ハリー・ウェガー・ジュニア(Harry Weger Jr.)の論文一覧:聞き上手は才能じゃない?人間関係をあたためる会話心理学の実験ノート
ハリー・ウェガー・ジュニア(Harry Weger Jr.)のプロフィール
ハリー・ウェガー・ジュニアは、アメリカのセントラルフロリダ大学にある「ニコルソン・コミュニケーション・メディア学部」の教授で、コミュニケーション研究の専門家です。大学の公式プロフィールによると、2005年から同校に所属し、アリゾナ大学でコミュニケーション学の博士号を取得しています。研究分野は、人と人との会話、親密な人間関係、説得、政治討論での言葉以外のやりとり、レストラン接客場面でのコミュニケーションなど、かなり幅広いです。
ざっくり言うと、ウェガー先生は「人は、どう聞かれると“ちゃんとわかってもらえた”と感じるのか?」をまじめに研究している人です。いわば、会話のなかに潜む小さな魔法を、白衣ではなく論文で解剖するタイプの研究者ですね。相づち、言い換え、うなずき、助言、沈黙。ふつうなら「なんとなく大事だよね」で済ませてしまう会話の部品を、「いやいや、その“なんとなく”を調べましょう」と実験台に乗せる。聞き上手界の理科室番長、という感じです。
特に有名なのが、積極的傾聴に関する研究です。2014年の論文では、初対面の会話で「積極的に聞く」「助言する」「軽く反応する」といった聞き方の違いが、相手にどう受け止められるかを調べています。結果として、積極的に聞いてもらった人は「理解された」「会話に満足した」と感じやすいことが示されました。つまり、会話では名回答をぶつけるより、「あなたの話、ちゃんと受け取りましたよ」という姿勢が、心の玄関マットになるわけです。
また、2010年には「相手の話を言い換えて返すこと」が、聞き手の印象にどのような影響を与えるかも研究しています。これは、相談支援やカウンセリング、面談、教育現場などでもかなり大事なテーマです。たとえば相手が「最近しんどくて」と言ったときに、すぐ「じゃあ運動したら?」と解決策を投げるのではなく、「最近、かなり疲れがたまっている感じなんですね」と返す。たったそれだけで、会話の空気がカチコチの冷凍パンから、少しだけ焼きたてトーストになることがあります。
ただし、ウェガー先生の研究は「聞くこと」だけに閉じこもっているわけではありません。大学公式プロフィールでは、政治討論における非言語コミュニケーション、レストラン接客での説得、人間関係のコミュニケーションなどにも関心があると紹介されています。論文や著作も40本以上あるとされ、会話の研究を中心にしながら、政治の舞台から飲食店のテーブルまで、人間のやりとりをあちこち観察している研究者です。
なので、ハリー・ウェガー・ジュニアをひとことで紹介するなら、「人間関係のすれ違いを、“聞き方”という小さな入口から研究するコミュニケーション学者」と言えます。派手な理論でドーンと世界を動かすというより、会話の端っこに落ちている「うんうん」「つまり、こういうことですね」「それは大変でしたね」といった小さな言葉を拾い上げて、「実はこれ、人の心をかなり動かしてますよ」と教えてくれる人です。耳の研究者というより、耳を通して人間関係の温度を測る研究者。そんなプロフィールが似合う先生です。
参考文献・確認先:Harry Weger Jr. 公式プロフィール / Google Scholar:Harry Weger Jr. 論文・引用情報 / PubMed:Harry Weger Jr. 関連論文 / ORCID:Harry Weger Jr. 研究者情報

ハリー・ウェガー・ジュニア(Harry Weger Jr.)の研究から学べること
ハリー・ウェガー・ジュニアさんの研究から学べることを、ひとことで言うなら、「人の話は、耳で聞くだけでは足りない。相手に“ちゃんと受け取ったよ”と伝わって、はじめて会話はあたたまる」ということです。
会話って、不思議ですよね。相手は目の前にいる。声も聞こえている。うなずきもしている。なのに、なぜか「この人、全然聞いてないな」と感じることがあります。まるで、カレーを作っているのに、鍋の中身が全部じゃがいもだけ、みたいな状態です。形は会話。でも味が足りない。その足りない味が、「聴いてもらえた感じ」なのです。
ウェガーさんは、対人コミュニケーション、とくに「相手の話をどう聴くか」について研究している人物です。代表的な研究のひとつに、初対面に近い会話の中で、いわゆる「積極的な聴き方」が、相手にどんな印象を与えるかを調べたものがあります。この研究では、ただ相づちを打つだけ、助言をする、相手の話を言い換えて返す、といった反応の違いが比べられました。
ここで大事なのが、「言い換えて返す」という技です。たとえば相手が、「最近、仕事で気をつかうことが多くて疲れているんです」と言ったとします。そのときに、「へえ」「大変ですね」だけで終わると、会話のボールは床にコロコロ転がります。もちろん、それでも悪くはありません。でも、もう一歩進めて、「人間関係や周りへの配慮が多くて、かなり消耗している感じなんですね」と返すと、相手は「あ、伝わった」と感じやすくなります。
これは、相手の言葉をオウムのように丸ごと繰り返すことではありません。オウム返しだけだと、「この人、録音機かな?」となってしまいます。そうではなく、相手の言葉の中にある気持ちや意味を、こちらの言葉でそっと返すのです。会話のキャッチボールで言えば、相手が投げたボールを受け取り、「たしかに受け取りましたよ」と見えるように投げ返す感じです。
ウェガーさんたちの研究では、こうした聴き方が、相手から「この人は話を聞くのがうまい」「理解してくれている」「会話に満足できる」と感じられやすいことが示されています。 つまり、聴き方はただの礼儀ではなく、人間関係の温度調整装置なのです。少し冷えた会話も、聴き方しだいで、こたつの弱くらいには温まります。
ここで勘違いしやすいのは、「聴く」とは、ただ黙って耐えることではないという点です。相手の話を聞きながら、心の中で「早く終わらないかな」「今日の晩ごはん何にしようかな」「この人、また同じ話してるな」と思っていると、それはたいてい顔に出ます。人間の顔は、思ったより正直な掲示板です。「ただいま別のことを考えています」と、うっすら表示されます。
本当に聴くというのは、相手の話の奥にあるものを探ることです。「この人は、何に困っているんだろう」「どこが一番つらかったんだろう」「今、わかってほしいのは事実なのか、気持ちなのか」。そうやって、相手の心の玄関先までそっと行く。土足で上がり込まず、ピンポンを押して待つ。これが上手な聴き方です。
ウェガーさんの研究から学べることは、支援の場面でも、とても役に立ちます。相談を受けたとき、私たちはつい「解決しなければ」と思ってしまいます。すると、相手がまだ話している途中なのに、頭の中で解決策会議が始まります。「それならこうすればいい」「この制度を使えばいい」「まず電話して、次に書類を出して……」と、脳内の事務員さんが猛烈にスタンプを押し始めるわけです。
でも、相手が最初に求めているのは、解決策ではなく、「わかってもらえた」という安心かもしれません。もちろん、助言が必要な場面もあります。けれど、助言は早すぎると、心に入る前に跳ね返ります。熱々のたこ焼きを急に口へ入れるようなものです。まず冷ます。つまり、まず聴く。相手の状況を受け止めて、気持ちを確認して、それから一緒に考える。この順番が大事なのです。
たとえば、相手が「職場で注意されるのが怖くて、行く前からしんどいんです」と言ったとします。そこでいきなり「気にしすぎですよ」「とりあえず行きましょう」と返すと、相手の心は「本日閉店」の札を出すかもしれません。けれど、「行く前から緊張が強くなって、注意される場面を想像してしまうんですね」と返すと、相手は少し安心しやすくなります。その安心ができてから、「では、行く前に少し楽になる準備を考えてみましょうか」と進めると、会話が共同作業になります。
これは職場でも同じです。部下や同僚の話を聞くとき、「で、結論は?」「つまり何が言いたいの?」と急ぎすぎると、相手は説明する前に防御態勢に入ります。心の中で盾を構えます。逆に、「つまり、今困っているのは作業量そのものより、確認先がはっきりしないことなんですね」と返せると、話は整理されます。聴くことは、相手を甘やかすことではありません。話の霧を晴らして、一緒に地図を見ることなのです。
ウェガーさんの研究の面白いところは、「聴く力」をふわっとした美徳で終わらせず、実際の会話の中でどう働くかを調べている点です。聴き上手というと、生まれつきの才能のように思われがちです。「あの人は聞き上手だから」「私は口下手だから無理」と言いたくなります。でも、聴き方には練習できる部分があります。とくに、相手の話を短くまとめて返す、気持ちを確認する、すぐに評価しない、途中で奪い取らない。このあたりは、日々の会話で少しずつ育てられる技術です。
日常で使うなら、まずはこの一言からで十分です。
「つまり、〇〇ということなんですね」
「それは、かなり負担が大きかったんですね」
「一番しんどかったのは、どのあたりでしたか?」
この三つだけでも、会話の空気はだいぶ変わります。まるで、ギシギシ鳴る引き戸に油を差すようなものです。派手ではありません。でも、開きやすくなる。人の心も同じで、「聴いてもらえた」と感じると、少し開きやすくなります。
ただし、注意点もあります。言い換えれば何でもいい、というわけではありません。相手が「疲れた」と言ったときに、「つまり人生に絶望しているんですね」と返したら、さすがに飛躍しすぎです。会話の階段を三段飛ばしで転げ落ちています。言い換えは、相手の言葉から遠くへ行きすぎないことが大切です。迷ったら、「そういう理解で合っていますか?」と確認すればいいのです。会話は占いではありません。確認していいのです。
ハリー・ウェガー・ジュニアさんの研究が教えてくれるのは、人間関係において「聴くこと」は、ただの受け身ではなく、相手を支える積極的な行動だということです。相手の話を受け止め、意味を返し、気持ちを確認する。その小さなやりとりが、「この人には話しても大丈夫」という安心をつくります。
人は、正しいことを言われただけでは動けないことがあります。でも、わかってもらえたと感じたとき、少しだけ前を向けることがあります。聴くことは、相手の人生を代わりに背負うことではありません。相手が自分の荷物を持ち直せるように、いったん横に座って、荷物の重さを一緒に確かめることです。
ウェガーさんの研究は、私たちにそっと教えてくれます。会話の主役は、うまい助言ではなく、丁寧な受け取り方なのだと。人の話を聴くことは、心の郵便受けを開けることです。相手が差し出した言葉を、くしゃくしゃにせず、ちゃんと受け取る。その積み重ねが、人間関係を少しずつ、やわらかくしていくのです。

ハリー・ウェガー・ジュニア(Harry Weger Jr.)の論文一覧
1.『初対面の会話で、アクティブリスニングはどれほど効くのか-「ちゃんと聴いてくれる人」が相手に与える心理的効果』ハリー・ウェガー・ジュニア、ジーナ・キャッスル・ベル、エリザベス・M・ミネイ、メリッサ・C・ロビンソン(2014)
Weger, H., Jr., Castle Bell, G., Minei, E. M., & Robinson, M. C. (2014). The relative effectiveness of active listening in initial interactions. International Journal of Listening, 28(1), 13–31. DOI:10.1080/10904018.2013.813234
「ちゃんと聞いてるよ」と言われても、スマホ片手にうなずかれたら心はスン……となりますよね。この論文は、初対面の会話で「積極的に聞くこと」がどれくらい効くのかを調べた研究です。ポイントは、聞き上手は“ただ黙っている人”ではないということ。相手の話を受け止め、言い換え、関心を示すことで、「この人、私の話をちゃんと持ってくれてる」と感じやすくなります。会話の主役は名言ではなく、耳だったのかもしれません。人間関係の入口に小さな座布団を敷いてくれる一本です。

