自己理解・自己肯定感

【論文要約】自己肯定感はあとから育て直せるのか? 逆境を経験した若者を支えたSELFIE試験

自己肯定感をあとから育て直せすために昼寝をしている女性
adler-nap

傷ついた自己肯定感は、もう一度育てなおせるのか?

『傷ついた過去を抱える若者の「自分を大切にする力」は育てられるのか-日常に寄り添うSELFIE試験』ウルリッヒ・ライニングハウス他(2024)

Reininghaus, U., Daemen, M., Postma, M. R., Schick, A., Hoes-van der Meulen, I., Volbragt, N., Nieman, D., Delespaul, P., de Haan, L., van der Pluijm, M., Breedvelt, J. J. F., van der Gaag, M., Lindauer, R., Boehnke, J. R., Viechtbauer, W., van den Berg, D., Bockting, C., & van Amelsvoort, T. (2024). Transdiagnostic Ecological Momentary Intervention for Improving Self-Esteem in Youth Exposed to Childhood Adversity: The SELFIE Randomized Clinical Trial. JAMA Psychiatry, 81(3), 227-239. DOI: 10.1001/jamapsychiatry.2023.4590

「自己肯定感を高めましょう」と言われることはあっても、いやいや、そんなに簡単に上がるなら苦労しませんよね、と思ってしまうことがあります。とくに、子どものころにしんどい経験をしてきた人にとっては、「自分を大事に思うこと」そのものが、どこか遠い話に感じられることもあります。心の土台がぐらついているのに、「前向きにいこう」とだけ言われても、足元がふわふわしたままでは進みにくいものです。

では、そんな傷ついた自己肯定感は、もう戻らないのでしょうか。いったん削られてしまった「自分を信じる力」は、あとから少しずつでも育てなおすことができるのでしょうか。今回紹介する論文は、まさにその問いに、かなり本気で向き合った研究です。

しかも面白いのは、特別な場所で特別なことをする支援ではなく、もっと日常に近いところから心を支えようとしている点です。人生をいきなり丸ごと変える、というより、「今日の自分との付き合い方」を少しずつ整えていく。そんな、派手ではないけれどじわじわ効いてくる支援が、本当に若者の自己肯定感に役立つのかを調べています。

「自分を好きになれないのは、自分が弱いからだ」と思ってしまう人は少なくありません。でも、この論文を読むと、その見方が少し変わるかもしれません。自己肯定感の問題は、気合いや根性だけの話ではなく、ちゃんと支援し、育てていけるテーマなのではないか。そんな希望の小さな灯りが、この研究にはあります。

阿部牧歌(管理人)
阿部牧歌(管理人)

この論文をひとことで言うと

「子ども時代のつらい経験で傷ついた自己肯定感も、日常の中での小さな心理支援を積み重ねることで、ちゃんと立て直していけるかもしれない。そんな希望を、きちんと試してみた研究です。」

阿部牧歌(管理人)
阿部牧歌(管理人)

この論文の要点

1. 自己肯定感の低さは、「その人の性格だから」で片づけてよい話ではない

この論文では、子ども時代の逆境を経験した若者の低い自己肯定感に注目しています。つまり、「自分に自信がないのは、ただ気が弱いから」とか「もともとの性格でしょう」で終わらせるのではなく、過去のつらい体験が心の土台に影を落としている可能性をちゃんと見ています。ここがまず大事です。自己肯定感の問題は、本人の根性不足を責める話ではなく、支援の対象として考えられるテーマなのです。

2. 心は「たまに元気になる」だけでなく、日常の関わり方しだいで少しずつ変わっていく

この研究で試されたSELFIEは、若者に合わせた、日常生活の中で使える支援です。特別な日にだけ気合いを入れるというより、「今日の気分」「その場の考え方」「自分への見方」に少しずつ働きかけていく形ですね。すると、介入後だけでなく6か月後にも自己肯定感の改善がみられました。心って、体育館みたいに一発で建て替えるものではなく、毎日すこしずつ補修していくものなのかもしれません。

3. 自己肯定感を支えることは、気分や生活のしんどさ全体にもつながっていく

この論文のおもしろいところは、「自己肯定感だけ上がりました」で終わっていない点です。効果の大きさは小さいものから中くらいではあるものの、全体的な精神症状や生活の質など、ほかの面にもよい変化のサインが見られました。つまり、「自分をどう見るか」が少し変わると、心の景色ぜんたいも少し変わってくる可能性があるわけです。日常生活や人間関係を考えるうえでも、かなり示唆のある知見です。

阿部牧歌(管理人)
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研究の背景:なぜ子ども時代の逆境は、若者の自己肯定感に長く影を落とすのか

自己肯定感が低い若者について語るとき、つい「もともとの性格なのかな」とか「考え方のクセの問題かも」と片づけてしまいがちです。でも実際には、子ども時代のつらい経験が、その後の心の土台に長く影響することが知られています。つまり、「自信がない」の後ろには、ただの気分や性格では済まない背景がひそんでいることがあるわけです。

ただ、ここでひとつ困ったことがあります。では、そうした若者の自己肯定感を、いったいどう支えればよいのか。ここが、まだはっきりしきれていなかったところでした。カウンセリングや心理支援の研究はたくさんありますが、「子ども時代の逆境を経験した若者」にしぼって、しかも「自己肯定感そのもの」を日常の中でどう改善できるかを、きちんと確かめた研究は多くありませんでした。

しかも、心の支援というのは、診察室の中だけで完結するとは限りません。むしろ本当にしんどいのは、学校や家、バイト先やひとりの時間など、毎日の生活のほうだったりします。にもかかわらず、これまでの研究では、「その場その場の気分や考え方に寄り添いながら、日常の流れの中で自己肯定感を支える方法」がどれくらい効果をもつのか、十分にはわかっていませんでした。

そこでこの論文は、子ども時代の逆境を経験した若者に対して、日常生活に入り込むかたちの心理支援を行ったら、自己肯定感は本当に改善するのかを調べました。言ってしまえば、「自己肯定感って、励ましの言葉だけでどうにかなるの?」ではなく、「毎日の中で少しずつ支えたら、ちゃんと変わるの?」を本気で確かめにいった研究です。ここが、この論文の出発点です。

阿部牧歌(管理人)
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研究方法:自己肯定感を高める心理支援は本当に効くのか? SELFIE試験の調べ方

この研究は、ひとことで言えば、「自己肯定感が低く、子ども時代につらい経験をしてきた若者に対して、日常の中で使える心理支援を行ったら、本当に効果はあるのか?」を確かめたものです。オランダで行われたランダム化比較試験で、12歳から26歳までの若者が対象になりました。参加者は、低い自己肯定感があり、子ども時代の逆境を経験している人たちです。

やり方はとてもシンプルで、参加した若者を2つのグループに分けました。ひとつは、ふだん受けている支援に加えて、SELFIEという新しい心理支援も受けるグループ。もうひとつは、ふだんどおりの支援だけを受けるグループです。こうして比べることで、「SELFIEを足したぶん、本当に違いが出るのか」を見やすくしたわけです。参加者は50対50でランダムに振り分けられました。

SELFIEの中身も、いかにも“研究室の中だけの特別メニュー”という感じではありません。6週間のあいだに、対面またはオンラインの面談が3回、メールでのやりとりが3回、さらにスマホのアプリを使った日常的なサポートが組み合わされていました。つまり、「はい、今日は元気ですか」で終わるのではなく、毎日の生活の流れの中で、自分の考え方や気分に少しずつ働きかけていく形です。

そして研究チームは、その結果を支援のあと6か月後にたしかめました。いちばん大事に見たのは、自己肯定感がどう変わったかです。あわせて、その場その場の気分、自分への見方、心の不調、生活の質なども見て、「自己肯定感だけがちょこっと動いた」のか、それとも心全体に変化が広がるのかを調べました。

要するにこの研究は、若者の自己肯定感を、日常に寄り添う支援で本当に立て直せるのかを、ちゃんと比べて確かめた試みです。気合いで何とかする話ではなく、方法を用意して、比べて、測ってみた。そこがこの研究の大事なところです。

阿部牧歌(管理人)
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この研究でわかったこと:子ども時代の逆境を経験した若者の自己肯定感は、本当に改善したのか

結論から言うと、この研究では、SELFIEという支援を受けた若者たちは、ふだんの支援だけを受けた若者たちと比べて、自己肯定感がよりよく改善していました。しかもそれは、「終わった直後だけちょっと元気でした」という話ではなく、介入後にも6か月後にも効果が見られたのが大きなポイントです。つまり、「その場しのぎの励まし」ではなく、少し先まで届く変化が出ていたわけです。

ここで少し意外なのは、自己肯定感というものが、もっと“性格の芯”みたいな、そう簡単には動かなそうなものとして扱われがちなことです。ところがこの研究では、日常の中での小さな支援を積み重ねることで、その自己肯定感がちゃんと動いていました。心って、巨大なハンマーで一発改築するものではなく、毎日の小さな手入れで、思った以上に空気が変わるのかもしれません。これはなかなか希望のある結果です。

さらに、この研究は「自己肯定感だけ上がりました、はい終わり」という話でもありませんでした。効果の大きさは小さいものから中くらいではあるものの、全体的な精神症状、生活の質、そのほかの副次的な指標にもよい変化のサインが見られました。つまり、「自分をどう見るか」が少し変わると、気分や日常のしんどさ全体にも波紋が広がる可能性がある、ということです。心の中の一か所を整えたら、部屋全体の空気まで少しよくなった、そんな感じに近いかもしれません。

もうひとつ大事なのは、この研究の対象が、もともとしんどさを抱えやすい若者たちだったことです。子ども時代の逆境があると、自己肯定感の低さはかなり根深く見えることがあります。だからこそ、そうした若者たちに対しても改善が見られたという点は重みがあります。「難しそうだから変わらない」ではなく、「難しいからこそ、支援の工夫が大事だった」と読める結果です。

要するにこの研究が教えてくれるのは、傷ついた自己肯定感は、ただ我慢して抱えるしかないものではないということです。しかも、特別な才能がある人だけが回復できるという話でもありません。日常に寄り添う形で、少しずつ支える方法を用意すれば、若者の自己肯定感は実際に変わりうる。そこが、この研究のいちばん大きな発見だったと言えます。

阿部牧歌(管理人)
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ここが面白い:傷ついた自己肯定感は、日常の小さな支えでも変わりうる

この研究のいちばん面白いところは、自己肯定感というものを、もっと“動かしようのない性格”みたいに扱っていないところです。

自己肯定感という言葉を聞くと、なんとなく「高い人は高いし、低い人は低い」「子どものころに決まったら、もうそのまま」というイメージを持ちがちです。なんというか、心の床下に埋め込まれたコンクリートみたいなものとして見てしまうんですね。固まったら最後、もう動かない、みたいな。

でも、この論文はそこに対して、「いや、案外そうでもないかもしれませんよ」と言ってきます。しかも、すごいのは、人生を劇的に変えるような特別な方法を持ち出していないところです。山奥で修行をしたわけでも、急に人格改造ビームを当てたわけでもありません。やっているのは、日常の中で少しずつ、自分の感じ方や受け取り方に働きかけることです。ここがいいんです。派手ではない。でも、じわっと現実的です。

つまりこの研究は、「自己肯定感を上げるには、大きな成功体験が必要だ」とか「まず人生を丸ごと立て直さないと無理だ」といった、ありがちだけどちょっとしんどい発想から、少し離れています。そうではなくて、毎日の中で、自分に向けるまなざしを少しずつ変えていく。その積み重ねが、思ったよりちゃんと意味を持っていた。ここが、読んでいて「へえ」となるところです。

しかも、対象になっているのは、子ども時代に逆境を経験した若者たちです。つまり、「もともとしんどさが深い人たち」です。そういう人たちに対しても、自己肯定感が少しずつ改善していったというのは、なかなか軽く見てはいけない話です。というのも、こういうテーマではつい、「まあ元気な人には効くんでしょうね」と思ってしまうからです。でもこの研究は、もっと難しい場所にいる人たちに向かって、「それでも変化の余地はある」と示している。ここには、静かな希望があります。

あと、個人的にぐっとくるのは、自己肯定感を“気持ちの問題”で片づけていないところです。「もっと自分を好きになろう」「前向きに考えよう」と言うのは簡単ですが、それで何とかなるなら、たぶん多くの人はもう少しラクに生きています。そうではなく、自己肯定感の低さには背景があり、傷ついた経緯があり、だからこそ支え方にも工夫がいる。この論文は、そのあたりをかなり誠実に扱っています。

言いかえると、この研究が面白いのは、自己肯定感を“根性でどうにかするもの”から、“支援できるもの”へと少し見直しているところです。これは地味なようで、実はかなり大きな視点の転換です。心の問題を、ただ本人の努力に返さない。そのかわりに、「環境や支援の工夫で変えられる部分がある」と考える。この見方は、研究としても面白いですし、読んでいるこちらの心にも少しやさしいんですよね。

読後に残るのは、「自己肯定感って、もっと頑固で、もっと手遅れなものだと思っていたけれど、案外そうでもないのかもしれない」という感覚です。大きな奇跡ではなくても、小さな支えが続くことで、人の心の景色は少しずつ変わる。その事実を、ちゃんと研究で見にいったところに、この論文の静かなかっこよさがあります。

阿部牧歌(管理人)
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私たちの生活にどう活かせる?:自己肯定感は、私たちの日常生活の中でどう育て直せるのか

この研究を読んでいて感じるのは、自己肯定感というものが、なにも「生まれつき高い人だけの特権」ではないのかもしれない、ということです。もちろん、長いあいだ傷ついてきた気持ちが、ある日いきなり晴れて「今日から私は自分を愛します!」となるわけではありません。そんな展開、朝ドラでもちょっと急です。けれどこの論文は、自己肯定感は毎日の中で少しずつ整えていけるかもしれないと教えてくれます。

私たちの生活に活かすとしたら、まず大事なのは、「自己肯定感を上げなきゃ」と大きすぎる目標を立てすぎないことです。自己肯定感という言葉は立派ですが、日常でやることはもっと小さくていいのだと思います。たとえば、失敗した日に「やっぱり自分はだめだ」で終わらせるのではなく、「今日はうまくいかなかったけれど、それで自分の全部が決まるわけではない」と一回だけ言い直してみる。これだけでも、自分へのまなざしは少し変わります。心の中の実況中継を、いつもの辛口解説者から、少しだけ人のよい解説者に交代させる感じです。

それから、この研究が示しているのは、心は「気合い」だけで変えるものではない、ということでもあります。なので生活の中でも、「もっと前向きになろう」と自分を追い立てるより、自分が少し落ち着きやすい環境や習慣をつくることのほうが大事だったりします。たとえば、しんどい日は予定を詰め込みすぎない、安心して話せる人と少しつながる、スマホを見てさらに落ち込む時間を減らす、眠る前に今日できたことを一つだけ拾う。こういうことは地味ですが、地味なものほど、案外、毎日には効きます。派手な花火より、台所の灯りのほうが長く役に立つ、あの感じです。

また、人を支える立場の人にとっても、この論文はヒントになります。誰かが「自分なんて」と言っているとき、つい「そんなことないよ」と励ましたくなりますよね。それもやさしさです。でもときには、すぐに大きな言葉で引き上げようとするより、「そう思ってしまうくらい、しんどかったんだね」と受け止めるほうが、その人の自己肯定感にはやさしく届くことがあります。自己肯定感は、立派な演説で育つというより、日々の関わりの中で「ここにいていい」と感じられる時間から、じわじわ育っていくものなのかもしれません。

そして何より、この研究を生活に活かすうえで大切なのは、自己肯定感の低さを、自分の欠陥みたいに思いすぎないことです。自分を好きになれない日があるのは、あなたが弱いからとは限りません。これまでの経験や、今いる環境や、心の疲れ方が影響していることもあります。だとしたら必要なのは、「もっと頑張れ」というムチではなく、「どうしたら少し楽に自分と付き合えるか」を考えることです。自己肯定感は、根性でねじ伏せる相手ではなく、少しずつ関係を結び直していく相手なのだと思います。

この論文は、私たちに「特別な人だけが回復できるわけではない」と教えてくれます。毎日の中で、自分への見方をほんの少しやわらげること。安心できる関わりを少し増やすこと。失敗しても、自分全体を否定しない練習をすること。そういう小さなことの積み重ねが、思っているよりもちゃんと意味を持つ。そこが、この研究を生活に引き寄せたときの、いちばん大事なところだと思います。

阿部牧歌(管理人)
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少し注意したい点:自己肯定感を高める心理支援は、誰にでも同じように効くわけではない

この論文は、とても希望のある研究です。子ども時代に逆境を経験し、自己肯定感が低くなっていた若者に対して、SELFIEという支援が一定の効果を示した。これはたしかに、かなり心強い結果です。けれど、ここで「ではこれで全部解決ですね」と元気よく走り出すのは、少しだけ早いかもしれません。論文を読むときは、拍手しながらも、靴ひもはちゃんと結んでおきたいところです。

まず気をつけたいのは、この研究で効果が見られたとはいえ、それは誰にでも、いつでも、同じように効くとまでは言えないことです。対象になったのは、12歳から26歳までの、子ども時代の逆境経験があり、自己肯定感が低い若者たちでした。つまり、この研究はかなり特定の人たちを見ています。だから、年齢が大きく違う人や、背景がかなり異なる人にもそのまま当てはまるとは、すぐには言えません。研究は道しるべにはなりますが、地図の全部ではありません。

それから、この研究で見つかった効果は「ゼロではなかったし、意味もある」一方で、魔法みたいな大逆転ではありません。報告では、自己肯定感の改善は確認されたものの、効果の大きさは全体として小さいものから中くらいの範囲でした。つまり、「一度受けたら人生がばら色です」という話ではなく、じわじわ効く可能性がある、という読み方のほうが自然です。こういう結果は地味に見えるかもしれませんが、むしろ心の支援としては誠実です。人の心は、テレビのリモコンみたいにワンボタンで切り替わるものではないですからね。

もうひとつ大事なのは、SELFIEが「スマホを使った日常的な支援」と「面談など」を組み合わせた、かなり工夫された介入だったことです。つまり、単純に「スマホアプリを入れれば自己肯定感が上がる」と言っているわけではありません。そこを雑に読むと、論文が急に別物になってしまいます。この研究が見ているのは、ちゃんと設計された支援プログラムの効果であって、スマホそのものの魔力ではありません。スマホは魔法の杖ではなく、あくまで道具です。使い方まで含めて研究されている、というところは忘れたくない点です。

さらに、研究としてはランダム化比較試験で、かなり信頼できる方法がとられていますが、それでも限界が消えるわけではありません。たとえば、実際の支援の現場では、参加者の生活状況、家庭環境、支援への参加しやすさ、継続しやすさなど、いろいろな要素が絡みます。論文ではきれいに比較できても、現実の生活はいつも少しごちゃごちゃしています。むしろ、そのごちゃごちゃの中でどう支援を届けるかが、本当の難しさでもあります。研究結果を希望として受け取りながらも、現場では一人ひとりに合わせた見方が必要だ、ということですね。

だからこの論文は、「自己肯定感は支援できる可能性がある」と読める一方で、「この方法がすべての人に、そのまま万能に当てはまる」とまでは言わないほうがよさそうです。こういう控えめな読み方は、研究の価値を下げるものではありません。むしろ逆です。効いたところをちゃんと喜び、まだ言いきれないところは静かに残しておく。その姿勢があると、論文は“すごい話”ではなく、“信じられる話”になります。甘いだけではなく、ちゃんと小麦の味がする。まさに、そういう読み方が似合う研究だと思います。

阿部牧歌(管理人)
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まとめ:傷ついた自己肯定感は、日常に寄り添う支援で変わりうる

この論文を読み終えてまず残るのは、自己肯定感は、ただの性格の問題として片づけなくていいのかもしれない、という感覚です。子ども時代の逆境を経験した若者にとって、「自分を大事に思えない」というしんどさは、単なる気分の波ではなく、かなり根のあるテーマになりえます。けれどこの研究は、そこに対して「もう手遅れです」とは言いませんでした。むしろ、日常の中で少しずつ支えていくことで、自己肯定感は実際に改善しうることを示しました。SELFIEを受けた若者たちは、通常ケアのみの群と比べて、介入後と6か月後の両方で自己肯定感の改善がみられました。

ここがいいんです。
この研究は、「人生を大きく変えなければ自己肯定感は変わらない」とは言っていません。特別な成功体験を何個も積まないとだめ、とも言っていません。そうではなく、毎日の中で、自分の感じ方や受け取り方に少しずつ働きかけるような支援が意味をもつかもしれない、と教えてくれます。心は、巨大な改装工事より、小さな手入れの積み重ねで空気が変わることがある。そんな、派手ではないけれど現実的な希望が、この論文にはあります。SELFIEは、通常ケアに加えて、若者向けで適応的なEcological Momentary Intervention(患者の日常生活の文脈の中で、スマートフォンなどのモバイル技術を用いて、必要な瞬間にリアルタイムで心理的・行動的なサポートを提供する介入手法)として設計されました。

ただし、この研究は「魔法の答え」を出したわけではありません。効果は意味のあるものですが、誰にでもまったく同じように当てはまるとは限りませんし、心の変化が一気に起きるという話でもありません。そこは静かに受け止めておきたいところです。でも逆に言えば、だからこそ信じやすい研究でもあります。大げさな奇跡ではなく、現実の中でちゃんと起こりうる変化として示されているからです。論文でも、自己肯定感以外に精神症状や生活の質などにもよい変化のサインが報告されていますが、全体としては慎重に読んだほうがよい結果でもあります。

要するに、この論文が私たちに手渡してくれるのは、自己肯定感は「根性でどうにかするもの」ではなく、「支援の中で少しずつ育て直せるものかもしれない」という見方です。これは、しんどい思いをしている本人にとっても、誰かを支える立場の人にとっても、かなり大きな意味があります。自分を好きになれない日があっても、それで全部が決まるわけではない。少しずつ、自分との付き合い方を変えていく余地はある。そんな静かな希望を、研究というかたちでちゃんと差し出してくれたところに、この論文の価値があるように思います。

阿部牧歌(管理人)
阿部牧歌(管理人)

あとがき

この論文を読んでいて、なんだか少しほっとしました。
自己肯定感という言葉って、よく見かけるわりに、当事者からするとけっこう手ごわいんですよね。「自己肯定感を高めましょう」と言われても、いや、その“高めましょう”がいちばん難しいんですが、という気持ちになることがあります。筋トレなら回数が見えますし、料理ならレシピがあります。でも自己肯定感は、見えないし、触れないし、しかも調子が悪い日はどこに落としたのかもわからない。だいぶ気まぐれな同居人です。

だからこの論文がよかったのは、自己肯定感を「その人の性格だからね」で片づけずに、しかも「気合いで何とかしよう」みたいな話にもしていなかったところです。そこがとても誠実だなと思いました。子ども時代の逆境があって、自分を大事に思いにくくなっている若者たちに対して、日常の中で少しずつ支える方法を考えている。派手さはないけれど、こういう研究のほうが、実は人の心の近くにいる気がします。論文なのに、妙に手ざわりがあるんです。

個人的には、「自己肯定感って、もっと動かないものだと思っていたなあ」という感想が残りました。なんとなく、自己肯定感というのは幼いころにだいたい決まって、そのあとずっと心の地下に埋まっているコンクリートみたいなものだと思っていたんです。固まったらもう終わり、みたいな。でもこの研究は、そこに対して「いや、案外そうでもないかもしれませんよ」と言ってくれる。しかも、大きな奇跡ではなく、毎日の支えの積み重ねで変化が起こりうる、と示してくれる。この“派手じゃない希望”が、私はかなり好きでした。

希望というと、どうしてもキラキラしたものを想像しがちですが、本当にしんどい人に必要なのは、たぶんそういうまぶしい光ではないんですよね。むしろ、夜中に足元を照らしてくれる小さな灯りみたいなもののほうが役に立つ。この論文のよさは、まさにその小さな灯り感にある気がします。「あなたは明日から生まれ変われます」とは言わない。でも、「今のあなたのままでも、少しずつ変わっていける余地はある」とは言ってくれる。こういう言い方のほうが、私はずっと信じやすいです。

それに、この研究は支援する側にとっても、やさしい視点をくれる気がしました。誰かが自分を嫌いになっているとき、つい「そんなことないよ」と励ましたくなる。でも、本当に必要なのは、もっと静かな関わりなのかもしれません。すぐに大きな言葉で引っ張り上げるのではなく、その人が少しずつ自分との関係を結び直していけるような時間や支えをつくること。そう考えると、支援って、正しい言葉を当てることより、安心できる場を用意することのほうが大事なのかもしれませんね。

「アドラーの昼寝」は、心理学の論文を、なるべく人の暮らしの近くまで連れてきたいと思って作っているサイトです。研究室の中の知見を、机の上だけで終わらせず、台所や通勤や、眠れない夜の枕元まで運んでいきたい。そんな気持ちがあります。この論文は、まさにその橋をかけやすい研究でした。自己肯定感という、ふわっとしていて、でも実はかなり切実なテーマに対して、「ちゃんと支援できるかもしれない」と研究が応えている。その感じが、なんだかうれしかったんです。

読んだあとに残るのは、「自分を好きになれない日があっても、それで全部が終わるわけじゃないのかもしれない」という静かな感覚です。これは派手な結論ではありません。でも、こういう静かな結論こそ、長く人の中に残るのだと思います。自己肯定感は、根性でねじ伏せる敵ではなく、少しずつ付き合い直していく相手なのかもしれない。そんなことを考えながら、私はこの論文を閉じました。なんというか、読み終えたあと、心の中に小さな毛布が一枚増えたような感じがしました。

阿部牧歌(管理人)
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制作ノート

出典論文:Reininghaus, U., Daemen, M., Postma, M. R., Schick, A., Hoes-van der Meulen, I., Volbragt, N., Nieman, D., Delespaul, P., de Haan, L., van der Pluijm, M., Breedvelt, J. J. F., van der Gaag, M., Lindauer, R., Boehnke, J. R., Viechtbauer, W., van den Berg, D., Bockting, C., & van Amelsvoort, T. (2024).
Transdiagnostic Ecological Momentary Intervention for Improving Self-Esteem in Youth Exposed to Childhood Adversity: The SELFIE Randomized Clinical Trial.
JAMA Psychiatry, 81(3), 227–239.
DOI:10.1001/jamapsychiatry.2023.4590

掲載・確認先PubMed / JAMA Psychiatry / Google Scholar

記事について:本記事は、上記論文の内容をもとに、一般の読者向けに要約・解説したものです。原文の趣旨を尊重しつつ、読みやすさを重視して再構成しています。

制作体制:本記事は、GPT-5.4 Thinking を用いて下書きを作成したうえで、当サイト管理人・阿部牧歌が内容を確認し、表現や流れを整えながら仕上げています。機械の速さと、人の目と感覚の両方を生かしながら、読みやすく信頼できる記事づくりを目指しています。

阿部牧歌(管理人)
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