クライド・H・ウォード(Clyde H. Ward)の論文一覧:心の曇り空を、数字の物差しでそっと測った研究者

クライド・H・ウォード(Clyde H. Ward)の論文を読む女性
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クライド・H・ウォード(Clyde H. Ward)のプロフィール

クライド・H・ウォードは、心の落ち込みを「なんとなくつらそうですね」で終わらせず、「では、そのつらさをどう測ればよいのか?」という方向から研究に関わった精神医学の研究者です。

名前だけ聞くと、少し地味に感じるかもしれません。けれど、ここが心理学史の面白いところです。大きな研究というのは、天才がひとりで白衣をひらひらさせながら完成させるものではありません。たいていは、何人もの研究者が机を囲み、「この質問で本当に心の状態がわかるのか?」「点数にして大丈夫か?」「患者さんの苦しさを、ちゃんと拾えているか?」と、地味だけれど大切な確認を重ねてできあがります。

ウォードは、アーロン・T・ベックらとともに、うつの状態を測るための質問票づくりに関わりました。これは、いわば「心の体温計」を作るような仕事です。熱があるかどうかを手のひらだけで判断するより、体温計があったほうがわかりやすいですよね。同じように、心の落ち込みも、医師や研究者の印象だけに頼るのではなく、質問に答えてもらいながら、ある程度客観的に見ていこうとしたのです。

もちろん、人の心はそんなに単純ではありません。「はい、あなたの悲しみは37.8度です」なんて言われたら、ちょっと困ります。心はラーメンの硬さ選びよりもずっと複雑です。けれど、だからこそ、研究者たちは慎重に質問を選び、つらさの形を少しでも見えるようにしようとしました。

ウォードの名前は、ベックほど大きく語られることは多くありません。しかし、ベック抑うつ尺度のような有名な心理尺度の背景には、こうした共同研究者たちの存在があります。表舞台でスポットライトを浴びる人がいる一方で、舞台袖で照明の角度を整える人がいる。ウォードはまさに、心の研究という舞台で、測定の精度を支えた大切な人物のひとりと言えるでしょう。

彼の研究から学べるのは、心の苦しみを「気のせい」や「根性不足」で片づけない姿勢です。つらさには、ちゃんと名前をつける。状態を見つめる。必要なら測る。そうすることで、はじめて支援や治療の入り口が見えてきます。

ウォードの仕事は、派手な名言を残すタイプの研究ではありません。けれど、静かにこう語りかけてくるようです。

「心の曇り空も、ちゃんと見よう。見えないものを見えるようにするところから、助ける仕事は始まるんだよ」と。

参考文献・確認先:PubMed:Clyde H. Ward 共著論文 / JAMA Psychiatry:An Inventory for Measuring Depression / DOI:10.1001/archpsyc.1961.01710120031004 / Google Scholar:Clyde H. Ward 関連論文

阿部牧歌(管理人)
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クライド・H・ウォード(Clyde H. Ward)の研究から学べること

クライド・H・ウォードの研究から学べることは、ひとことで言うと、「心のしんどさは、気合いの問題にしないで、ちゃんと見える形にしていい」ということです。

うつのつらさって、外からは見えにくいですよね。

熱なら体温計があります。
骨折ならレントゲンがあります。
財布の中身なら、のぞいた瞬間に「あ、これは本格的に節約祭りだ」とわかります。

でも、心の落ち込みはそうはいきません。

「最近しんどいんです」
「どれくらい?」
「えっと、けっこうです」
「けっこうとは?」
「だいぶ、けっこうです」

……これでは、診察室の中に“ふんわりした霧”が立ちこめてしまいます。もちろん、その霧にも大切な意味があります。でも、治療や研究を進めるためには、もう少しだけ形が必要になります。

そこでウォードたちが関わったのが、うつの状態を質問によって測るという考え方です。つまり、心の中に土足でズカズカ入るのではなく、玄関先で「最近、眠れていますか?」「食欲はどうですか?」「自分を責める気持ちはありますか?」と、そっとノックしていくような方法です。

ここで大事なのは、数字にすることは、冷たくすることではないという点です。

「あなたの苦しみは何点です。はい、次の方」
なんて言われたら、心が受付番号札になってしまいます。これは困ります。人間はコピー機のトナー残量ではありません。

でも、質問票の本来のよさは、苦しみを雑に片づけることではなく、むしろ逆です。
「なんとなくつらい」を、もう少し丁寧に見ていく。
「気分が落ちている」だけで終わらせず、眠り、食欲、疲れ、自分への見方、未来への感じ方など、いくつもの窓から心の部屋に光を入れていく。

ウォードの研究から学べる一つ目のことは、つらさには輪郭を与えていいということです。

人はよく、自分のしんどさを小さく見積もります。

「これくらいで弱音を吐いちゃダメだ」
「みんなもっと大変なんだから」
「自分が甘えているだけかも」

そうやって心の悲鳴に座布団をかぶせてしまう。しかも、その上に正座までしてしまう。いやいや、そこは座る場所ではありません。救出現場です。

質問票のような道具は、「あなたのつらさは、ちゃんと見ていいものですよ」と教えてくれます。感情を大げさにするためではありません。逆に、必要以上に怖がらず、必要以上に無視もしないためです。

二つ目に学べるのは、人の心を支えるには、印象だけに頼らないほうがいいということです。

「あの人、元気そうだから大丈夫」
「笑っているから平気そう」
「仕事に来ているから問題ない」

こういう判断は、日常ではよくあります。でも、心はなかなかの演技派です。表ではニコニコしていても、裏では心の小人たちが「もう倉庫がいっぱいです!」と段ボールを抱えて走り回っていることがあります。

だからこそ、ウォードたちのような研究が意味を持ちます。見た目や雰囲気だけではなく、具体的な質問を通して、その人の状態を確かめていく。これは、支援の現場でも、職場でも、家庭でも大事な視点です。

三つ目に学べるのは、測ることは、決めつけることではなく、対話を始めることだということです。

点数が出ると、つい人は「高い」「低い」で判断したくなります。でも本当に大切なのは、その点数の奥にある生活です。

眠れていないのか。
食べられていないのか。
自分を責めすぎているのか。
未来が真っ暗なトンネルに見えているのか。

点数はゴールではありません。地図の現在地です。
「あなたはここにいます。では、どの道から少し楽になれるか、一緒に考えましょう」
そう言うための目印なのです。

ウォードの研究は、派手な応援歌というより、静かな測量作業に近いかもしれません。山を登る前に地形を調べる人。橋をかける前に川幅を測る人。スポットライトは浴びにくいけれど、その人がいないと、あとから来る人たちが道に迷ってしまう。

心理学や精神医学の世界では、こういう仕事がとても大切です。心の苦しみを「本人の性格」で片づけない。医師の勘だけに任せない。研究者の思い込みだけで語らない。なるべく確かめる。なるべく丁寧に見る。なるべく本人の状態に近づく。

つまりウォードの研究は、私たちにこう教えてくれます。

心は、根性で透視するものではない。
質問し、測り、対話しながら、少しずつ見えてくるものなのだ。

これは日常にも使えます。

友人や家族が元気なさそうなとき、「大丈夫でしょ」と勝手に決めない。
自分が落ち込んでいるとき、「気のせいだ」と押し込めない。
「最近、眠れてるかな」
「楽しめる時間はあるかな」
「自分を責めすぎてないかな」
そんなふうに、心に小さな聞き取り調査をしてみる。

心の中に、調査員の帽子をかぶった小さなウォードさんを住まわせる感じです。
その小さなウォードさんは、たぶん大声では言いません。
でも、静かにメモを取りながら、こう言ってくれます。

「そのしんどさ、ちゃんと見てみよう。見えないまま我慢するより、見える形にしたほうが、助け方も見つかるからね」

クライド・H・ウォードの研究から学べるのは、まさにそこです。
心の苦しみを、雑に扱わないこと。
見えにくいものを、見ようとすること。
そして、測ることを冷たい作業ではなく、支援への第一歩として使うこと。

心の曇り空に、そっと物差しを当てる。
それは、雨雲を責めるためではありません。
傘を用意するためなのです。

阿部牧歌(管理人)
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クライド・H・ウォード(Clyde H. Ward)の論文一覧

1.『心の沈み具合を測るものさし――うつ状態を見つめるための評価票』アーロン・T・ベック、クライド・H・ウォード、マイヤー・メンデルソン、J・E・モック、J・K・アーボー(1961)

Beck, A. T., Ward, C. H., Mendelson, M., Mock, J. E., & Erbaugh, J. K. (1961). An Inventory for Measuring Depression. Archives of General Psychiatry, 4(6), 561–571. DOI:10.1001/archpsyc.1961.01710120031004

「うつって、どうやって測るの?」この素朴だけど巨大な問いに、ベックたちがメスではなく“質問票”で挑んだのがこの論文です。気分、罪悪感、疲れ、眠れなさなど、心の曇り空を一つずつ観察し、見えにくいうつの状態を点数でとらえようとしました。いわば心の体温計づくり。人間のつらさを雑に数字へ押し込むのではなく、支援の入り口を探すための名作です。

阿部牧歌(管理人)
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この論文の要約を読む
【心理学論文】うつ状態はどうやって測る? ベックうつ病評価尺度(BDI)誕生の研究をやさしく要約
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