エミリー・A・インペット(Emily A. Impett)の論文一覧:恋愛は思いやりだけで走るとガス欠になる?愛情・犠牲・感情のゆらぎをのぞく、親密関係の心理学さんぽ

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エミリー・A・インペット(Emily A. Impett)のプロフィール

エミリー・A・インペットは、カナダのトロント大学ミシサガ校で心理学の教授を務める研究者です。専門は、恋愛関係や親しい人間関係、幸福感、感情、思いやり、自己犠牲など。つまり、研究テーマをざっくり言うと、「人は好きな人のためにどこまで頑張ると幸せになり、どこから先は心のバッテリーが赤ランプになるのか?」を調べている先生です。

彼女は、トロント大学で「人間関係と幸福感の研究室」を率いています。この研究室では、恋人や夫婦、親しい相手との関係が、私たちの心や体の元気にどう関わるのかを研究しています。たとえば、「相手のために我慢することは愛なのか、それとも心の家計簿を赤字にする行動なのか」「感謝を伝えると関係は長持ちするのか」「恋愛の中で自分らしさを保つにはどうしたらいいのか」といった、かなり生活密着型のテーマが多いです。恋愛心理学の白衣を着た“人間関係の整備士”という感じですね。

インペットの研究でおもしろいところは、「愛は大事です。以上!」で終わらないところです。好きな人のために何かをしてあげることは、もちろん関係を温めることがあります。でも、いつも自分ばかり我慢していたら、心の中で小さな労働組合が結成されて「ちょっと待遇改善を求めます」とプラカードを上げはじめます。インペットは、そうした“与えることの明るい面としんどい面”を、かなり丁寧に見ている研究者です。公式プロフィールでも、親しい関係の中で「与えること」が、いつ・誰にとって助けになり、いつ傷つく原因になるのかに関心があると紹介されています。

研究方法も、日常に近いかたちを大事にしています。研究室の説明では、経験サンプリング法、長期的な調査、カップル双方を対象にした方法などを使い、人間関係が幸福感にどう影響するかを調べているとされています。つまり、ただ机の上で「恋とは何か」と腕を組んでいるだけではなく、実際の生活の中で、感情や行動がどう動いているのかを追いかけているわけです。恋愛や人間関係の“現場検証”ですね。

また、近年は「愛の言語」という有名な考え方についても研究しており、「人にはそれぞれ決まった愛情表現の言語がある」という人気の説を、科学的な視点から見直しています。ただし、バッサリ切り捨てるというより、「愛はひとつの言語というより、栄養バランスのようなものではないか」と提案している点が印象的です。ロマンを壊すハンマーではなく、ロマンにちゃんと手すりをつけるタイプの研究者と言えるかもしれません。

まとめると、エミリー・A・インペットは、恋愛や親密な関係を「気持ちだけの問題」として片づけず、感謝、思いやり、我慢、自己犠牲、幸福感といった要素を、ていねいにほどいていく心理学者です。恋人のために頑張ること、相手に感謝すること、自分の気持ちを飲み込むこと。そうした日常の小さな行動の中に、関係が長持ちするヒントも、疲れてしまう落とし穴も隠れている。インペットの研究は、その見えにくい心の配線を、そっとライトで照らしてくれるような研究だと思います。

参考文献・確認先:トロント大学ミシサガ校:Emily Impett 公式プロフィール / Relationships and Well-Being Laboratory 公式サイト / Google Scholar:Emily Impett 論文・引用情報 / PubMed:Emily A. Impett 関連論文

阿部牧歌(管理人)
阿部牧歌(管理人)

エミリー・A・インペット(Emily A. Impett)の研究から学べること

エミリー・A・インペットさんの研究から学べることは、ひとことで言うと、「愛のために何かをすることは素敵だけれど、“なぜそれをするのか”によって、関係は温かくもなれば、じわじわ苦しくもなる」ということです。

これ、恋愛や夫婦関係だけでなく、家族、友人、職場の人間関係にもかなり効く話です。

たとえば、恋人や家族のために予定を変える。相手の好きなものに合わせる。自分は少し我慢して、相手の希望を優先する。こういうことは、人間関係ではよくありますよね。人と一緒に生きるというのは、毎日が小さな調整会議です。「今日は何食べる?」「どっちの予定を優先する?」「どこまで相手に合わせる?」。心の中では、愛情部、疲労部、自己主張課、平和維持係が、わりと頻繁に会議しています。

インペットさんは、親しい人間関係、特に恋愛や夫婦関係の中で、人が相手のために何かを譲ったり、我慢したり、行動したりすることを研究してきた心理学者です。トロント大学の研究者紹介では、親しい関係における相手への反応、感情、動機、そして関係の幸福などを研究している人物として紹介されています。

インペットさんの研究でとても大切なのが、「相手のためにする行動」には、大きく分けて二つの動機があるという考え方です。一つは、「相手を喜ばせたい」「関係をよくしたい」「一緒に幸せになりたい」という前向きな動機です。もう一つは、「怒られたくない」「嫌われたくない」「けんかを避けたい」「見捨てられたくない」という不安からの動機です。

どちらも、外から見ると同じ行動に見えることがあります。

たとえば、相手に合わせて映画を選ぶ。外から見れば、どちらも「相手のために譲った」です。でも、心の中身は違います。

「相手が喜ぶ顔を見たいな」と思って譲るのと、
「ここで譲らないと不機嫌になられるかも」と思って譲るのでは、
心の後味がまるで違います。

前者は、あたたかいお茶を出した感じです。後者は、胃に小石を一つ入れた感じです。どちらも飲み込めますが、後者は積み重なると重いのです。

インペットさんたちの研究では、相手のために何かをする場合でも、前向きな理由から行うと本人にも関係にもよい影響が出やすく、不安や回避のために行うと、本人の気分や関係の質に負担が出やすいことが示されています。ある研究では、80組のカップルを対象に、実験室での会話、14日間の日記、3か月後の調査を組み合わせて、犠牲の動機が本人と相手の感情や関係の質にどう関わるかを調べています。

ここから学べる一つ目のことは、「相手のためにすることが、いつも自動的によい結果になるわけではない」ということです。

これ、かなり大事です。日本では特に、「我慢できる人はえらい」「相手に合わせられる人は優しい」と言われがちです。もちろん、思いやりは大切です。でも、いつも自分を押し殺して相手に合わせていると、心の中に未提出の不満書類がたまっていきます。最初は一枚だけです。「今日はまあいいか」。でも、それが十枚、百枚と積み上がると、ある日、心の事務机が崩れます。

しかも怖いのは、本人が「私は相手のためにやっている」と思っていても、実は心の奥では「嫌われたくないから」「怒らせたくないから」になっている場合です。この場合、行動はやさしそうに見えても、内側では不安がハンドルを握っています。愛情が運転していると思ったら、助手席の不安が勝手にナビを操作していた、みたいな状態です。

二つ目の学びは、「本当に関係をよくする行動には、自分らしさが残っている」ということです。

インペットさんたちの研究では、相手のために何かをするとき、その行動が「自分らしい」と感じられるかどうかも大切だとされています。前向きな理由で相手に尽くすと、自分らしさを感じやすく、それが本人の幸福感や関係のよさにつながりやすい。一方、不安から行うと、自分らしさが薄れ、心の負担になりやすいと考えられています。

これは、ものすごく人間味のある話です。

たとえば、「今日は相手が疲れているから、自分が夕飯を作ろう」と思う。これは、自分の中に納得があります。「やりたいからやる」「大切にしたいからする」という感じです。ところが、「作らないと機嫌が悪くなるから」「また責められるから」と思って同じことをすると、心の中に小さなため息が生まれます。料理は同じでも、味つけが違うのです。前者は愛情味、後者は不安味です。後者は隠し味にしては、ちょっと苦い。

三つ目の学びは、「自己犠牲は、量よりも質を見ることが大切」ということです。

たくさん我慢しているから、よい関係になるとは限りません。むしろ、我慢の中身が大切です。相手のために何かをするとき、「私はこれをしたいと思っているのか」「これは自分の価値観に合っているのか」「あとで相手を恨まないか」「本当は言いたいことを飲み込んでいないか」と、一度確認することが大切です。

人間関係では、黙って我慢することが美談になりがちです。でも、黙って我慢し続けると、相手はあなたが何に困っているのかわかりません。相手から見れば「問題なし」に見える。でも内側では、心の鍋がぐつぐつ煮えています。そしてある日、ふたがカタカタ鳴り出す。最終的には「なんでわかってくれないの!」となる。相手からすると「え、今初耳です」となる。これはかなりよくある人間関係の鍋事件です。

だから、インペットさんの研究からは、「相手のためにすること」と「自分の気持ちを伝えること」は、対立しないと学べます。

むしろ、長くよい関係をつくるには、両方必要です。相手を大切にする。でも、自分も消さない。相手に譲る。でも、自分の限界も伝える。これはわがままではありません。関係を長持ちさせるためのメンテナンスです。車だって、ガソリンを入れるだけでなく、オイル交換も必要です。人間関係も同じです。

四つ目の学びは、「相手のためにするなら、恐れよりも願いから動いたほうがいい」ということです。

これは、かなり美しい知恵です。

「嫌われたくないからする」ではなく、「大切にしたいからする」。
「怒らせたくないから黙る」ではなく、「今は落ち着いて話したいから、少し時間を置く」。
「けんかを避けたいから全部飲み込む」ではなく、「関係を大事にしたいから、やわらかく伝える」。

同じように見える行動でも、心の向きが変わると、関係の空気も変わります。恐れからの行動は、心を縮ませます。願いからの行動は、心に少し余白をつくります。恐れは関係を守っているようで、実は自分を小さくしてしまうことがあります。願いは、相手も自分も同じテーブルに座らせます。

インペットさんは、親しい関係における性的な親密さ、子育て期のカップル、感謝、思いやり、相手の欲求への応答など、かなり幅広く研究しています。公開されている研究一覧でも、親密な関係における犠牲、動機、感情、関係の結果に関する論文が多く確認できます。

ここから五つ目の学びが出てきます。「親しい関係ほど、言わなくてもわかる、に頼りすぎないほうがいい」ということです。

親しい相手には、つい期待してしまいます。「これくらいわかってほしい」「普通なら気づくでしょ」「私が我慢しているの、見ればわかるでしょ」。でも、人間は意外とわかりません。相手の心を読む機能は、標準装備ではなく、かなり不安定なオプションです。しかも、疲れている日は作動不良を起こします。

だから、相手のために何かをしているなら、ときには言葉にすることも大切です。

「これはあなたのためにしたいと思ってやっているよ」
「でも、今日は少し疲れているから手伝ってほしい」
「合わせることはできるけど、毎回だとしんどい」
「あなたを大事にしたいけど、自分の時間も大事にしたい」

こういう言葉は、関係を壊すためではなく、関係を守るためのものです。小さな点検です。家の柱がきしんでいるのに、「愛があれば大丈夫」と言って放置すると、あとで大工さんが大変です。早めに補修したほうがいいのです。

日常に置き換えるなら、インペットさんの研究はこんなふうに使えます。

相手のために何かをするとき、少しだけ自分に聞いてみるのです。

「私はこれを、相手を喜ばせたくてしているのかな」
「それとも、怒られたくなくてしているのかな」
「これをしたあと、温かい気持ちが残りそうかな」
「それとも、あとで不満がたまりそうかな」

この問いは、心の健康診断みたいなものです。すぐに答えが出なくても大丈夫です。でも、この問いを持つだけで、無意識の我慢に気づきやすくなります。

エミリー・A・インペットさんの研究から学べることをまとめるなら、「愛情のある行動は、“何をしたか”だけでなく、“どんな気持ちでそれをしたか”が大切」ということです。

相手のために譲ることは、素敵なことです。
相手のために時間を使うことも、温かいことです。
でも、自分を消してまで続けると、愛情がだんだん苦行になります。

よい関係に必要なのは、自己犠牲の山盛り定食ではありません。必要なのは、相手への思いやりと、自分への正直さのちょうどよい定食です。ごはん、味噌汁、主菜、副菜。どれか一つだけ山盛りにしても、長くは続きません。

インペットさんの研究は、心にこう語りかけているように思います。

「大切な人のために何かをするなら、自分の心も一緒に連れていってください。」

これは、恋愛にも夫婦にも家族にも使える、とても大切な知恵です。愛とは、自分を消して相手に尽くすことだけではありません。相手を大切にしながら、自分も大切にすることです。相手の喜びを願いながら、自分の声も聞き続けることです。

人間関係は、片方だけが荷物を持ち続ける旅ではありません。ときどき持ち替え、ときどき休み、ときどき「重くない?」と聞き合いながら進む旅です。

エミリー・A・インペットさんの研究は、その旅の荷物の持ち方を教えてくれる研究なのだと思います。

阿部牧歌(管理人)
阿部牧歌(管理人)

エミリー・A・インペット(Emily A. Impett)の論文一覧

1.『感謝は、愛を長持ちさせる。親密な絆を守り育てる“ありがとう”の力』エイミー・M・ゴードン、エミリー・A・インペット、アレクサンドル・コーガン、クリストファー・オヴェイス、ダッチャー・ケルトナー(2012)

Gordon, A. M., Impett, E. A., Kogan, A., Oveis, C., & Keltner, D. (2012). To have and to hold: Gratitude promotes relationship maintenance in intimate bonds. Journal of Personality and Social Psychology, 103(2), 257–274. DOI: 10.1037/a0028723

「ありがとう」って、ただの礼儀だと思っていませんか?この論文は、感謝が恋人同士の関係を長持ちさせる“心の接着剤”になるかを調べた研究です。相手に感謝すると、「この人を大切にしたい」という気持ちがむくむく育ち、関係を守る行動にもつながるらしいのです。つまり感謝は、恋愛の無料メンテナンス剤。花束より地味だけど、効き目はなかなか侮れません。

阿部牧歌(管理人)
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この論文の要約を読む
【論文要約】感謝の研究からわかった、恋愛や夫婦関係が長続きする意外なしくみ
【論文要約】感謝の研究からわかった、恋愛や夫婦関係が長続きする意外なしくみ

2.『うまくいったとき、人は何をするのか? ポジティブな出来事を分かち合うことが、自分の心と人間関係にもたらす恵み』シェリー・L・ゲイブル、ハリー・T・リース、エミリー・A・インペット、エヴァン・R・アッシャー(2004)

Gable, S. L., Reis, H. T., Impett, E. A., & Asher, E. R. (2004). What do you do when things go right? The intrapersonal and interpersonal benefits of sharing positive events. Journal of Personality and Social Psychology, 87(2), 228–245. DOI: 10.1037/0022-3514.87.2.228

「いいことあったんです!」と誰かに話すと、ただの出来事が“幸せの二次発酵”を始めるかもしれません。この論文は、うれしい出来事を人に共有することで、気分や幸福感、そして人間関係がどう変わるのかを調べた研究です。ポイントは聞き手の反応。「ふーん」で終わると喜びは小休止。でも「それ、めちゃくちゃいいですね!もっと聞かせて!」と一緒に喜んでもらえると、心の中でくす玉がパーン。幸せは、話すことでふくらむのです。

阿部牧歌(管理人)
阿部牧歌(管理人)
この論文の要約を読む
【心理学論文】なぜ人はうれしいことを誰かに話したくなるのか? 研究が示した3つのポイント
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