フリートヘルム・ナハライナー(Friedhelm Nachreiner)の論文一覧:働く時間の裏側で、疲労と集中力がこっそり会議している労働心理学さんぽ

フリートヘルム・ナハライナー(Friedhelm Nachreiner)の論文を読む女性
adler-nap

フリートヘルム・ナハライナー(Friedhelm Nachreiner)のプロフィール

フリートヘルム・ナハライナー(Friedhelm Nachreiner)は、ドイツの心理学者・労働研究者です。ざっくり言うと、「人間は、いつ、どれくらい、どんな働き方をすると疲れるのか?」を、時計とにらめっこしながら研究してきた人です。普通の人なら「夜勤しんどいなあ」「長時間労働きついなあ」で終わるところを、ナハライナーさんは「では、その“しんどい”は、どの勤務時間、どの休み方、どのリズムで増えるのか?」と、疲労の足跡を虫眼鏡で追いかけていくタイプの研究者ですね。🕰️

彼は、オルデンブルク大学で応用心理学の教員を務め、2003年には同大学の心理学研究所の所長に選ばれています。大学の発表によると、最初はケルン大学の社会心理学研究所で活動し、その後1973年にドルトムント大学の労働生理学研究所へ移り、さらに5年後にオルデンブルク大学へ移ったとされています。つまり、研究人生の大きな道筋としては、人間の心、働く体、職場の仕組みをずっと見つめてきた人だと言えます。

研究テーマとして特に有名なのは、労働時間、精神的な仕事の負担、交代勤務、疲労、安全、健康などです。研究者情報サイトでは、彼の関心分野として「精神的な作業負担」と「労働時間」が示されており、専門領域には人間工学、職場の安全、労働衛生などが挙げられています。むずかしく聞こえますが、要するに「人間を機械の部品みたいに扱ったら、どこで悲鳴が出るのか」を調べる学問です。職場という巨大なからくり時計の中で、人間の歯車だけが泣いていないかを確認する係、と言うと少し伝わりやすいかもしれません。

ナハライナーさんの名前がよく知られている理由の一つに、2001年のバーンアウト研究があります。エヴァンゲリア・デメルーティ、アーノルド・バッカー、ウィルマー・シャウフェリらとともに発表した論文では、仕事の条件を「負担になるもの」と「支えになるもの」に分け、燃え尽きがどう起こるのかを説明しました。この研究では、仕事の負担は主に疲れ切った感じと関係し、仕事上の支えが足りないことは仕事から心が離れていく状態と関係するとされています。いわば職場版の「心の家計簿」です。出ていく体力ばかり多くて、入ってくる支えが少ないと、心の財布がすっからかんになるわけです。

また、彼は交代勤務や柔軟な勤務時間の研究にも関わっています。1996年のオルデンブルク大学の発表では、コンピューターを使った勤務表づくり、特に交代勤務の計画について、国際的な専門家会議が開かれたことが紹介されています。そこでは、法律上の基準や労働科学の知見を、勤務表作成のプログラムにどう反映させるかが話し合われました。つまり、ただの「シフト表づくり」ではありません。人間の睡眠、体内リズム、疲労、安全を考えた、かなり本気の“勤務表料理”です。具材は労働時間、調味料は休息、火加減を間違えると職場全体が焦げます。

さらに近年の紹介記事では、アンナ・アーリングハウスとナハライナーが、ヨーロッパ31か国、約2万4000人の労働者データを分析し、勤務時間外の仕事連絡が健康に悪影響を与える可能性を検討したことが紹介されています。仕事のメールや電話が休み時間に入り込むと、回復の時間が削られ、睡眠や生活リズム、人との時間にも影響する可能性がある、というわけです。スマホが「ちょっとだけ仕事の話いいですか?」と夜の布団にまで入ってくる時代に、ナハライナーさんの研究はかなり現代的です。

まとめると、フリートヘルム・ナハライナーは、働く人の疲れを“気合い不足”で片づけず、勤務時間や職場環境の問題として見ようとした研究者です。彼の研究を読むと、「疲れるのはあなたが弱いから」ではなく、「働き方の設計に無理があるのでは?」という視点が見えてきます。これはとても大事です。人間は充電式のスマートフォンではありませんが、休まないと動きが鈍くなるところはちょっと似ています。しかも通知を切らないと、心のバッテリーはじわじわ減ります。

ナハライナーさんは、職場に向かってこう言っているような研究者です。
「人間にはリズムがあります。眠る時間も、休む時間も、回復する時間も必要です。働く人を長く元気にしたいなら、根性論ではなく、働き方の設計図を見直しましょう」と。
なんだか地味に見えて、実は職場の未来を支える“時間の整備士”みたいな人ですね。

参考文献・確認先:オルデンブルク大学:Friedhelm Nachreiner 関連発表 / Google Scholar:Friedhelm Nachreiner 論文・引用情報 / PubMed:Friedhelm Nachreiner 関連論文 / ResearchGate:Friedhelm Nachreiner 研究者プロフィール

阿部牧歌(管理人)
阿部牧歌(管理人)

フリートヘルム・ナハライナー(Friedhelm Nachreiner)の研究から学べること

フリートヘルム・ナハライナーさんの研究から学べることを、ひとことで言うなら、「人は気合いだけで働き続けられるわけではない。仕事の量、時間、休み方、支えの有無によって、心と体の持ちこたえ方は大きく変わる」ということです。

これは、働く人にとってかなり大事な話です。私たちはつい、疲れている人を見ると「もっと頑張れ」「根性が足りない」「慣れたら大丈夫」と言ってしまいがちです。でも、ナハライナーさんたちの研究の視点から見ると、それはスマホの充電が1%なのに「気合いで動画を再生しろ」と言っているようなものです。いや、無理です。スマホも人間も、充電なしでは動きません。しかも人間は、充電器を挿したら即100%になる便利家電ではないのです。

ナハライナーさんは、働く時間、疲労、仕事の負担、燃え尽きなどに関わる労働心理学・産業心理学の分野で知られる研究者です。特に有名なのは、エヴァンゲリア・デメルーティさん、アーノルド・B・バッカーさん、ウィルマー・B・シャウフェリさんと発表した「仕事の要求と資源モデル」に関する論文です。この論文は、燃え尽きを考えるうえで非常に重要な研究として広く引用されています。

この「仕事の要求と資源モデル」は、むずかしく聞こえますが、考え方はわりとシンプルです。仕事には、人のエネルギーを削るものと、人を支えるものがある、という話です。

エネルギーを削るものには、仕事量の多さ、時間に追われること、感情的にしんどい対応、役割があいまいなこと、休みにくさ、人間関係のストレスなどがあります。これは、心の電池をじわじわ吸い取る吸血コウモリ軍団です。ひとつひとつは小さくても、毎日まとわりつかれると、かなりしんどい。

一方で、人を支えるものには、上司や同僚からの支援、仕事の進め方を自分で決められる余地、十分な休憩、わかりやすい役割、評価や感謝、成長できる機会などがあります。こちらは、心の補給所です。砂漠を歩くなら、水筒が必要です。職場を歩くにも、支えという水筒が必要なのです。

ナハライナーさんたちの研究が教えてくれるのは、燃え尽きは「本人が弱いから起きる」のではなく、「仕事の負担と支えのバランスが崩れたときに起きやすい」ということです。もちろん個人の工夫も大切です。でも、職場の設計そのものが無理ゲーになっていたら、個人の努力だけでは限界があります。毎日ボス戦なのに、回復アイテムがゼロ。そんな職場では、どんな勇者でもそのうち宿屋を探し始めます。

この考え方は、働く時間の問題にもつながります。長時間働くこと、夜勤や交代勤務、不規則な勤務は、睡眠や注意力、体調に影響しやすいことが知られています。交代勤務は、体内時計を乱し、眠気、睡眠の問題、注意力や判断力の低下、事故リスクなどと関係する可能性があると整理されています。

ここで大切なのは、「休みはサボりではない」ということです。

日本の職場では、ときどき休憩を悪者扱いする空気があります。「休まず頑張っている人が偉い」「遅くまで残っている人が熱心」という考え方です。でも、ナハライナーさんの研究領域から見ると、これはかなり危険な考え方です。休憩なしで働き続けるのは、ブレーキの整備をせずに山道を走るようなものです。最初は進めても、どこかでガタが来ます。しかもガタが来ると、本人だけでなく周りにも影響します。

疲れていると、人はミスをしやすくなります。細かい確認を飛ばす。言葉がきつくなる。判断が雑になる。普段なら笑って流せることに、心の茶碗がカンカン鳴る。疲労は、性格を少しだけ悪役寄りに編集してしまうところがあります。本人が悪人になったわけではなく、脳と体が「もう燃料がありません」と言っているのです。

だから、ナハライナーさんの研究から学べるのは、働き方を「気持ちの問題」にしすぎないことです。

「やる気がない」のではなく、仕事の量が多すぎるのかもしれない。

「集中力がない」のではなく、休憩が足りていないのかもしれない。

「すぐイライラする人」なのではなく、役割があいまいで常に緊張しているのかもしれない。

「燃え尽きた人」なのではなく、長く燃やされ続けた人なのかもしれない。

こう考えると、人への見方が少しやさしくなります。もちろん、何でも環境のせいにすればいいわけではありません。でも、全部を個人の根性に押し込めるのも違います。心の問題に見えるものの中には、仕事の設計の問題が隠れていることがあるのです。机の上の書類だけ見ていても、床下の配線トラブルには気づけません。

職場でこの考え方を使うなら、まず「負担」と「支え」を分けて見ることが大切です。

たとえば、忙しい職場で「みんな大変だから頑張ろう」と言うだけでは、あまり変わりません。心の応援旗は立ちますが、荷物の重さは変わらないからです。必要なのは、「何が一番負担になっているのか」「どこに支えを入れればよいのか」を見ることです。

仕事量が多いのか。

締め切りが近すぎるのか。

相談先がわからないのか。

休憩が取りにくいのか。

感情的にしんどい対応が続いているのか。

評価されている実感がないのか。

こうして見ていくと、対策が少し具体的になります。仕事量が問題なら、分担や優先順位の見直しが必要です。相談先が問題なら、報告の流れを整える必要があります。休憩が問題なら、休める仕組みをつくる必要があります。つまり、「頑張って」ではなく、「どこを直すか」を考える。ここが大事です。

ナハライナーさんたちの「仕事の要求と資源モデル」は、仕事の負担が高いほど疲弊につながりやすく、仕事の資源があるほど働く意欲や成長を支えやすい、という見方につながっています。のちの研究でも、このモデルは燃え尽きや仕事への前向きな関わりを考える基本的な理論として発展してきました。

これを日常の言葉にすると、「人は、ただ荷物を減らすだけでなく、持ちやすい持ち手があると頑張りやすい」ということです。

同じ重さの荷物でも、持ち手がない段ボールはつらいですよね。腕に食い込むし、角が刺さるし、運んでいる途中で「私はなぜこの箱と人生を共にしているのか」と哲学が始まります。でも、しっかりした持ち手があれば、同じ重さでも少し運びやすくなります。仕事における支援、裁量、見通し、感謝、休憩は、この「持ち手」のようなものです。

支援の仕事にも、この視点はとても役立ちます。利用者さんが作業で疲れやすいとき、「もっと集中しましょう」と言うだけではなく、「作業時間が長すぎないか」「手順がわかりにくくないか」「休憩のタイミングは合っているか」「相談しやすい雰囲気があるか」を見ることができます。人は、環境が少し整うだけで、力を出しやすくなることがあります。逆に、環境が合わないと、本来できることまで難しく見えることがあります。

これは、植物に似ています。日陰に置かれてしおれている花に、「根性で咲け」と言っても咲きません。水、光、土、温度を見る必要があります。人も同じです。仕事の水や光が足りないと、元気はしおれます。そこで必要なのは説教ではなく、環境調整です。

また、ナハライナーさんの研究からは、「疲れを早めに見つけること」の大切さも学べます。燃え尽きは、ある朝突然「はい、今日から燃え尽きです」と玄関に立っているわけではありません。少しずつ来ます。じわじわ来ます。忍者のように静かに来ます。

朝起きるのがつらくなる。

以前よりイライラしやすくなる。

人と話すのが面倒になる。

仕事への関心が薄くなる。

ミスが増える。

休んでも回復しにくい。

こういうサインが出ているときは、「甘えだ」と片づけずに、負担と支えのバランスを見直す合図かもしれません。心の車から変な音がしているのに、「まあ走るから大丈夫」と高速道路に乗るのは危険です。早めに点検したほうがいいのです。

フリートヘルム・ナハライナーさんの研究が教えてくれるのは、働く人を守るためには、「本人の努力」だけでなく、「仕事のつくり方」を見る必要があるということです。人間は、気合いで無限に働ける永久機関ではありません。疲れます。乱れます。回復が必要です。そして、よい仕事を続けるためには、よい休み方、よい支え方、よい分担、よい見通しが必要です。

働くことは、マラソンに近いところがあります。最初の100メートルを全力疾走しても、42キロはもちません。途中で水を飲み、ペースを整え、靴ひもを結び直し、ときには歩くことも必要です。職場も同じです。長く働き続けるには、無理を美談にしすぎないこと。疲れを個人の弱さにしないこと。支えを仕組みにすること。

ナハライナーさんの研究は、私たちに静かに教えてくれます。

「もっと頑張れ」の前に、「何が負担になっているのか」を見よう。

「気合いで乗り切れ」の前に、「回復できる設計になっているか」を見よう。

「人が辞める」の前に、「職場が人を削っていないか」を見よう。

仕事は、人をすり減らすためにあるのではありません。人が力を出し、役に立ち、成長し、生活を支えるためにあります。だからこそ、働き方には設計が必要です。根性のハチマキだけではなく、休憩の椅子も、相談の窓口も、感謝の言葉も、ちゃんと置いておく。

ナハライナーさんの研究は、働く人の心と体に向けて、こう言っているようです。あなたが弱いのではありません。荷物が重すぎることもあるし、持ち手がないこともある。だから、荷物の重さと持ち手の両方を見直しましょう、と。仕事の現場に、そんなやさしい設計図を広げてくれる研究なのです。

阿部牧歌(管理人)
阿部牧歌(管理人)

フリートヘルム・ナハライナー(Friedhelm Nachreiner)の論文一覧

1.『燃え尽きを読み解く、仕事の負荷と資源モデル』エヴァンゲリア・デメルーティ、フリートヘルム・ナハライナー、アーノルド・B・バッカー、ウィルマー・B・シャウフェリ(2001)

Demerouti, E., Nachreiner, F., Bakker, A. B., & Schaufeli, W. B. (2001). The Job Demands-Resources model of burnout. Journal of Applied Psychology, 86(3), 499–512. DOI:10.1037/0021-9010.86.3.499

仕事って、ただ忙しいだけで燃え尽きるの?この論文は「いやいや、問題は“要求”と“資源”のバランスですよ」と教えてくれます。仕事量やプレッシャーがドカ盛りなのに、裁量・支援・評価がスカスカだと、心の燃料タンクは空っぽに。職場の疲れを“根性不足”で片づけない、働く人のための名作研究です。読めば「うちの職場、これだ!」と膝を打つかもしれません。

阿部牧歌(管理人)
阿部牧歌(管理人)
この論文の要約を読む
【論文要約】燃え尽きはなぜ起こるのか? 仕事の負荷と職場の支えからわかったバーンアウトのしくみ
【論文要約】燃え尽きはなぜ起こるのか? 仕事の負荷と職場の支えからわかったバーンアウトのしくみ
記事URLをコピーしました