クラウディア・M・ミューラー(Claudia M. Mueller)の論文一覧:「頭がいいね!」と褒めたら、やる気が迷子になりました

クラウディア・M・ミューラー(Claudia M. Mueller)の論文一覧:「頭がいいね!」と褒めたら、やる気が迷子になりました
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クラウディア・M・ミューラー(Claudia M. Mueller)のプロフィール

クラウディア・M・ミューラー(Claudia M. Mueller)は、「子どもを褒めるなら、何を褒めるといいのだろう?」という、子育てや教育をしている人なら一度は気になる問題を研究してきた人物です。

「テストで100点? すごい! 頭いいね!」

こんな言葉、普通に考えれば最高の褒め言葉ですよね。言われた子どももニコニコ。言った大人も「よし、自己肯定感を育てたぞ」と、心の中で小さくガッツポーズ。

ところがミューラーの研究は、そこに静かにやってきて、

「……その“頭いいね”、ちょっと調べてみません?」

と声をかけてきます。

この「当たり前だと思っていた褒め方、本当にそれでいいの?」という問いを科学的に調べたことで、ミューラーは心理学、とくに子どもの動機づけや考え方の研究で広く知られるようになりました。

「頭がいい」を褒めるか、「頑張った」を褒めるか

ミューラーの名前を一躍有名にしたのが、心理学者キャロル・S・ドゥエックとの共同研究です。

1998年に発表された論文では、小学5年生を対象とした複数の実験を行い、知能を褒められた子どもと、努力を褒められた子どもでは、その後の課題への向き合い方がどう変わるのかを調べました。

ここが面白いところです。

普通なら、

「頭がいいね!」

と言われれば、

「よーし、もっと難しい問題にも挑戦するぞ!」

となりそうですよね。

ところが研究では、知能を褒められた子どもたちは、努力を褒められた子どもたちと比べて、失敗したあとに課題を楽しみにくくなったり、粘り強く取り組みにくくなったり、成績が下がったりする傾向がみられました。

一方、

「よく頑張ったね」

と努力に注目された子どもたちは、「能力は変わりうるものだ」と考えやすかったのです。

なんとも不思議です。

褒め言葉というのは、心に貼る「よくできましたシール」くらいのものかと思っていたら、そのシールに書いてある文章の中身が、次の挑戦への姿勢まで変えてしまう可能性がある。

ミューラーたちは、そんな褒め言葉の奥に潜んでいる心理を明らかにしていきました。

キャロル・ドゥエックと研究した「考え方」の世界

ミューラーは、コロンビア大学で社会心理学・人格心理学の博士号を取得し、キャロル・ドゥエックと密接に研究を行いました。

ドゥエックといえば、のちに広く知られることになる「成長できると考える心の持ち方」の研究で有名な心理学者です。

簡単に言えば、

「能力は最初から決まっている」

と考えるのか、

「能力は経験や工夫によって変わっていく」

と考えるのか。

この違いが、失敗したときの行動や、新しいことに挑戦する姿勢にどう関わるのかを研究してきました。

ミューラーとの「褒め方」の研究も、この大きな流れの中にあります。

「あなたは頭がいい」と言われ続けると、

「じゃあ、頭が悪いと思われるような失敗は避けたい」

となるかもしれない。

一方で、

「工夫したね」「粘ったね」「ここまでやったね」

と行動や過程に目を向けてもらえば、

「じゃあ次もやり方を変えてみよう」

と思いやすくなるかもしれない。

つまりミューラーたちが調べていたのは、単なる褒め言葉の言い換え講座ではありません。

その言葉を通して、子どもが、

「自分の能力とは何なのか」
「失敗とは何なのか」
「努力する意味とは何なのか」

を、どのように理解していくのかを研究していたのです。

そして経歴を見ると、「えっ、小児外科医?」

クラウディア・ミューラーの経歴で、かなり驚かされるのがここです。

心理学の有名論文を書いた研究者なので、そのままずっと心理学部で研究している人を想像しそうですが、現在のミューラーは小児外科医でもあります。

ニューヨーク大学医学部で医学を学び、その後、外科の研修や小児外科の専門研修を経て、現在はスタンフォード大学医学部で小児外科の准教授を務めています。一般外科と小児外科の専門医資格も持っています。

心理学者から、小児外科。

研究室で「褒め方」を調べていたと思ったら、今度は手術室へ。

経歴の振れ幅がなかなか豪快です。

ただ、よく見ると、この二つの世界はバラバラではありません。

心理学と医療が、もう一度つながっていく

現在のミューラーは、スタンフォード大学で、子どもが自分の健康や病気をどのように捉えるかについても研究しています。

たとえば、

「病気になったら、もう健康には戻れない」

と考えるのか。

それとも、

「生活や治療、自分の行動によって健康状態は変化しうる」

と考えるのか。

こうした健康についての考え方が、病気への向き合い方や健康行動にどのような影響を与えるのかを調べています。スタンフォードには、ミューラーが研究責任者を務める「小児健康マインドセット研究室」も設けられています。

思えば、1998年の研究でも問いかけていたのは、

「能力は変わらないものなのか、それとも変わっていくものなのか」

という問題でした。

そして現在は、

「健康は変わらないものなのか、それとも働きかけられるものなのか」

へと研究の舞台が広がっている。

テーマは違って見えても、その地下には同じ川が流れているように感じます。

人は、自分について何を信じるかによって、その後の行動が変わる。

ミューラーの研究人生には、そんな一本の線が通っています。

「褒めればいい」ではなく、「何を伝えているか」を考える

ミューラーの研究から見えてくるのは、

「子どもは褒めないほうがいい」

という話ではありません。

ここは大切です。

「頭いいね」を一回言ったら、教育心理学警察が玄関のチャイムを押しに来るわけでもありません。

大切なのは、褒め言葉の裏側で、私たち大人が子どもにどんな世界観を渡しているのかということです。

「あなたは成功したから価値がある」

なのか。

「あなたには試したり、工夫したり、学んだりする力がある」

なのか。

言葉は数秒で消えてしまいます。

けれど、その言葉から子どもが受け取った「自分とはこういう人間なんだ」という考え方は、思ったより長く残ることがあります。

クラウディア・M・ミューラーの研究は、そんな何気ない一言の奥にある心理学を私たちに見せてくれます。

「褒めるって、いいことですよね?」

その素朴な質問に、

「はい。でもですね……」

と、研究データの分厚いファイルを抱えて隣の椅子に座ってくる。

クラウディア・M・ミューラーとは、そんな研究者なのかもしれません。

参考文献・確認先:スタンフォード大学:Claudia Mueller 公式プロフィール / スタンフォード大学:小児健康マインドセット研究室 / PubMed:Claudia M. Mueller 代表論文 / Google Scholar:Claudia M. Mueller 論文検索

阿部牧歌(管理人)
阿部牧歌(管理人)

クラウディア・M・ミューラー(Claudia M. Mueller)の研究から学べること

クラウディア・M・ミューラーの研究から学べることを、ひとことで言うなら、

「人を励ますつもりの言葉でも、どこを褒めるかで、その後の心の動きは変わる」

ということだと思います。

これは、なかなか耳の痛い話でもあります。

たとえば子どもがテストで100点を取ったとします。

「すごい! 頭いいね!」

言いますよね。たぶん言います。むしろ、ここで無言だったら無言だったでちょっと怖い。

けれどミューラーたちの研究は、そこで少し立ち止まります。

「その褒め方によって、子どもは何を学ぶのだろう?」

褒め言葉は、ただ気分をよくするだけの紙吹雪ではありません。

ときには、

「成功する人=頭のいい人」

「失敗する=頭が悪い証拠」

という考え方まで、こっそり一緒に渡してしまうことがあるのです。

褒めるなら、「あなたはすごい」より「ここがよかった」

ミューラーの研究で特に有名なのが、知能を褒められた子どもと、努力を褒められた子どもの違いです。

「あなたは頭がいいね」

と言われた子どもは、その言葉をうれしく感じるでしょう。

でも同時に、

「じゃあ、頭がいい自分でいなければ」

という仕事まで背負ってしまうことがあります。

これは大人にも覚えがあります。

「仕事できるよね」

と言われた瞬間から、

「次も絶対失敗できない」

という謎の追加オプションが自動契約される、あれです。

褒められたはずなのに、なぜか肩が重い。

一方で、

「よく考えたね」

「途中でやり方を変えたのがよかったね」

「最後まで粘ったね」

と、行動や工夫に注目すると、

「じゃあ次も工夫できるかもしれない」

という方向へ心が向きやすくなります。

つまり大切なのは、単純に「努力を褒めれば正解」と暗記することではありません。

変えられる部分、工夫できる部分に光を当てる。

ここが大事です。

「努力しろ」も、使い方を間違えると筋トレになります

ただし、ここで一つ注意があります。

「なるほど。じゃあ今日から何があっても努力を褒めよう!」

となると、また少し話が変わってきます。

たとえば、

全然勉強していないのに、

「机に座った! 努力!」

問題をほぼ解いていないのに、

「鉛筆を持った! 努力!」

となってくると、褒め言葉がだんだんポイントカードみたいになってきます。

ミューラーたちの研究から学びたいのは、無条件に「努力」という単語を連発することではありません。

努力しても結果が出ないときには、

「頑張ったね」

だけで終わらず、

「どこが難しかった?」

「次はどんなやり方を試せそう?」

と考えることも大切です。

努力はゴールではなく、途中の道具です。

もっと言えば、

努力、工夫、助けを求めること、やり方を変えること、休むこと。

こうした全部が「前に進む方法」なのだと思います。

根性一本で山頂を目指す必要はありません。

道が崩れていたら、別ルートを探していいのです。

失敗を「判決」にしない

ミューラーの研究からもう一つ学べるのが、失敗の扱い方です。

私たちは失敗すると、つい人格裁判を始めます。

「失敗した」

という出来事が、

「自分はダメだ」

に変わる。

いやいや、飛躍がすごい。

電車を一本乗り過ごしただけで、

「私は人生そのものを間違えている」

くらいの勢いで自己評価が暴走することがあります。

でも失敗は、本来もっと小さな情報です。

「この方法ではうまくいかなかった」

それだけです。

知能や才能のような「自分そのもの」を評価の中心に置くと、失敗が自分の価値への攻撃に見えやすくなります。

一方で、

「やり方を変えられる」

「練習できる」

「分からなければ聞ける」

という感覚があれば、失敗は情報になります。

失敗が、

判決文から取扱説明書に変わる。

これはかなり大きな違いです。

子どもだけの話ではありません

ミューラーの研究は子どもを対象にしたものとして有名ですが、考え方そのものは大人の生活にもかなり響きます。

たとえば職場。

「さすが○○さん、何でもできますね」

と言われ続ける人ほど、

「分かりません」

と言いにくくなることがあります。

会社で「できる人」という看板を背負うと、その看板が意外と重い。

分からないことを質問できない。

苦手な仕事を断れない。

失敗を隠したくなる。

褒められているのに、自由が減っていく。

なかなか皮肉な話です。

だから職場でも、

「今回の資料、情報整理が分かりやすかった」

「トラブルのあと、すぐ確認したのがよかった」

「前回より説明が簡潔になったね」

というように、具体的な行動を言葉にするほうが、相手にとって役に立つことがあります。

これは褒めるというより、良かった点を一緒に観察する感覚に近いかもしれません。

自分自身にも「頭いいね方式」を使っていないか

そして個人的に、ミューラーの研究で面白いと思うのが、これを自分にも当てはめられることです。

私たちは他人だけでなく、自分にもラベルを貼ります。

「私は文章が得意」

「私は人付き合いが苦手」

「自分は数字に弱い」

「私は三日坊主」

便利なんですよね、ラベル。

冷蔵庫の中身に「調味料」「野菜」と貼るくらい便利です。

でも人間に貼ると、たまに賞味期限が切れても貼りっぱなしになります。

「昔数学が苦手だった」

が、

「私は数学ができない人間だ」

になっている。

「一回、人前で失敗した」

が、

「私は人前で話せない人だ」

になっている。

こうなると、新しい行動をする前から結論が出ています。

ミューラーの研究が教えてくれるのは、

自分を名詞で決めつけすぎないほうがいい

ということでもあります。

「苦手な人」

ではなく、

「今はまだ慣れていない」

「うまくいく方法を探している途中」

くらいにしておく。

人間の説明書には、余白があったほうがいいのです。

「能力」より「関わり方」を見る

ミューラーの研究を読んでいると、最終的にはとても素朴なところへ戻ってきます。

人に対して、

「この人はできる人か、できない人か」

と見るのではなく、

「この人は今、どう取り組んでいるのか」

を見る。

自分に対しても、

「才能があるか、ないか」

ではなく、

「今、何を試しているのか」

を見る。

評価より観察です。

採点より対話です。

これは教育だけでなく、人間関係全体に使える考え方だと思います。

褒め言葉は、未来に向けた小さなメッセージ

クラウディア・M・ミューラーの研究は、

「この褒め方が正解です」

というマニュアルを渡してくれるものではありません。

むしろ、

「その言葉を受け取った相手は、自分について何を学ぶだろう?」

と考える視点をくれます。

「頭がいいね」

という言葉が悪者なのではありません。

ただ、その言葉だけで相手を説明しきらないこと。

「できたね」に加えて、

「どうやってできたの?」

と聞いてみる。

「すごいね」に加えて、

「工夫したところはどこ?」

と聞いてみる。

そうすると褒め言葉は、評価から会話に変わります。

そしておそらく、人が成長するときに本当に必要なのは、

「あなたは優秀です」という合格通知よりも、

「まだ変わっていけるよ」という余白

なのだと思います。

ミューラーの研究は、その余白を守るための心理学なのかもしれません。

阿部牧歌(管理人)
阿部牧歌(管理人)

クラウディア・M・ミューラー(Claudia M. Mueller)の論文一覧

1.『「頭がいいね」と褒めると、かえってやる気が下がる? 子どもの意欲と成績を揺らす“知能への称賛”』クラウディア・M・ミューラー、キャロル・S・ドゥエック(1998)

Mueller, C. M., & Dweck, C. S. (1998). Praise for intelligence can undermine children’s motivation and performance. Journal of Personality and Social Psychology, 75(1), 33–52. DOI:10.1037/0022-3514.75.1.33

「頭がいいね!」。最高の褒め言葉に聞こえますよね。ところがミューラーとドゥエックは、小学5年生を対象に6つの研究を行い、知能を褒められた子どもは、努力を褒められた子どもより失敗後に粘りにくく、課題を楽しめず、成績まで落ちやすいことを示しました。さらに「頭のよさは変わりにくい」と考えやすくなる傾向も。

「えっ、褒めたのに逆効果?」

この論文が面白いのは、褒めるかどうかではなく、“何を褒めるか”が、その子の失敗の受け止め方まで変えるかもしれないと見せてくれるところです。子育て、教育、そして自分自身への声かけまで、ちょっと見直したくなる一篇です。

阿部牧歌(管理人)
阿部牧歌(管理人)
この論文の要約を読む
子どもの褒め方でやる気は変わる?「頭がいい」と努力を褒める違い
子どもの褒め方でやる気は変わる?「頭がいい」と努力を褒める違い
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