ヘンリー・W・W・ポッツ(Henry W. W. Potts)の論文一覧:「三日坊主のその後」を、数字と観察で静かに追いかけた研究者
ヘンリー・W・W・ポッツ(Henry W. W. Potts)のプロフィール
ヘンリー・W・W・ポッツは、「人はどうすれば、やるべきことを“気合い”ではなく“日常”にできるの。寝る前に少しだけ本を読む。こういう行動は、一つひとつを見ると地味です。地味すぎて、ドラマの主人公なら開始三分で画面外に追いやられそうです。けれど人生は、案外この地味な反復でできています。
ポッツが面白いのは、そんな「毎日のちいさな行動」を、ただの根性論で片づけなかったところです。
「続かないのは意志が弱いからです」
という、心に小石を投げてくるような説明ではなく、
「そもそも、どんな場面で行動は起きやすいのか」
「繰り返すうちに、どうすれば考えなくてもできるようになるのか」
「その変化を、ちゃんと確かめるにはどうすればいいのか」
と考えたのです。
ポッツは、健康や医療、そしてデジタル技術と人間の行動の関係を研究してきました。病院の情報システム、健康情報を届ける仕組み、感染症が広がる時期の人々の反応、健康を支えるデジタルサービスなど、研究の守備範囲はなかなか広めです。研究机の上には、心理学の本、統計の資料、医療の課題、そして「人は実際にはどう動くのか」という大きな問いが、ぎゅうぎゅうに積まれているような人です。
そんなポッツの名前が多くの人に知られるきっかけの一つが、フィリッパ・ラリーらとの習慣形成研究でしょう。
この研究では、人々に「毎日、同じ場面で新しい行動をする」ことを試してもらい、その行動がどれくらい自然に、半ば自動的にできるようになるかを追いかけました。ここで大切なのは、「習慣は二十一日で完成します!」という、どこからともなく現れては人を焦らせる説に、研究がきっぱり待ったをかけたことです。
習慣は、電子レンジのように「三分温めたら完成」ではありません。
早く身につく人もいれば、ゆっくり育つ人もいる。行動の種類によっても違う。毎日続けられるかどうかでも違う。つまり習慣とは、決まった日数を耐え抜いた人に配られる修了証ではなく、生活のなかで少しずつ育っていく“自動運転の芽”のようなものなのです。
しかも、たまに一日できなかったからといって、すべてが崩壊するわけではありません。ここが救いです。人間は一回サボると「はい、もう私の人生は終わりました」と脳内で閉会式を始めがちですが、習慣はそこまで短気ではありません。大切なのは、完璧な連続記録ではなく、また次の機会に戻ってくることです。
ポッツの研究が教えてくれるのは、習慣づくりを「自分を責める大会」にしなくていい、ということです。
続けられないとき、必要なのは「もっと頑張れ」と自分の背中をバンバン叩くことではないのかもしれません。行動を始めやすい時間を決める。きっかけを一つ用意する。記録をつける。できなかった日があっても、次の日に小さく戻る。そんな生活の設計を少し変えることのほうが、意外と効いてきます。
ヘンリー・W・W・ポッツは、習慣を華々しい変身イベントとしてではなく、日常のなかでゆっくり起きる変化として見つめた研究者です。
「気づけば、前ほど気合いを入れなくてもできている」
その状態こそ、習慣の到着点なのかもしれません。ポッツの研究は、私たちの三日坊主に説教するのではなく、「まあ、また明日から戻ればいいですよ」と、数字と観察を手にしながら、わりと落ち着いた顔で言ってくれるのです。
参考文献・確認先:ヘンリー・W・W・ポッツ 公式プロフィール(ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドン) / Google Scholar:Henry W. W. Potts 論文・引用情報 / PubMed:Henry W. W. Potts 関連論文

ヘンリー・W・W・ポッツ(Henry W. W. Potts)の研究から学べること
習慣づくりの話になると、私たちはすぐに自分へ説教を始めます。
「意志が弱いから続かないんだ」
「本気なら毎日できるはずだ」
「昨日サボった。もう計画は焼失した」
……心のなかに、やたら厳しい生活指導の先生が常駐している人は多いでしょう。しかもこの先生、こちらが疲れている日にも休暇を取りません。なかなかの働き者です。
けれど、ヘンリー・W・W・ポッツらが関わった習慣形成の研究は、そんな私たちの自己説教に、わりと静かな声で待ったをかけてくれます。
この研究では、参加者が「朝食のあとに果物を食べる」「昼食後に歩く」といった行動を、決まった場面で毎日くり返し、その行動がどのくらい自然にできるようになるかを追いかけました。すると、習慣になるまでの早さには大きな個人差があり、行動によっても育ち方が違うことがわかりました。しかも、たった一度やり忘れたからといって、習慣づくりが台無しになるわけではなかったのです。
これは、地味ですが大事な発見です。
世の中には、「○日続ければ習慣になる」という、たいへん便利そうな数字がよく転がっています。数字は好きです。冷蔵庫に貼れますし、手帳にも書けますし、達成した気になれます。しかし人の暮らしは、そんなに定食屋の注文票みたいに整然とはしていません。
仕事が忙しい週もある。風邪をひく日もある。家族の用事が飛び込んでくることもある。布団がこちらを離してくれない朝もある。人間は、予定表どおりに動く機械ではなく、ときどき充電切れを起こし、ときどき道草を食べる生き物です。
だから習慣づくりで本当に大切なのは、「絶対に休まないこと」ではありません。むしろ、「休んでしまっても、戻れること」です。
一日できなかったときに、「はい終了。私は向いていません」と、人生の企画会議を勝手に閉じない。次の朝に、また歯を磨くように小さく再開する。昨日の失敗を大きな判決文にせず、「昨日は昨日、今日は今日」と扱う。これが、長い目で見るとかなり強いのです。
習慣とは、毎日百点を取る競技ではありません。
「やる気があるからやる」から始まって、少しずつ「気づいたらやっている」へ移っていく。その移動を助けるのが、決まった場面と、くり返しです。
たとえば読書を続けたいなら、「時間ができたら読む」ではなく、「寝る前に布団へ入ったら、二ページだけ読む」と決める。運動したいなら、「今週こそ頑張る」ではなく、「夕食後に皿を洗ったら、五分だけ歩く」と決める。大げさな宣言よりも、生活のなかの小さな合図に行動をくっつけるのです。
ここでのコツは、最初から立派すぎる目標を置かないことです。
毎日一時間の勉強。毎朝五キロの散歩。毎晩筋トレ三十分。もちろんできれば素晴らしい。でも、始めたばかりの自分にそれを命じるのは、昨日までペンギンだった人に「明日から空を飛んでください」と言うようなものです。
まずは二分でいい。靴を履くだけでもいい。机にノートを置くだけでもいい。
小さすぎる行動は、最初は少し拍子抜けします。「こんなので変わるの?」と思うかもしれません。でも習慣は、拍手喝采のなかで育つものではなく、目立たない反復のなかで根を張るものです。今日の二分が、明日の二分を呼び、やがて「やらないと少し落ち着かない」へ変わっていく。その頃には、行動はもう気合いだけのものではなくなっています。
ポッツらの研究から学べる、もう一つの大事なことは、「自分に合う速さがある」ということです。
早くできる人を見て焦る必要はありません。毎朝すっと走りに行ける人もいれば、靴ひもを結ぶまでに心の会議が三回開かれる人もいます。どちらが偉いというより、育てるべき習慣の難しさも、生活の事情も、心身の調子も違うのです。
習慣が身につくまでには、長い時間がかかる場合があります。研究では、行動がかなり自然にできるようになるまでの期間に、18日から254日までの幅が見られました。これは、「遅い自分はダメだ」という話ではありません。「人によって、道の長さが違う」という話です。
焦りは、ときに行動の燃料になります。けれど、焦りだけで走ると、心のエンジンはすぐ熱をもちます。
だから、続けたいことがあるなら、自分にこう聞いてみるといいでしょう。
「私は、どの場面なら始めやすいだろう?」
「一番小さくすると、何ができるだろう?」
「できなかった翌日、どうやって戻ろう?」
習慣とは、自分を完璧な人間に改造する工事ではありません。むしろ、少し不器用で、疲れる日もあり、忘れ物もする自分と、長く付き合っていくための生活の仕組みです。
三日坊主になっても大丈夫です。
四日目に戻ってくればいい。
一週間空いても、また今日から一回やればいい。
あなたの習慣は、失敗を一度も経験しなかった証明ではありません。何度でも戻ってきた足あとによって、少しずつ形づくられていくのです。

ヘンリー・W・W・ポッツ(Henry W. W. Potts)の論文一覧
1.『習慣は、どうやって身につくのか:日常のなかで「続く行動」が育つまでを追った習慣形成モデル』フィリッパ・ラリー、コーネリア・H・M・ファン・ヤールスフェルト、ヘンリー・W・W・ポッツ、ジェーン・ウォードル(2010)
Lally, P., van Jaarsveld, C. H. M., Potts, H. W. W., & Wardle, J. (2010). How are habits formed: Modelling habit formation in the real world. European Journal of Social Psychology, 40(6), 998–1009. DOI:10.1002/ejsp.674
『よし、明日から毎朝ランニング!』と宣言した翌朝、布団に敗北。そんな三日坊主に朗報です。この論文は、96人が食事・飲み物・運動の小さな行動を毎日くり返し、「考えなくてもできる」までを追跡。すると習慣化は一直線ではなく、ゆっくり伸びる坂道。しかも一日サボっても、人生の習慣係から永久追放されるわけではない。「何日で身につく?」という焦りに、「答えは人それぞれ」と数字で返した研究です。根性論をいったん脇へ置き、日常の仕組みから習慣を育てる面白さが見えてきます。その意外な観察の中身を、のぞいてみませんか。

