J・デイヴィッド・クレスウェル(J. David Creswell)の論文一覧:心のざわざわに虫めがねを向ける、マインドフルネス研究さんぽ
J・デイヴィッド・クレスウェル(J. David Creswell)のプロフィール
J・デイヴィッド・クレスウェル(J. David Creswell)は、アメリカのカーネギーメロン大学で、心理学と神経科学を専門にしている研究者です。肩書きとしては、心理学・神経科学の教授であり、同大学の神経科学研究所にも所属しています。さらに、心と健康に関わる分野で活動する「Equa Health」という組織の代表も務めています。
この人をひとことで言うなら、「ストレスに負けない心と体のしくみを、虫めがねと脳スキャンで追いかける研究者」です。
つまり、「人はなぜストレスでへなへなになるのか?」「どうすれば、心の中の荒れた会議室を少し静かにできるのか?」を、心理学・脳科学・健康科学の方向から調べている人です。
特に有名なのは、マインドフルネスの研究です。マインドフルネスというと、ちょっと横文字が強そうですが、ざっくり言えば「今ここに注意を向ける心の練習」です。クレスウェルは、この練習が脳、ストレス反応、体の健康にどんな影響を与えるのかを研究しています。たとえば、瞑想の練習が脳の働きや、ストレスを受けたときの体の反応、病気に関係する体の変化にどう関わるのかを調べています。
おもしろいのは、彼の研究が「気合いでがんばれ!」ではないところです。むしろ、心の中で暴れているストレスくんに向かって、「まあまあ、まず座りなさい。お茶でも飲もうか」と声をかけるような感じです🍵
クレスウェルは、マインドフルネスだけでなく、自分の大切な価値を思い出す方法、楽しい活動を取り入れる方法、物事の受け止め方を変える方法なども研究しています。こうしたシンプルな工夫が、ストレスをやわらげたり、プレッシャーの中で問題を解く力を支えたりする可能性を探っているのです。
学歴としては、コロラド・カレッジで心理学を学び、その後、カリフォルニア大学ロサンゼルス校で心理学の博士号を取得しています。研究分野は、健康心理学、社会心理学、臨床心理学、神経科学、心と免疫の関係など、かなり幅広いです。要するに、「心だけ見る」のでも「体だけ見る」のでもなく、心と体が裏でどんな作戦会議をしているのかを見に行くタイプの研究者ですね。
代表的な論文には、2017年に発表された「マインドフルネス介入」があります。これは、マインドフルネスを使った支援や訓練が、健康、感情、人間関係、認知機能などにどんな影響を与えるのかを整理した重要な総説論文です。マインドフルネス研究の世界では、いわば「この分野、今どこまで来てるの?」を見渡すための展望台のような論文です。
参考文献・確認先:カーネギーメロン大学:J・デイヴィッド・クレスウェル 公式プロフィール / 健康と人間パフォーマンス研究室:J・デイヴィッド・クレスウェル 関連情報 / Google Scholar:J・デイヴィッド・クレスウェル 論文・引用情報 / PubMed:J. David Creswell 関連論文

J・デイヴィッド・クレスウェルの研究から学べること
J・デイヴィッド・クレスウェルさんの研究から学べることを、ひとことで言うなら、「心がざわざわしたとき、力ずくで黙らせるのではなく、そっと扱う方法がある」ということです。
私たちはストレスを感じると、つい「早く消さなきゃ」「元気にならなきゃ」「こんなことで落ち込むなんてダメだ」と、自分の心にむかって小さな鬼監督を登場させてしまいます。心の中でホイッスルを吹きながら、「はい、落ち込まない! はい、前向き!」と指示を出すわけです。でも、心というものは不思議なもので、命令されるほど、すねます。まるで布団から出たくない冬の朝のように、「いやです」と丸まってしまうのです。
クレスウェルさんの研究が面白いのは、そういう心の動きを「気合いが足りない」で片づけないところです。不安になったとき、緊張したとき、プレッシャーを感じたとき、人の心や体では何が起きているのか。そして、どんな工夫をすれば、心の波に飲み込まれずにすむのか。そこを科学の虫めがねでじっくり見ているのです。
特に有名なのが、マインドフルネスに関する研究です。マインドフルネスというと、なんだか山奥で座禅を組み、背後に滝が流れ、心の中から仙人が登場するようなイメージがあるかもしれません。けれど、もっと身近に言えば、これは「いま、自分に何が起きているのかに気づく練習」です。
たとえば、仕事でミスをしてしまったとします。頭の中ではすぐに反省会が始まります。「なんであんなことを言ったんだ」「またやってしまった」「きっと評価が下がったに違いない」。心の会議室では、心配部長、不安課長、自己否定係長が次々に発言します。しかも全員、声が大きい。議事録はぐちゃぐちゃ。会議は延長戦です。
そんなときに、「この考えを全部消そう」とするのではなく、「あ、いま自分は不安になっているな」「胸のあたりが少し重いな」「頭の中で同じことを何度も考えているな」と気づいてみる。これが、マインドフルネスの大事なところです。心の中の大騒ぎに、いきなり消火器をぶちまけるのではなく、まず「なるほど、いま火災報知器が鳴っているのね」と確認する感じです。
クレスウェルさんの研究から学べるもう一つの大切な点は、心と体は別々ではないということです。ストレスは、頭の中だけで起きているわけではありません。肩がこる、呼吸が浅くなる、眠りが浅くなる、胃が重くなる。心の天気は、体の窓ガラスにもちゃんと映ります。
だからこそ、心を整えることは、単なる「気分の問題」ではありません。注意の向け方を変えたり、自分の状態に気づいたりすることは、心だけでなく、体の反応にも関わってくる可能性があります。つまり、「まあ気の持ちようでしょ」と雑にまとめる話ではなく、心と体が裏で開いている秘密会議を、研究として見に行っているわけです。
また、クレスウェルさんの研究には、自分にとって大切なものを思い出すことの意味も感じられます。人はプレッシャーが強くなると、目の前の失敗や評価ばかりに心を奪われがちです。「怒られたらどうしよう」「うまくできなかったらどうしよう」と、心の中が小さな裁判所みたいになります。自分が被告人で、自分が検察官で、自分が裁判官。これはなかなかしんどい劇場です。
そんなとき、「自分は何を大事にしたいのか」「どんな人でありたいのか」「何のためにこれをしているのか」を思い出すことは、心の足場になります。大きな嵐の中でも、足元に一枚の板があるだけで、人は少し踏んばれます。大切な価値観は、その板のようなものです。
ここで大事なのは、クレスウェルさんの研究が「ストレスに負けるな!」という体育会系の旗を振っているわけではないことです。むしろ逆です。ストレスがあるのは自然なこと。不安になるのも、緊張するのも、人間として当たり前。そのうえで、どうすれば少し楽に受け止められるのか、どうすれば自分を責めすぎずに戻ってこられるのかを考えているのです。
つまり、クレスウェルさんの研究は、私たちにこう教えてくれます。
心は、いつも晴れていなくてもいい。
ざわざわしてもいい。
不安がやってきてもいい。
ただ、その不安に丸ごと飲み込まれず、「あ、いま不安が来ているな」と気づけるだけで、心の中に小さなすき間が生まれる。
そのすき間は、ほんの少しかもしれません。でも、その少しが大切です。満員電車の心に、窓がひとつ開くようなものです。そこから新しい空気が入ってきます。
クレスウェルさんの研究から学べるのは、心を完璧にコントロールする方法ではありません。そんなリモコンがあれば人類はもう少し静かに暮らしているはずです。そうではなく、揺れる心とどう付き合うか、ストレスの中でどう自分に戻るか、しんどいときに自分を責めすぎないために何ができるかという、かなり人間くさい知恵です。
心がざわざわするとき、私たちはつい「早くなんとかしなきゃ」と焦ります。でも、クレスウェルさんの研究は、そこで少し立ち止まることを教えてくれます。
「いま、自分は疲れているんだな」
「いま、不安が強くなっているんだな」
「でも、それに気づけている自分もいるんだな」
この気づきは、小さいけれど、なかなか頼もしいものです。心の中の迷子センターみたいに、「こちらですよ」と自分を呼び戻してくれます。
だから、クレスウェルさんの研究は、マインドフルネスやストレス研究という専門的な世界にありながら、私たちの日常にもそっとつながっています。仕事で焦った日、人間関係でへこんだ日、将来が不安で頭がぐるぐるした日。そんな日に、「不安を消す」のではなく、「不安に気づく」。そして、自分にとって大切なものを思い出す。
それだけで、心の景色は少し変わるかもしれません。
大雨を止めることはできなくても、傘の差し方は少しずつ覚えられる。
クレスウェルさんの研究は、そんなやさしい科学の傘を、私たちに差し出してくれているように感じます。

J・デイヴィッド・クレスウェル(J. David Creswell)の論文一覧
1.『マインドフルネス介入:いまここに心を戻す実践は、健康・感情・人間関係に何をもたらすのか』J・デイヴィッド・クレスウェル(2017)
J・デイヴィッド・クレスウェル(J. David Creswell)(2017). Mindfulness Interventions. Annual Review of Psychology, 68, 491–516. DOI:10.1146/annurev-psych-042716-051139
「マインドフルネスって、結局なにが効くの?」という疑問に、クレスウェルさんが研究の地図を広げてくれる総説論文です。慢性痛、うつの再発予防、依存など、いろいろな場面での効果を整理しつつ、「心を無にしよう!」ではなく「今ここに気づく練習だよ」とやさしく案内。ストレスで頭の中が満員電車の日に、心の車掌さんが「はい、少し空気入れ替えましょう」と窓を開けてくれるような一本です。マインドフルネス入門の頼れる展望台です。

