カルロ・C・ディクレメンテ(Carlo C. DiClemente)の論文一覧:人が「変わる」と言ってから、本当に変わるまでを見守った心理学者

カルロ・C・ディクレメンテ(Carlo C. DiClemente)の論文を読む女性
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カルロ・C・ディクレメンテ(Carlo C. DiClemente)のプロフィール

カルロ・C・ディクレメンテは、人が悪い習慣をやめたり、新しい生活を始めたりするとき、心の中で何が起きているのかを研究してきたアメリカの心理学者です。

ひと言で紹介するなら、

「人は、決意した瞬間に変わるわけではありませんよ」

と、世界中のせっかちな応援団に教えてくれた研究者です。

たとえば、禁煙を考えている人に、

「体に悪いんだから、今日からやめましょう!」

と言ったとします。

正論です。立派です。白いシャツを着せて額縁に飾りたいほど正しい。

ところが、言われた本人の心は、

「いや、まだそこまで困っていないし……」

「やめたほうがいいのは分かっているけど……」

「来月からなら、もしかすると……」

と、会議室の隅で腕を組んでいるかもしれません。

ディクレメンテが見つめたのは、まさにこの「分かっているけれど、まだ動けない」という時間でした。

人が「変わろう」と思うまでには、いくつもの部屋がある

ディクレメンテは、心理学者ジェームズ・O・プロチャスカとともに、人の行動が変わっていく過程を段階に分けて考える枠組みを発展させました。

一般には「行動変容の段階モデル」と呼ばれています。

この考え方では、人はある日突然、古い自分の着ぐるみを脱ぎ捨てて、ピカピカの新しい自分に変身するわけではありません。

まずは、変わる必要をあまり感じていない段階があります。

次に、

「このままでいいのかな」

と考え始める段階があります。

そのあとに、

「では、どうやって変えようか」

と準備する段階があり、ようやく実際に行動する段階へ進みます。そして、変えた行動を続けていく段階がやってきます。

つまり、変化とは一枚の扉ではなく、いくつもの部屋が続く長い廊下なのです。

しかも、この廊下は一方通行ではありません。

三歩進んで二歩下がり、ときには自動販売機の前で休憩し、なぜか来た道を少し戻ることもあります。

ディクレメンテたちは、禁煙をはじめとする行動の研究を通じて、人が変化の段階を行ったり来たりしながら進むことを示しました。変化は一直線ではなく、迷いや後戻りを含んだ過程だと考えたのです。

「やる気がない人」ではなく、「まだ準備中の人」

この考え方が大切なのは、変われない人をすぐに「意志が弱い」と決めつけなくて済むところです。

たとえば、お酒を減らしたほうがよい人に対して、周囲が何度も、

「いいかげん、本気を出してください」

と言ったとしましょう。

けれど、本人がまだ「変わる必要はない」と感じている段階なら、熱い激励は心に届くどころか、玄関先で受け取り拒否になるかもしれません。

一方で、

「少し気になり始めている」

という段階の人なら、必要なのは大号令ではなく、利点と不安を一緒に整理することかもしれません。

すでに準備している人なら、

「では、具体的に何日から始めますか」

という支援が役に立ちます。

同じ言葉でも、相手が立っている場所によって、効き目はまるで違うのです。

冬眠中の熊に向かって、

「さあ、元気に山を走りましょう!」

と声をかけても、熊には熊の予定があります。

人にも、人の準備があります。

ディクレメンテの研究は、「本人の準備が整っていない」と責めるのではなく、「今はどの段階にいるのだろう」と理解する視点を、医療や心理支援の現場に広げました。

禁煙だけでは終わらなかった研究

ディクレメンテの研究は、禁煙だけを扱ったものではありません。

飲酒や薬物依存をはじめ、健康に関わるさまざまな行動について、やる気がどのように生まれ、行動がどう変わり、その変化がどう維持されるのかを研究してきました。

メリーランド大学ボルティモア郡校では心理学の名誉教授を務め、依存と健康行動の変化を主な研究分野としてきました。同大学の紹介によると、喫煙の開始と禁煙の過程、飲酒や薬物使用からの変化、健康行動における意欲や変化の段階などを研究しています。ロードアイランド大学で心理学の博士号を取得し、のちにヒューストン大学やテキサス大学医学部でも教育と研究に携わりました。

ここで注目したいのは、彼が「依存する人」を、単に悪い行動を繰り返す人として見ていなかったことです。

依存には、始まりがあります。

続いていく仕組みがあります。

やめたい気持ちと、やめたくない気持ちが同じ机で押し合う時期もあります。

そして回復にも、いくつもの段階があります。

「どうして、やめられないのですか」

と問い詰めるのではなく、

「その行動は、どのように始まり、何によって続き、何が変化のきっかけになるのか」

と丁寧にほどいていく。

ディクレメンテの研究には、そんな落ち着いたまなざしがあります。

後戻りは、すべてを失った証拠ではない

生活を変えようとした経験がある人なら、こんな場面に覚えがあるかもしれません。

「今度こそ毎朝歩くぞ」

と決め、新しい運動靴まで買った。

初日は歩いた。

二日目も歩いた。

三日目は雨だった。

四日目は忙しかった。

五日目には、運動靴が玄関の飾りになっていた。

ここで私たちは、

「やっぱり自分は続かない」

と考えがちです。

しかし、行動変容の段階モデルで見ると、一度戻ったからといって、すべてがゼロになるわけではありません。

何が難しかったのか。

どこでつまずいたのか。

次に備えるなら何が必要なのか。

その経験を調べることで、次の変化に生かせる可能性があります。

後戻りとは、人生というゲームの「全記録消去」ではありません。

少し苦いものの、次の攻略に使える記録でもあるのです。

この見方は、依存からの回復を考えるうえでも重要でした。変化を「成功か失敗か」の二択にせず、何度か行き来しながら進む過程として捉えるからです。

研究を、支援の現場で使えるものに

ディクレメンテは、研究室の中だけで美しく完結する理論ではなく、実際の支援で役に立つ考え方を目指しました。

2019年には、依存症支援の倫理、教育、予防、そして一人ひとりの変化の段階に合わせた支援方法への長年の貢献が評価され、健康心理学の専門団体から生涯功績賞を受賞しています。受賞時には、自分の研究が臨床の現場で役立ち、人間の行動変容を理解する助けになることを願ってきたと述べています。

この姿勢は、彼の研究全体をよく表しています。

理論は、頭のよい人が難しい言葉を積み上げて建てる展望台ではありません。

困っている人と支援する人が、

「今、どこにいるのだろう」

「次に進むには、何が必要だろう」

と一緒に地図を広げるための道具です。

ディクレメンテにとって心理学は、人を採点する赤ペンではなく、現在地を確かめる案内板だったのでしょう。

変われないのではなく、変化の途中にいる

カルロ・C・ディクレメンテの研究が私たちに教えてくれるのは、人は命令されたからといって、すぐに変われるわけではないということです。

人には迷う時間があります。

まだ認めたくない時期があります。

考える時期があり、準備する時期があり、実際に動き出す時期があります。

そして、一度進んでも、また戻ることがあります。

それでも、その人は「何もしていない」とは限りません。

心の奥では、

「このままでいいのだろうか」

という小さな会議が始まっているかもしれないのです。

ディクレメンテは、その会議を急かしませんでした。

扉を蹴り開けて、

「はい、今日から新しい人生です!」

とも言いませんでした。

その代わりに、

「あなたは今、変化のどのあたりにいるのでしょう」

と問いかけました。

私たちは、変われない自分を見ると、すぐに怠け者の札を貼りたくなります。

けれど本当は、まだ考えている途中なのかもしれません。

準備の仕方が分からないのかもしれません。

一度転んで、次の立ち上がり方を探しているのかもしれません。

人は完成品として生きているのではなく、何度も迷い、試し、戻りながら更新されていきます。

カルロ・C・ディクレメンテは、その不格好で、回り道だらけで、それでもどこかへ進もうとする人間の姿を、長年にわたって見つめ続けた心理学者なのです。

参考文献・確認先:メリーランド大学ボルティモア郡校:カルロ・C・ディクレメンテ公式プロフィール / Google Scholar:カルロ・C・ディクレメンテ 論文・引用情報 / PubMed:カルロ・C・ディクレメンテ 関連論文

阿部牧歌(管理人)
阿部牧歌(管理人)

カルロ・C・ディクレメンテ(Carlo C. DiClemente)の研究から学べること

カルロ・C・ディクレメンテの研究から学べることは、ひと言でまとめるなら、

「人は、正しいことを教えられただけでは変わらない」

ということです。

これは、なかなか耳の痛い話です。

私たちはつい、相手が変わらないと、

「ちゃんと説明したのに」

「本人にやる気がないんじゃないか」

「もう少し危機感を持ったほうがいい」

と言いたくなります。

たしかに、健康のためには運動したほうがいい。タバコはやめたほうがいい。お酒は飲みすぎないほうがいい。夜更かしをせず、早めに寝たほうがいい。

正論たちは、今日も元気です。背筋を伸ばし、会議室の一番前に座っています。

しかし、人間の心は、正論だけで動く機械ではありません。

「分かっているけれど、できない」

「変えたい気もするけれど、今のままでも困っていない」

「今度こそと思ったけれど、また元に戻ってしまった」

そんな矛盾を抱えながら、私たちは少しずつ変わっていきます。

ディクレメンテの研究は、その不器用な変化の道のりを、失敗として切り捨てず、丁寧に観察したものです。

学びの一つ目 人は決意した瞬間に変わるわけではない

私たちは、「決意」を少し信用しすぎているのかもしれません。

「明日から早起きする」

「今月こそ運動を始める」

「もう夜中にお菓子は食べない」

こう宣言した瞬間、心の中では壮大な音楽が流れます。

新しい自分が朝日の中を歩き、過去の自分が遠くで小さく手を振っている。そんな感動的な映像まで浮かぶことがあります。

ところが翌朝。

目覚まし時計が鳴ると、昨日の決意は布団の奥で行方不明です。

「今日は寒いから、正式な開始日は明日にしよう」

人間の決意とは、ときどき雨天順延になる運動会のようなものです。

ディクレメンテの研究が教えてくれるのは、決意は変化の完成ではなく、変化の途中にある一つの出来事だということです。

人が行動を変えるまでには、そもそも変える必要を感じていない時期があります。

そのあと、

「少し気になるな」

と考え始める時期がやってきます。

さらに、

「では、どう変えようか」

と準備する時期があり、ようやく行動へ移ります。

つまり、「まだ動いていない」という状態にも、いくつかの種類があるのです。

まったく変える気がない人と、変えようか迷っている人と、始める日を決めようとしている人では、心の中で起きていることが違います。

外から見ると、どの人も同じように座っているかもしれません。

しかし一人は昼寝をしていて、一人は地図を広げ、一人は靴ひもを結んでいます。

同じ言葉をかければよいわけではないのです。

学びの二つ目 「やる気がない」と決めつけるのは早すぎる

誰かがなかなか行動しないとき、私たちはその人の性格に原因を求めがちです。

「意志が弱い」

「甘えている」

「本気ではない」

こうした言葉は便利です。

原因を本人の中に押し込めれば、話が早く終わるからです。

けれど、ディクレメンテの考え方に立つと、別の見方ができます。

その人は、やる気がないのではなく、まだ変化の必要性を十分に感じていないのかもしれません。

変わりたい気持ちはあるけれど、失うものが怖いのかもしれません。

失敗した経験が多く、

「どうせまた続かない」

と思っているのかもしれません。

あるいは、変わる方法が大きすぎるのかもしれません。

たとえば、運動をしていない人に、

「毎朝五時に起きて、一時間走りましょう」

と提案したとします。

立派な計画です。

しかし、運動靴を持っていない人に、いきなり登山口を指さしているようなものでもあります。

必要なのは、まず五分歩くことかもしれません。

靴を買うことかもしれません。

なぜ運動したいのかを考えることかもしれません。

本人がいる段階に合わない支援は、正しくても届きません。

冷蔵庫に向かって人生相談をするくらい、相手を間違えています。

人を支援するときには、

「どうして、やらないのですか」

と責めるより、

「いま、どこまでなら考えられそうですか」

と尋ねるほうがよい。

この違いは小さく見えますが、相手の心に与える影響は大きく違います。

前者は取り調べの部屋をつくり、後者は相談できる椅子を置きます。

学びの三つ目 迷っている時間にも意味がある

変化を考えている人は、ときどき同じ場所をぐるぐる回ります。

「やめたほうがいいとは思う」

「でも、やめたら楽しみがなくなる」

「変わりたい」

「けれど、今の生活にもよいところがある」

この迷いを見て、周囲はつい言います。

「いつまで迷っているの?」

しかし、この迷いは無駄とは限りません。

人が何かを変えるときには、「変えたほうがよい理由」だけでなく、「変えたくない理由」も存在します。

タバコをやめれば健康にはよい。

でも、休憩時間の楽しみが減る。

お酒を減らせば体調はよくなる。

でも、人付き合いが難しくなる気がする。

仕事を変えれば苦しさから離れられる。

でも、収入や人間関係がどうなるか不安だ。

人の心の中には、賛成派と反対派がいます。

しかも両者とも、本人を守ろうとしているのです。

賛成派は、

「このままではよくない。前へ進もう」

と言います。

反対派は、

「急に変えたら危ない。今の生活にも守られている部分がある」

と言います。

心の会議は、意外と真面目です。

ただし、議長が不在なので話が長い。

ディクレメンテの研究からは、この迷いを無理に消すのではなく、両方の気持ちを整理することの大切さが学べます。

「変わりたいのに変われない」のではなく、「変わりたい理由と、変わりたくない理由の両方がある」と考えるのです。

そうすると、自分を責める必要が少し減ります。

「私は意志が弱い」

ではなく、

「私はいま、二つの大事な気持ちの間で迷っている」

と捉え直せるからです。

学びの四つ目 後戻りは、変化の終わりではない

何かをやめたり、新しく始めたりしたあと、元の行動に戻ってしまうことがあります。

禁煙していたのに一本吸った。

運動を続けていたのに、一週間休んだ。

節約していたのに、大きな買い物をした。

夜更かしを直そうとしたのに、動画を見ていたら午前二時になった。

こうしたとき、私たちはすぐに判決を下します。

「はい、失敗」

心の裁判官は、証拠をあまり見ません。木づちを打つのが早い。

けれど、ディクレメンテの研究では、後戻りも変化の過程に含まれます。

もちろん、後戻りを「気にしなくていい」と軽く扱うわけではありません。

大切なのは、後戻りした理由を調べることです。

どんな場面で元に戻ったのか。

疲れていたのか。

不安が強かったのか。

周囲の影響があったのか。

準備が足りなかったのか。

目標が大きすぎたのか。

後戻りには、次の作戦を考えるための情報が詰まっています。

たとえば、毎晩甘いものを食べてしまう人がいるとします。

「自分は我慢ができない」と考えるだけでは、次も同じことが起こりやすいでしょう。

しかし、

「仕事から帰った直後、空腹と疲れが重なると食べやすい」

と分かれば、帰宅前に軽く何かを食べる、家に大量のお菓子を置かない、別の休憩方法をつくるといった対策が考えられます。

失敗を人格の問題にすると、打つ手がなくなります。

失敗を情報として見ると、工夫ができます。

後戻りは、道が閉じたという知らせではありません。

「この道には大きな水たまりがありますよ」という看板なのです。

学びの五つ目 相手の段階に合った言葉を選ぶ

ディクレメンテの研究は、医療や心理支援だけでなく、家庭や職場でも役立ちます。

たとえば、家族が健康診断で注意を受けたのに、生活を変えようとしないとします。

心配した家族は、

「このままだと大変なことになるよ」

「運動しないとダメでしょ」

と何度も言いたくなるでしょう。

しかし、本人がまだ問題を認めていない段階なら、強く言われるほど反発することがあります。

「分かっているよ」

「うるさいな」

「そんなに言うなら、もう何も話さない」

正論が玄関から入り、会話が窓から逃げていきます。

この場合、まず必要なのは、行動を迫ることではないかもしれません。

「健康診断の結果を見て、本人はどう感じたのか」

「何か気になっていることはあるのか」

と話を聞くことから始めたほうがよい場合があります。

一方で、本人がすでに、

「運動を始めたいけれど、何をすればいいか分からない」

と思っているなら、具体的な計画が役立ちます。

「毎日運動しなさい」

ではなく、

「まずは夕食後に十分歩いてみようか」

と提案できます。

相手の段階を見ずに、こちらが言いたいことだけを言うと、支援は空回りします。

駅のホームにいる人へ、飛行機の搭乗案内をしているようなものです。

まずは相手の現在地を知る。

それから、次の一歩に合った言葉を選ぶ。

この姿勢は、誰かを変えようとするときだけでなく、自分自身と話すときにも大切です。

学びの六つ目 小さな変化を見逃さない

行動が変わっていないと、私たちは「何も変わっていない」と思いがちです。

しかし実際には、目に見えない変化が先に起きていることがあります。

以前はまったく気にしていなかった人が、

「最近、少し体力が落ちたかもしれない」

と感じ始めた。

相談に来る気がなかった人が、支援機関のホームページを開いた。

仕事を辞めたいと思っていた人が、自分の苦しさを初めて言葉にした。

まだ行動には移っていません。

けれど、心の中では椅子が少し動いています。

ディクレメンテの研究から学べるのは、こうした小さな変化を見逃さないことです。

「まだ何もしていない」

のではなく、

「考え始めた」

「情報を集め始めた」

「不安を言葉にできた」

と見ることができます。

大きな変化は、ある朝突然、屋根を突き破って登場するわけではありません。

多くの場合、その前に小さな兆しがあります。

気になる。

考える。

話してみる。

調べる。

誰かに相談する。

必要なものを用意する。

こうした一つひとつが、変化の土台になります。

種を植えた翌日に土を掘り返して、

「まだ芽が出ていない!」

と怒っても、種は困ります。

人の変化にも、土の下で準備する時間があるのです。

学びの七つ目 変化は本人のものだと忘れない

誰かを助けたいとき、私たちはつい先回りします。

「この仕事が向いている」

「こうしたほうが幸せになれる」

「早く決めたほうがいい」

相手のためを思っているからこそ、急かしたくなるのです。

しかし、変化を実際に引き受けるのは本人です。

禁煙したあとの生活を送るのも本人。

仕事を変えたあとの不安を抱えるのも本人。

新しい習慣を毎日続けるのも本人です。

支援者や家族は、地図を一緒に見ることはできます。

道具を渡すこともできます。

転んだときに隣へ座ることもできます。

けれど、相手の靴を履いて歩くことはできません。

ここを忘れると、支援はいつの間にか操縦になります。

「あなたのためだから」

と言いながら、相手の人生のハンドルを握ってしまうのです。

ディクレメンテの考え方は、本人の準備や選択を尊重します。

変化を起こさせるのではなく、変化が起こりやすい環境を一緒につくる。

答えを与えるのではなく、本人が自分の答えを見つけられるように支える。

それは少し遠回りに見えます。

しかし、人は自分で選んだ一歩のほうを、長く歩きやすいものです。

「変わらない人」ではなく、「変化の途中にいる人」

カルロ・C・ディクレメンテの研究は、人を見る目を少しやわらかくしてくれます。

行動できない人を見たとき、

「どうしてやらないのだろう」

と考えるだけでなく、

「いま、どの段階にいるのだろう」

と考えられるようになります。

自分が続けられなかったときも、

「私はダメだ」

と結論を出すのではなく、

「何が準備不足だったのだろう」

「どんな場面で戻りやすかったのだろう」

と振り返ることができます。

人は、右肩上がりの折れ線グラフのようには変わりません。

進んだり、止まったり、戻ったりします。

昨日は前向きだったのに、今日は面倒になる。

朝は決意していたのに、夜には別の意見を持っている。

それが人間です。

心の中には、立派な改革派もいれば、現状維持を訴える慎重派もいます。ときには「今日はもう疲れたので、議会を閉会します」という議長まで現れます。

それでも、変化は完全に消えたわけではありません。

一度考えたこと。

一度試したこと。

一度つまずいたこと。

それらは、次に進むときの材料になります。

ディクレメンテの研究から学べる最も大きなことは、変化には時間がかかるという当たり前の事実を、当たり前として尊重することなのかもしれません。

人を急かさない。

けれど、見放さない。

失敗を責めない。

けれど、そこから学ぶ。

無理に引っ張らない。

けれど、次の一歩を一緒に探す。

「まだ変われていない」

と思う日にも、心のどこかでは変化が始まっているかもしれません。

人は、スイッチのように一瞬で変わるのではありません。

夜明けのように、少しずつ明るくなっていくのです。

ときどき雲が戻ってきます。

雨が降る日もあります。

それでも、空は同じ場所にとどまっているわけではありません。

私たちもまた、迷いながら、休みながら、何度でも歩き直すことができるのです。

阿部牧歌(管理人)
阿部牧歌(管理人)

カルロ・C・ディクレメンテ(Carlo C. DiClemente)の論文一覧

1.『人はどうやってタバコをやめるのか-禁煙に至る「変化の段階」とプロセスを統合する』ジェームズ・O・プロチャスカ、カルロ・C・ディクレメンテ(1983)

Prochaska, J. O., & DiClemente, C. C.(1983). Stages and processes of self-change of smoking: Toward an integrative model of change. Journal of Consulting and Clinical Psychology, 51(3), 390–395.
DOI:10.1037/0022-006X.51.3.390

「禁煙するぞ!」と決意したのに、翌日には煙と仲直り。そんな人間の“あるある”を、プロチャスカとディクレメンテは笑わずに研究しました。自力で喫煙習慣を変えようとする872人を調べると、人は「まだ考えない」「迷い始める」「実行する」「続ける」「戻ってしまう」という段階を行き来し、それぞれの段階で役立つ方法も違うと判明します。変われないのは意志が弱いからではなく、今いる場所に合わない作戦を使っているからかもしれない。三日坊主を見る目が少しやさしくなる、行動変容研究の出発点ともいえる一篇です。

阿部牧歌(管理人)
阿部牧歌(管理人)
この論文の要約を読む
禁煙できないのは意志が弱いから?872人の研究で見えた変化の段階
禁煙できないのは意志が弱いから?872人の研究で見えた変化の段階
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