ベンジャミン・ガードナー(Benjamin Gardner)の論文一覧:三日坊主に白衣を着せて、“続く仕組み”を診察した習慣研究者
ベンジャミン・ガードナー(Benjamin Gardner)のプロフィール
ベンジャミン・ガードナーは、「続かないのは、あなたの根性が足りないからです」と言いそうな場所に現れて、そっとホワイトボードを消してくれる心理学者です。
たとえば、「明日から毎朝歩こう」と決めたのに、翌朝には布団と平和条約を結んでしまう。あるいは、健康のためにお菓子を減らそうと思った三十分後、気づけばポテトチップスの袋が空いている。人間、意思はあるのです。あるのですが、朝には弱く、疲れると塩味にも弱い。そこにガードナーは目をつけました。
彼が長く研究してきたのは、「人はどうして、考えなくても同じ行動をくり返すのか」という習慣のしくみです。習慣とは、単に何度もやった行動ではありません。「歯を磨いたらフロスをする」「帰宅してカバンを置いたら運動着に着替える」といったように、ある場面が合図になって、行動が半自動で始まる状態です。いわば、生活のあちこちにひそむ見えないボタン。押した覚えはないのに、行動だけが起動している。人間の毎日は、思った以上にこの自動運転でできています。
ガードナーのおもしろさは、習慣を「良いことを続けるための魔法」として雑に売らないところです。何日続ければ必ず身につく、という便利すぎる数字には慎重です。行動が育つ速さは、内容の難しさ、その行動をする場面の安定さ、くり返す頻度、本人がどれほど納得しているかなどで変わります。つまり、習慣はインスタントラーメンではありません。お湯を注いで三分待てば完成、とはいかない。けれど、毎日の同じ場面に小さな行動を置いていくと、ある日それは「がんばること」から「いつものこと」へ、静かに職業替えしていきます。
彼の研究は、運動、食事、座りすぎの予防といった健康行動だけでなく、通勤手段や水の使い方など、環境に関わる行動にも広がっています。これはつまり、「地球を少し助ける行動」も、毎朝の歯みがきや帰宅後の手洗いと同じく、日常の設計しだいで育てられるかもしれない、ということです。壮大な問題の入り口が、台所や玄関や通勤路にある。なかなか愉快で、少し希望のある発見です。
悪い習慣を変えるときにも、彼の考え方はやさしいです。自分を責めて説教大会を開くより、「この行動は、どんな場面で始まっているのだろう」と観察する。夜ふかしなら、寝る前にスマホを開く場所。間食なら、仕事終わりにコンビニの前を通る道。習慣は意志の弱さの証拠というより、場面と行動が仲良くなりすぎた結果です。ならば、責める相手は自分の人格ではなく、まず生活の舞台装置かもしれません。
ベンジャミン・ガードナーは、人間を「やる気が足りない生き物」として叱るのではなく、「環境の中で、くり返しながら暮らしている生き物」として見つめます。だから彼の習慣研究は、自己改善の話でありながら、どこか自己救済の話でもあります。続かなかった日があっても大丈夫。必要なのは、気合いを追加注文することではなく、明日の自分が動きやすい場所に、小さな合図を置いておくことなのです。
参考文献・確認先:Benjamin Gardner 公式プロフィール / Google Scholar:Benjamin Gardner 論文・引用情報 / PubMed:Benjamin Gardner 関連論文

ベンジャミン・ガードナー(Benjamin Gardner)の研究から学べること
ベンジャミン・ガードナーの研究から学べる、いちばん大事なこと。それはたぶん、「続かない自分を、いちいち人格審査にかけなくていい」ということです。
「明日から運動するぞ」と決めた翌朝、目覚ましを止めて二度寝する。
「夜はスマホを見ない」と宣言した夜、気づけば動画を三本見ている。
このとき人は、すぐ自分に言いたくなります。
「意志が弱い」
「だらしない」
「どうせまた三日坊主だ」
でもガードナーの研究は、そこに少し待ったをかけます。
続くかどうかは、気合いの量だけで決まるわけではない。むしろ大切なのは、「どんな場面で、その行動が始まるようになっているか」です。
習慣とは、ただ何度もくり返すことではありません。ある場面に出会ったとき、「さて、やるぞ」と大げさに考えなくても、体が先に動きはじめる状態です。
朝、歯ブラシを握ったら歯を磨く。
帰宅してカバンを置いたら手を洗う。
昼休みになったら、ついコーヒーを買いに行く。
こうした行動は、いわば生活の中にある見えない自動ドアです。場面が近づくと、行動のほうが「どうぞこちらへ」と開いてしまう。人間は思っているより、毎日たくさんの自動ドアをくぐって暮らしています。
だから新しいことを続けたいなら、「毎日がんばるぞ」と決意するより、「この場面になったら、これをする」と決めるほうが強いのです。
たとえば読書を続けたいなら、「時間ができたら本を読む」では少し弱い。時間という生き物は、気づくとどこかへ逃げます。そこで、「夜、歯を磨いたら、ベッドで本を二ページ読む」と決める。運動なら、「帰宅したらすぐ運動着に着替える」。水を飲むなら、「昼食の席に座ったら、まずコップ一杯飲む」。
ポイントは、行動を小さくすることです。
人はつい、未来の自分に大きな仕事を押しつけがちです。
「毎朝五キロ走る」
「毎日一時間勉強する」
「一日一冊読む」
未来の自分は、だいたいこちらが思うほど元気ではありません。眠い日もあるし、仕事でへとへとの日もあるし、なぜか靴下が片方見つからない朝もあります。
そんな未来の自分に必要なのは、壮大な決意ではなく、小さな入口です。
「靴を履く」
「机に座る」
「本を一ページ開く」
「体重計に乗る」
ここまでなら、心が少し曇っている日でもできるかもしれません。習慣は、立派な城を一晩で建てる話ではありません。毎日同じ場所に、れんがを一個置く話です。最初は「これ、壁になるの?」と思うほど小さい。でも、気づけば風を防ぐ場所になっている。
そして、ガードナーの考え方がやさしいのは、「やる気」を悪者にしないけれど、やる気に全責任を負わせないところです。
やる気は大切です。最初の一歩を踏み出す火種になります。けれど、やる気は気分屋です。雨の日には休暇を取り、疲れた夜には行方不明になります。そんな人に、毎日ずっと会社を任せるのは少し無茶です。
そこで習慣の出番です。
習慣は、やる気がある日に始めた行動を、やる気が薄い日にも支えてくれる可能性があります。ただし、習慣は万能の魔法ではありません。新しい行動を続ける助けにはなっても、それだけで人生の全部が片づくわけではない。疲れ、環境、人間関係、体調、時間の余裕。人が動けるかどうかには、たくさんの事情が絡みます。
つまり、「習慣化できないから自分はだめだ」という話ではないのです。
むしろ、「今の生活のどこに、続けやすい入口を作れるだろう」と考える話です。
悪い習慣をやめたいときも同じです。自分を怒鳴りつける前に、その行動が始まる舞台を見てみる。
夜食をやめたいなら、帰宅後すぐにお菓子の棚を開ける流れがあるのかもしれません。スマホを見すぎるなら、ベッドに入ってから充電器を手に取る流れがあるのかもしれません。
悪い習慣は、「性格の欠陥」ではなく、場面と行動が仲良くなりすぎた状態とも考えられます。
ならば、引き離す方法もあります。
お菓子を目につかない場所へ移す。
スマホの充電器を寝室の外に置く。
帰宅後に最初にすることを、「冷蔵庫を開ける」から「シャワーを浴びる」に変える。
コンビニの前を通らない帰り道を選ぶ。
人生を変えるというと、巨大なハンマーを振り下ろす話に聞こえます。でも実際には、テーブルの上に置くものを変える、玄関に靴を出しておく、机の引き出しを一段片づける。そんな小さな配置換えのほうが、案外しぶとく効いてきます。
さらに、引っ越し、転職、結婚、子育て、生活時間の変化など、「いつもの流れ」が崩れる時期は、習慣を見直す好機にもなります。慣れた道が一度消えると、人は少し立ち止まって選び直せるようになるからです。生活が変わる時期は大変ですが、古い自動ドアの位置を変えるチャンスでもあります。
ガードナーの研究は、私たちにこう教えてくれます。
続けるとは、毎日すごい人になることではない。
同じ場面に、小さな行動を置き続けることだ。
そして、できなかった日があっても、そこで物語を終わらせなくていい。昨日できなかったからといって、今日の一ページまで破られるわけではありません。
次の朝。
次の昼休み。
次に帰宅したとき。
また同じ場面が来たら、小さな行動を置き直せばいいのです。
人生を劇的に変えるのは、派手な宣言より、「この場面になったら、これをする」という静かな約束なのかもしれません。

ベンジャミン・ガードナー(Benjamin Gardner)の論文一覧
1.『健康を「考えなくても続く習慣」にする――習慣形成の心理学と、日常診療でできること』ベンジャミン・ガードナー、フィリッパ・ラリー、ジェーン・ウォードル(2012)
Gardner, B., Lally, P., & Wardle, J. (2012). Making health habitual: the psychology of ‘habit-formation’ and general practice. British Journal of General Practice, 62(605), 664–666.
DOI:10.3399/bjgp12X659466
「健康のために歩こう!」と誓った翌日、靴は玄関で待機、本人はソファで熟成。そんな人類に本論文は朗報です。習慣は気合いの長距離走ではなく、「朝食のあとに水を飲む」のように、同じ場面で小さな行動をくり返すことで育つもの。巷の「21日で完成」説にも待ったをかけ、目安は平均66日ほど。しかも、1日できなくても即・習慣破産ではありません。三日坊主の名誉回復に、白衣で挑んだ“続ける仕組み”の処方箋です。

