ダッチャー・ケルトナー(Dacher Keltner)の論文一覧:笑顔、感謝、畏敬の念まで。人間の心がふわっと動く瞬間を、感情の虫めがねでのぞく心理学さんぽ
ダッチャー・ケルトナー(Dacher Keltner)のプロフィール
ダッチャー・ケルトナーさんは、アメリカ・カリフォルニア大学バークレー校の心理学者です。専門は、感情、人間関係、思いやり、権力、社会階層、そして「畏敬の念」。つまり、ざっくり言うと、人間の心がふわっと動く瞬間を、研究室の虫めがねでのぞき続けている先生です。現在は同大学心理学部の教授であり、グレーター・グッド・サイエンス・センターの共同責任者としても知られています。
ケルトナーさんの研究テーマは、かなり人間くさいです。たとえば、「人はなぜ感謝すると関係がよくなるのか」「やさしさや思いやりはどこから生まれるのか」「権力を持つと人はどう変わるのか」「大自然や音楽にふれて胸がじーんとする、あの感じは何なのか」といった問いを扱っています。心の中にある感情たちを、まるで小さな劇団の登場人物のように観察している研究者、と言ってもよさそうです。
特に有名なのが、「畏敬の念」の研究です。これは、星空を見たとき、壮大な音楽を聴いたとき、人の思いやりにふれたときなどに感じる、「自分って小さいな。でも世界ってすごいな」という、心が少し背伸びするような感情です。ケルトナーさんは、この感情が人を謙虚にしたり、他者とのつながりを感じさせたり、人生を少し豊かに見せてくれたりする可能性を研究しています。心の窓を開ける係、といったところでしょうか。
また、感情の研究だけでなく、幸福や社会的なつながりを一般の人にもわかりやすく伝える活動もしています。グレーター・グッド・サイエンス・センターのポッドキャスト「幸福の科学」の案内役も務めており、研究を研究室だけに閉じ込めず、日常生活の台所まで運んでくれるタイプの学者です。難しい論文を「今日から少し人にやさしくしてみようかな」と思える形に変える、心理学界の料理人みたいな存在ですね。
著書も多く、『善く生きるための科学』『思いやりの本能』『力のパラドックス』『畏敬の念』など、人間の感情や社会性をテーマにした本を書いています。公式プロフィールでは、200本以上の科学論文と複数の著書があると紹介されています。つまり、感情という見えない生き物を、かなり長年追いかけてきた“心の博物学者”のような人です。
ケルトナーさんのおもしろいところは、感情を「ただの気分」として見ないところです。怒り、恥ずかしさ、感謝、愛、思いやり、笑い、畏敬の念。こうした感情は、私たちの人間関係をつくったり、壊したり、修理したりする道具でもある。たとえるなら、心の工具箱です。感謝は潤滑油、思いやりは絆創膏、笑いは空気清浄機、畏敬の念は天井を少し高くしてくれる魔法の脚立。ケルトナーさんの研究は、そんな感情たちの働きを、科学の言葉で丁寧に見せてくれます。
まとめると、ダッチャー・ケルトナーさんは、人間のやさしさ、つながり、感情のゆらぎを研究する心理学者です。人の心を冷たい機械としてではなく、笑ったり、泣いたり、感謝したり、空を見上げて黙ったりする存在として見つめているところに、大きな魅力があります。ケルトナーさんの研究を読むと、「感情って、ただ面倒なものではなく、人と人をつなぐ小さな橋なんだな」と感じられます。まさに、心の中の“じんわり”を科学する人ですね。
参考文献・確認先:カリフォルニア大学バークレー校:ダッチャー・ケルトナー 公式プロフィール / Greater Good Science Center:ダッチャー・ケルトナー プロフィール / ダッチャー・ケルトナー 公式サイト / Google Scholar:Dacher Keltner 論文・引用情報 / PubMed:Dacher Keltner 関連論文

ダッチャー・ケルトナー(Dacher Keltner)の研究から学べること
ダッチャー・ケルトナーさんの研究をひとことで言うなら、「人間って、思っているよりずっと“つながりたがり屋”で、“感情に操縦されながら生きている生きもの”なんですよ」という話です。しかもその感情は、ただの心の天気予報ではありません。怒り、不安、喜び、思いやり、感動、畏敬の念。これらは全部、人と人を近づけたり、距離を取らせたり、助け合いを生んだりする、目に見えない社会の信号機みたいなものなのです。
ケルトナーさんは、カリフォルニア大学バークレー校の心理学教授で、感情、思いやり、畏敬の念、権力、社会的な上下関係、不平等などを研究してきた心理学者です。バークレーの「よりよい社会を科学するセンター」の創設責任者でもあり、人間の幸福や善意を、ふわっとした精神論ではなく、科学のメガネで見つめてきた人です。
まず、ケルトナーさんの研究から学べる大きなことは、「人は冷たい競争マシーンではない」ということです。世の中ではよく、「強い人が勝つ」「上に立つ人が偉い」「自分の利益を守った人が得をする」と考えられがちです。でもケルトナーさんの研究は、そこに「ちょっと待った、その人間観、だいぶ脂っこいですよ」とツッコミを入れます。人間は、思いやり、感謝、協力、やさしさによって関係を築き、その関係の中で力を得ていく存在でもあるのです。
たとえば、誰かが困っているときに自然と手を貸したくなる気持ち。あれは単なる“いい人ごっこ”ではありません。私たちの心と体には、他者の苦しみに反応し、助けようとする仕組みが備わっている。ケルトナーさんは、思いやりや愛、感情表現などが、人間の社会生活を支える大切な力だと研究してきました。
ここが面白いところです。やさしさって、ふわふわした綿あめみたいに見えますが、実は人間社会を支える鉄骨でもあります。職場でも家庭でも地域でも、「ありがとう」「大丈夫?」「助かったよ」という小さな言葉があるだけで、関係の空気は変わります。反対に、どれだけ能力が高くても、周りを見下し、感謝を忘れ、相手の気持ちを踏みつける人は、だんだん孤立していきます。いわば、心のネジを締めすぎて、関係の機械がギシギシ鳴り始めるのです。
そして、ケルトナーさんの有名なテーマのひとつが「権力」です。権力というと、社長室の立派な椅子、会議で最後に発言する人、なぜかハンコの位置に厳しい人、そんな絵が浮かびます。でもケルトナーさんは、権力を「他人に影響を与える力」として見ています。面白いのは、人は最初、思いやりや信頼、協力によって力を得るのに、力を持つとだんだんその思いやりを忘れやすくなる、という点です。これが、ケルトナーさんの『権力の逆説』として知られる考え方です。彼は権力、階層、社会階級、不平等が人の心にどう影響するかを長く研究しています。
これは職場でもよくあります。最初は「みんなのおかげです」と言っていた人が、立場が上がった途端に「俺が動かしているんだ」みたいな顔になる。まるで心の中に、小さな王様が勝手に即位してしまうのです。すると、人の話を聞かなくなる。感謝が減る。相手の表情を読まなくなる。気づけば、周りからの信頼という貯金を、毎日ちょっとずつ引き出している状態になります。
ケルトナーさんの研究から考えると、本当に強い人とは、威張る人ではありません。自分の影響力が、周りの人から預かっているものだと知っている人です。権力は王冠ではなく、借り物の傘です。自分だけが濡れないために使うのではなく、近くの人も雨から守るために使う。そういう人の力は、長持ちします。
もうひとつ、ケルトナーさんの研究でとても大切なのが「畏敬の念」です。少し難しい言葉ですが、かんたんに言うと、「うわあ、世界って大きいな」「自分の悩みって、宇宙規模で見たら米粒の寝ぐせくらいかもしれないな」と感じるような心の動きです。大自然を見たとき、美しい音楽に包まれたとき、誰かの深い優しさに触れたとき、赤ちゃんの寝顔を見たとき、夜空を見上げたとき。そういう瞬間に、心の窓がばーんと開くことがあります。
ケルトナーさんは、畏敬の念を「自分の理解を超える大きなものに触れたときに起こる感情」と説明し、それが心身の健康や人とのつながりに良い影響をもつ可能性を研究しています。
これ、すごく日常に使えます。私たちは悩んでいるとき、心の画面がやたら拡大表示になります。「あの一言、まずかったかな」「今日の仕事、全然うまくいかなかった」「自分だけ置いていかれている気がする」。頭の中で不安がドアップになり、毛穴まで見える勢いです。そんなとき、畏敬の念は心のズームアウト機能になります。
たとえば、空を見る。木を見る。川の流れを見る。好きな音楽を一曲、ちゃんと聴く。昔の人が残した言葉に触れる。すごい建物や絵を見る。誰かの頑張りを知る。すると、「自分の悩みが消える」とまでは言えなくても、「悩みだけが世界のすべてではない」と思える瞬間が生まれます。これが大事です。悩みを小さくするというより、心の部屋を広くする感じです。部屋が広くなると、悩みが同じ大きさでも、少し息がしやすくなります。
ケルトナーさんの研究から学べるのは、「幸福は、自分ひとりの中に閉じこもって探すものではない」ということでもあります。もちろん、ひとり時間も大切です。静かな部屋でお茶を飲む時間は、心の布団乾燥機です。でも、幸福のかなりの部分は、人とのつながり、自然とのつながり、大きなものへの感動、自分以外の誰かを思う気持ちの中にあります。
これは、がんばり屋さんほど忘れがちです。「もっと成果を出さないと」「もっと評価されないと」「もっと自分を高めないと」と、心の中で自己啓発の太鼓がドンドコ鳴り続ける。でもケルトナーさんの研究は、そこにそっと言います。「あなたは、ひとりで完成する作品ではありませんよ」と。人は、関係の中でほどけたり、支えられたり、回復したりする存在なのです。
日常に置き換えるなら、まずは小さな感情を大事にすることです。「ありがたいな」と思ったら、ちゃんと言葉にする。「すごいな」と思ったら、ちゃんと感動する。「助けたいな」と思ったら、できる範囲で手を伸ばす。「最近、自分が偉そうになっているかも」と思ったら、少し立ち止まる。感情は、心の中の小鳥みたいなものです。無視していると飛んでいきますが、耳を澄ませると、意外と大事な方角を教えてくれます。
特に、権力や立場を持つ人ほど、「自分は人の表情をちゃんと見ているか」「ありがとうを言えているか」「相手の話を最後まで聞いているか」を点検したほうがいいです。地位が上がると、心の視力が少し落ちることがあります。だからこそ、意識して人を見る。意識して感謝する。意識して笑う。これは人格修行というより、関係のメンテナンスです。車にオイル交換が必要なように、人間関係にも感謝交換が必要なのです。
また、疲れている人にこそ、畏敬の念はおすすめです。大げさな旅に出なくてもいいです。朝の空を30秒見る。道ばたの花を見る。好きな本の一節を読む。音楽を一曲だけ、作業用ではなく“聴くために聴く”。誰かの親切を思い出す。これだけでも、心の中の小さな窓が開きます。空気が入れ替わると、思考のにおいも少し変わります。
ケルトナーさんの研究をまとめると、「人間は、やさしさと感動で少し賢くなる生きものだ」と言えるかもしれません。思いやりは弱さではなく、関係をつくる力。感情は邪魔者ではなく、人間関係の案内板。権力は持ち物ではなく、周りから預かる信頼。畏敬の念は現実逃避ではなく、自分を世界の広さへ戻してくれる心の深呼吸です。
だから、毎日の中で少しだけ実験してみるといいのです。誰かに「ありがとう」を一つ多く言う。自然や音楽に、ぼんやり心を預ける。立場が上のときほど、少し低い姿勢で話を聞く。自分の悩みが巨大怪獣に見える日は、空を見上げて「世界はまだ広いな」と思ってみる。
ダッチャー・ケルトナーさんの研究は、私たちにこう教えてくれます。幸せは、キラキラした成功のショーケースだけに置かれているのではありません。人に親切にしたときの小さな温度、心から感動したときの静かな震え、誰かと笑い合う瞬間のやわらかい光。そういうものの中に、ちゃんとあるのです。しかもそれは、特別な人だけの高級品ではありません。今日の帰り道、空を見上げるだけでも、少しだけ手に入る。人間の心って、案外、庶民派の奇跡でできているのです。

ダッチャー・ケルトナー(Dacher Keltner)の論文一覧
1.『感謝は、愛を長持ちさせる。親密な絆を守り育てる“ありがとう”の力』エイミー・M・ゴードン、エミリー・A・インペット、アレクサンドル・コーガン、クリストファー・オヴェイス、ダッチャー・ケルトナー(2012)
Gordon, A. M., Impett, E. A., Kogan, A., Oveis, C., & Keltner, D. (2012). To have and to hold: Gratitude promotes relationship maintenance in intimate bonds. Journal of Personality and Social Psychology, 103(2), 257–274. DOI: 10.1037/a0028723
「ありがとう」って、ただの礼儀じゃなくて、恋人関係のメンテナンスオイルかもしれません。この論文は、感謝の気持ちがパートナーへの愛着や関係を続けたい気持ちにどう効くのかを調べた研究です。つまり、恋の世界では高級プレゼントより、「ちゃんと見てくれてありがとう」の一言が、意外と強い接着剤になるかも、という話。感謝、あなどれません。心のネジを締め直す小さな工具です。

