時間に追われるとアイデアは出にくくなる?177人を追った研究

時間に追われるとアイデアは出にくくなる?177人を追った研究
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「締め切り直前ほど頭が冴える」は、本当なのでしょうか?

『時間に追われると、ひらめきは消えるのか?:組織における時間的プレッシャーと創造性を追った縦断的フィールド研究』テレサ・M・アマビール、ジェニファー・S・ミューラー、ウィリアム・B・シンプソン、コンスタンス・N・ハドリー、スティーブン・J・クレイマー、リー・フレミング(2002)

Amabile, T. M., Mueller, J. S., Simpson, W. B., Hadley, C. N., Kramer, S. J., & Fleming, L.(2002). Time Pressure and Creativity in Organizations: A Longitudinal Field Study. Harvard Business School Working Paper, No. 02-073. DOI:なし

「締め切りが近づくと、逆に集中できるんですよね」

こういう話、けっこう聞きます。

たしかにありますよね。
締め切りまであと3日あるときには、なぜか机の上を片づけ始めるのに、残り3時間になると急に目が据わってくる。

「今の自分、ちょっと仕事できる人っぽいぞ」

そんな謎の覚醒状態です。

メールを返し、資料を開き、コーヒーを入れ、時計をちらちら見ながら、

「追い込まれたほうが、人間って本気を出せるのかもしれない」

なんて思ったりします。

でも、ここでひとつ気になることがあります。

仕事を早く進められることと、いいアイデアが生まれることは、同じなのでしょうか?

ここ、似ているようで、実は少し違います。

急いでいると、作業そのものは進むことがあります。

「とにかく終わらせなければ」

という力が働くからです。

けれど、創造性というのは少し気難しいところがあります。

新しい案を思いついたり、別の角度から考えたり、

「そうか、こうすればいいのか」

という発想を生み出したりするには、目の前の仕事を一直線に片づけるだけでは足りないことがあります。

頭の中を少し歩き回る余白も必要です。

ところが時間に追われていると、その余白に時計が入ってきます。

「あと30分です」

「あと20分です」

「ちなみに上司が待っています」

はい、アイデア会議に時計まで参加してきました。

しかもこの時計、発言力が強い。

忙しいとき、頭の中では何が起きているのか

時間に追われているとき、私たちの注意はどうしても狭くなりやすくなります。

「まずこれを終わらせる」
「間に合わせる」
「ミスしない」
「怒られない」

頭の中が、いわば非常口モードになるわけです。

これは悪いことではありません。

火事のときに、

「ところで、この建物の内装について自由に発想してみよう」

とはなりませんからね。

急ぐ必要がある場面では、余計なことを考えず、目の前の課題に集中する力はとても大切です。

ただし創造的な仕事では、少し話が変わってきます。

創造性には、

「いったん別のことを考える」
「関係なさそうなものを結びつける」
「失敗するかもしれない案も試してみる」

といった、ある意味では“寄り道する力”も必要だからです。

そして、この寄り道と時間的プレッシャーの関係を実際の職場で調べたのが、テレサ・M・アマビールたちの研究です。

研究者たちは、

「時間に追われると、人は本当に創造的になるのだろうか?」

という問いを、机の上だけで考えたわけではありません。

実際に働いている人たちの日々を追いかけました。

今日はどのくらい時間に追われていたのか。
その日はどんな仕事をしていたのか。
創造的な考え方がどのくらい出ていたのか。

そんな日常の積み重ねを見ていったのです。

つまり、

「締め切り前の私は妙に冴えている気がする」

という私たちの体感と、

「実際のところ、創造的な思考はどうなっているのか」

を比べてみた研究とも言えます。

これがなかなか面白い。

人間、自分では「今日はノッていた」と思っていても、頭の中では別のことが起きている場合があります。

脳というもの、けっこう自己評価が自由です。

「忙しいほうがアイデアが出る」は、本当に正しい?

仕事の世界では、ときどき忙しさが美徳のように扱われます。

予定表が真っ黒。

会議から会議へ移動。

昼ごはんを食べながらメール返信。

そして午後には、

「今日は充実しているなあ」

とつぶやく。

いや、もしかすると単に予定表が満員なだけかもしれません。

もちろん、忙しいこと自体が悪いわけではありません。

締め切りも必要です。

時間制限があるからこそ、仕事が前へ進むこともあります。

問題は、

「時間をかければ創造的になる」でも、「追い込めば創造的になる」でもない

ということです。

大切なのは、時間的プレッシャーが私たちの考え方にどんな影響を与えるのかを知ることです。

そこがわかれば、

「アイデアが必要な仕事なのに、なぜか何も浮かばない」

というとき、

「自分には才能がないのかも」

とすぐに自分を責めなくてもよくなるかもしれません。

ひょっとすると、能力の問題ではなく、

頭の中に、考えるための空き地がなくなっているだけ

かもしれないからです。

創造性というと、特別な才能を持った人だけの話に聞こえます。

でも実際には、私たちは日常的に創造性を使っています。

会議で新しい案を出す。

文章を書く。

お客さんへの伝え方を工夫する。

仕事の手順を改善する。

人間関係の問題に、いつもとは違う方法で向き合う。

これらも全部、小さな創造性です。

だからこの研究は、デザイナーや芸術家だけの話ではありません。

仕事をしている多くの人に関係があります。

「最近、忙しすぎて頭が回らないな」

「前よりアイデアが浮かばなくなった気がする」

そんなときに、この研究は少し意外な角度からヒントをくれます。

さて。

締め切りが迫れば迫るほど、人間の頭は本当に冴えていくのでしょうか。

それとも、

時計に追いかけられているあいだ、ひらめきは少し離れた場所でこちらを見ているのでしょうか。

ここから、アマビールたちの研究を一緒に見ていきましょう。

阿部牧歌(管理人)
阿部牧歌(管理人)

この論文をひとことで言うと

この論文をひとことで言うなら、

「時間に追われすぎると、仕事は進んでも、ひらめきまで元気になるとは限らない」

という研究です。

ちょっと意外ですよね。

私たちはつい、

「締め切りがあるから集中できる」
「追い込まれたほうが本気が出る」
「時間がないときのほうが、頭が高速回転する」

と思いがちです。

たしかに、締め切りには人を動かす力があります。

提出が来月なら、

「まあ、明日の自分がなんとかするでしょう」

となりやすいのに、提出が今日の17時となった瞬間、

「全軍、配置につけ!」

みたいな勢いで脳内会議が始まります。

メールを返す。
資料を仕上げる。
不要なタブを閉じる。
なぜか急に集中力まで帰宅してくる。

締め切り、恐るべしです。

でも、アマビールたちが注目したのは、**「仕事が進んだかどうか」ではなく、「創造的な考え方が生まれていたかどうか」**でした。

ここが、この論文の大事なところです。

「速くできる」と「新しく考えられる」は別の話

たとえば、100枚の書類を今日中に整理してくださいと言われたとします。

時間が迫ってくれば、

「よし、とにかく終わらせよう」

と集中できます。

こういう仕事では、ある程度の時間的プレッシャーが役立つ場面もあるでしょう。

ところが、

「この商品の新しい売り方を考えてください」

「今までとは違う企画を考えてください」

「この問題を別の方法で解決してください」

となると、少し事情が違います。

創造的に考えるためには、

「これとこれを組み合わせたらどうだろう」

「そもそも前提を変えたら?」

「一回、変な案も出してみよう」

という、頭の中の寄り道が必要になります。

ところが時間に追われていると、

「寄り道禁止!」

という看板が脳内に立ちやすくなります。

最短距離。

安全策。

いつもの方法。

とにかく間に合わせる。

もちろん、それで助かる場面もあります。

でも、新しいアイデアというものは、だいたい最短距離の道路脇ではなく、ちょっと横道に入ったところに落ちていたりします。

177人の日常を追いかけて見えてきたこと

この研究が面白いのは、実験室で数十分だけ人を座らせて調べた研究ではないところです。

研究者たちは、実際に創造性が求められる仕事をしている人たちの日々を追いました。

「今日はどのくらい時間に追われていたか」

「その日はどんな出来事があったか」

「創造的な思考につながる行動や考え方が見られたか」

そうした日々の記録を積み重ねていったのです。

そこで見えてきたのが、

時間的プレッシャーが強い日ほど、創造的な思考が起こりにくい傾向がある

という関係でした。

しかも興味深いのは、その影響がその日だけで終わらない可能性まで示されたことです。

つまり、

「今日は忙しかったけど、明日になれば脳内は新品です」

とは限らない。

頭の中にも、どうやら残業疲れのようなものがあるらしい。

これは働く人にとって、なかなか考えさせられる話です。

「もっと急いで!」でアイデアまで増えるとは限らない

会社では、成果を出してほしいときほど、

「急いでください」
「期限を短くしましょう」
「もっとスピード感を持って」

という言葉が飛び交います。

もちろん、期限は必要です。

いつまでも、

「いいアイデアが降りてくるまで待ちます」

と言われても、会社としては困ります。

しかし、この研究が教えてくれるのは、

スピードを上げることと、創造性を上げることを同じものとして扱わないほうがいい

ということです。

時間を短くすれば作業量が増えることはあっても、それだけで新しい発想まで増えるとは限りません。

むしろ、考える余白がなくなれば、

「前にもこれでやったから、今回もこれで」

という思考になりやすくなるかもしれない。

これ、仕事だけではありません。

料理でもそうです。

冷蔵庫を開けて、

「20分で夕食を作らなければ」

となれば、いつもの炒め物に着地しやすい。

でも休日に、

「この白菜、カレーに入れたらどうなるんだろう」

なんて遊び始めると、新しい料理が生まれることがあります。

成功するかどうかは別です。

家族から静かな視線を受ける可能性もあります。

でも、その「試してみよう」という余白こそが創造性です。

この論文の核心は、「忙しい人は能力が低い」ではない

ここは、とても大切です。

この研究を読んで、

「忙しい人は創造性がない」

と受け取るのは違います。

そうではありません。

むしろ逆で、

本来なら十分にアイデアを出せる人でも、時間に追われ続ける環境では、その力を発揮しにくくなる可能性がある

という話です。

これは少し救いでもあります。

もし最近、

「前ほどアイデアが出ないな」
「頭が固くなった気がする」
「仕事で新しいことを考えられない」

と感じていたとしても、

すぐに、

「自分は創造性のない人間なんだ」

と結論を出す必要はありません。

もしかしたら、あなたの頭が悪いのではなく、

あなたの頭の中に、座る椅子が一脚も残っていないほど予定が詰まっているだけ

かもしれません。

創造性には、能力だけではなく環境も関係する。

この視点を持つだけでも、仕事の見え方は少し変わってきます。

この論文は、そんなことを教えてくれる研究です。

時計を捨てましょう、という話ではありません。

締め切りを全部なくしましょう、という話でもありません。

そうではなく、

「急がせれば急がせるほど、いいアイデアも出るだろう」という素朴な思い込みには、少し待ったをかけたほうがいい。

アマビールたちは、そんな静かな警告を、実際の職場の日々から拾い上げたのです。

阿部牧歌(管理人)
阿部牧歌(管理人)

この論文の要点

この論文の要点は、まずこの3つです。

1. 時間に追われるほど、創造的な考え方は出にくくなる傾向があった

「締め切りが近いほうが、頭が冴える気がする」

そんな感覚はたしかにあります。

ところがこの研究では、時間的なプレッシャーが強かった日ほど、新しい発想につながるような創造的な思考が少ない傾向が見られました。

つまり、

「急げば急ぐほど、ひらめきも加速する」

とは限らないということです。

仕事のスピードメーターを上げたら、アイデアのメーターまで一緒に上がると思いきや、どうやら別々の計器らしい。

創造的に考えるには、目の前の仕事をこなすだけでなく、

「別の方法はないかな」
「この案とあの案を組み合わせたら?」
「ちょっと試してみよう」

と考える余白も必要です。

時間に追われると、その余白が削られてしまう可能性があるわけです。

2. 忙しさの影響は、その日だけで終わらない可能性がある

この研究でもうひとつ興味深いのが、時間的プレッシャーと創造的思考の関係が、翌日やその次の日にも残る可能性が示されたことです。

つまり、

「今日は修羅場だったけど、明日の朝になれば脳は新品」

とは限りません。

パソコンなら再起動できますが、人間は電源ボタンを長押ししても初期化されません。

忙しい一日を終えたあとも、頭の中ではしばらく「急げ急げモード」が続いているのかもしれません。

これは、創造的な仕事をするうえでかなり重要なポイントです。

企画、文章、研究、開発、問題解決など、

「考えることそのもの」が仕事になっている場合、

今日の予定を詰め込みすぎた影響が、明日の発想にもつながっている可能性があります。

だから、

「今日は忙しいから仕方ない」

だけでなく、

忙しさを連日積み重ねることにも注意が必要かもしれない

という視点が出てきます。

3. 「忙しいほうが自分は冴えている」という感覚と、実際の創造性は同じとは限らない

ここが、この論文のなかなか人間くさいところです。

私たちは忙しい日に、

「今日はめちゃくちゃ集中した」
「ものすごく仕事をした」
「頭がフル回転だった」

と感じることがあります。

実際、それは間違いではないでしょう。

ただし、

忙しかったことと、創造的だったことは別問題です。

たくさん処理した。

速く判断した。

締め切りに間に合わせた。

それらは立派な成果です。

でも、

「新しい考え方ができたか」
「今までになかった組み合わせを見つけたか」

となると、話は別です。

忙しさは、達成感を生みやすい一方で、創造性まで増やしてくれるとは限りません。

ここがこの研究のいちばん面白いところかもしれません。

私たちはつい、

「忙しい=働いている=頭がよく動いている=いいアイデアも出ている」

と一本の線でつないでしまいます。

でも実際には、

「処理する力」と「ひらめく力」は、同じ財布から出てくるお金ではない。

そんなふうに考えたほうがよさそうです。

この論文を3つにまとめるなら、

時間に追われすぎると創造的な思考は出にくくなり、その影響が翌日以降にも残る可能性があり、しかも本人の「冴えている感覚」と実際の創造性は必ずしも一致しない。

ということになります。

なんとも耳の痛い話です。

でも同時に、

「最近アイデアが出ないのは、自分の才能が枯れたからではなく、単に時計に追い回されすぎているのかもしれない」

と考えられる研究でもあります。

そう思うと、少しだけ肩の力が抜けます。

ひらめきというもの、どうやら根性論よりも、ちゃんと座れる余白のある場所を好むようです。

阿部牧歌(管理人)
阿部牧歌(管理人)

研究の背景:時間に追われるほど仕事ははかどる?「締め切りと創造性」の意外な問題

仕事をしていると、よくこんな場面があります。

「この企画、今日中にお願いします」

はい、来ました。

“今日中”という、時計の針に小さな牙が生える言葉です。

時間に余裕があるときには、

「もう少し違う角度から考えてみようかな」

なんて言っていたのに、締め切りが迫った途端、

「前回の資料をちょっと変えて……よし!」

となる。

これは別に怠けているわけではありません。

時間がなくなれば、人はまず「間に合わせること」を優先するからです。

ところが、アマビールたちがこの研究を始めた2000年代初頭、仕事の世界ではちょっと困った二つの流れが同時に起きていました。

ひとつは、「時間が足りない」と感じながら働く人が増えていたこと。

もうひとつは、企業が以前にも増して、

「新しいアイデアを出してください」
「これまでにない方法を考えてください」
「もっと創造的に仕事をしてください」

と求めるようになっていたことです。

論文の冒頭でも、研究者たちはこの二つを並べて、

「時間に追われる働き方と、創造的な仕事って、もしかして相性が悪いのでは?」

という疑問を投げかけています。

考えてみれば、なかなか不思議な話です。

会社から、

「急いでください!」

と言われた直後に、

「でも、斬新なアイデアをお願いします!」

とも言われる。

脳としては、

「どっちなんです?」

と聞きたくなります。

「時間制限は人を強くする説」と「いや、頭が固まる説」

ここで当時、何がまだよくわかっていなかったのか。

実は、時間的プレッシャーが仕事の質にとって良いのか悪いのか、研究結果がきれいにそろっていなかったのです。

それまでの研究では、時間制限があると、人が作業を速く進めたり、多くの仕事をこなしたりすることは比較的よく示されていました。

ところが、

「では、仕事の質は上がるの?」

となると話がややこしい。

良くなるという研究もあれば、悪くなるという研究もある。

ほどほどのプレッシャーが一番よいという研究もあれば、特に関係がないという結果までありました。

研究界、意見が渋滞しています。

つまり、

「締め切りは人を集中させる」

という話と、

「締め切りは考える余裕を奪う」

という話が、どちらもあり得そうだったのです。

しかも、それまでの研究の多くは、比較的わかりやすい課題を扱っていました。

決められた作業を速くこなす。

正しい答えを出す。

一定の課題を終える。

こういう仕事なら、

「時間がありません!」

と言われたことで集中力が上がることもあるでしょう。

でも、創造性が必要な仕事は少し違います。

正解が最初から決まっていません。

「もっと良い方法はないかな」
「この二つを組み合わせたら?」
「そもそも、この問題の見方を変えたら?」

と、頭の中をあちこち歩き回る必要があります。

創造性研究では、こうした開かれた課題に対して、新しく、しかも役に立つ答えを生み出すことが重要になります。

つまり、

「速く走れる人は、いい景色も見つけられるのか?」

という話なのです。

全力疾走していると、目的地には早く着けます。

でも道端に咲いている花や、

「あれ、この横道ちょっと面白そうだな」

という発見は、見落としやすくなるかもしれません。

創造的な思考も、それに少し似ています。

そもそも、創造性について直接調べた研究が少なかった

さらに大きな問題がありました。

時間的プレッシャーと創造性を直接調べた研究そのものが、まだそれほど多くなかったのです。

アマビールたちが論文を書いた時点で、彼らが確認できた先行研究はごく限られていました。

しかも結果は完全には一致していません。

時間が短いグループのほうが創造性の評価が低かった研究もありました。

職場で時間的プレッシャーが強いほど、アイデアの創造性が低い傾向を示した研究もありました。

その一方で、時間的プレッシャーと革新的な仕事との間にプラスの関係を示した研究もありました。

要するに、

「だいたい悪そうだけど、まだ判決を出すには証拠が少ない」

という状態です。

ここでアマビールたちは、さらに一歩踏み込みます。

これまでの研究は、

「最終的にどんな成果物ができたか」

を見ることが多かった。

でも、それだけでは、

人の頭の中で何が起きていたのかがわからない。

たとえば、完成した企画書を見て、

「これは創造的ですね」

と評価することはできます。

でも、その企画書を書いている途中に、

「昨日の会議で聞いた話と、別の部署のアイデアをつなげてみよう」

と考えたのか、

それとも、

「もう時間がないから、去年の企画を使おう」

と考えたのかは、完成品だけでは見えません。

この“頭の中”が、いわば創造性研究のブラックボックスになっていました。研究者たちは、実際の職場で日々起きている創造的な思考そのものを捉えようとしました。

「完成品」ではなく、「ひらめく途中」を見てみよう

ここが、この研究の面白いところです。

アマビールたちは、

「創造的な作品ができましたか?」

だけを調べるのではなく、

その作品が生まれるまでの思考を見よう

と考えました。

問題についてじっくり考える。

情報を集める。

昔の経験を思い出す。

新しい案を生み出す。

思いついた案を試してみる。

こうした一連の過程こそが、創造的な仕事の土台になっているのではないか。

そして、

「時間に追われると、この思考の過程そのものが減ってしまうのでは?」

と考えたわけです。

これはかなり重要な視点です。

なぜなら、

忙しい人が仕事をしていないわけではないからです。

むしろ、忙しい人ほど大量の仕事をしていることがあります。

問題は、

「どれだけ働いたか」

ではなく、

「その働いている時間の中で、どれだけ考え方を広げられたか」

なのです。

パソコンのキーボードを秒速で打っていても、新しいアイデアを考えているとは限りません。

逆に、窓の外を30秒ぼーっと見ている人が、

頭の中ではものすごい発見をしていることもあります。

職場では後者のほうが若干怒られそうですが。

研究者たちが知りたかったのは、「忙しい人はダメなのか」ではない

ここも誤解しないでおきたいところです。

この研究は、

「忙しい人は創造性がない」

と証明しようとしたものではありません。

知りたかったのは、

同じ人でも、時間に追われている日と、そうでない日では、創造的な思考に違いが出るのか

ということです。

性格の問題ではなく、環境の問題。

才能の有無ではなく、その才能を使える状態なのかどうか。

ここに研究の大きな意味があります。

もし創造性が、

「生まれつきアイデアマンかどうか」

だけで決まるのなら、会社ができることはあまりありません。

「創造的な人を採用しましょう」

で終わってしまいます。

でも、

仕事の環境によって、人の創造性が出やすくなったり出にくくなったりする

のであれば、話は変わります。

締め切りの設定。

仕事量。

会議の入れ方。

割り込みの多さ。

一つの仕事に集中できる時間。

そういった職場のつくり方にも、創造性は左右されるかもしれない。

そう考えると、この研究は単なる「時間管理のお話」ではありません。

人は、どんな環境なら本来持っている“考える力”を使えるのか。

そこを探ろうとした研究なのです。

仕事の世界では、

「もっと速く」

という言葉は、とても強い力を持っています。

でもアマビールたちは、その横に小さく、

「ところで、“もっと速く”と“もっと新しく”は、同時にできるのでしょうか?」

と問いを書き加えました。

この素朴な疑問こそが、この研究の出発点だったのです。

阿部牧歌(管理人)
阿部牧歌(管理人)

研究方法:時間に追われる日の創造性をどう測った?177人の職場を追った研究

さて、ここで素朴な疑問が出てきます。

「時間に追われると創造性が下がるかもしれないって、そもそもどうやって調べたの?」

たしかにそうです。

血圧なら機械で測れます。
体温なら体温計があります。

でも創造性には、

「本日のひらめき度、36.8です」

と表示してくれる機械がありません。

頭の上に電球がピカッと点いた回数を数えるわけにもいかない。

そこでアマビールたちは、かなり面白い方法を使いました。

実際に会社で働いている人たちの日常を、毎日少しずつ追いかけたのです。

177人の「普通の仕事の日」を追いかけた

研究に参加したのは、7つの企業で働く177人です。

化学、ハイテク、消費財という3つの業界にある22のプロジェクトチームが対象になりました。

しかも、ただ何でもいい仕事を選んだわけではありません。

研究者たちは、新しいアイデアや問題解決など、創造性が求められるプロジェクトに取り組んでいるチームを選んでいます。

参加期間は人によって違い、5週間から最長30週間。

平均すると約14週間にわたって追跡されました。

つまり、

「今日アンケートを書いてください。はい研究終了です」

ではありません。

月曜日も。

火曜日も。

水曜日も。

「ああ、今日は会議が多かったな」という木曜日も。

「もう金曜日だから許してください」という金曜日も。

働く日々をずっと追っていったわけです。

こういう研究を縦断研究と呼びます。

同じ人を時間をかけて追っていくことで、

「時間に追われている日はどうだった?」
「余裕がある日はどうだった?」

という違いを見やすくなります。

毎日の終わりに「今日はどうでした?」と聞いた

参加者には、月曜日から金曜日まで、仕事が終わるころに電子メールで短い質問票が送られました。

そこで、

「今日はどのくらい時間に追われていましたか?」

といった項目に答えてもらいます。

さらに面白いのが、自由記述です。

その日の仕事について印象に残った出来事や、

「こんなことがあった」
「こんなことを考えた」

という内容を文章で書いてもらいました。

最終的に集まった日々の質問票は、なんと9,134件

177人の仕事の日記が、どっさり積み上がったわけです。

研究者からすると宝の山。

読む側からすると、

「9,134件……担当者のみなさん、本当にお疲れさまでした」

という量です。

日記の中から「ひらめきの足あと」を探した

ここからが、この研究の少し変わったところです。

研究者たちは、

「あなたは今日、創造的でしたか?」

と本人に聞くだけではありませんでした。

なぜなら、人間の自己評価というものは、けっこう自由だからです。

ものすごく忙しい日に、

「今日は頭がフル回転していた!」

と思っていても、

実際には同じ方法を全力で繰り返していただけかもしれません。

そこで、参加者が毎日書いた文章の中から、

アイデアを思いついた
何かに気づいた
新しい発見をした
問題について柔軟に考えた
別の方法を試した

といった、創造的な思考につながる出来事を研究者たちが分類していきました。

いわば、

日記の文章の中から「ひらめきの足あと」を探した

わけです。

「今日は会議がありました」

だけなら、創造的な思考が起きたとは言えません。

一方、

「今日、これまでとは違う方法を思いついた」

と書かれていれば、

「あ、ここにアイデアが通りましたね」

と印をつける。

そんなイメージです。

もちろん研究なので、研究者の気分で、

「これはなんとなく創造的っぽい!」

と判定したわけではありません。

文章を分類するための細かいルールを作り、訓練を受けた複数の評価者が内容を分析しました。

「忙しかった日」と「ひらめいた日」を重ね合わせる

こうして研究者たちは、一人ひとりについて、

その日にどのくらい時間的プレッシャーを感じていたか

と、

その日に創造的な思考が記録されていたか

を比べました。

さらに、

「昨日忙しかったことは、今日の創造性にも関係するのか?」

「一昨日の時間的プレッシャーはどうなのか?」

という時間差まで分析しています。

ここが、この研究の強みです。

177人のAさんとBさんを単純に比べて、

「Aさんは忙しい。Bさんは創造的。だから忙しいとダメ!」

とやったわけではありません。

むしろ、

同じ人の日々の変化を大量に集めて、時間に追われる日と創造的な思考の関係を調べた

研究なのです。

これはかなり現実の仕事に近い調べ方です。

研究室の机に座って、

「5分以内に斬新なレンガの使い方を考えてください」

という実験も大切です。

でも実際の職場では、

上司から連絡が来る。

会議が入る。

電話が鳴る。

予定がずれる。

締め切りが迫る。

そして、その中で企画を考えます。

アマビールたちは、そのごちゃごちゃした現実の仕事の中で、創造性がどう動くのかを見ようとしたわけです。

研究方法をものすごく簡単にまとめるなら、

177人の働く人に毎日の仕事を記録してもらい、「今日はどのくらい時間に追われていたか」と「その日に創造的な思考が起きていたか」を長期間比べた研究

です。

派手な実験装置はありません。

白衣を着た研究者がストップウォッチを持って、

「はい、ひらめいてください!」

と言ったわけでもありません。

その代わりに研究者たちは、実際に働く人たちの何千日分もの記録を集めました。

創造性という、つかまえようとするとスルリと逃げるものを、

毎日の仕事という地面に残された足あとから探していった。

そんな研究方法だったのです。

阿部牧歌(管理人)
阿部牧歌(管理人)

この研究でわかったこと:時間に追われるほど、いいアイデアは出にくくなる?

さて、177人の働く人たちから、9,000件を超える日々の記録を集めたアマビールたち。

そこまで調べて、いったい何が見えてきたのでしょうか。

結論から言うと、この研究では、

時間的なプレッシャーが強い日ほど、創造的な考え方が現れにくい傾向

が見つかりました。しかも、その関係は「忙しかったその日」だけではありませんでした。翌日、さらに2日後まで時間差をつけて分析しても、時間的プレッシャーと創造的な思考との負の関係が確認されています。

ここだけ聞くと、

「まあ、忙しければ考える余裕がなくなるよね」

で終わりそうです。

ところが、細かく見ていくと、なかなか面白い。

人間の「忙しいときの頭の中」は、単純に疲れて停止していたわけではなかったのです。

1. 時間に追われた日は、むしろ長く働いていた

まず研究者たちが確認したのは、

「時間に追われている日に創造的な思考が少ないのは、単に仕事をしている時間が短かったからでは?」

という可能性です。

たとえば忙しすぎて、

「今日は3時間しか働けませんでした」

という人が多かったなら、創造的な出来事が少ないのも当然です。

ところが実際には逆でした。

時間的プレッシャーを強く感じている日ほど、人々はより長い時間働いていました。

これはかなり大切なところです。

つまり、

「忙しいから何もしていなかった」

わけではありません。

むしろ働いている。

いつもより頑張っている。

時間も使っている。

それなのに、創造的な思考は出にくくなっていた。

研究者たちは、働いた時間を統計的に考慮しても、時間的プレッシャーと創造的思考の負の関係が残ることを確認しました。

ここが、この研究の最初の「へえ」です。

忙しいと仕事量は増える。でも、「新しく考えること」まで一緒に増えるとは限らない。

アクセルは踏んでいる。

エンジンも回っている。

でも、走っている道路はいつもの道。

そんな状態が起きているのかもしれません。

たとえば企画書を今日中に仕上げなければならないとき、

「このテーマ、一度まったく逆の視点から考えてみようかな」

なんて寄り道をするより、

「去年のフォーマット、召喚!」

となりやすい。

それは怠けではありません。

間に合わせるためには、とても合理的な行動です。

ただ、新しいものを生み出すという意味では、その合理性が少し裏目に出ることがある。

この研究は、そんな仕事の難しさを映しています。

2. とくに「ものすごく時間に追われている日」は、差が大きかった

さらに研究者たちは、

「時間的プレッシャーは、強くなればなるほど一直線に悪くなるのか?」

も調べています。

その結果、単純な「ほどほどが最高」というきれいな曲線は確認されませんでした。

一方で、7段階評価で最も強い時間的プレッシャーを感じていた状態では、創造的な思考が特に少なくなっていました。

研究者たちの分析では、最高レベルの時間的プレッシャーでは、低いレベルと比べて創造的な思考が起きる確率が大きく落ちていました。論文では、その低下を約45%と報告しています。

もちろん、

「締め切りがあるだけで創造性が45%消えます」

という意味ではありません。

そこまで単純な話ではないですし、この研究は実験ではないため、時間的プレッシャーが直接の原因だと断定することもできません。研究者自身も、その点には注意を促しています。

ただ、

「ちょっと忙しい」と「もう無理、時計がこちらへ走ってくる」は同じではない

ということは見えてきます。

少し期限があることで、

「よし、やろう」

と動ける場面はある。

でも、

「あと20分!」
「そのあと会議!」
「メール8件!」
「電話鳴ってます!」

となったところへ、

「では斬新なアイデアをお願いします」

と言われても、

脳としては、

「今ですか?」

となるわけです。

3. 忙しさの影響は、翌日まで持ち越される可能性があった

そして、この研究でも特に印象的なのがここです。

時間的プレッシャーが強かった日の影響は、その日の創造的思考との関係だけでは終わりませんでした。

1日後、2日後の創造的な思考について分析しても、負の関係が確認されています。

とくに論文では、時間的プレッシャーが1標準偏差高くなると、統計モデル上、翌日に創造的な思考が記録される確率が約19%低くなると報告されています。

これは、なかなか考えさせられます。

私たちはつい、

「今日は修羅場だけど、今日だけだから大丈夫」

と思います。

そして夜になったら、

「はい、本日の忙しさ終了。明日の脳は新品でお願いします」

としたくなる。

残念ながら、人間の頭には日付変更と同時に状態をリセットする機能は搭載されていないようです。

今日ずっと、

「急げ」
「間に合わせろ」
「次、次、次」

と頭を使っていたら、そのモードが明日まで残っている可能性がある。

だから、創造的な仕事を考えるときには、

「その日に何時間空いているか」だけではなく、その前の日までどんな働き方をしていたか

も大切なのかもしれません。

たとえば、

月曜日、締め切り。

火曜日、会議だらけ。

水曜日、

「はい、今日は新商品の斬新な企画を20案お願いします」

となったとき、

水曜日の予定表だけ見れば空いていても、頭の中ではまだ月曜と火曜が荷物を置いて帰っていないかもしれない。

忙しさには、少し「残り香」がある。

そんな可能性を感じさせる結果です。

4. いちばん意外なのは、「やる気」が下がっていたわけではなかったこと

そして私がこの研究で特に面白いと思うのが、ここです。

研究者たちは当初、

「時間に追われると、仕事そのものを面白いと思う気持ちや、内側から湧くやる気が下がる。その結果、創造的な思考も減るのではないか」

と予想していました。

心理学では、これを内発的動機づけと呼びます。

要するに、

「やらされているからではなく、面白いからやる」

という気持ちです。

ところが結果は、予想と逆でした。

時間的プレッシャーが強い日ほど、参加者の内発的動機づけはむしろ高くなっていたのです。

これは面白い。

忙しい。

長く働いている。

「よし、今日やるぞ」という仕事への入り込みも強い。

なのに、創造的な思考は減っている。

つまり、

「やる気満々」と「創造的に考えられている」は、同じではなかった

のです。

ここが、この研究の意外なところではないでしょうか。

忙しい日には、

「今日はめちゃくちゃ仕事したなあ」

という充実感があることがあります。

朝から電話。

昼も会議。

午後から資料。

夕方にはメール。

時計を見る暇もない。

家へ帰るころには、

「いやあ、今日は働いた」

という気持ちになる。

それは本物でしょう。

この研究も、時間的プレッシャーが人を仕事へ強く向かわせる可能性そのものは否定していません。むしろ、人は時間に追われると長く働き、仕事への内発的な動機づけも高くなっていました。

ただし、

仕事に没頭していることと、頭の中で新しい組み合わせを生み出していることは別だった。

ここを混ぜないことが大切です。

頑張っているのに、ひらめかない。その二つは両立する

この結果は、働く私たちにちょっと優しい見方も与えてくれます。

忙しい時期に、

「なんだか最近、いい案が出ないな」

と感じることがあります。

そんなとき、

「自分は頭が固くなったのかな」
「発想力がないんだろうか」
「昔より仕事ができなくなったのかな」

と、自分の能力の問題にしたくなることがあります。

でも、この研究を見ると、別の可能性も考えられます。

能力がなくなったのではなく、その能力を使うための余白がなくなっているだけかもしれない。

一生懸命働いている。

やる気もある。

責任感もある。

それでも、アイデアが出ないことはある。

むしろ、この研究ではそうした状態が同時に起きていました。

ここはとても大事だと思います。

創造性というのは、

「もっと頑張れ」

と言えば、そのまま増えるものではないらしい。

苗を引っ張って、

「早く伸びろ!」

と言っても成長しないのと少し似ています。

必要なのは、引っ張る力ではなく、育つための条件です。

時間。

集中。

余白。

そして、少し寄り道できること。

この研究が示したのは、

時間に追われるほど人は働かなくなる、という話ではありません。むしろ人は働く。でも、その働き方の中から創造的な思考が抜け落ちやすくなる傾向があった。

という、もう少し複雑な結果でした。

「急いでください」は、仕事を前へ進めることがあります。

でも、

「急いでください。そして今まで誰も考えたことのない案をお願いします」

となると、話は少し変わる。

時計は仕事を走らせてくれることがあります。

けれど、ひらめきまで腕をつかんで走らせられるとは限らない。

そこが、この研究から見えてきた、いちばん面白いところなのです。

阿部牧歌(管理人)
阿部牧歌(管理人)

ここが面白い:時間に追われると頑張れる。でも、ひらめきまで増えるとは限らない

この研究を読んでいて、私がいちばん「へえ」と思ったのは、

時間に追われると、人は何もしなくなるわけではない

というところです。

むしろ逆です。

忙しい日は、ちゃんと働いている。

いや、ちゃんとどころか、長く働いている。

仕事への気持ちも弱くなっているわけではない。

それなのに、創造的な思考は出にくくなっていた。

ここが、なんとも人間らしくて面白いのです。

もし結果が、

「忙しくなる → やる気がなくなる → 仕事をしなくなる → アイデアも出なくなる」

だったら、話はわりと単純です。

「ああ、疲れていたんですね」

で終わります。

でも、この研究が映し出したのは、もう少し複雑な姿でした。

頑張っている。

仕事にも向かっている。

時間も使っている。

なのに、

新しいことを考える力は、うまく働いていない。

これ、現代の仕事ではけっこう起きていることなのではないでしょうか。

「今日は仕事したなあ」と「今日は新しく考えたなあ」は違う

たとえば、ものすごく忙しかった一日を想像してみてください。

朝からメールを返す。

会議に出る。

資料を修正する。

電話を受ける。

別の資料を直す。

「すみません、さっきの資料なんですけど」

と呼び戻される。

夕方になって、ようやく机に戻る。

そしてパソコンを閉じながら、

「今日は働いた……!」

となる。

これはたしかに働いています。

疑いようがありません。

むしろ拍手したいくらいです。

ところが、

「では今日、新しいアイデアをいくつ考えましたか?」

と聞かれると、

「……新しい?」

となる日があります。

今日一日、猛烈に走った。

でも、走っていたのはずっと既存の線路の上だった。

そんなことがあるわけです。

ここで大事なのは、

仕事量と創造性は、同じものではない

ということです。

大量の仕事を処理する能力と、

まだ存在していない答えを考える能力。

どちらも仕事には必要ですが、頭の使い方は少し違います。

言ってみれば、

「料理を100皿すばやく出す力」と、

「新しいメニューを考える力」

くらい違います。

どちらも立派な能力です。

でも厨房が注文票で埋め尽くされて、

「3番テーブルまだです!」
「パスタ入りました!」
「デザート急ぎです!」

となっている最中に、

「ところで秋の新メニューについて自由に発想してください」

と言われても、

料理人としては、

「今?」

でしょう。

この研究が描いているのは、まさにそんな頭の状態なのだと思います。

忙しさは、頭を止めるのではなく「細くする」のかもしれない

時間に追われているとき、人間の頭はまったく動かなくなるわけではありません。

むしろ、かなり動いています。

ただし、その動き方が変わる。

「とにかく終わらせる」

「間に合わせる」

「必要なものだけ見る」

「余計な失敗をしない」

という方向へ、注意が絞られていきます。

これは非常時には、とても優秀な能力です。

締め切り10分前に、

「この文章のフォントについて、人生という観点から考えてみよう」

などと哲学を始められても困ります。

そういうときは、

「游ゴシックでいい。送れ!」

くらいの判断力がありがたい。

でも創造性が必要になると、事情が変わります。

新しい発想には、ときどき、

「関係なさそうなものを見る」

ことが必要だからです。

Aという問題を考えていたのに、

ふとBの経験を思い出して、

「あれ、これ組み合わせられるんじゃない?」

となる。

一見すると無駄な寄り道から、新しい道が見つかる。

創造性には、そういう奇妙な散歩時間があります。

ところが、

「あと30分」

となると、脳は散歩を切り上げます。

横道を閉鎖する。

近道だけを残す。

そして、

「一番確実な方法で行こう」

となる。

だから時間的プレッシャーは、

思考そのものを止めるというより、思考が歩ける道幅を細くしてしまう

と考えると、わかりやすいかもしれません。

高速道路には乗れる。

でも路地裏には入れない。

そして新しいアイデアというものは、ときどき路地裏にいます。

「追い込まれたほうが集中できる」は、間違いではない

ここでもうひとつ面白いのが、

「じゃあ、追い込まれたほうが集中できるという感覚は全部ウソなの?」

という話です。

私は、そうではないと思います。

締め切りが近づいて集中力が高まる経験は、多くの人にあるでしょう。

私自身も、

「まだ一週間あります」

と言われると心の中に小さな昼寝部隊が出てきますが、

「今日中です」

と言われれば、その部隊は一瞬で撤収します。

時間制限は、人を動かします。

迷っている時間を減らしたり、

「とりあえずやる」

という力を与えたりすることもあります。

だから、この研究は、

締め切りなんて全部なくしてしまえ

という話ではありません。

むしろ面白いのは、

集中と創造性は同じものではない

と教えてくれることです。

一つの作業へ強く集中すること。

広い範囲から新しい組み合わせを探すこと。

どちらも「頭を使う」ことですが、同じ方向ではありません。

だから、

「追い込まれたら集中できた」

という経験と、

「時間に追われると創造的な思考が出にくかった」

という研究結果は、必ずしも矛盾しません。

むしろ、

ものすごく集中しているからこそ、見えなくなるものもある

と考えると、二つはきれいにつながります。

「忙しい=充実している」という錯覚にも少し似ている

もう少し日常に引き寄せると、この研究は、

忙しさそのものを成果だと思ってしまう危うさ

についても考えさせてくれます。

予定表がいっぱい。

メールもいっぱい。

やることリストもいっぱい。

本人も全力。

こうなると、

「今日はすごく生産的だった」

という気分になります。

もちろん、本当にたくさんの仕事を終えていることもあります。

でも、

「忙しかった」と、

「重要な仕事ができた」は違う。

さらに、

「重要な仕事ができた」と、

「新しい価値を生み出した」も違う。

ここを全部一つにしてしまうと、

予定表が真っ黒な人ほど優秀、

という妙な世界が出来上がります。

でも、たとえば新しい企画を考える人が、

午前中ずっと一つの問題について考えていて、

最終的にノートに三行しか書かなかったとしても、

その三行が会社にとって大きな価値を持つことがあります。

見た目には、

「3時間で三行?」

です。

しかし創造的な仕事には、そういうことがあります。

逆に3時間でメールを50通返せば、

成果は非常に見えやすい。

「50通!」

数字が立派です。

でも新しいアイデアの数はゼロかもしれない。

仕事というもの、

見えやすい努力と、見えにくい価値がいつも同じ方向を向いているわけではありません。

この研究を読んでいると、そのことを思い出させられます。

「アイデアが出ない」を、自分の才能だけのせいにしなくていい

そして「アドラーの昼寝」として、この研究からいちばん持って帰りたいのは、ここかもしれません。

アイデアが出ないとき、人は自分を責めやすい。

「自分には発想力がない」

「頭が固いんだ」

「才能がないのかな」

そう思ってしまうことがあります。

でも、ちょっと待ってください。

その前に、

最近、時間に追われすぎていないでしょうか。

朝から予定が詰まっていないでしょうか。

考えている途中で何度も仕事が割り込んできていないでしょうか。

一つ終えた瞬間、次の締め切りがこちらを見ていないでしょうか。

もしそうなら、

あなたの創造性がなくなったのではなく、

創造性が出てこられる余白がなくなっている

可能性があります。

これはけっこう大きな違いです。

「自分には才能がない」

となると、本人を交換する話になります。

でも、

「環境に余白がない」

なら、環境を少し調整するという話になります。

会議を減らせないか。

考える時間を先に予定に入れられないか。

締め切り直前に企画を始めない仕組みを作れないか。

通知を切る時間を作れないか。

できることが見えてきます。

もちろん、この研究ひとつだけで、

「毎日3時間ぼーっとすれば天才になります」

とは言えません。

残念ながら、そこまで便利な研究ではありません。

昼寝を愛するサイトとしては、ぜひ言ってみたいところなのですが。

それでも、この研究は私たちにひとつ大切な問いを残してくれます。

「もっと頑張ること」と「もっとよく考えること」を、同じだと思っていないだろうか。

ここです。

頑張ることは大切です。

締め切りも必要です。

集中することも必要です。

でも、創造性が欲しいなら、

そこへもう一つ、

「考えが寄り道できる時間」

も置いてあげたほうがいい。

ひらめきというものは、呼び鈴を連打すると慌てて出てくるタイプではないのかもしれません。

むしろ、

「まあ、ちょっと座っていけば」

くらいの椅子を置いておいたとき、

何食わぬ顔で隣に座っている。

アマビールたちの研究を読んでいると、そんなふうに思えてくるのです。

阿部牧歌(管理人)
阿部牧歌(管理人)

私たちの生活にどう活かせる?:時間に追われる毎日から、ひらめきを守る仕事のつくり方

この研究を読んで、

「なるほど。時間に追われると、創造的な思考が出にくくなる傾向があるのか」

とわかったところで、次に出てくるのは当然この疑問です。

「で、明日からどうすればいいの?」

ここですよね。

研究というもの、読んで「へえ」で終わるのも楽しいのですが、できればポケットにひとつくらい持って帰りたい。

ただし、最初に大事なことを言っておきます。

この研究から、

「締め切りを全部なくしましょう」

という結論にはなりません。

締め切りがなかったら、私なんて「来週やろう」が翌月まで育つ自信があります。

時間制限は必要です。

仕事には期限がありますし、ある程度の緊張感があるから動けることもあります。

大切なのは、

「すべての仕事を同じ忙しさでやらない」

ということだと思います。

資料を送る。

メールを返す。

決まった形式で入力する。

こうした「処理する仕事」と、

企画を考える。

文章を書く。

問題の新しい解決策を探す。

こうした「考える仕事」は、必要とする頭の状態が少し違います。

この二つを全部、

「とにかく早く!」

でまとめてしまうと、頭の中が年中タイムセールになります。

創造性が必要な仕事には、創造性が出てこられる時間を少し用意してあげる。

まずはそこからです。

1. 「考える仕事」は、締め切り直前まで残さない

いちばん実践しやすいのはこれです。

新しい企画や文章を書く仕事ほど、締め切りの少し前から手をつける

完成させなくていいんです。

むしろ、

「タイトルだけ考える」
「箇条書きで3案出す」
「資料だけ集める」

くらいでいい。

なぜかというと、創造的な仕事には、

考えていないように見える時間

も意外と役立つからです。

朝に少し考える。

仕事をする。

昼ごはんを食べる。

別のことをする。

すると午後になって、

「あれ、さっきの案だけど……」

と突然つながることがあります。

これは珍しい話ではありません。

人間の頭は、パソコンの保存ボタンを押したら完全停止するわけではないんですね。

表面上は別の仕事をしていても、どこかで問題を持ち歩いていることがあります。

ところが、締め切り30分前に初めて考え始めたら、その「寝かせる時間」がありません。

冷蔵庫から出したばかりのカレーに、

「今すぐ二日目の味になってください」

と言っているようなものです。

難しい。

だから、創造性が必要な仕事ほど、

早く終わらせる必要はないけれど、早く始める

という考え方が使えます。

これ、けっこうおすすめです。

2. 予定表を100%埋めない

予定表に空白があると、

「まだ仕事を入れられるな」

と思ってしまいます。

そして会議を入れる。

電話を入れる。

作業を入れる。

やがて予定表がテトリスの終盤みたいになります。

隙間がない。

きれいではあります。

でも、創造的な仕事にとっては、

予定表の空白=無駄

とは限りません。

むしろ、

「何かあったときに吸収できる時間」

「少し立ち止まって考えられる時間」

「予定外の問題を処理するための余白」

として働きます。

予定を100%入れてしまうと、ひとつ予定がずれただけで、その日全体がドミノ倒しになります。

10時の会議が15分延びる。

その影響でメール返信が遅れる。

午後の資料作成が押す。

夕方には、

「あと30分しかない!」

となる。

時間的プレッシャーは、必ずしも大事件から生まれるわけではありません。

小さな予定の詰め込みが積み重なって生まれる

こともあります。

だから、可能なら予定表には少し空白を残しておく。

何もしない時間というより、

何かが起きても、頭がパニックにならないための緩衝材

と考えるといいと思います。

宅配便にもプチプチが入っています。

人間の一日にも、少しくらいプチプチがあっていい。

3. 「処理する時間」と「考える時間」を分ける

これはかなり重要です。

たとえば企画を考えている最中に、

メール通知。

チャット通知。

電話。

「ちょっといいですか?」

さらにスマホが震える。

頭の中では、

「新しい案を考えよう」

としていたのに、

いつの間にか、

「返信しなきゃ」
「確認しなきゃ」
「忘れないようにしなきゃ」

でいっぱいになります。

そこで、可能な範囲で、

処理する時間と考える時間を分ける

という方法があります。

たとえば、

午前9時から9時30分はメール。

そのあと30分は企画を考える。

あるいは、

「この1時間だけ通知を切る」

でもいい。

完璧に集中できる環境なんて、たぶん現代社会にはなかなかありません。

隣でコピー機が鳴り、メールが飛び、誰かが「プリンター動かないんですけど」と言ってきます。

それでも、

少しだけ割り込みを減らす

ことはできます。

創造性には、

「考える能力」

だけでなく、

考え続けられる環境

も必要です。

ここは意外と見落とされます。

4. アイデアが出ない日に「もっと頑張れ」を追加しない

これはぜひ持って帰ってほしいところです。

仕事でアイデアが出ないと、

「もっと集中しなきゃ」

と思うことがあります。

そしてさらに力を入れる。

さらに予定を詰める。

さらに机に張りつく。

すると、

「アイデアが出ない → 焦る → もっと頑張る → さらに余裕がなくなる」

という循環に入ることがあります。

これ、かなり苦しい。

そんなときは、

「自分は能力がないのでは?」

ではなく、

「いま、考えるための余白が足りないのでは?」

と問い直してみる。

この一言だけでも、かなり違います。

5分歩く。

飲み物を取りに行く。

紙に思いつくことを雑に書く。

別の作業を少し挟む。

すぐ答えを出そうとするのをやめる。

こういう小さな離れ方が、結果的に思考を広げることがあります。

もちろん、

「休めば必ずアイデアが降ってくる」

わけではありません。

自販機へ行ったら、ただコーヒーを買って帰ってくる日もあります。

それでいいんです。

大事なのは、

焦りをさらに足して、頭を追い詰めないこと

です。

5. 上司やチーム側も「アイデアが欲しいなら、時間の設計を考える」

この研究は、個人だけでなく、職場側にもかなり重要な話です。

もし部下やチームに、

「もっと新しい提案を出してほしい」

と思っているなら、

「もっと急いで」
「もっと効率よく」
「もっと件数をこなして」

だけでは、少し噛み合わない可能性があります。

新しいアイデアが必要なら、

「考える時間は確保できているか」

も一緒に見たほうがいい。

たとえば、

企画会議の資料を当日の朝に渡して、

「午後までに斬新な案をお願いします」

というやり方。

かなり無茶です。

脳内では、

「斬新より、まず読ませてください」

となります。

逆に、

「来週このテーマについて話すので、今週から少し考えておいてください」

と早めに渡しておけば、

日常の中で考える時間が生まれます。

創造性は、

会議室に入った瞬間にスイッチを押して出すものではない

んですね。

むしろ、会議の前の日常の中で育っていることがあります。

だから、管理する側にできるのは、

「もっといい案を出せ」

だけではなく、

いい案が育つ時間を守る

ことでもあります。

6. 日常生活でも「すぐ答えを出さない」を使ってみる

この話は仕事だけではありません。

人間関係でも使えます。

たとえば誰かと意見がぶつかったとき。

時間に余裕がないと、

「もういい」
「じゃあこうしよう」
「それで終わり」

と、最短距離の答えを選びやすくなります。

でも少し時間があると、

「相手は何を大事にしているんだろう」
「別の方法はないかな」
「自分も少し言いすぎたかもしれない」

と、別の角度から考えられることがあります。

つまり創造性は、

絵を描くとか企画を考えるとかだけではなく、

人生の問題に別の答えを探す力

でもあります。

夫婦。

家族。

友人。

職場。

「AかBしかない」

と思っていた問題に、

「Cでもいいのか」

を見つける。

これも立派な創造性です。

そのためにも、

怒っている最中、

焦っている最中、

締め切りに追われている最中に、

すべての答えを決めなくてもいい。

「ちょっと考えてから返事します」

という言葉は、逃げではありません。

ときには、思考の幅を守るための立派な技術です。

頑張る時間と、考える時間。その両方を持っておく

この研究を日常へ持ち帰るとしたら、

私は、

「余白を増やしましょう」

だけでは少し足りないと思います。

忙しい日もあります。

締め切りもある。

全力疾走しなければいけない日だってある。

人生、毎日ゆったり紅茶を飲みながら企画を考えられるわけではありません。

大切なのは、

全力疾走する時間と、考える余白を意識して分けること

ではないでしょうか。

走るときは走る。

でも、ずっと走らない。

処理するときは処理する。

でも、考える時間まで処理モードにしない。

そしてアイデアが出ないとき、

「もっと自分を追い込まなければ」

と反射的に考える前に、

一度だけ、

「この頭、いま少し混みすぎていないかな」

と確認してみる。

それだけでも、この研究は十分に生活の役に立つと思います。

創造性は、無理やり引っぱり出すものというより、

出てこられる場所を用意しておくものなのかもしれません。

時計は必要です。

締め切りも必要です。

でも、ときどき時計を机の端へ少しずらして、

「ここ、空いてますよ」

と椅子を一脚置いておく。

そのくらいの余白から、思いがけない答えが座りに来ることがあります。

阿部牧歌(管理人)
阿部牧歌(管理人)

少し注意したい点:時間に追われると必ず創造性が下がる、とまでは言えない

ここまで読んでくると、

「なるほど。時間に追われるのは創造性の敵なんですね。よし、締め切りを廃止しましょう」

と言いたくなるかもしれません。

でも、ここで研究者が廊下の向こうから走ってきます。

「そこまでは言ってません!」

心理学の論文を読むとき、この一言はけっこう大切です。

研究というのは、

「こういう傾向が見つかりました」

という話と、

「これが原因だと証明されました」

という話では、意味がかなり違います。

今回の研究も、とても面白い結果ではありますが、

「時間に追われれば、誰でも必ず創造性が下がる」

とまで言える研究ではありません。

では、どこに注意したらいいのでしょうか。

1. 「関係があった」と「原因だった」は違う

まず一番大切なのがここです。

今回の研究では、

時間的プレッシャーが強かった日ほど、創造的な思考が少ない傾向

が見つかりました。

でも研究者たちが、

「今日はあなたをものすごく急がせます」

「今日は余裕たっぷりで働いてください」

と条件をランダムに割り当てて実験したわけではありません。

実際の職場で起きていることを、長い期間追いかけた研究です。

そのため、

「時間的プレッシャーが創造性を下げた」

と因果関係まで確定することはできません。

たとえば逆方向の可能性も考えられます。

難しい仕事やトラブルが発生した。

だから時間に追われた。

そして、その日は創造的な思考も出にくかった。

この場合、

「時間に追われたから創造性が下がった」

だけではなく、

そもそも仕事が大変な日だったから、両方が同時に起きた

可能性があります。

ほかにも、

会議が多かった。

急な依頼が入った。

人手が足りなかった。

プロジェクトが佳境だった。

など、時間的プレッシャーと創造性の両方に関係する別の要因が隠れている可能性があります。

研究者たちも、いろいろな条件を考慮して分析していますが、現実の職場というものは、なかなか変数一個では説明できません。

会社は実験室ではありません。

コピー機も壊れます。

2. 「時間的プレッシャー」は、時計だけの話ではない

もうひとつ注意したいのは、

この研究で扱われているのは、単純な、

「あと何分あるか」

だけではないということです。

重要なのは、本人が感じている時間的プレッシャーです。

同じ「締め切りは金曜日」でも、

ある人は、

「まだ3日ある」

と思う。

別の人は、

「もう3日しかない!」

と思う。

時計は同じでも、心の中の時計はけっこう違います。

さらに、

仕事量。

責任の重さ。

予定の詰まり具合。

集中を邪魔される回数。

必要な情報がそろっているか。

こうした状況によっても、時間に追われている感覚は変わります。

だから、

「締め切りまで○日なら創造性が下がる」

という話ではありません。

もっと人間くさい話です。

自分がどれくらい「時間が足りない」と感じながら仕事をしているか。

そこに注目した研究なのです。

3. すべての締め切りが悪いわけではない

ここは特に誤解しやすいところです。

この研究を読んで、

「じゃあ、締め切りなんてないほうがいいのか」

というと、そこまでは言えません。

締め切りには、仕事を前へ進める役割があります。

期限がまったくなければ、

「いつでもいいですよ」

と言われた資料が、

人類が火星へ移住したころに完成する可能性もあります。

少なくとも私は危ない。

また、この研究では、時間的プレッシャーが強い日に、参加者がより長く働いたり、仕事への内発的な動機づけが高かったりする傾向も見つかっています。

つまり時間的プレッシャーは、

人を仕事へ向かわせる力

まで全部奪っていたわけではありません。

問題は、

「急ぐ必要がある仕事」と、

「新しい考え方が必要な仕事」を、

全部同じように扱ってしまうことです。

急いで発送する。

急いで入力する。

急いで報告する。

こうした仕事では、スピードが重要になることがあります。

一方、

新しい企画を考える。

複雑な問題を解決する。

今までと違う方法を探す。

こちらは、ただ速度を上げればいいとは限らない。

だからこの研究から学べるのは、

「締め切りをなくそう」ではなく、「創造性が必要な仕事まで常に非常事態にしないほうがよさそうだ」

くらいがちょうどよい受け取り方だと思います。

4. 「創造性そのもの」を全部測ったわけではない

ここも重要です。

この研究で研究者たちが捉えようとしたのは、参加者の日々の記述に現れた創造的な認知過程です。

簡単に言えば、

新しい考えを思いついた。

問題について深く考えた。

別の方法を試した。

新しいつながりを見つけた。

といった、

創造性が生まれる途中の思考や行動

を見ています。

これは非常に面白い方法ですが、

「その日に最終的に生まれた作品の創造性を、専門家が採点した」

という研究とは違います。

つまり、

創造的な思考が少なかったことと、

最終成果物の質が必ず低かったことは、

完全に同じ意味ではありません。

ここも分けて考える必要があります。

たとえば、以前じっくり考えて完成寸前まで来ていた企画を、忙しい日に提出することもあります。

その日は新しいアイデアをほとんど考えていなくても、完成した企画自体は素晴らしいかもしれません。

逆に、

「今日はアイデアを20個思いついた!」

としても、

19個が「会社の屋上にヤギを飼う」系の案だったら、採用されるとは限りません。

創造的な思考と、創造的な成果。

近いけれど、同じではありません。

5. 177人の結果を、世界中のすべての仕事にそのまま広げない

今回の研究に参加したのは、創造性が必要とされる実際のプロジェクトに携わっていた177人です。

これは職場研究としてかなり貴重なデータです。

ただし、

「177人でこうだった。したがって全人類こうです」

とはなりません。

仕事の種類が違えば、時間的プレッシャーの働き方も違うかもしれません。

たとえば、

緊急医療。

災害対応。

接客。

製造。

事務処理。

研究開発。

広告企画。

同じ「忙しい」でも、求められる頭の使い方はかなり違います。

また、人による違いもあります。

ある程度の期限があったほうが集中しやすい人もいるでしょう。

逆に、少し急かされただけで頭が真っ白になる人もいます。

だから、

「私は締め切り直前でもアイデアが出ますけど?」

という人がいても、この研究と矛盾するわけではありません。

研究が示しているのは集団としての傾向であって、

あなた個人の未来を占う水晶玉ではないからです。

心理学研究を読むときには、

「平均するとこうだった」

と、

「私は必ずこうなる」

のあいだに、小さな川があります。

そこは飛び越えないほうが安全です。

6. 2002年の研究であることも、少し頭の片隅に置いておく

そして、この研究は2002年に発表されたものです。

もちろん、人間の脳が2002年から別物になったわけではありません。

ただ、働き方はかなり変わりました。

チャット。

スマートフォン。

オンライン会議。

常時届く通知。

リモートワーク。

複数の画面。

「ちょっと確認だけお願いします」という秒速の依頼。

現代の仕事では、時間的プレッシャーだけでなく、注意を細かく分断される問題もかなり大きくなっています。

そのため、この研究結果を現在の働き方へ活かすときには、

「時間だけ確保すればOK」

と考えるより、

時間と一緒に、集中できる環境も必要かもしれない

と考えるほうが自然でしょう。

それでも、この研究には大きな価値がある

ここまで注意点を並べると、

「じゃあ、この研究はあまり信用できないの?」

と思うかもしれません。

いえ、そうではありません。

むしろ私は、

こうした限界があることをわかったうえで、それでも面白い

というのが研究の正しい味わい方だと思います。

この研究の大きな魅力は、実験室の短い課題だけではなく、

実際に会社で働いている人たちを、

何週間にもわたって追い、

9,000件を超える日々の記録から、

「忙しい日の頭の中では何が起きているのか」

を見ようとしたところです。

完璧ではありません。

でも現実に近い。

現実に近いからこそ、少し曖昧でもある。

ここがフィールド研究の面白いところです。

人間を研究すると、

きれいな答えだけが出てくるわけではありません。

「場合による」

「傾向としては」

「ただし」

がたくさん出てきます。

でも、それは研究が弱いからではありません。

人間が、それくらい複雑だからです。

だから今回の論文も、

「時間的プレッシャーは悪者です」

という札を貼って棚に置くより、

「創造性が必要な場面では、時間に追われすぎていないかを一度確認してみる価値がある」

くらいで持ち帰るのがよいと思います。

それなら、研究結果を大げさにしません。

そして日常にも使えます。

心理学の論文というのは、ときどき、

「答えを教えてくれるもの」

だと思われます。

でも実際には、

自分の生活を見るための、新しい質問をひとつ増やしてくれるもの

なのかもしれません。

今回なら、

「もっと頑張らなきゃ」

と思ったときに、

もうひとつだけ、

「その前に、考える余白は残っているかな?」

と聞いてみる。

この研究から持ち帰るには、それくらいのサイズがちょうどいい。

ポケットにも入りますし、たぶん締め切りにも間に合います。

阿部牧歌(管理人)
阿部牧歌(管理人)

まとめ:時間に追われるほど、ひらめきまで速くなるわけではない

ここまで、アマビールたちの研究を見てきました。

最初の問いは、とてもシンプルでした。

「時間に追われると、人はより創造的になれるのだろうか?」

仕事をしていると、

「締め切りがあるから集中できる」
「追い込まれたほうが本気が出る」

という感覚は、たしかにあります。

私たちの頭の中には、どうやら締め切りが近づくと突然出勤してくる社員がいるようです。

普段はどこへ行っているのかわかりませんが、

「あと1時間です」

と言われた瞬間、

「はい!やります!」

と猛烈に働き始める。

ですから、

時間的プレッシャーそのものが、すべて悪い

という話ではありません。

今回の研究でも、時間に追われている日は、人々がより長く働き、仕事への意欲も高い傾向が見られました。

ところが面白いのは、その先です。

頑張っている。

長く働いている。

仕事にも入り込んでいる。

それなのに、

創造的な思考は出にくくなっていた。

ここが、この論文のいちばん大事なところです。

「よく働いた」と「よく考えた」は、同じではない

忙しい日の夜には、

「今日は仕事したなあ」

という達成感があります。

メールを30通返した。

会議を4つこなした。

資料を2本完成させた。

電話もいっぱい出た。

数字にすると、とても立派です。

でもそこで、

「今日、新しいことをどれくらい考えただろう?」

と聞いてみると、

急に静かになる日があります。

別に悪いことではありません。

仕事には、

処理しなければならない日

もあるからです。

問題なのは、

処理する仕事と、創造する仕事を、同じ物差しで考えてしまうことです。

「速く仕事ができている」

ということと、

「新しい考えが生まれている」

ということは別です。

たとえば、本を100冊棚に戻す仕事なら、速いほうが助かります。

でも、

「この図書館をもっと利用したくなる新しい企画を考えてください」

となれば、

速さだけでは解けません。

少し立ち止まる。

人の行動を見る。

過去のアイデアを思い出す。

関係なさそうなものを組み合わせてみる。

「あれ、これ面白いかも」

と寄り道する。

創造性には、そういう時間が必要になります。

時間に追われると、頭は「正解までの最短距離」を選びやすくなる

時間が足りないとき、人間は自然と効率を求めます。

「一番確実な方法でいこう」

「前と同じやり方でいい」

「細かいことは後で考えよう」

これは、とても合理的です。

締め切りまで10分なのに、

「一度、そもそも論から考え直しましょう」

と言い始める人がいたら、周囲は少しざわつきます。

だから、時間的プレッシャーの中では、

知っている方法を使って、できるだけ早く答えにたどり着く

という力が働きやすい。

一方、創造性が求めるのは、

「まだ答えがない場所を歩いてみること」です。

ここに少し相性の悪さがあります。

最短距離を走る力と、

知らない道を歩く力。

どちらも大切なのですが、同時に最大出力で動かすのは難しいのかもしれません。

「アイデアが出ない=才能がない」ではない

この研究から、ぜひ持ち帰りたいのがこの視点です。

最近、いいアイデアが出ない。

文章が浮かばない。

仕事で新しい案が思いつかない。

そんなとき、私たちはすぐに自分へ矢印を向けます。

「自分には才能がないのかな」

「頭が固くなったのかな」

「もっと頑張らないと」

でも、今回の研究を知っていると、もうひとつ質問できます。

「そもそも最近、時間に追われすぎていないだろうか?」

ここです。

もしかしたら問題は、

あなたの能力ではなく、

あなたの頭が置かれている環境かもしれません。

一日中、次の予定を気にしている。

考えている途中で通知が来る。

ひとつ終わった瞬間、次の締め切り。

今日の仕事が終わる前に、明日の仕事がこちらを見ている。

それでは、頭の中に新しいアイデアが座る椅子がありません。

だから、

「もっと頑張る」

の前に、

「もう少し余白をつくれないか」

と考えてみる。

これは逃げではありません。

創造性を使うための、環境づくりです。

余白は「何もしない時間」ではなく、「まだない答えを迎える場所」

忙しい社会では、空いている時間を見ると、

「ここにも予定を入れられる」

と思ってしまいます。

予定表の空白を見ると、埋めたくなる。

人間、テトリスの血が騒ぎます。

でも、創造的な仕事においては、

空白が必ずしも無駄とは限りません。

資料を読んだあと、少し歩く。

企画を途中まで考えて、一度寝かせる。

会議の前日にテーマだけ確認しておく。

何か思いついたら、完成させようとせずメモだけ残す。

そんな小さな余白の中で、

昨日まで離れていた考え同士が、突然つながることがあります。

つまり余白は、

何もしない場所ではなく、まだない答えが入ってこられる場所

でもあるのです。

これ、仕事だけではありません。

人生でも同じかもしれません。

悩みごとがあると、

「今すぐ答えを出さなければ」

と思うことがあります。

転職するか。

人間関係をどうするか。

何を選ぶか。

どう返事をするか。

でも、すぐ決めなくてもいい問題まで急いで決めると、

「AかB」

しか見えなくなることがあります。

一晩置いたら、

「いや、Cもあるな」

となる。

これも創造性です。

人生の問題にも、ときどき余白が必要です。

ただし、「余裕さえあればいい」という話でもない

もちろん、

「では今日から締め切りを全部なくして、好きなだけ考えましょう」

という話ではありません。

期限がなければ進まない仕事もあります。

多少のプレッシャーがあることで、

「よし、やろう」

と動き出せることもあります。

だから大切なのは、

プレッシャーをゼロにすることではなく、仕事の種類に合わせて使い分けること

なのだと思います。

処理する仕事には、ある程度の速度が必要。

創造する仕事には、考える時間が必要。

そして多くの仕事では、その両方が必要です。

だから、

「午前中はメールや事務処理」

「午後の1時間は企画を考える」

のように、頭の使い方を分けてもいい。

あるいは、

「締め切りは金曜日だけど、水曜日から少し考えておく」

でもいい。

大改革をしなくても、

創造性が必要な仕事だけ、少し早く始める

だけで変わることがあります。

この研究が教えてくれたこと

アマビールたちの研究は、

「時間に追われるのは悪いことです」

という単純な話ではありません。

もっと面白い。

人間は時間に追われても、働けます。

むしろ猛烈に働くことがあります。

やる気だって出る。

集中することもある。

でも、

働く力が上がることと、新しいことを考える力が上がることは同じではない。

ここです。

この違いを知っているだけで、

仕事の設計は少し変わります。

「もっと速く」

だけではなく、

「ここは考える時間を残そう」

という判断ができるようになる。

そして自分自身に対しても、

「アイデアが出ない。もっと追い込まなきゃ」

ではなく、

「ちょっと追い込みすぎているのかもしれない」

と言えるようになります。

それは、けっこう大きな違いです。

仕事というものは、どうしても時計と一緒に進みます。

9時。

12時。

17時。

締め切り。

納期。

予定。

私たちは時計なしでは、なかなか社会を動かせません。

でも、ひらめきまで時計どおりに動いてくれるわけではない。

「15時から15時30分まで、斬新なアイデアを5個お願いします」

と言われて、

「承知しました」

と出てきてくれれば楽なのですが、創造性はそこまで会社員精神にあふれていません。

むしろ、

少し考えて、

少し離れて、

また戻ってきたとき、

「そういえばさ」

という顔で現れることがあります。

だから、急ぐ時間は急ぐ。

でも、すべての時間を急がせない。

時計を使いながら、ときどき時計から少し離れる。

そんな働き方の中に、創造性が座れる小さな席を残しておく。

それが、この研究から私たちが持ち帰れる、いちばん実用的な知恵なのではないでしょうか。

阿部牧歌(管理人)
阿部牧歌(管理人)

あとがき

この論文を読み終えて、最初に浮かんだのは、

「忙しさって、けっこう紛らわしいな」

ということでした。

忙しい日は、ものすごく働いた気になります。

いや、実際に働いています。

メールを返して、会議に出て、資料を直して、電話に出て、また資料を直して。

気づけば夕方。

パソコンを閉じながら、

「今日は仕事したなあ」

という、ちょっとした達成感があります。

これはこれで大切な感覚です。

ただ、この論文はそこへ静かに、

「ところで今日、新しいことをどれくらい考えました?」

と聞いてくるんですよね。

そこで私は、

「……それは別の質問だったのか」

となりました。

忙しい日は、人生まで前に進んだ気がする

私たちは、忙しいことと前進していることを、つい同じものとして扱います。

予定が埋まっている。

やることが多い。

ずっと手を動かしている。

すると、

「自分はいま、ちゃんと前へ進んでいる」

という感覚が生まれます。

でも、本当は少し違うのかもしれません。

走っていることと、方向を考えていることは別です。

ものすごい勢いで走っていても、同じ場所をぐるぐる回っていることがあります。

逆に、ベンチに座っているように見える時間に、

「そもそも、こっちへ行かなくてもいいのでは?」

と気づくこともある。

創造性というのは、たぶん後者の時間とも仲がいい。

この論文を読んでいると、

「止まることにも仕事がある」

という気がしてきます。

もちろん、一日中ぼーっとして、

「これは創造的活動です」

と言い張るのは少し無理があります。

それはたぶん昼寝です。

そして「アドラーの昼寝」としては、昼寝も嫌いではありません。

でも、ここで言いたいのは、

何もしないことを礼賛したいわけではないんです。

考えるためには、考えが動ける広さがいる。

そのことを、この研究は思い出させてくれます。

「もっと頑張れば出てくる」は、けっこう強い呪文です

アイデアが出ないとき、

私はつい、

「もっと考えよう」

と思います。

出ない。

「じゃあ、もっと集中しよう」

まだ出ない。

「よし、もう少し自分を追い込もう」

ここまで来ると、頭の中ではアイデア会議というより取り調べが始まっています。

「知ってること全部話してもらおうか」

と言われても、ひらめき側としては困るでしょう。

この論文を読んでいると、

アイデアが出ないときに、さらにプレッシャーを追加することが最善とは限らない

とわかります。

これ、仕事だけではなくて、人生全般にも当てはまりそうだなと思いました。

答えが出ない。

将来が決まらない。

人間関係をどうすればいいかわからない。

そんなとき、

「早く答えを出さなきゃ」

と焦ります。

すると選択肢がどんどん細くなる。

「やるか、やらないか」

「続けるか、辞めるか」

「正しいか、間違いか」

でも少し時間を置くと、

「あれ、別のやり方もあるな」

と見えてくることがあります。

人生の大事な問題ほど、実は創造性が必要なんですよね。

正解が用意されていないからです。

余白というのは、空っぽではない

私は昔、「余白」という言葉を聞くと、

何もしていない時間のことだと思っていました。

仕事をしていない。

成果も出していない。

何も生産していない。

だから、できれば埋めたほうがいい。

でも最近は、少し違う見方をしています。

余白というのは、

まだ形になっていないものが育つ場所

なんじゃないでしょうか。

文章を書く前の散歩。

誰かに返事をする前の一晩。

企画を考えている途中のコーヒー。

本を閉じたあとの数分。

そこでは、目に見える成果はありません。

でも、頭の中では何かが静かにつながっていることがあります。

「あの話と、この話は似ているな」

「さっきは腹が立っていたけど、相手にも事情があったのかもしれない」

「この問題、そもそも別の角度から考えていいんじゃないか」

こういうものは、予定表には書きにくい。

「14時30分〜14時45分 人生についてうっすら気づく」

とは、なかなか入力しません。

でも人間にとっては、そういう時間がかなり大事なのだと思います。

会社が欲しいのは「速い人」なのか、「考えられる人」なのか

この研究を読んでいると、職場についても考えさせられます。

企業はよく、

「効率化」

を求めます。

それ自体は当然です。

無駄な作業を減らす。

早く終わらせる。

同じ時間で多くの成果を出す。

これは大切です。

でも、その効率化によって生まれた空き時間に、

また仕事をぎっしり詰め込んだらどうなるのでしょう。

10分短縮できた。

「では10分ぶん仕事を増やしましょう」

さらに10分短縮できた。

「ではさらに仕事を増やしましょう」

これを続けると、効率化というより、

仕事の圧縮袋

になってしまいます。

空気を抜いて、抜いて、抜いて、

最後には、

「確かに入りましたけど、もう何も動けません」

という状態になる。

創造性が必要な職場なら、とくに、

効率化によって生まれた余白を全部回収しないほうがいいのかもしれません。

その10分が、

新しいアイデアになるかもしれない。

問題の早期発見になるかもしれない。

誰かとの雑談から、新しい視点が生まれるかもしれない。

効率化のゴールは、必ずしも予定表を100%埋めることではない。

そんなことも、この研究から考えました。

「自分には才能がない」と結論を出す前に

そして、この論文で個人的にいちばん好きなところは、

自分を責める前に、環境を見るという視点です。

アイデアが出ない。

頭が回らない。

いい文章が書けない。

考えがまとまらない。

そんなとき、私たちは、

「能力が落ちた」

「才能がない」

「自分はダメだ」

というところへ行きやすい。

でも、この研究は、

「その前に、最近ずっと時間に追われていませんでした?」

と聞いてくれます。

これは、けっこう優しい問いだと思うんです。

本人を否定するのではなく、

本人と環境の関係を見る。

うまくできないなら、

「自分をもっと強くする」

だけではなく、

「うまくできる環境をつくれないか」

と考える。

心理学を読んでいて、私はこういう瞬間が好きです。

人間の弱さを、

本人の根性不足だけで説明しない研究。

「人は環境からも影響を受けますよ」

と、少し視野を広げてくれる研究。

アマビールたちの論文も、私にはそういう一冊に見えました。

ひらめきの席を、一脚だけ残しておく

もちろん現実には、

「今日から余裕たっぷりに働きます」

なんて簡単にはできません。

締め切りはあります。

急ぎの仕事もあります。

予定外の電話も来ます。

月曜の朝から、

「今週は静かに働こう」

と決めた15分後に、静かではない案件がやってくる。

社会とは、なかなかこちらの理想どおりには運営されません。

だから私は、

大きく生活を変えなくてもいいと思っています。

予定を一本減らす。

企画だけ少し早く始める。

考えているときは通知を切る。

すぐ答えなくてもいいものは、一晩寝かせる。

アイデアが出ない日は、「もっと頑張れ」ではなく「少し離れてみよう」にする。

そのくらいでいい。

時間に追われる日がなくならなくても、

全部の時間を追われる時間にしない。

それだけでも、かなり違う気がします。

今回の論文を読み終えて、私はそんなことを考えました。

時計は便利です。

私たちを遅刻から守ってくれます。

締め切りも便利です。

仕事を完成まで運んでくれます。

でも、人生には時計の得意ではない仕事もあります。

ひらめくこと。

納得すること。

気持ちを整理すること。

誰かを理解すること。

自分が本当はどうしたいのか考えること。

こういうものには、

「17時までにお願いします」

では少し難しい。

だから、忙しい毎日のどこかに、

ほんの少しだけでいいので、

答えを急がなくていい場所

を残しておきたいと思います。

予定表の隅でもいい。

昼休みの5分でもいい。

帰り道でもいい。

そこに、ひらめき用の椅子を一脚置いておく。

来ない日もあるでしょう。

椅子だけぽつんと置いてある日もあります。

でも、たまに、

ずっと探していた答えが、

「ここ空いてる?」

みたいな顔をして座ってくる。

創造性というのは、案外そんなものなのかもしれません。

アドラーの昼寝としては、これからもそんな「椅子を一脚置いてくれる研究」を拾っていきたいなと思います。

阿部牧歌(管理人)
阿部牧歌(管理人)

制作ノート

出典論文:Amabile, T. M., Mueller, J. S., Simpson, W. B., Hadley, C. N., Kramer, S. J., & Fleming, L.(2002). Time Pressure and Creativity in Organizations: A Longitudinal Field Study. Harvard Business School Working Paper, No. 02-073.

掲載・確認先Harvard Business School 公式ページ / Harvard Business School 論文PDF / Google Scholar

記事について:本記事は、上記論文の内容をもとに、一般の読者向けに要約・解説したものです。原文の趣旨を尊重しつつ、読みやすさを重視して再構成しています。

制作体制:本記事は、GPT-5.6 Thinking (Sol)を用いて下書きを作成したうえで、当サイト管理人・阿部牧歌が内容を確認し、表現や流れを整えながら仕上げています。機械の速さと、人の目と感覚の両方を生かしながら、読みやすく信頼できる記事づくりを目指しています。

阿部牧歌(管理人)
阿部牧歌(管理人)
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心理学論文のうたたね案内人
はじめまして。心理学の論文要約サイト「アドラーの昼寝」を運営している阿部牧歌です。 これまで、障がい者福祉事業所の施設長などを経て、現在は某就労支援機関にてキャリアコンサルタントとして働いています。 日々、さまざまな悩みや不安、迷いにふれる中で感じるのは、人の心はとても複雑なのに、ひとつの言葉や考え方で少し楽になることがある、ということです。心理学の論文には、そんな「心を理解するためのヒント」がたくさん詰まっています。けれど、そのまま読むには少しかたくて、専門用語も多く、気軽には近づきにくいものでもあります。 「アドラーの昼寝」では、そんな心理学の論文を、なるべくわかりやすく、やわらかく、そして少し面白く読める形にしてお届けしたいと思っています。読書が好きで、本の中を歩くように言葉を読む時間が昔から好きでした。論文もまた、少し入り口を整えるだけで、ぐっと親しみやすいものになります。 このサイトが、忙しい日々のなかでほんの少し立ち止まり、自分や誰かの心をやさしく見つめるきっかけになれば嬉しいです。
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