ジェームズ・J・グロス(James J. Gross)の論文一覧:感情の暴れ馬に手綱をかける、心の温度調整心理学さんぽ

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ジェームズ・J・グロス(James J. Gross)のプロフィール

ジェームズ・J・グロスは、アメリカの心理学者で、スタンフォード大学の心理学教授です。専門は、ひとことで言うと「感情調整」。つまり、「怒り、不安、悲しみ、緊張、喜びなどの感情と、人はどう付き合っているのか?」を研究してきた、心の温度調整士みたいな人です。スタンフォード大学では「感情科学センター」と「心理生理学研究室」を率いています。

たとえば、私たちは日常で「うわ、腹立つ!」と思っても、そのまま職場で爆発するわけにはいきません。心の中では小さな火山がモクモクしていても、表面上は「承知しました」と大人の顔をします。グロスは、まさにこのような感情が生まれ、ふくらみ、表に出るまでの流れを研究してきました。感情を消す魔法ではなく、「どのタイミングで、どう扱えば、心が大火事になりにくいのか」を地図にした人、と言うとわかりやすいです。

特に有名なのが、感情調整のプロセスモデルです。これは、感情がいきなりドカンと現れるのではなく、状況に出会い、そこに注意を向け、意味づけをし、最後に反応として出てくる、という流れで考えるモデルです。そのため、感情への対処も「その場を避ける」「状況を少し変える」「見るポイントを変える」「考え方を変える」「出てきた反応を抑える」など、いくつかの方法に分けて考えられます。いわば、感情という料理を「できあがってから味をごまかす」のではなく、材料選びや火加減の段階から見ていく研究です。

グロスの研究でよく出てくる大切な考え方に、再評価抑制があります。再評価とは、「この出来事を別の見方でとらえてみよう」とすることです。たとえば、上司に注意されたときに「嫌われた」と決めつけるのではなく、「改善点を教えてもらったのかもしれない」と見方を少し変える感じです。一方、抑制は、感情が出そうになったあとで表情や言葉をぐっと押さえることです。もちろん必要な場面もありますが、心の中では感情が体育座りでずっと待機していることもあります。グロスは、こうした方法が心や人間関係にどんな影響を与えるのかを研究してきました。

経歴としては、イェール大学で哲学を学び、その後、カリフォルニア大学バークレー校で臨床心理学の博士号を取得しています。哲学から心理学へ進んだ人なので、「人間とは何か?」という大きな問いと、「感情はどう動くのか?」という科学的な問いの両方を持っているタイプの研究者です。心の中に、哲学者のランプと実験室の白衣が同居している感じですね。

また、グロスは『感情調整ハンドブック』という分野の重要な本の編集にも関わっています。感情調整の研究は、ストレス、メンタルヘルス、教育、職場、人間関係など、かなり広い分野につながっています。つまりグロスの研究は、「怒らない方法」みたいな小手先の話ではなく、私たちが日々どうやって心の天気と付き合っているかを考えるための、大きな土台になっているのです。

まとめると、ジェームズ・J・グロスは、感情に振り回される人間という生き物に、やさしく操作説明書を作ってくれた心理学者です。怒りも不安も悲しみも、「出てきたら負け」ではありません。大事なのは、その感情がどこから来て、どの段階で手を添えられるのかを知ること。グロスの研究は、心の中の暴れ馬にムチを打つのではなく、手綱の持ち方を教えてくれる研究と言えます。

参考文献・確認先:スタンフォード大学 公式プロフィール:James J. Gross / Google Scholar:James J. Gross 論文・引用情報 / PubMed:James J. Gross 関連論文

阿部牧歌(管理人)
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ジェームズ・J・グロス(James J. Gross)の研究から学べること

ジェームズ・J・グロス(James J. Gross)の研究から学べることは、ひとことで言うと、「感情は“出てきたら終わり”ではなく、出てくる前後のいろいろな場面で、少しずつ整えることができる」ということです。

グロスさんは、感情をどう扱うかを研究してきた心理学者です。スタンフォード大学の紹介でも、感情とその調整、健康的な老い、感情が人間関係や生活にどう関わるかを研究している人物として紹介されています。特に有名なのが「感情調整の過程モデル」です。これは、感情が生まれてから爆発するまでを、いくつかの段階に分けて考える見方です。グロスさんは、感情を整える方法として、状況を選ぶ、状況を変える、注意を向ける先を変える、考え方を変える、反応を調整する、という五つの地点を整理しました。

これ、かなり使えます。なぜなら私たちは、感情というものを「怒ったらもう終わり」「不安になったらもう無理」「落ち込んだら布団王国へ亡命」と考えがちだからです。でもグロスさんの考え方だと、感情は突然落ちてくる隕石ではありません。そこには流れがあります。前ぶれがあり、火種があり、燃え広がり方があり、最後に表情や行動として出てきます。つまり、火事になってから消火器を探すだけでなく、そもそも火元の近くに紙を置かない、風通しを変える、水を用意しておく、といった工夫ができるわけです。

たとえば、「苦手な人と話すとすぐイライラする」という場面を考えてみましょう。ふつうは、イライラしたあとに「我慢しなきゃ」「顔に出さないようにしなきゃ」と頑張ります。これは最後の段階でブレーキを踏んでいる状態です。もちろん大事です。でも、毎回それだけだと疲れます。まるで坂道を猛スピードで下ってから、最後に足で止めようとしているようなものです。靴底が泣きます。

グロスさんの考え方では、もっと前の段階で工夫できます。そもそも疲れている時間帯にその人と話さないようにする。話す前に要件をメモしておく。相手の言葉全部に反応せず、「今日は情報だけ受け取ろう」と注意の向け方を変える。「この人は自分を攻撃している」という解釈を、「この人は言い方が不器用なのかもしれない」と少し組み替える。こうすると、感情の火力が最初から少し下がります。

ここで大事なのが、「考え方を変える」という方法です。グロスさんの研究では、感情を整える方法として、「考え直し」と「表情や態度を抑えること」がよく比較されています。考え直しとは、出来事の意味づけを変えて感情の強さを調整することです。一方、表情や態度を抑えることは、すでに出てきた感情を外に出さないようにすることです。グロスさんの研究では、感情が生まれる早い段階で働く方法と、反応が出る後の段階で働く方法では、心や身体への影響が違うことが示されています。

たとえば、嫌なことを言われたときに、顔だけ笑って「大丈夫です」と言う。これは、表情や態度を抑える方法です。社会生活では必要な場面もあります。毎回すべての感情をそのまま出していたら、職場が感情の花火大会になります。会議室でドカンドカン。議事録どころではありません。

でも、いつも「顔だけ笑顔」で乗り切ると、内側がしんどくなります。外はニコニコ、内側は大雨。これでは心の洗濯物が乾きません。しかも、表情を抑えることに力を使うので、話の内容が頭に入りにくくなったり、人との距離ができたりすることもあります。

一方で、考え直しは少し違います。たとえば、「あの人に冷たくされた。嫌われた」と考えると、悲しみや怒りが強くなります。でも、「今日は相手も余裕がなかったのかもしれない」「自分の全部を否定されたわけではない」と見方を少し変えると、感情の燃え方が変わります。出来事そのものは変わっていません。でも、心の中の字幕が変わるのです。「人生終了」から「要確認案件」へ。ずいぶん違います。

もちろん、考え直しは「なんでも前向きに考えよう」という雑な元気注入ではありません。つらい出来事を無理やり「ありがたい経験です!」と包む必要はありません。まだ熱い鍋を「これは温泉です」と言い張っても火傷します。大切なのは、現実を否定せずに、別の見方も探してみることです。

「これは本当に自分への攻撃なのかな」
「相手にも事情があったのかな」
「この出来事から、次にできることはあるかな」
「今すぐ結論を出さなくてもいいのでは」

こうした問いが、感情に少し空気穴を作ってくれます。怒りや不安が密閉容器の中で膨らむ前に、ふっとふたをずらす感じです。

グロスさんの研究から学べるもう一つの大切なことは、「感情を調整するのは、感情を消すことではない」ということです。ここ、かなり大事です。感情を整えると聞くと、「怒らない人になる」「不安を感じない人になる」「いつも穏やかな湖面みたいになる」と思いがちです。でも人間は湖面ではありません。どちらかというと、天気が変わる商店街です。晴れの日もあれば、風でのぼりが飛ぶ日もあります。

怒りは、何か大切なものが傷つけられたサインかもしれません。不安は、準備が必要だという知らせかもしれません。悲しみは、失ったものの大きさを教えてくれる感情かもしれません。感情は邪魔者ではなく、情報を持ってくる配達員です。ただし、ときどきチャイムを連打します。そこが困る。

だから必要なのは、配達員を追い返すことではなく、「何を届けに来たのか」を確認することです。そして、必要なら受け取り方を変える。全部を玄関にぶちまけられる前に、「こちらに置いてください」と案内する。これが感情調整のイメージに近いと思います。

日常で使うなら、まず「感情が強くなる前の段階」に目を向けるとよいです。自分はどんな状況でイライラしやすいのか。どんな時間帯に不安が強くなるのか。どんな相手、どんな場所、どんな言葉に反応しやすいのか。これを知るだけで、感情の扱い方はかなり変わります。

たとえば、疲れている夜に難しい連絡を返すと、だいたい心の文面がとがります。そんなときは、翌朝に回す。これは逃げではありません。感情の火元管理です。お腹が空いているときに大事な話をしない。これも立派な感情調整です。人間は血糖値が下がると、心の中の小さな怪獣が起きやすいのです。怪獣に議事進行を任せてはいけません。

次に、「注意の向け方」を変えることもできます。嫌なことがあったとき、私たちはその一点を拡大します。心の虫めがねで、嫌な言葉だけを巨大化します。でも同じ一日の中には、ほかにも出来事があります。親切にされたこと、少し進んだ作業、飲んだお茶の温かさ、帰り道の空。嫌な出来事をなかったことにする必要はありません。ただ、心の画面いっぱいに表示し続けなくてもいいのです。

そして、「反応を選ぶ」ことも大切です。感情は自動的に湧くことがあります。でも、そのあとどう言うか、どう動くかは、少し選べます。怒りが湧いたら、すぐに言い返す前に一呼吸置く。不安になったら、頭の中だけでぐるぐるせず、紙に書き出す。悲しくなったら、無理に元気なふりをせず、信頼できる人に少し話す。感情を押し殺すのではなく、感情が暴走しない通り道を作るのです。

グロスさんの研究は、私たちにとても現実的な希望をくれます。感情は完全にはコントロールできません。急に腹が立つこともあります。不安で胸がざわつくこともあります。人の一言で心がしおれる日もあります。でも、感情が生まれる前後のどこかで、少し工夫する余地があります。

つまり、心は自動販売機ではありません。ボタンを押されたら必ず同じ缶が出るわけではないのです。「怒り」ボタンを押されても、毎回「皮肉ジュース」を出さなくていい。「不安」ボタンを押されても、毎回「最悪シナリオ炭酸」を出さなくていい。少し間を置いて、別の商品を選べます。白湯でもいいです。

ジェームズ・J・グロスの研究からたどりつく学びは、こんな感じです。

感情は、敵ではありません。
でも、放し飼いにすると部屋を荒らすことがあります。
だから、感情を閉じ込めるのではなく、通り道を整えることが大切です。

状況を選ぶ。
状況を少し変える。
注意の向け先を変える。
意味づけを考え直す。
反応の仕方を整える。

この五つの視点を持つと、感情に対して「我慢するか爆発するか」だけではない道が見えてきます。感情との付き合い方に、少し道具が増えるのです。心の工具箱に、ドライバーだけでなく、レンチやメジャーや柔らかい布が入る感じです。

人生は、感情の連続です。仕事で焦る。人間関係で傷つく。うまくいって喜ぶ。比べて落ち込む。予想外のことで腹が立つ。そういう日々の中で、グロスさんの研究は教えてくれます。「感情が出たことを責めなくていい。ただ、その感情とどう付き合うかは、少しずつ練習できる」と。

感情の波を止めることはできません。でも、波に飲み込まれっぱなしにならないために、泳ぎ方を覚えることはできます。グロスさんの研究は、その泳ぎ方を教えてくれる、心の水泳教室みたいなものなのです。

阿部牧歌(管理人)
阿部牧歌(管理人)

ジェームズ・J・グロス(James J. Gross)の論文一覧

1.『感情調整という新しい地平:心の動きを整える研究の統合レビュー』ジェームズ・J・グロス(1998)

Gross, J. J. (1998). The Emerging Field of Emotion Regulation: An Integrative Review. Review of General Psychology, 2(3), 271–299. DOI:10.1037/1089-2680.2.3.271

グロス先生いわく、感情は「出てきたら終わり!」の怪獣ではなく、育つ途中で手を添えられる生きものです。この論文は、怒り・不安・悲しみなどを、人がいつ、どう整えているのかを整理した感情調整研究の大きな地図。逃げる、見方を変える、表情を抑えるなど、心の操作パネルをのぞく一篇です。読めば「私の心、意外と設定変更できるかも」と思えてきます。
参考:感情調整を5つの段階で整理するモデルを提示した総説論文です。

阿部牧歌(管理人)
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この論文の要約を読む
【心理学論文】気持ちは「我慢」ではなく「調整」できる? 感情調整という新しい心理学
【心理学論文】気持ちは「我慢」ではなく「調整」できる? 感情調整という新しい心理学

2.『感情を「見直す人」と「押し殺す人」は何が違うのか:感情・人間関係・幸福感に及ぼす影響』ジェームズ・J・グロス、オリバー・P・ジョン(2003)

Gross, J. J., & John, O. P. (2003). Individual Differences in Two Emotion Regulation Processes: Implications for Affect, Relationships, and Well-Being. Journal of Personality and Social Psychology, 85(2), 348–362. DOI:10.1037/0022-3514.85.2.348

「感情って、出したほうがいいの?それとも飲み込んだほうが大人?」という永遠の心内会議に、GrossさんとJohnさんがズバッと切り込みます。この論文では、感情が爆発する前に考え方を変える「再評価」と、出てきた感情を顔に出さないよう押さえ込む「抑制」を比較。すると、同じ“感情調整”でも、心の健康や人間関係への影響がけっこう違うことが見えてきます。心のブレーキとハンドル、どっちをどう使う?そんな話です。

阿部牧歌(管理人)
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この論文の要約を読む
【論文要約】感情を押し殺す人と切り替えられる人の違いとは? 幸福感と人間関係に表れる意外なしくみ
【論文要約】感情を押し殺す人と切り替えられる人の違いとは? 幸福感と人間関係に表れる意外なしくみ

3.『感情は、理性でどこまで操れるのか-心のブレーキとハンドルをめぐる認知コントロール研究』ケヴィン・N・オクスナー、ジェームズ・J・グロス(2005)

Ochsner, K. N., & Gross, J. J. (2005). The cognitive control of emotion. Trends in Cognitive Sciences, 9(5), 242–249. DOI:10.1016/j.tics.2005.03.010

感情って、まるで心の中の暴れ馬です。怒りはドドドッと走り出し、不安は夜中に玄関チャイムを連打してきます。この論文は、そんな感情に対して、脳がどう「ちょっと待って、別の見方もあるかも」と手綱をかけるのかを整理した一篇です。ポイントは、感情を無理やり押し込めるのではなく、出来事の意味づけを変えること。「最悪だ」が「別の可能性もあるかも」に変わるだけで、心の天気が少し変わる。感情に振り回されがちな人に読んでほしい、脳と心の作戦会議です。

阿部牧歌(管理人)
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この論文の要約を読む
【論文要約】感情はどうコントロールできるのか? 認知科学が明かした心のしくみ
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