アイザック・リプカス(Isaac M. Lipkus)の論文一覧:「大丈夫っしょ」と思う心に、そっとツッコミを。健康リスクと人間関係を読み解く心理学さんぽ
アイザック・リプカス(Isaac M. Lipkus)のプロフィール
アイザック・M・リプカスさんは、ひとことで言うと、「人はなぜ健康リスクをわかっているのに、なかなか行動を変えられないのか?」を追いかけている心理学・健康行動研究の研究者です。名前の表記は、公式プロフィールでは Isaac Marcelo Lipkus とされています。現在はアメリカのデューク大学で、看護学部の教授を務め、家庭医療・地域医療、精神医学・行動科学にも関わり、デュークがん研究所のメンバーでもあります。
研究テーマをざっくり言うと、「危ないですよ」と言われたとき、人の心はどう反応するのかです。たとえば、がん検診、喫煙、たばこ製品、水たばこ、運動、健康リスクの伝え方などを扱っています。数字でリスクを伝えるべきか、言葉で伝えるべきか、図で見せるべきか。つまり、健康情報の世界で「伝えたつもり」と「伝わった」のあいだにある、あの深い谷をのぞき込んでいる人です。
おもしろいのは、リプカスさんの研究が、単なる「健康に気をつけましょうね」という保健室ポスターで終わらないところです。人間という生き物は、「リスクがあります」と言われても、なぜか心の中に小さな楽観係長が出てきて、「まあ自分は大丈夫でしょう」とハンコを押してしまうことがあります。リプカスさんは、その“心の甘口査定”がどこから来るのか、どうすれば行動変容につながるのかを、心理学と公衆衛生のあいだで丁寧に調べてきた研究者です。
また、彼は「数字を読む力」、つまり健康リスクを理解するための数的な理解力にも注目しています。たとえば「10%の危険」と聞いたとき、それをどれくらい深刻に受け止めるかは人によってかなり違います。数字は冷静な顔をしていますが、受け取る側の心の中では、けっこう大騒ぎが起きているわけです。リプカスさんは、その騒ぎを心理学の虫眼鏡で見ている感じですね。
学歴としては、ノースカロライナ大学チャペルヒル校で修士号を1988年に、博士号を1991年に取得しています。研究者としての土台は心理学・健康行動・リスク認知のあたりにあり、その後、デューク大学を中心に、がん予防や喫煙、検診、リスクコミュニケーションなどの研究を広げてきました。
さらに、リプカスさんは親密な人間関係の研究にも名前が出てきます。たとえば、キャリル・ラスバルトらとの有名な論文では、恋人や夫婦など近い関係の中で、相手の嫌な言動にどう反応するかという「関係を壊さないための反応」の研究に関わっています。つまり、健康リスクだけでなく、「人間関係の火種をどう消火するか」にも登場する人です。まさに、心の世界の防災士。健康にも恋愛にも、火の用心です。
まとめると、アイザック・M・リプカスさんは、健康リスク、喫煙、がん予防、検診、リスクの伝え方、人の判断のクセなどを研究してきた学者です。難しい数字や怖い健康情報を、人がどう受け止め、どう行動につなげるのかを見つめている人、と言えます。研究テーマはまじめですが、扱っている問いはとても身近です。「わかっているのに、なぜ人は変われないのか?」。この問いを、白衣ではなく心の探偵帽をかぶって追いかけているような研究者ですね。
参考文献・確認先:

1.『親密な関係における「歩み寄り」の心理過程-傷つけ合わずに関係を守るための理論と初期実証研究』キャリル・E・ラスバルト、ジュリー・ヴェレット、グレゴリー・A・ホイットニー、リンダ・F・スロヴィック、アイザック・リプカス(1991)
Rusbult, C. E., Verette, J., Whitney, G. A., Slovik, L. F., & Lipkus, I. (1991). Accommodation Processes in Close Relationships: Theory and Preliminary Empirical Evidence. Journal of Personality and Social Psychology, 60(1), 53–78. DOI: 10.1037/0022-3514.60.1.53
恋人や夫婦のケンカって、だいたい最初は小さな火花なんです。「なんでそんな言い方するの?」から始まり、気づけば心のフライパンで感情がジュージュー。この論文は、そんなとき人がどう反応するかを調べた研究です。怒り返すのか、黙ってすねるのか、それとも相手を思いやって関係を守るのか。ポイントは、愛情だけでなく「この関係を大切にしたい」という気持ちが、ムッとした瞬間のブレーキになること。恋のケンカに置く、小さな消火器みたいな論文です。

