エレン・L・レゲット(Ellen L. Leggett)の論文一覧:失敗した日の心の会議室で、「次、どうする?」を見つめた動機づけ研究者
エレン・L・レゲット(Ellen L. Leggett)のプロフィール
エレン・L・レゲットは、「失敗すると、なぜある人は『もう無理だ』としぼみ、別の人は『次はどうする?』と考えられるのか」を、心のしくみから見つめた心理学者です。
人生には、努力しても結果が出ない日があります。テストの点が伸びない日、上司に注意されて帰宅すると、脳内反省会が勝手に延長戦へ入る日。そんなとき私たちは、失敗そのものだけで落ち込むわけではありません。自分の能力を「もう決まったもの」と思うのか、それとも「育てていけるもの」と思うのか。この心の前提が、目標の立て方、感情、粘り強さまで変えていきます。
レゲットは、キャロル・S・ドゥエックとともに、こうした心の流れを整理した重要な研究を発表しました。そこにあるのは、単なる「前向きになろう」という元気な掛け声ではありません。「才能は固定だ」と思うと、失敗は自分の価値が下がる事件になり、評価を守ることが最優先になりやすい。反対に、「能力は工夫や経験で変わる」と思えると、失敗は次の作戦を考えるための情報になりやすい。心は根性だけでは動かない。けれど、心の中にある“ものの見方”が変わると、行動の行き先も少し変わる。レゲットたちは、その配線図を丁寧に描いたのです。
彼女自身が長く見つめていたのは、「努力をどう受け取るか」と「人が何を目標にするか」でした。努力している人を見て、「能力がないから必死なんだ」と読む人もいます。一方で、「工夫しながら伸びようとしているんだ」と読む人もいる。この違いは、ただの言葉遊びではありません。努力という同じ材料でも、心の辞書にどう載っているかで、挑戦の味がまるで変わってしまうのです。
そしてレゲットの仕事は、研究室や教室で終わりませんでした。心理学と教育学を学び、大学で教えたのちには、法廷で陪審員が複雑な話をどう理解し、どう話し合うのかを考える仕事にも携わりました。教室では「なぜ人は学ぶのか」を見つめ、法廷では「人はどんな説明なら納得できるのか」を考える。人間の心という、取扱説明書が見当たらない装置を、さまざまな現場で読み解いてきた人だったのです。
レゲットの研究がそっと教えてくれるのは、失敗した瞬間に自分へ「才能なし」と判決を下さなくていい、ということです。失敗は、ときどき心の裁判官を呼び出します。でもそこで、「今回、何がうまくいかなかった?」と問い直せれば、判決文は次の作戦メモに変わります。エレン・L・レゲットは、その小さな変換装置が、人の心にあることを早くから示してくれた研究者なのです。
参考文献・確認先:Leggett Jury Research:Ellen L. Leggett 公式プロフィール / USC:Ellen Leggett 教員プロフィール / Google Scholar:Ellen Leggett 論文・引用情報 / 代表論文:A social-cognitive approach to motivation and personality

エレン・L・レゲット(Ellen L. Leggett)の研究から学べること
エレン・L・レゲットの研究から学べるのは、失敗したときにまず変えたいのは「才能」ではなく、「失敗の読み方」だということです。
たとえば、仕事でミスをした。テストで思ったより点が取れなかった。動画を出したのに、再生回数がしょんぼりしている。そんなとき、心の中にはすぐに小さな裁判所が開かれます。
「ほらね。やっぱり自分には向いていない」
「才能がないのでは?」
「このまま静かに布団へ帰ろうか……」
心の裁判官、判決が早すぎます。
レゲットたちが注目したのは、人が能力をどんなものだと思っているかでした。能力は生まれつきほぼ決まっているものだ、と考えると、失敗は「自分の力不足がバレた事件」になりやすくなります。すると人は、できそうなことだけを選んだり、失敗しそうな場面からそっと逃げたりします。挑戦よりも、「できない人に見られないこと」が大事になってしまうのです。
一方で、能力は経験や工夫、練習によって育てられるものだと考えると、失敗の意味が少し変わります。失敗はもちろん痛い。痛くないわけではありません。心はそんなに都合よく防水加工されていませんからね。でも、失敗を「自分には価値がない証拠」ではなく、「次のやり方を考えるための情報」として受け取りやすくなります。
ここで大切なのは、無理に明るくなることではありません。「大丈夫、大丈夫!」と唱えて、現実の問題にふたをすることでもありません。むしろ、「今回は何が足りなかったのだろう」「どこを変えたら、次は一歩進めるだろう」と、失敗を具体的に見ていくことです。
たとえば、「私は文章の才能がない」と決める代わりに、「導入文で読者の興味をつかむ練習がまだ足りない」と考える。「営業に向いていない」と決める代わりに、「最初の一言を準備しておくと、もう少し話しやすくなるかもしれない」と考える。こうして言葉を少し変えるだけで、人生は“最終判決”から“作戦会議”へ移っていきます。
また、レゲットの研究は、目標の置き方も大切だと教えてくれます。「人より上だと証明する」「失敗せずに褒められる」といった目標だけで走ると、心はいつも成績表の前で正座することになります。けれど、「昨日より少しできることを増やす」「わからないことを一つ減らす」という目標なら、途中で転んでも、まだ前へ進めます。
もちろん、努力すれば何でも叶う、という話ではありません。環境の差も、体調も、運も、人それぞれの事情もあります。ただ、自分の可能性に毎回「終了」の札を貼らなくていい、ということです。
失敗した日の自分に必要なのは、立派な演説ではありません。「今回はうまくいかなかったね。じゃあ、次はどこを直してみる?」という、小さくて具体的な問いかけです。
エレン・L・レゲットの研究は、私たちにこう語りかけているようです。能力は、通知表の一行で決まるものではない。失敗のたびに自分へ判決を下すのではなく、次の一手を考えられる人でいよう。人生は試験会場ではなく、少しずつ腕前を育てていく、長い工房なのだから。

エレン・L・レゲット(Ellen L. Leggett)の論文一覧
1.『やる気と性格のしくみを読み解く、社会的認知アプローチ』キャロル・S・ドゥエック、エレン・L・レゲット(1988)
Dweck, C. S., & Leggett, E. L. (1988). A social-cognitive approach to motivation and personality. Psychological Review, 95(2), 256–273. DOI:10.1037/0033-295X.95.2.256
失敗した瞬間、心の中で「才能査定会議」が始まる。『あ、向いてないかも』と早々に閉店する人もいれば、『さて、どこを直そう?』と工具箱を開く人もいる。ドゥエックとレゲットは、この分かれ道を大まじめに追跡しました。能力は決まっていると思うと、失敗は自分の価値がバレる大事件。けれど、育てられると思うと、失敗は作戦変更のお知らせになる。なぜ同じ失敗でも、心はここまで違う反応をするのか。努力、目標、自己評価のからくりを、見事にほどく一篇です。自分の脳内会議に議事録を取りたくなります。

