部屋にも「なんか隣、騒がしくない?」と振動が伝わるのです。

キーコルト=グレイザーさんは、心・神経・免疫のつながりを研究する分野で大きな業績を残してきた研究者です。オハイオ州立大学の紹介では、行動や心理が免疫機能や健康にどう関わるかを扱う「精神神経免疫学」の研究者として説明されており、250本以上の論文・章・著作に関わってきたとされています。

この分野をざっくり言うと、「ストレスを感じると、体の守り方や炎症の起こり方はどう変わるの?」を調べる研究です。なんだか難しそうですが、要するに「心の天気が、体の農作物に影響するか」という話です。心がずっと台風なら、体の畑も無傷ではいられないかもしれない、ということですね。

特に有名なのが、夫婦げんかと傷の治り方を調べた研究です。夫婦に小さな皮膚の傷を作り、ある日は支え合うような会話をしてもらい、別の日には対立する話題について話してもらいました。その結果、対立的な会話のあとでは傷の治りが遅くなり、敵意の強い夫婦では傷が治る速さがかなり遅かったことが報告されています。研究では、敵意の高い夫婦の傷の治りは、敵意の低い夫婦の約60%の速さだったとされています。

これ、すごくないですか。夫婦げんかが「気分が悪い」で終わらず、皮膚の修復にまで関わる可能性があるのです。つまり、言葉のトゲは心に刺さるだけではなく、体の修理工場にも「本日の作業、遅れます」と連絡してしまうわけです。体内の修理職人たちが、ヘルメットをかぶったまま「また夫婦会議が荒れてますね……」と手を止めている姿が浮かびます。もちろん実際に職人がいるわけではありませんが、イメージとしてはそんな感じです。

ここから学べるのは、「人間関係のストレスを軽く見ないこと」です。

たとえば、毎日ぎすぎすしたやりとりが続く。何か言うたびに責められる。小さなミスを大きく責められる。家でも職場でも安心できる場所がない。こういう状態が続くと、心はずっと警戒モードになります。警戒モードとは、体にとってもけっこう大変です。心の警備会社が24時間営業になっている状態です。防犯カメラもライトもつきっぱなし。電気代、つまり体力がどんどん減っていきます。

キーコルト=グレイザーさんの研究は、「ストレスは気の持ちようです」とは言いません。むしろ、ストレスは免疫、炎症、老化に関わる体の仕組みに影響しうるものとして扱っています。オハイオ州立大学医学部の紹介でも、彼女の研究テーマとして、親密な関係、炎症、健康、がんにおけるストレスと炎症などが挙げられています。

つまり、心のしんどさは、体から見ても「まあ、ただの気分でしょ」とスルーできるものではないのです。心と体は、別居していません。同じ家に住んでいます。しかも壁が薄いです。心の台所で鍋が吹きこぼれると、体のリビングにも湯気が流れてきます。

では、私たちはこの研究から何を学べばいいのでしょうか。

まず、「人間関係の空気を整えることは、健康管理でもある」ということです。食事、睡眠、運動はもちろん大事です。でも、毎日強い対人ストレスの中にいると、せっかく野菜を食べても、心の中で炎上鍋パーティーが続いているようなものです。もちろん野菜は大事です。ブロッコリーに罪はありません。でも、体を守るには、心の環境も見る必要があります。

たとえば夫婦や家族、職場で意見が合わないことはあります。違いがあるのは自然です。問題は、違いを話すときに、相手を敵にしてしまうことです。「なんでできないの?」「いつもそうだよね」「あなたは本当に……」と、人格まで攻撃する言葉が増えると、会話は解決ではなく戦場になります。言葉の皿投げ大会です。割れるのは皿だけではなく、安心感です。

大切なのは、対立をなくすことではありません。対立の仕方をやわらかくすることです。

「あなたが悪い」ではなく、「私はこう感じた」。
「いつもそう」ではなく、「今回のこの場面が気になった」。
「もう無理」ではなく、「このままだとしんどいから、少し話したい」。

これだけでも、言葉の角が少し丸くなります。角が丸くなると、相手の心に刺さりにくくなります。会話は、包丁にもなれば、包帯にもなります。どちらにするかは、言い方でかなり変わります。

次に学べるのは、「支え合う関係は、体にもやさしい可能性がある」ということです。キーコルト=グレイザーさんの夫婦研究では、対立的な会話と支え合う会話が比較されています。支え合う会話のように安心できるやりとりは、体にとっても別の反応を引き出す可能性があります。

これは、日常でも納得できます。誰かに安心して話せたあと、体の力がふっと抜けることがありますよね。肩が下がる。呼吸が深くなる。顔のこわばりがゆるむ。あれは単なる気分ではなく、体も「ここは安全かもしれません」と判断しているのかもしれません。

人間は、安心すると回復しやすくなります。逆に、ずっと警戒していると、回復のスイッチが入りにくくなります。スマホで言えば、常に高負荷アプリが動いている状態です。どれだけ充電しても、裏で電池を食われる。ストレスの強い人間関係は、この“裏で動くアプリ”になりやすいのです。しかも通知が多い。うるさい。

また、キーコルト=グレイザーさんの研究からは、「介護や慢性的なストレス」の重要性も見えてきます。長く続くストレスは、一時的なイライラとは違います。ずっと背中に重いリュックを背負っているようなものです。最初は歩けても、長く続くと腰も肩も心も悲鳴をあげます。慢性的なストレスと炎症、免疫の関係は、彼女の研究領域の大きな柱です。

ここで大事なのは、しんどい人に「もっと強くなれ」と言わないことです。長くストレスを受けている人に必要なのは、根性の追加注文ではありません。休息、支援、見通し、相談できる相手、負担の分担です。心のリュックが重すぎるなら、筋トレだけでなく、中身を減らす必要があります。石を詰めたまま「姿勢よく歩きましょう」では、なかなか酷です。

日常に活かすなら、まずは自分の体のサインを観察することです。

誰かと話したあと、どっと疲れる。
特定の人の名前を見るだけで胃が重くなる。
家にいても職場にいても、呼吸が浅い。
小さな傷や体調不良が長引きやすい。
寝ても疲れが抜けない。

こういうとき、「自分の気合いが足りない」と決めつける前に、「人間関係やストレス環境が体に響いているのかもしれない」と見てもいいのです。体は、心より正直なことがあります。心が「大丈夫です」と営業スマイルをしていても、体が「いや、全然大丈夫じゃありません」と裏口から訴えてくることがあります。

そして、会話の質を少しずつ整えることです。いきなり完璧な人間関係を作る必要はありません。そんなものは、たぶん心理学の教科書の中にも滅多にありません。まずは、小さなところからでいいのです。

責める前に一呼吸置く。
相手の人格ではなく、具体的な行動を話す。
不満だけでなく、感謝も言葉にする。
話し合いが熱くなったら、一度休憩する。
「勝つこと」より「関係を壊さず伝えること」を目標にする。

これらは地味です。でも、体にとっては地味な安心が大切です。毎日少しずつストレスの火力を下げることが、体の回復力を守ることにつながるかもしれません。

ジャニス・K・キーコルト=グレイザーの研究からたどりつく学びは、とても現実的です。

人間関係のストレスは、ただ気分を悪くするだけではありません。体の中の炎症や免疫、傷の治り方にまで関わる可能性があります。だから、心地よい関係をつくること、安心して話せる場を持つこと、対立の仕方をやわらかくすることは、単なる「人間関係のマナー」ではなく、健康を守るための大事な作戦でもあるのです。

つまり、健康とは、サラダとウォーキングだけでできているわけではありません。そこに「安心できる会話」や「敵意の少ない関係」も入ってきます。健康の定食には、睡眠、栄養、運動、そして人間関係の味噌汁が必要なのです。味噌汁がしょっぱすぎると、毎日つらいですからね。

キーコルト=グレイザーさんの研究は、私たちにこう教えてくれます。

心を粗末に扱うと、体も黙ってはいない。
人間関係のトゲは、体の回復にも影を落とすことがある。
だからこそ、やさしい会話、安心できる関係、休める環境を、ぜいたく品ではなく生活必需品として大切にしてよい。

人は、気合いだけで治る生き物ではありません。安心の中で、少しずつ回復する生き物です。心の空気を整えることは、体の窓を開けることでもあるのだと思います。

阿部牧歌(管理人)
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ジャニス・K・キーコルト=グレイザー(Janice K. Kiecolt-Glaser)の論文一覧

1.『トラウマと向き合うということ:心に閉じ込めた感情が、からだの病につながる仕組みを探る』ジェームズ・W・ペネベーカー、ジャニス・K・キーコルト=グレイザー、ロナルド・グレイザー(1988)

Pennebaker, J. W., Kiecolt-Glaser, J. K., & Glaser, R. (1988). Confronting a traumatic event: Toward an understanding of inhibition and disease. Journal of Abnormal Psychology, 97(2), 183–189. DOI:10.1037/0021-843X.97.2.183

「つらい記憶って、心の押し入れにしまっておけば安全?」と思いきや、この論文は「その押し入れ、湿気でカビますよ」と教えてくれます。学生たちに4日間、つらい経験や日常的な話を書いてもらったところ、つらい経験を“感情+事実”で書いた人は直後こそ気分が重くなったものの、その後6か月の保健センター利用が少なめに。言葉にすることは、心の換気扇なのかもしれません。

阿部牧歌(管理人)
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この論文の要約を読む
【心理学論文】「我慢すれば大丈夫」は本当か?トラウマを抑え込むことと病気の関係
【心理学論文】「我慢すれば大丈夫」は本当か?トラウマを抑え込むことと病気の関係
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