ジャクリーン・S・エクルズ(Jacquelynne S. Eccles)の論文一覧:「できる?」と「それ、やる意味ある?」のあいだに、人生の進路相談室をひらいた心理学者

ジャクリーン・S・エクルズ(Jacquelynne S. Eccles)の論文を読む女性
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ジャクリーン・S・エクルズ(Jacquelynne S. Eccles)のプロフィール

ジャクリーン・S・エクルズは、「人は、できそうだと思うことだけを選ぶのか。それとも、意味があると思うことを選ぶのか」という、人生の進路相談で何度も登場する大問題に、長年取り組んできた心理学者です。

たとえば学生が「数学は苦手だから選ばない」と言うとき。その言葉の後ろには、「自分にはできそうにない」という気持ちがあるかもしれません。けれど、数学ができそうだと思っていても、「別に面白くない」「将来役に立つ感じがしない」「ほかに大事なことがある」と感じていれば、人はその道を選ばないことがあります。

ここでエクルズは、やる気を根性一本で片づけませんでした。根性論という名の大きなハンマーで心をコンコン叩くのではなく、「その人は何ができそうだと思っているのか」「そのことにどんな価値を感じているのか」「選ぶために、何をあきらめなければならないのか」を、一つひとつ丁寧に見ていったのです。

彼女の代表的な考え方は、ざっくり言えばこうです。

人は、「自分にもできそうだ」と思えて、「これは自分にとって大切だ、面白い、役に立つ」と感じられるときに、行動を選びやすくなる。

なんだか当たり前に聞こえるかもしれません。けれど、この“当たり前”をきちんと理論にして、家庭、学校、先生、友人、性別による期待、進路の選び方までつなげて考えたところに、エクルズのすごさがあります。

特に彼女が見つめてきたのは、子どもや若者が「自分には向いていないかも」と思い始める瞬間です。それは能力が急になくなったからとは限りません。親の何気ないひと言、先生の期待、周囲の雰囲気、「男の子なら」「女の子なら」といった古い空気、教室での成功や失敗。そうした日々の小さな出来事が積み重なって、「私はこれが得意な人」「私はこれは選ばない人」という心の自己紹介文をつくっていきます。

つまり、進路は本人が一人で秘密基地のなかで決めているわけではない、ということです。本人の気持ちはもちろん大切。でも、その気持ちは家庭や学校、社会の空気と、ずっと会話をしながら育っていく。エクルズはそこを見逃しませんでした。

また彼女は、思春期の子どもたちにとって、学校の環境が本当に合っているのかにも注目しました。小学校から中学校へ進むと、急に先生が増え、教科が分かれ、評価が細かくなり、人間関係も複雑になります。本人は心も体も変化の真っ最中なのに、学校の仕組みは「はい、では急に大人っぽく自己管理してください」と言わんばかり。これはなかなかの無茶ぶりです。

エクルズは、成長の段階に合わない環境が、子どもの自信や学ぶ意欲をしぼませることがあると考えました。だからこそ、「本人がもっと頑張るべきだ」だけではなく、「その子が力を出しやすい場所になっているだろうか」と、環境の側にも問いを向けたのです。

この視点は、学校の成績や進路選択だけにとどまりません。転職、資格取得、創作活動、ダイエット、習い事。私たちは大人になっても、毎日のように小さな選択をしています。そして、そのたびに心の中では、だいたい次の三人が会議をしています。

「私にできるかな?」
「それ、私にとって大事かな?」
「でも、しんどくない?」

エクルズの研究は、この三人の会議に議事録をつけてくれたようなものです。やる気が出ないとき、「自分は怠け者だ」と即決する前に、「できそうと思えていないのか」「価値を見失っているのか」「負担が重すぎるのか」を見てみる。すると、心への接し方が少し変わります。

ジャクリーン・S・エクルズは、やる気を“気合いの火力”としてではなく、人が自分の人生を選んでいくための繊細な仕組みとして捉えた研究者です。彼女の仕事は、迷いのなかにいる人へ、「あなたが動けないのには、ちゃんと理由があるかもしれませんよ」と静かに教えてくれます。

そして、その理由を見つけられたとき。人生の選択肢は、少しだけ増えて見えてくるのです。

参考文献・確認先:Jacquelynne S. Eccles 公式プロフィール(カリフォルニア大学アーバイン校) / Google Scholar:Jacquelynne S. Eccles 論文・引用情報 / PubMed:Jacquelynne S. Eccles 関連論文

阿部牧歌(管理人)
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ジャクリーン・S・エクルズ(Jacquelynne S. Eccles)の研究から学べること

ジャクリーン・S・エクルズの研究から学べることは、ひとことで言えば、「やる気が出ない人を、すぐに怠け者扱いしない」ということです。

これは、なかなか大事な話です。

人が何かを始められないとき、私たちはつい言ってしまいます。

「気合いが足りないんじゃない?」
「本気ならできるでしょ?」
「とりあえずやってみなよ」

たしかに、とりあえず動くことが助けになる日もあります。でも、心の中で電池が切れかけている人に、気合いという名のメガホンで「走れ!」と叫んでも、だいたい電池は増えません。むしろ少し、しぼみます。

エクルズは、人が何かに取り組むかどうかを考えるとき、心の中にある二つの大きな問いに注目しました。

一つ目は、「自分にできそうだろうか?」という問いです。

たとえば、資格の勉強を始めようと思ったとき。「難しそうだけど、少しずつならできるかもしれない」と思える人もいます。一方で、「自分には頭が悪すぎる」「昔から勉強は苦手だから無理」と感じる人もいます。

ここで大事なのは、実際の能力だけではありません。本人が、自分の力をどう見ているかです。

同じくらいの力があっても、「やれば少し進めそう」と思える人と、「どうせ無理」と思っている人では、最初の一歩の出やすさが変わります。人生はときどき、能力の差よりも、“自分はどうせ無理部”の部長になってしまっているかどうかで、景色が変わってしまうのです。

そして二つ目は、「それをやることに、どんな意味があるだろう?」という問いです。

人は、できそうだと思っていることでも、必ずしもやるわけではありません。

料理が得意でも、毎日三食つくるのはしんどいかもしれない。絵が描けても、それを仕事にしたいとは限らない。計算が得意でも、経理の仕事に心がときめくとは限らない。

つまり、「できる」と「やりたい」は、似ているようで別の生き物です。

エクルズの考え方では、人が何かに価値を感じる理由には、いくつかの種類があります。

「純粋に面白い」
「自分らしいと思える」
「将来の役に立ちそう」
「誰かのためになる気がする」

こうした理由があると、人はそのことに向かいやすくなります。

たとえば、英語の勉強が大好きな人もいれば、「海外旅行で困らないため」と思って勉強する人もいます。「仕事の幅を広げたいから」と考える人もいるでしょう。出発点は違っても、その人にとっての意味があるなら、学ぶ力は育っていきます。

逆に言えば、「すごく大事なことらしいけど、自分には何の関係があるんだろう」と感じているものは、なかなか続きません。

大人になると、「役に立つんだからやりなさい」という言葉をよく聞きます。けれど心のほうは、なかなか素直ではありません。「役に立つらしい」だけでは、動かない日もあります。心には心なりの稟議書があり、「それは私にとって、どんな意味がありますか?」という欄が空白のままだと、なかなか承認がおりないのです。

さらにエクルズは、「やりたい」「大事だ」と思っていても、人が動けない理由として、負担の大きさにも目を向けました。

時間が足りない。
お金がかかる。
失敗したら恥ずかしい。
周りに反対されるかもしれない。
頑張ったのに結果が出なかったら、傷つくかもしれない。

こうした負担は、やる気の敵というより、心の防災アラームに近いものです。鳴っているから悪いのではありません。「このままだと無理をしすぎるかもしれませんよ」と知らせているのです。

だから、何かを続けられないときに必要なのは、「もっと頑張る方法」だけではありません。

「その目標は、本当に自分にとって意味があるだろうか」
「今の自分にとって、負担が大きすぎないだろうか」
「最初の一歩を、もっと小さくできないだろうか」

と考えることです。

これは逃げではありません。むしろ、自分の心の設計図を読む作業です。

また、エクルズの研究が面白いのは、やる気を“本人だけの問題”にしなかったところです。

子どもや若者は、親や先生、友人、学校の雰囲気、社会の「こういう人はこうあるべき」という空気の中で、自分自身の可能性を見つめていきます。

「あなたならできるよ」と言われた経験。
失敗したときに、笑われずに助けてもらえた経験。
「その道もありだね」と進路を認めてもらえた経験。

こうした出来事は、本人の中にある「できそう」という感覚を、少しずつ育てていきます。

反対に、「そんなの向いてないよ」
「どうせ無理でしょ」
「普通はこっちを選ぶものだよ」

といった言葉は、ときに長く心に残ります。言った側は忘れていても、言われた側の心には、小さな付箋のように貼りつづけられることがあります。

だから人を支えるときは、「頑張れ」と言う前に、その人が何をできそうだと思っているのか、何に意味を感じているのかを聞くことが大切になります。

「何なら少しできそうですか?」
「それをやるとしたら、どんなところに意味を感じますか?」
「逆に、何がいちばんしんどそうですか?」

この三つを聞くだけで、会話はずいぶん変わります。

やる気がない人を前にして、「この人はやる気がない」と結論を急ぐのではなく、「できる見通しが持てないのかな」「意味を見失っているのかな」「負担が重すぎるのかな」と考えてみる。

すると、その人は“問題のある人”ではなく、“今の条件では動きにくい人”として見えてきます。

さらにエクルズは、思春期の子どもたちを見つめながら、「本人の成長の段階と、その人が置かれた環境が合っているか」という問いも大切にしました。

これは学校だけの話ではありません。

仕事でも、いきなり全部を任されるより、少しずつ任せてもらえる環境のほうが力を出せる人がいます。静かな場所なら集中できる人もいれば、誰かと相談しながらのほうが頑張れる人もいます。成長したいと思っているのに、失敗を極端に責められる職場にいると、挑戦する力は育ちにくくなります。

本人が悪いのではなく、環境との組み合わせが合っていないこともある。

この見方は、とてもやさしい視点です。

「自分は社会に向いていないのかもしれない」と感じている人に対しても、「本当にそうだろうか。いまいる場所が、その人の力を出しにくいだけではないだろうか」と考える余地を残してくれます。

人は、どこでも同じように咲けるわけではありません。でも、それは弱さではありません。サボテンを水田に植えて「元気がない」と心配するような話です。まずは、その人が根を張りやすい場所を考える必要があります。

エクルズの研究は、やる気を“心の中だけにあるもの”として扱いません。

やる気は、自信と意味と環境と負担のあいだで、毎日ゆらゆら揺れています。

だから、やる気が出ない日があっても、すぐに自分を責めなくていいのです。

その日は、「私は何ができそうだと思えていないのだろう」「何のためにやるのか、見えなくなっていないだろう」「少し無理をしすぎていないだろう」と、自分の心に聞いてみる。

答えがすぐに出なくても大丈夫です。

やる気とは、心の中に突然落ちてくる雷ではありません。自分にできそうな小さな一歩を見つけ、その一歩に自分なりの意味を与え、無理のない環境を整えていくなかで、少しずつ灯っていく明かりなのです。

阿部牧歌(管理人)
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ジャクリーン・S・エクルズ(Jacquelynne S. Eccles)の論文一覧

1.『やる気の設計図:信念・価値・目標が行動を動かすしくみ』ジャクリーン・S・エクルズ、アラン・ウィグフィールド(2002)

Eccles, Jacquelynne S., & Wigfield, Allan. (2002). Motivational Beliefs, Values, and Goals. Annual Review of Psychology, 53, 109–132.
DOI:10.1146/annurev.psych.53.100901.135153

「やる気、どこ行った?」と机の下をのぞいても、たいてい見つかりません。では人は、なぜ動けるのか。エクルズとウィグフィールドは、その謎を「自分にできそうか」と「それをやる価値があるか」の二方向から大捜査します。自信だけあっても動けない。意味だけあっても続かない。目標、失敗への向き合い方、学びを自分で整える力まで、やる気の会議室をまるごと案内してくれる論文です。「根性が足りない」で話を終わらせたくない人ほど、ページをめくりたくなるはずです。

阿部牧歌(管理人)
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この論文の要約を読む
【心理学論文】やる気が出ないのはなぜ?「できそう」と「大切」が行動を動かすしくみ
【心理学論文】やる気が出ないのはなぜ?「できそう」と「大切」が行動を動かすしくみ
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