キャロル・S・ドゥエック(Carol S. Dweck)の論文一覧:「まだできない」に小さなはしごをかけた、成長マインドセットの心理学者
キャロル・S・ドゥエック(Carol S. Dweck)のプロフィール
キャロル・S・ドゥエックは、「人は失敗したとき、なぜ立ち上がれる人と、心のシャッターをガラガラ閉めてしまう人に分かれるのだろう?」という、なんとも人生くさい問いを追いかけてきたアメリカの心理学者です。
彼女が注目したのは、才能そのものよりも、「才能をどう考えているか」でした。たとえば、「自分には才能がない。だから無理」と考える人は、失敗を“能力不足の判決文”のように受け取ってしまいやすい。一方で、「まだできないだけ。方法を変えれば伸びるかもしれない」と考える人は、失敗を次の作戦会議の材料にできます。
ドゥエックは、この違いを大切にしました。能力は生まれつき決まっていて変わらない、と考える心の姿勢。努力や学び方、周囲からの助けによって伸ばしていける、と考える心の姿勢。彼女は後者に目を向け、「人は完成品ではなく、制作途中の作品なのだ」とでも言うように、学びと成長の可能性を研究してきました。
ただし、彼女の考えは「とにかく根性でがんばれ!」という、熱血先生の笛の音ではありません。大切なのは、むやみに踏ん張ることではなく、うまくいかなければ方法を変えること。助けを求めること。失敗から学ぶこと。そして、自分にも他人にも「まだ途中だよ」と言える余白を持つことです。
バーナード大学で心理学を学び、イェール大学で博士号を取得した後、イリノイ大学、ハーバード大学、コロンビア大学などで教え、2004年からはスタンフォード大学で研究と教育に取り組んでいます。彼女の研究は、子どもの学習だけでなく、大人の仕事、子育て、人間関係にも静かに入り込んできました。
「できる人」と「できない人」を分ける前に、「人はこれから変われるのか」を考える。キャロル・S・ドゥエックは、人生の通知表に“未完成”という希望の欄をつくった心理学者なのです。
参考文献・確認先:Carol S. Dweck 公式プロフィール / Google Scholar:Carol S. Dweck 論文・引用情報 / PubMed:Carol S. Dweck 関連論文

キャロル・S・ドゥエック(Carol S. Dweck)の研究から学べること
ドゥエックの研究から学べることは、ひと言でいえば、「できない」を人生の最終判決にしないことです。
たとえば、仕事でミスをした日。勉強しても頭に入らない日。人前で話して、帰り道に「あの一言、いらなかったな……」と脳内反省会が延長戦に入る日。そんなとき私たちは、つい「自分には向いていない」「才能がない」と、自分に赤ペンを入れたくなります。
でもドゥエックは、そこで小さな言葉を足してみようと提案します。
「まだ、できない。」
この「まだ」は、ずいぶん頼りなさそうに見えて、なかなかの働き者です。「できない」で文章を終わらせると、心のドアがバタンと閉まります。けれど「まだできない」と言うと、ドアが指一本ぶん開く。そのすき間から、「では、何を変えればいいだろう?」という次の考えが入ってきます。
大切なのは、努力を“気合いの腕立て伏せ”にしないことです。努力とは、ただ長く苦しむことではありません。やり方を変える。小さく練習する。人に聞く。休む。道具を使う。失敗した場所を見直す。つまり、「もっとがんばれ」ではなく、「次はどう工夫する?」と考えることです。
また、ドゥエックの研究は、ほめ方にも静かなヒントをくれます。「頭いいね」「才能あるね」と言われるとうれしいものです。でも、それだけを大事にしすぎると、人は“賢そうに見え続けること”に必死になり、失敗しそうな挑戦を避けてしまうことがあります。そこで、「難しいのに取り組んだね」「前よりやり方が工夫されているね」「あきらめずに相談できたね」と、結果だけでなく、その人が進んだ道のりに目を向ける。すると、失敗は恥ではなく、次の作戦を考える材料になります。
もちろん、「成長できると思えば何でもかなう」という魔法ではありません。体調、環境、経済的な事情、周囲の支え。人生には、気持ちだけでは越えにくい坂道もあります。それでも、「今の自分だけで決めつけなくていい」という考え方は、苦しいときの小さな手すりになります。
人は、完成品ではありません。今日はうまくいかなくても、方法を変え、助けを借り、何度か遠回りしながら、少しずつ更新されていく存在です。失敗した日の自分に必要なのは、「才能なし」の判子ではなく、「次回、改善の余地あり」という付せんかもしれません。

キャロル・S・ドゥエック(Carol S. Dweck)の論文一覧
1.『やる気と性格のしくみを読み解く、社会的認知アプローチ』キャロル・S・ドゥエック、エレン・L・レゲット(1988)
Dweck, C. S., & Leggett, E. L. (1988). A social-cognitive approach to motivation and personality. Psychological Review, 95(2), 256–273. DOI:10.1037/0033-295X.95.2.256
「失敗した。はい、才能なし。解散!」と、心の中で即・閉店セールを始めてしまう私たち。ドゥエックとレゲットは、ここに大事な分かれ道があると考えました。能力は生まれつき決まっていると思うと、失敗は“自分の価値がバレる事件”。だから安全な道を選びがちです。けれど、能力は育てられると思えば、失敗は“次の攻略法を探すヒント”。難しい課題にも、少し粘ってみようと思える。この論文は、やる気を根性の量ではなく、「自分は変われる」と考える心の設計図から読み解いた名作です。失敗した日の脳内会議に、そっと議題を追加してくれます。

