カール・J・ソレセン(Carl J. Thoresen)の論文一覧:「仕事が楽しい」と「仕事ができる」の間に椅子を置いて、じっくり観察した心理学者
カール・J・ソレセン(Carl J. Thoresen)のプロフィール
カール・J・ソレセン(Carl J. Thoresen)は、ざっくり言えば、**「人はどんな性格をしていて、仕事をどう感じ、その結果どんな働き方をするのか」**を研究してきた心理学者です。
なんだか会社の人事部がものすごく本気になったような研究テーマですね。
「仕事が楽しい人は、仕事もできるの?」
「性格って、出世や仕事の成果に関係するの?」
「ストレスを感じやすい人には、何か共通する特徴があるの?」
「そもそも、人の能力をどうやって公平に評価するの?」
そんな、会社で働いていると一度くらいは給湯室で考えそうな疑問を、ソレセンは「まあ、なんとなくそうでしょう」では済ませず、心理学の研究対象として扱ってきました。
哲学から始まって、いつの間にか「人と仕事」を研究していた
ソレセンの学歴をたどると、これがなかなか面白いのです。
大学ではノースウェスタン大学で哲学を学び、その後、コーネル大学で組織行動の修士号を取得。そしてアイオワ大学で人的資源管理の博士号を取得しています。大学院修了後には、テュレーン大学で産業・組織心理学を教えていました。
哲学から組織行動、そこから人的資源管理へ。
ずいぶん遠くまで歩いてきたように見えますが、よく考えると一本の道でつながっています。
哲学が「人間とは何だろう」と考える学問だとすれば、組織心理学は、
「では、その人間を会社という箱に500人くらい入れたら、いったい何が起こるのでしょう」
と考える学問とも言えます。
急に会議が始まりました。
人は機械ではありません。
同じ仕事内容でも楽しそうに働く人がいれば、月曜日の朝に魂だけ自宅へ置いてきたような顔をしている人もいる。自信満々の人もいれば、不安を抱えやすい人もいる。変化を面白がる人もいれば、「昨日と同じでお願いします」と心の中で神棚に手を合わせている人もいます。
ソレセンの研究は、そうした一人ひとりの性格や感情の違いが、仕事の世界でどう表れてくるのかを丁寧に調べていくものでした。
「仕事が楽しい人は仕事ができる?」という古くて大きな問題
ソレセンの名前を広く知られるものにした研究のひとつが、ティモシー・A・ジャッジらと発表した2001年の研究です。
テーマは、
「仕事への満足度と、仕事の成果にはどんな関係があるのか」
というもの。
これは働く人にとって、かなり気になる話です。
もし仕事に満足している人ほど成果も高いのであれば、
「社員を幸せにすることなんて甘い話ですよ」
とは簡単に言えなくなります。
逆に、
「みんな楽しく働けば業績も爆上がり!」
と紙吹雪を飛ばすのも少々早い。
そこで研究者たちは、それまで積み重ねられてきた大量の研究をまとめて検討しました。ソレセンは、この大規模な研究整理に共同研究者として参加しています。論文発表当時、所属はテュレーン大学心理学部でした。
このあたりに、ソレセンの研究者としての特徴がよく出ています。
人間の働き方について、
「たぶんこうでしょう」
ではなく、
「ちょっと過去の研究を全部机に並べましょうか」
とやる。
研究机が論文で埋まります。
でも、その山を整理してみることで、長年ぼんやり語られてきた「満足している社員はよく働くのか」という問題が、少しずつ数字として見えるようになるわけです。
性格は、会社の入口で置いていけない
ソレセンは、仕事への満足だけでなく、性格と仕事の関係についても研究しています。
たとえば、大きな性格傾向と仕事上の成功との関係を調べたり、ジャッジらとともに「自分をどのような人間だと評価しているか」という心の土台について研究したりしています。
人間は会社に出勤するとき、
「では、本日の性格はこちらのロッカーに入れておきます」
とはできません。
心配性の人は心配性のまま会議室へ行き、自信のある人は自信を持ったままプレゼンをし、好奇心の強い人は「それ、試してみません?」と言い始める。
つまり、職場にいるのは「社員」という無機質な部品ではなく、性格を持った人間です。
当たり前の話なのですが、組織を考えるうえでは、この当たり前が案外忘れられます。
ソレセンたちの研究は、その忘れ物を取りに戻るような仕事だったとも言えるでしょう。
大学だけで終わらず、人材評価の実務へ
そしてソレセンの経歴で興味深いのが、研究室だけにとどまらなかったことです。
テュレーン大学で教えた後、人材の選抜やリーダー育成などを扱うコンサルティング会社、コーナーストーン・マネジメント・リソース・システムズで活動しました。専門書の著者紹介では、課題を実際に行ってもらいながら能力を評価する「課題型評価センター」などの開発・実施に携わっていたことが紹介されています。
ここが面白いところです。
研究者として、
「性格と仕事にはこんな関係があります」
と論文を書くだけでなく、
「では実際の会社では、人をどう評価したらいいのでしょう?」
という現場側にも足を踏み入れている。
心理学の研究室から、そのまま会社の採用会議まで歩いてきたような研究者なのです。
現在の『Journal of Business and Psychology』の編集委員一覧にも、コーナーストーン所属のCarl Thoresenとして名前が掲載されています。
ソレセンの研究を一言で表すなら
カール・J・ソレセンの研究を眺めていると、ひとつの問いがずっと流れているように感じます。
それは、
「人間という複雑な生き物を、仕事の世界でどう理解すればいいのか」
という問いです。
仕事の成果。
仕事への満足。
性格。
感情。
ストレス。
自己評価。
人材選抜。
リーダーとしての能力。
会社では、これらをつい別々の箱に入れてしまいます。
「これは人事の話」
「これは本人の性格」
「これはメンタルの問題」
「これは業績の話」
はい、箱を四つ用意しました。
ところが、人間の側はそんなにきれいに分かれてくれません。
性格が感情に関わり、感情が仕事の感じ方に関わり、仕事への感じ方が行動に関わり、その行動が評価や成果へつながっていく。
ソレセンの研究は、そんな複雑な糸を一本ずつほどいていく試みだったと言えるでしょう。
だから彼の研究は、経営者や人事担当者だけのものではありません。
毎朝会社へ向かいながら、
「仕事って、能力だけで決まるものでもないよなあ」
と思ったことのある私たちにもつながっています。
職場には「労働力」が出勤しているのではありません。
嬉しい日もあれば、しんどい日もあり、自信のあるところもあれば、妙に気にしてしまうところもある。
ひとりの人間が、毎朝ちゃんと出勤している。
ソレセンの研究を読んでいると、そんなごく当たり前の事実が、少しだけ大きく見えてくるのです。
参考文献・確認先:Journal of Business and Psychology:Carl J. Thoresen 所属情報 / Google Scholar:Carl J. Thoresen 論文・引用情報 / PubMed:Carl J. Thoresen 関連論文

カール・J・ソレセン(Carl J. Thoresen)の研究から学べること
カール・J・ソレセン(Carl J. Thoresen)の研究を眺めていると、仕事というものが、だんだん「仕事内容だけの問題」ではなくなってきます。
給料はいくらか。
残業は多いか。
上司はどんな人か。
仕事内容は自分に合っているか。
もちろん、どれも大事です。
でもソレセンたちは、そこにもうひとつ椅子を置きます。
「ところで、その仕事をしている“あなた自身”は、どんな人なのでしょう?」
はい、急にこちらを見られました。
仕事への満足、感情の持ち方、性格、ストレス、仕事の成果。
ソレセンの研究から見えてくるのは、私たちが職場へ持っていくものは、お弁当と社員証だけではない、ということです。
性格も、不安も、物事の受け止め方も、自分への評価も、だいたい一緒に出勤しています。
「仕事が楽しい」と「仕事ができる」は、まったく別の話ではない
ソレセンがティモシー・A・ジャッジらと行った有名な研究では、仕事への満足度と仕事の成果との関係が、それまでの研究をまとめる形で検討されました。
そこで示されたのは、両者には一定の関係がある、ということです。研究では、全体的な職務満足と仕事の成果との関連は、おおむね「弱すぎもしないが、全部を説明できるほど強くもない」程度でした。
ここが大事なんです。
「仕事が楽しい人は必ず優秀です!」
ではありません。
そんなに話が簡単なら、人事部は毎朝プリンを配ればいい。
「はい、本日の職務満足です」
とはいきません。
けれど反対に、
「仕事なんて嫌でも成果さえ出せばいいんですよ」
と言い切るのも、ちょっと乱暴なのです。
仕事をどう感じているかと、そこでどんな成果を出すかは、完全に無関係ではありません。
これは私たちの日常にも大きなヒントをくれます。
たとえば最近、以前なら普通にできていた仕事なのに、どうにも集中できない。
そんなとき、
「能力が落ちた」
「自分はダメになった」
とすぐ結論を出す必要はありません。
仕事そのものへの満足感が落ちているのかもしれない。
人間関係に疲れているのかもしれない。
裁量がなくなっているのかもしれない。
頑張っても認められない感覚が積み重なっているのかもしれない。
つまり、成果だけを見るのではなく、その成果が生まれている土壌も見る。
ソレセンの研究から持ち帰れる、とても実用的な視点です。
トマトが元気なくなったとき、トマトに向かって、
「根性!」
とは言いませんよね。
水、日光、土、気温を見る。
人間にも、だいたい同じくらいの丁寧さが必要なのだと思います。
私たちは「職場」を見ているつもりで、自分の心も一緒に見ている
ソレセンたちはさらに、人がもともと持っている感情の傾向と、仕事への感じ方との関係についても研究しています。
簡単に言えば、人によって、
「比較的、明るい面を感じ取りやすい」
「心配や不快なことに気づきやすい」
といった傾向があります。
そして、そうした個人差は、仕事への満足感や組織への態度とも関係していることが、ソレセンらの研究整理で示されています。
これを聞くと、
「じゃあ、不安になりやすい人は損じゃないか」
と思うかもしれません。
でも、ここで話を雑にしてはいけません。
「全部あなたの性格のせいです」
ということではないのです。
むしろ面白いのは、
同じ職場でも、人によって見えている職場が少し違う
ということです。
たとえば上司から、
「ここ、あとで直しておいてください」
と言われたとします。
ある人は、
「了解です」
で終わる。
別の人は、
「怒っていたかな」
「評価が下がったかな」
「さっきの会議でも変なこと言ったかな」
「もしかして来年度、机がなくなるのでは」
と、頭の中で人事異動まで始まります。
上司はもう昼ごはんを食べています。
この違いは、能力の差とは限りません。
物事をどう受け取りやすいかという、心の傾向も関係します。
だからこそ、自分の感じ方に、
「これは事実なのか」
「それとも、自分がそう感じやすいだけなのか」
と小さな隙間をつくることが役立ちます。
「私はいま、職場が最悪だと思っている」
ではなく、
「私はいま、職場をかなりつらく感じている」
と言い換える。
たったこれだけでも違います。
前者は世界そのものへの判決ですが、後者は自分の現在地の報告です。
判決は重たいですが、報告なら少し扱いやすくなります。
「性格だから仕方ない」で終わらせなくていい
もうひとつ面白いのが、ソレセンらのストレス研究です。
不快な感情を抱きやすい傾向と仕事のストレスとの関係は、単純に「本人の性格だけ」で説明できるものではなく、どんなストレス要因に置かれているかも重要だと検討されています。
これは、かなり救いのある話だと思います。
私たちはつい、
「自分はストレスに弱い」
「自分は気にしすぎる性格だから」
と言います。
もちろん、生まれ持った傾向はあります。
でも、
ストレスを感じている人を見るときに、その人だけを調べても足りない。
仕事量はどうか。
役割ははっきりしているか。
人間関係はどうか。
自分で決められる範囲はあるか。
何をすれば評価されるのか分かっているか。
本人の中だけではなく、本人の周囲にも原因を探す必要があります。
これは職場だけでなく、家庭や学校でも同じでしょう。
水槽の魚が元気をなくしたとき、
「この魚、精神力が弱いな」
とは普通言いません。
水温を見る。
水質を見る。
餌を見る。
ところが人間になると急に、
「本人の心の持ちようでしょう」
と言い始めることがあります。
人間だけ精神論の飼育方法になっている。
ソレセンの研究は、そこに静かに疑問符を置いてくれます。
仕事の悩みを「自分の欠陥」にしすぎない
ソレセンの研究から私たちがいちばん大切に持ち帰りたいのは、これかもしれません。
仕事でうまくいかないことを、全部「自分の能力不足」に変換しないこと。
仕事の成果には、能力だけでなく、満足感、感情、性格、環境、仕事との相性など、いろいろなものが絡みます。
だから、
「最近仕事がうまくいかない」
という問題に対して、
「もっと頑張る」
しか答えがないわけではありません。
仕事内容を変える。
仕事量を調整する。
相談する。
人間関係を整理する。
休む。
自分が何に不満を感じているのか言葉にする。
自分の考え方の癖を見つける。
入口はいくつもあります。
「頑張る」という扉しかない部屋に住んでいると、どうしても苦しくなります。
ソレセンの研究は、壁をよく見ると、
「こちらにも出口がありますよ」
と教えてくれるような研究なのです。
幸せに働くことを、ぜいたく扱いしなくていい
仕事について話すとき、
「楽しいかどうかより、ちゃんと働けるかでしょう」
と言われることがあります。
もちろん、仕事ですから成果は必要です。
でもソレセンたちの研究を読んでいると、働く人の満足や感情を、成果とは無関係な飾り物として扱うのも違うのだとわかります。仕事への満足と成果には一定の関連が確認されています。
人間は機械ではありません。
「性能」と「気持ち」を別々の箱に入れて動かすことはできない。
朝から嫌で仕方ない場所に毎日通い、
「でも成果には影響させないでください」
と言われても、心としては、
「その契約、聞いてません」
でしょう。
だから、仕事について考えるとき、
「自分はちゃんと成果を出せているか」
だけでなく、
「自分はここで、どんな気持ちで働いているだろう」
と尋ねてみていいのです。
その問いは、甘えではありません。
むしろ、自分が長く働いていくための点検です。
車だって車検があります。
人間にも、ときどき心検が必要です。
ソレセンの研究が教えてくれるのは、仕事とは単に「何をするか」ではなく、誰が、どんな心で、その場所にいるかまで含めた営みなのだということ。
仕事でつまずいたとき、自分を責める前に少しだけ周囲を見渡してみる。
自分の性格。
今の気分。
仕事への満足。
職場の環境。
任されている役割。
原因は一人で来るとは限りません。
だいたい数人で連れ立ってやってきます。
だから解決するときも、一か所だけを力いっぱい叩く必要はない。
人を変える。環境を変える。見方を変える。休み方を変える。
そのどこから手をつけてもいい。
カール・J・ソレセンの研究は、仕事に悩む私たちに、そんな少し広い地図を渡してくれているように思います。

カール・J・ソレセン(Carl J. Thoresen)の論文一覧
1.『仕事に満足している人は、本当に仕事もできるのか?―職務満足と仕事の成果の関係を徹底検証』ティモシー・アラン・ジャッジ、カール・J・ソレセン、ジョイス・E・ボノ、グレゴリー・ケネス・パットン(2001)
Judge, T. A., Thoresen, C. J., Bono, J. E., & Patton, G. K.(2001). The Job Satisfaction–Job Performance Relationship: A Qualitative and Quantitative Review. Psychological Bulletin, 127(3), 376–407.
DOI:10.1037/0033-2909.127.3.376
「仕事が楽しい人って、やっぱり仕事もできるの?」。会社員なら一度は気になるこの疑問に、ジャッジやソレセンたちは過去の研究をどっさり集めて挑みました。すると、職務満足と仕事の成果には、無視できない関係があることが見えてきます。ただし「満足させれば即・スーパー社員」という単純な話でもありません。幸福と成果は、どちらが先で、何が間にいるのか。長年の論争を整理しながら、「働く人の気持ちは業績と別腹なのか?」を真正面から考えた、仕事を見る目が少し変わる一本です。

