ドヴォリ・サルク(Dvori Saluk)の論文一覧:聞く力の研究室から、孤独のしっぽをそっとほどく。心の会話を追いかける論文さんぽ
ドヴォリ・サルク(Dvori Saluk)のプロフィール
ドヴォリ・サルクさんは、ひとことで言うと、「人はちゃんと話を聞いてもらえるだけで、心の傷が少しふさがるのでは?」というテーマを、まじめに、でもかなり人間くさく追いかけている研究者です。
現在確認できる公開情報では、イスラエルのハイファ大学で、社会福祉・健康科学部のヒューマン・サービス学科に所属する博士課程の学生として紹介されています。研究指導は、傾聴研究で知られるガイ・イツチャコフ教授です。ハイファ大学の研究者ページでも、サルクさんの研究テーマとして「孤独」「社会的拒絶」「対立の緩和」「会話相手」「感情的に動かされる体験」などが挙げられています。つまり、研究室の入口に看板を出すなら、「ここでは、人の話を聞くことが、心に何を起こすのかを調べています」という感じですね。
特に注目されるのが、「質の高い傾聴」の研究です。ここでいう質の高い傾聴とは、ただ黙って相手の話を聞くことではありません。「スマホを見ながら、ふんふん言う」タイプの聞き方ではなく、相手に注意を向け、理解しようとし、批判せず、安心して話せる空気をつくる聞き方です。いわば、耳だけでなく、心の椅子を相手のために一つ空けるような聞き方です。サルクさんは、そうした聞き方が、話し手の基本的な心理的欲求、幸福感、知的な謙虚さ、さらには聞き手を助けようとする気持ちにどう関係するのかを研究していると紹介されています。
代表的な論文の一つに、2023年の「Connection Heals Wounds」があります。これは、社会的に拒絶された経験を話したとき、相手にしっかり聞いてもらえると孤独感が下がるのかを調べた研究です。PubMedに掲載されている要約では、5つの実験、合計1,643名を対象に、対面、映像、オンライン、文章シナリオなど複数の方法で検討し、質の高い傾聴が、拒絶経験を語った後の一時的な孤独感を減らしたとされています。つまり、「ちゃんと聞いてもらう」は、心のばんそうこうになりうる、というわけです。地味だけど効く。心理学界の湿布です。
また、2025年には「Harmonizing Hearts」という論文にも筆頭著者として関わっています。この研究では、質の高い傾聴が、話し手と聞き手の両方に「心を動かされ、人とのつながりを感じる感情」を生むのかを調べています。対象は3つの研究で合計1,126名。場面想定、回想、Zoomでの実際の会話などを使い、よく聞いてもらう体験が、話す側だけでなく聞く側にも温かな感情をもたらす可能性を示しています。聞くという行為が、相手を癒すだけでなく、自分の心にも小さな灯りをともす。なかなか美しい研究です。
サルクさんの研究のおもしろいところは、「傾聴」を単なるコミュニケーション技術として見ていないところです。話し方講座でよくある「相づちは3回に1回」「目を見てうなずきましょう」みたいな小技だけではなく、聞かれた人の中で、孤独、自律性、人とのつながり、考え方の柔らかさがどう変わるのかまで見ようとしています。つまり、「聞く」はマナーではなく、関係性を変える小さな社会実験なのです。
参考文献・確認先: ハイファ大学:Dvori Saluk 研究者プロフィール / Guy Itzchakov Lab:大学院生プロフィール / Google Scholar:Dvori Saluk 論文・引用情報 / PubMed:Dvori Saluk 関連論文 / Society for Personality and Social Psychology:著者紹介記事

ドヴォリ・サルク(Dvori Saluk)の研究から学べること
ドヴォリ・サルクさんの研究から学べることを、ものすごく簡単に言うなら、「人は、正しいアドバイスをもらったときよりも、“ちゃんと聴いてもらえた”と感じたときに、心のこわばりがほどけることがある」というお話です。
サルクさんは、ハイファ大学の博士課程の研究者として紹介されており、研究分野は社会心理学、特に「聴くこと」に関する研究です。Google Scholarのプロフィールでも、所属はハイファ大学、研究領域は社会心理学・聴くこととされています。 また、本人のプロフィールでは、質の高い聴き方が、心の健康や個人的な成長をどう助けるかを探っていると説明されています。
ここでいう「聴く」は、ただ耳に音を入れることではありません。相手の話を遮らず、うなずき、わかったふりをせず、相手の気持ちや考えを丁寧に受け取ろうとすることです。つまり、耳だけでなく、顔と目と心と沈黙まで総動員する、なかなか高度な人間わざです。スマホを見ながら「うんうん」と言うのは、だいたい“聴いているふり選手権”です。相手の心には、わりとバレています。
サルクさんが共著者として関わった研究では、社会的に拒絶された経験、つまり「仲間外れにされた」「受け入れてもらえなかった」といった話をしたあとに、質の高い聴き方をされると、話し手の孤独感が下がることが示されています。PubMedに掲載されている要約でも、質の高い聴き方は、社会的拒絶の経験を話した後の一時的な孤独感を下げたと説明されています。
これ、すごく大事です。
人は傷ついたとき、すぐに解決策をほしがっているとは限りません。もちろん、解決策が必要な場面もあります。でも、「それはこうしたらいいよ」「気にしすぎだよ」「もっと前向きに考えよう」と早めに言われると、心の中では「いや、まだ傷口を見せただけなんですけど」となります。転んで膝をすりむいた人に、いきなりランニングフォームの改善を語るようなものです。まずは消毒と絆創膏です。心にも、それが必要なときがあります。
サルクさんたちの研究が教えてくれる一つ目のことは、「人は、聴いてもらうことで“自分はここにいていい”と感じやすくなる」ということです。
孤独というのは、単に一人でいることではありません。周りに人がいても、「自分の気持ちは届かない」「どうせわかってもらえない」と感じると、人は孤独になります。反対に、たった一人でも本気で聴いてくれる人がいると、心の中に小さな灯りがつきます。大げさな励ましではなく、「それはつらかったね」「もう少し聞かせて」「あなたはそう感じたんだね」という言葉だけで、心の氷が少しずつ水に戻っていくことがあります。
ここで面白いのは、聴くことが“何もしないこと”ではない点です。むしろ、かなり積極的な行動です。話を奪わない。評価を急がない。自分の経験談で上書きしない。相手の話の奥にある気持ちを探る。これは、心の前に椅子を置いて、「どうぞ、あなたのペースで話していいですよ」と言うようなものです。派手ではありません。でも、強いです。見た目は湯気の立つお茶、効き目は心の防寒具です。
二つ目に学べるのは、「良い聴き方は、相手の自由を守る」ということです。
質の高い聴き方は、相手をコントロールしようとしません。「こう考えるべき」「こうすべき」と結論を押しつけるのではなく、相手が自分の気持ちを自分で整理できるように、そばで支えます。サルクさんたちの論文では、聴いてもらうことが、人とのつながりの感覚や自分で選べている感覚を満たし、それが孤独感の低下につながる可能性が論じられています。
たとえば、誰かが「職場で冷たくされてしんどい」と話したとします。そこでいきなり「そんな職場やめたら?」と言うと、本人の中では「いや、そういう簡単な話ではなくて」となることがあります。逆に、「どんな場面でそう感じたの?」「そのとき、一番つらかったのは何だった?」と聴いてもらえると、本人は自分の感情を少しずつ言葉にできます。言葉にできると、心の中でぐちゃっと丸まっていた毛糸玉が、少しずつほどけていきます。
三つ目に学べるのは、「聴くことは、意見の対立をやわらげる力も持っている」ということです。
サルクさんは、ガイ・イツチャコフさん、ネッタ・ワインスタインさん、マーク・リアリーさん、モティ・アマールさんらとともに、意見が対立している場面で質の高い聴き方がどんな役割を持つかにも関わっています。ガイ・イツチャコフさんの研究紹介では、質の高い聴き方が、意見の違いがある話し合いで、話し手の態度の極端さをやわらげる可能性がある研究として紹介されています。
これは、今の時代にかなり重要です。世の中は、意見のドッジボール会場みたいになることがあります。政治、仕事、教育、家庭、SNS。みんながボールを投げ合い、「そっちが間違っている」「こっちが正しい」とやっているうちに、会話ではなく競技になります。しかもボールがだんだん硬くなる。最後は誰も勝っていないのに、全員あざだらけです。
ところが、ちゃんと聴かれると、人は少し防御をゆるめることがあります。自分の意見を否定されると思っていると、人は鎧を着ます。でも、「この人は少なくとも私の話を理解しようとしている」と感じると、その鎧の留め具が少しゆるむ。すると、「もしかしたら相手にも事情があるのかもしれない」と考える余地が生まれます。聴くことは、相手を論破するための武器ではなく、対話の机をひっくり返さないための重しなのです。
四つ目に学べるのは、「聴く力は、特別な才能ではなく、練習できる技術である」ということです。
もちろん、生まれつき聞き上手な人もいます。うなずき方がやわらかく、相づちがふわっとしていて、話しているだけで心が布団に入ったみたいになる人。いますよね。でも、聴く力は才能だけではありません。意識して練習できます。
まず、相手の話を途中で盗まないことです。会話中に「あ、それ私も!」と自分の話へ高速道路の合流みたいに入ってしまうことがあります。でも、相手が話しているときは、まず相手の道を走らせる。自分の話は、サービスエリアで待機です。
次に、すぐ評価しないことです。「それは正しい」「それは間違い」「考えすぎ」「甘い」などと早めにラベルを貼ると、相手の話はそこでしぼみます。まだ焼きあがっていないパンを、オーブンから引っぱり出すようなものです。中がまだ生です。
そして、相手の気持ちを言葉で返すことです。「腹が立ったんだね」「悲しかったんだね」「安心したかったんだね」「認めてほしかったのかもしれないね」。これをされると、人は「自分の気持ちが届いた」と感じやすくなります。会話の中で、心に受領印が押される感じです。
五つ目に学べるのは、「聴くことは、支援の現場でも職場でも家庭でも使える、かなり強力な土台である」ということです。
就労支援でも、福祉でも、教育でも、職場のマネジメントでも、つい「どう助言するか」「どう指導するか」「どう改善させるか」に意識が向きます。もちろん、それも必要です。でも、その前に「この人は、ちゃんと聴いてもらえたと感じているか」があります。聴いてもらえた感覚がないまま助言をされると、人は「また直される」「また評価される」と感じやすくなります。心が耳を閉じてしまうのです。
家庭でも同じです。相手が話しているときに、「つまりこういうことでしょ」と急いでまとめすぎると、相手は置いてけぼりになります。話をまとめる能力が高い人ほど、ここで少し注意が必要です。会話は議事録ではありません。相手は要約されたいのではなく、わかってほしいのです。議事録職人が心のリビングに入ってくると、ちょっと寒いのです。
では、サルクさんの研究を日常に活かすなら、どうすればいいのでしょうか。
まず、相手が話し始めたら、心の中で「今は答えを出す時間ではなく、受け取る時間」と決めてみることです。相手の話を聞きながら、次に何を言うかを考えすぎない。これ、難しいです。人間の頭は、相手が話している途中で勝手に返信文を作り始めます。まるで脳内に小さなメール作成係がいるみたいです。でも、その係には少し休憩してもらいましょう。
次に、「それで、あなたはどう感じたの?」と聞くことです。出来事の説明だけでなく、感情に触れる。人は事実を話しているようで、本当は気持ちを届けようとしていることがあります。「上司にこう言われた」という話の奥には、「傷ついた」「怖かった」「悔しかった」「助けてほしかった」が隠れているかもしれません。そこを聴けると、会話の深さが変わります。
そして最後に、「わかるよ」と言う前に、本当にわかろうとすることです。「わかる」は便利な言葉ですが、早すぎると薄味になります。相手の話を少し聴いただけで「わかる」と言うより、「そう感じたんだね」「そこがつらかったんだね」と返すほうが、丁寧に届くことがあります。
ドヴォリ・サルクさんの研究から学べることは、結局こういうことです。人は、正論だけでは回復しません。アドバイスだけでも、すぐにはほどけません。自分の声が誰かに届き、判断されずに受け止められ、「ここにいていい」と感じられたとき、孤独のとげが少しやわらぐことがあります。
聴くことは、沈黙しているだけではありません。相手の心の玄関に立ち、靴をそろえ、急に奥へ踏み込まず、「話せるところからで大丈夫ですよ」と待つことです。派手な技ではありません。でも、人間関係の中では、ときどき奇跡みたいに効きます。
誰かを元気づけたいとき、すぐに名言を出さなくてもいい。すぐに解決策を並べなくてもいい。まずは、相手の言葉をこぼさないように、両手でそっと受け取る。それだけで、相手の心に小さな居場所が生まれることがあります。
サルクさんの研究は、そのことを教えてくれます。良い聴き手は、相手の人生を代わりに歩く人ではありません。相手が自分の足で歩き直せるように、道ばたで静かに灯りを持つ人です。言葉の雨が降る日も、孤独の風が吹く日も、「ここで話していい」と思える場所がある。それは、人間にとって思っている以上に大きな救いなのです。

ドヴォリ・サルク(Dvori Saluk)の論文一覧
1.『つながりは傷を癒す:社会的拒絶を打ち明けたあと、「聴いてもらえた」と感じることが語り手の孤独感をやわらげる』ガイ・イツチャコフ、ネッタ・ワインスタイン、ドヴォリ・サルク、モティ・アマール(2023)
Itzchakov, G., Weinstein, N., Saluk, D., & Amar, M. (2023). Connection Heals Wounds: Feeling Listened to Reduces Speakers’ Loneliness Following a Social Rejection Disclosure. Personality and Social Psychology Bulletin, 49(8), 1273–1294. DOI: 10.1177/01461672221100369
「話を聞いてもらうだけで、孤独って減るの?」という、地味だけど心に刺さる問いに挑んだ論文です。社会的に拒絶された経験を話した人が、相手にしっかり聞いてもらうと、心の中の“ひとりぼっち警報”が少し静かになるらしいのです。つまり傾聴は、会話界のばんそうこう。派手なアドバイスより、「うん、それはつらかったね」と耳を傾けることが、人をじんわり回復させるかもしれない。読み終えると、誰かの話をちゃんと聞きたくなる研究です。

