【心理学論文】習慣は何日で身につく?「続けられる人」が無意識に育てている習慣化のしくみ

習慣として昼寝をする女性
adler-nap

「続けよう」が「気づけばやっている」に変わるまで

『習慣は、どうやって身につくのか:日常のなかで「続く行動」が育つまでを追った習慣形成モデル』フィリッパ・ラリー、コーネリア・H・M・ファン・ヤールスフェルト、ヘンリー・W・W・ポッツ、ジェーン・ウォードル(2010)

Lally, P., van Jaarsveld, C. H. M., Potts, H. W. W., & Wardle, J. (2010). How are habits formed: Modelling habit formation in the real world. European Journal of Social Psychology, 40(6), 998–1009. DOI:10.1002/ejsp.674

「明日から毎日、朝に散歩するぞ」

そう決めた翌朝。目覚ましは鳴る。カーテンの向こうには、たぶん爽やかな朝がある。けれど布団の中の自分は言うのです。

「今日は、散歩を始めるための準備日ということで」

はい、出ました。人類が発明した、限りなく便利で、限りなく危険な言い訳です。

私たちは何かを始めること自体は、意外と得意です。運動、勉強、日記、早寝、野菜中心の食事。新しい手帳を買った日などは、もう人生を立て直した気分になります。ページを開き、予定を書き込み、「これからの私は違う」と胸を張る。ところが数日後、その手帳は机のすみで静かに眠りはじめます。新しい人生、三日ほどで冬眠です。

けれど、ここで自分を責めるのは少し早いかもしれません。

続かなかったからといって、「意志が弱い」「自分には才能がない」と決める必要はないのです。そもそも習慣とは、毎日ひたすら気合いで行うものではありません。本当に習慣になった行動は、だんだん“決意”を必要としなくなります。

歯を磨くときに、「よし、今日も歯磨きをやり切るぞ」と気合いを入れる人は、あまりいないでしょう。顔を洗うことも、鍵をかけることも、いつもの道を歩くことも、たいていは考える前に体が動きます。行動が生活の風景に溶け込み、「やるべきこと」だったものが、いつの間にか「やっていること」へ変わっていくのです。

では、その変化はいつ起きるのでしょうか。

何日続けたら、「頑張ってやる」は「気づけばやっている」になるのでしょう。途中で一日抜けたら、せっかくの努力は最初からやり直しなのでしょうか。世の中には「習慣化には21日」といった景気のいい数字もありますが、人の暮らしはそんなに一律ではありません。忙しい日もあれば、体調の悪い日もある。雨の日もあるし、仕事帰りにコンビニのスイーツ売り場という強敵に出会う日もあります。

今回紹介する論文は、そんな“現実の生活”のなかで、人の行動がどのように習慣へ育っていくのかを追いかけた研究です。

習慣は、ある朝いきなり完成する魔法ではありません。小さな行動が繰り返され、少しずつ心と体になじみ、「今日はやるか、やらないか」と迷う会議そのものが開かれなくなっていく。その静かな変化の道のりを知ると、三日坊主だった過去も、少し違って見えてくるかもしれません。

「続けよう」が「気づけばやっている」に変わるまで。

そのあいだに、私たちの毎日では何が起きているのでしょうか。いっしょに、習慣の舞台裏をのぞいてみましょう。

阿部牧歌(管理人)
阿部牧歌(管理人)

この論文をひとことで言うと

ひとことで言うと、この論文は、習慣とは「気合いで毎日やり抜いた人へのごほうび」ではなく、同じ場面で小さな行動を繰り返すうちに、少しずつ“考えなくてもできること”へ変わっていく現象だと教えてくれる研究です。

たとえば、「朝ごはんのあとに歯を磨く」は、多くの人にとって大きな決意のいるイベントではありません。

「よし……本日も歯ブラシを握る覚悟はできた……!」

などと、朝から主人公みたいな顔をする人は、あまりいないでしょう。朝ごはんを食べたら、なんとなく洗面所へ行く。歯ブラシを手に取る。気づけば磨いている。そこには、やる気の大演説も、根性の火祭りもありません。

この論文が追いかけたのは、まさにその状態です。

最初は「やらなきゃ」と考えていた行動が、同じタイミング、同じ場所、同じ流れのなかで繰り返されるうちに、「やるかどうか」を迷う会議すら開かれなくなる。すると行動は、努力目標というより、生活の一部になっていきます。

ただし、ここで大事なのは、習慣づくりは一直線のマラソンではない、ということです。

最初のうちは、「今日はできた!」という手応えが育ちやすい。けれど、続けるほど勢いは少しずつゆるやかになります。観葉植物に毎朝「早く巨大化してくれ」と話しかけても、明日にはジャングルにならないのと同じです。習慣も、目立たないところで根を張り、じわじわ生活になじんでいきます。

しかも、習慣になるまでの速さは人それぞれです。早く自然にできるようになる行動もあれば、時間のかかる行動もある。「あの人は続いているのに、自分はまだ苦しい」という比較は、少し乱暴かもしれません。育てているものも、暮らしの条件も、心の余力も違うからです。

そして、いちばん救いになるのはここでしょう。

一日できなかったからといって、習慣づくりが最初から壊れるわけではない。

予定が崩れる日もあります。疲れている日もあります。雨の日もあります。布団がこちらの人生に対して強い交渉力を発揮してくる朝もあります。それでも、「一回できなかったから、もう終わりだ」と全撤退しなくていいのです。

習慣とは、完璧な人だけが手に入れられる勲章ではありません。何度でも日常に戻ってくる、小さな行動の積み重ねです。

つまりこの論文は、私たちにこう言っているように思えます。

続けるとは、一度も休まないことではない。やめた日があっても、また同じ場所に戻ってくることだ。

阿部牧歌(管理人)
阿部牧歌(管理人)

この論文の要点

この研究が教えてくれるのは、習慣づくりは「強い意志を持つ人だけの秘密クラブ」ではない、ということです。

むしろ大切なのは、完璧に毎日こなすことよりも、同じ生活の流れのなかで、できるだけ何度も行動に戻ってくること。習慣は、気合いの花火大会というより、毎日ちょっとずつ水を吸う植物に近いのです。

1. 習慣は、「同じ場面」で行動を繰り返すほど育ちやすい

この研究では、参加者が「朝食後に果物を食べる」「昼食後に散歩する」といった行動を、毎日なるべく同じ状況で続けました。

ポイントは、ただ回数を重ねることだけではありません。「朝食のあと」「帰宅したあと」のように、すでにある生活の流れと行動を結びつけることです。すると脳は少しずつ、「この場面が来たら、次はこれね」と覚えていきます。

つまり、新しい習慣を始めるなら、「毎日がんばるぞ!」よりも、「歯を磨いたら、腕立てを1回」のほうが強い。気合いは寝坊しがちですが、朝食後という合図はわりと律儀です。

2. 習慣化に必要な日数は、人によってかなり違う

「習慣化には21日」と聞くことがありますが、この研究では、行動がかなり自動的になるまでの時間には大きな個人差がありました。目安となる水準に達するまで、18日ほどの人もいれば、254日ほどかかる人もいたのです。

しかも、習慣の育ち方は一直線ではありません。最初は「ちょっと楽になってきたかも」と感じやすい一方、続けるほど伸び方はゆるやかになります。

これは失速ではありません。習慣がサボっているのではなく、生活になじむための静かな工事をしている最中です。他人の「もう毎朝5キロ走ってます」と、自分の「靴を出せた」を同じ物差しで比べなくて大丈夫です。

3. 一日できなくても、習慣づくりは即終了しない

ここは、三日坊主経験者にとって朗報です。

研究では、一度行動をやり忘れても、習慣が育っていく流れに大きな悪影響は見られませんでした。つまり、「昨日できなかった。もう全部ダメだ。白旗!」と、人生の習慣化プロジェクトを閉店させなくてよいのです。

大切なのは、抜けた一日を裁判にかけることではなく、次の機会にまた戻ることです。散歩を休んだなら、翌日にまた靴を履く。日記を書けなかったなら、次の日に一行だけ書く。習慣とは、休まない人の称号ではありません。何度でも日常へ帰ってこられる行動のことなのです。

阿部牧歌(管理人)
阿部牧歌(管理人)

研究の背景:習慣化は何日かかる?「21日説」の先にある、続く行動のリアル

「習慣は21日で身につく」

どこかで聞いたことがある人も多いでしょう。

ダイエットを始めるとき。勉強を続けようと決めたとき。筋トレ動画を保存したとき。人はなぜか、この「21日」という数字に出会います。そして少し安心します。

「なるほど。3週間だけがんばれば、あとは自動運転ね」

未来の自分、ずいぶん高性能なロボット扱いです。

もちろん、目安があること自体は悪くありません。何も見えない海を泳ぐより、「あと少しで島です」と書かれた看板があるほうが、人は進みやすいものです。

ただ、ここには一つ、大きな疑問が残ります。

本当に、誰でも21日で習慣になるのでしょうか。

朝の散歩を始める人もいれば、毎日水を飲む人もいます。野菜を食べようとする人も、日記を書こうとする人もいる。やろうとしていることが違えば、生活の忙しさも、体調も、気持ちの波も違います。

夜勤明けの人に「毎朝5時に走りましょう」と言うのと、朝型の人に「昼休みに一駅歩きましょう」と言うのでは、そもそもゲームの難易度が違います。片方は散歩の話ですが、もう片方は軽く冒険譚です。

それなのに、「習慣化には○日」と一つの数字だけで語ってよいのでしょうか。

当時の習慣研究では、繰り返し行動を行うことが習慣につながる、という考え自体は知られていました。けれども、現実の暮らしのなかで人がどのように行動を繰り返し、いつ頃から「頑張ってやる」ではなく「考えずにやっている」状態へ移っていくのか。その具体的な道のりは、まだはっきり見えていませんでした。

たとえば、こんな疑問です。

「毎日続けるほど、習慣は同じ勢いで育つのか?」
「一日休んだら、努力は全部ふりだしに戻るのか?」
「健康的な行動なら、何でも同じ速さで身につくのか?」
「そもそも、習慣になったと判断するのはいつなのか?」

どれも、私たちが新しいことを始めるたびに、心のすみで抱えている疑問です。

にもかかわらず、答えは案外ぼんやりしていました。

「とにかく続けましょう」
「気合いが足りません」
「三日坊主を乗り越えましょう」

うーん。励ましとしては立派です。でも、これでは少し精神論が強すぎます。習慣化の相談をしているのに、返ってくる答えが根性ラーメン大盛りでは、胃もたれします。

そこでフィリッパ・ラリーらの研究チームは、もっと生活に近い場所で確かめようと考えました。

参加者に「毎日、同じような場面で行う新しい行動」を選んでもらい、その行動がどれほど自動的にできるようになっていくかを追いかけたのです。

つまり、この研究は「人は何日で立派な習慣人間になれるか」を競うためのものではありません。

そうではなく、もっと人間らしい問いを見つめた研究です。

私たちは、どんなふうに“続ける人”になっていくのか。

その答えは、意外にも「毎日完璧にこなした人が勝つ」という単純な物語ではありませんでした。

習慣は、努力が積み上がるだけの直線ではない。失敗しない人だけの特技でもない。生活のなかで何度も同じ行動に戻りながら、少しずつ「やるかどうか」を考えなくてよくなる。その静かな変化に、研究者たちは目を向けたのです。

阿部牧歌(管理人)
阿部牧歌(管理人)

研究方法:習慣化は何日かかる?日常生活のなかで行動の変化を追った実験

この研究は、白衣を着た研究者が横でストップウォッチを持ち、「はい、いま散歩しましたね。習慣ポイント1点です」と見張るような実験ではありません。

もっと生活に近い場所で行われました。

研究に参加した96人は、それぞれ自分で「これから毎日続けたい健康的な行動」を一つ選びます。たとえば、朝食後に果物を食べる。昼食後に少し歩く。夕食の前に水を飲む。内容は食べること、飲むこと、体を動かすことなど、人によってさまざまでした。

ここで大事なのは、ただ「毎日やってください」と頼んだわけではないことです。

研究者たちは参加者に、なるべく同じ場面と結びつけて行動するようにお願いしました。

「朝食後に果物を食べる」
「昼食後に15分歩く」
「夕食前に水を飲む」

という具合です。

これは、行動に“住所”を与えるようなものです。「いつか時間があったら散歩する」だと、散歩は予定表の外をふわふわ漂いがちです。ところが「昼食後に歩く」と決めると、昼食という毎日起きる出来事が、行動の呼び鈴になります。

参加者は12週間にわたって、毎日その行動をできたかどうかを記録しました。さらに、「この行動はあまり考えずにできたか」「自然にやっていた感じがあるか」といった質問にも答えます。研究者たちが知りたかったのは、単純な実行回数ではありません。

その行動が、どれくらい“自動的”になっていくか。

そこです。

たとえば、最初の一週間はこうです。

「朝食後に果物か。ええと、バナナはあったかな。冷蔵庫、冷蔵庫……」

ところが続けていくうちに、朝食を食べ終えたら自然に果物へ手が伸びるようになるかもしれません。「やるべきこと」だった行動が、「次にやること」へ変わる。研究者たちは、その心の中の小さな自動化工事を、日ごとの記録から追いかけたのです。

最終的には、十分な記録がそろった参加者のデータを使いながら、日数とともに自動性がどのように変わったかを分析しました。つまりこれは、「何日続いた人がえらいか」を決める大会ではありません。

新しい行動を繰り返すと、人の中で何が変わるのか。
そして、その変化は一直線に起きるのか。

それを、参加者のふつうの毎日から確かめようとした研究です。実験室ではなく、朝食のあと、昼休みのあと、帰宅後の台所など、生活のすき間で習慣がどう育つのかを見にいった。そこに、この研究のおもしろさがあります。

阿部牧歌(管理人)
阿部牧歌(管理人)

この研究でわかったこと:習慣化は何日かかる?研究が示した「続く行動」が育つまでの現実

さて、いよいよ結果です。

この研究が教えてくれたのは、習慣化とは「21日間、歯を食いしばれば完成!」という、わかりやすいけれど少々せっかちな物語ではない、ということでした。

むしろ習慣は、人によって違う速さで育ちます。最初は変化が見えやすく、やがてゆっくり落ち着いていく。そして、たった一度できなかったからといって、全部が消し飛ぶわけでもありません。

順番に見ていきましょう。

習慣化に、全員共通の「締切日」はなかった

研究チームは、行動がどれくらい「考えずにできるもの」へ変わったかをもとに、習慣の自動性がほぼ頭打ちになるまでの日数を推定しました。

その中央値は、66日でした。

「ほら、やっぱり66日か」と思った方、少し待ってください。ここで本当に大事なのは、66という数字より、その横にいる数字です。

早い人では18日ほど。時間がかかった人では、なんと254日ほどかかると見積もられました。

つまり、「習慣化は○日」と一発で言い切るのは、少し乱暴なのです。

水を飲む習慣と、毎日運動する習慣では、行動の重さが違います。朝食後に果物を一つ食べるのと、仕事終わりに30分歩くのでは、体力も予定も、雨の日の言い訳の数も違います。

意外なのは、習慣化の早さを決めるのが、単なる根性ではないことです。

行動の種類、生活の流れ、続けやすさ、その人の毎日の事情。習慣は、カレンダーの数字だけでは育ちません。だから「もう30日も続けたのに、まだ自然じゃない」と焦らなくて大丈夫です。あなたの習慣が遅刻しているのではなく、あなたの生活に合う形を探している途中なのかもしれません。

習慣は、最初にぐんと育ち、あとからゆっくり落ち着いていく

もう一つおもしろい発見があります。

習慣の自動性は、毎日同じ分だけ一直線に伸びるわけではありませんでした。研究では、行動を繰り返す初期には自動性が比較的大きく高まり、その後は伸び方がゆるやかになり、だんだん頭打ちに近づく形が示されました。

これは少し意外です。

私たちはつい、「続ければ続けるほど、毎日どんどん楽になるはず」と考えがちです。けれど実際には、最初の頃に「少し慣れてきたかも」と感じやすく、その後は変化が見えにくくなっていきます。

そこで人は、こう言いたくなります。

「最近、前ほど成長している感じがしない。これは失敗では?」

いいえ。そこで慌てて習慣化プロジェクトの閉会式を開かなくて大丈夫です。

変化が目立たなくなるのは、習慣が止まったからではなく、行動がすでに生活の中に根を張り始めている可能性があります。最初の頃のような派手な達成感はなくても、「やるか、やらないか」を考える回数が減っているなら、それはかなり大きな前進です。

習慣は、ずっと拍手喝采で成長するスター選手ではありません。途中からは、静かに仕事をする裏方になります。

一度できなかっただけでは、習慣は壊れなかった

そして、三日坊主経験者にとって、いちばん心が軽くなる結果がこれです。

研究では、一度だけ行動をやり損ねても、習慣形成の過程に大きな悪影響は見られませんでした。

たとえば、毎晩日記を書くと決めたのに、疲れて寝落ちした夜があったとします。

すると心の中の厳格な監督が、笛を吹きます。

「はい、連続記録終了。これまでの努力は無効。解散!」

でも、この研究の結果は、そこまで悲劇的ではありません。

一回抜けたからといって、積み重ねがゼロになるわけではないのです。翌日、また一行書けばいい。散歩を休んだなら、次の日にまた靴を履けばいい。大切なのは、完璧な連続記録を守ることではなく、行動との縁を切らないことです。

もちろん、「何度もやらなくても平気」という意味ではありません。研究が示したのは、一度の失敗を大事件にしなくてよいということです。

習慣づくりで本当に厄介なのは、休んだ一日そのものより、「もうダメだ」と思って、そのまま戻らなくなることなのかもしれません。

この研究がくれる結論は、とても現実的です。

習慣は、完璧な人にだけ訪れるものではない。少し抜けても、また戻ってくる人の毎日のなかで、ゆっくり育っていく。

阿部牧歌(管理人)
阿部牧歌(管理人)

ここが面白い:習慣化は66日?「21日説」を現実の生活で確かめた研究の面白さ

この論文の面白さは、「習慣化には何日かかる?」という、ついカレンダーに丸をつけたくなる質問に対して、研究者たちがかなり人間らしい答えを出しているところです。

答えは、ざっくり言えばこうです。

「人による。しかも、けっこう違う」

身もふたもないようで、実はとてもやさしい答えです。

この研究では、行動がかなり自動的になるまでの期間の目安として、よく知られる「66日」という数字が出てきます。ところが、参加者ごとの推定値を見ると、早い人では18日ほど、長い人では254日ほどまで幅がありました。つまり66日は、全員に配られる習慣化の締切日ではありません。学校の夏休みの宿題みたいに、「この日までに習慣になってください」と提出するものではないのです。

ここで「へえ」と思うのは、私たちが自分を責めるとき、たいてい他人の速度を標準装備にしてしまうことです。

友人が「毎朝ランニング、もう全然苦じゃないよ」と言っている。動画では誰かが「朝5時起き、人生変わります」と微笑んでいる。するとこちらは、夜23時に歯を磨けただけで、なぜか敗北感を抱いたりします。

でも、この論文が見せてくれる景色は、もっとのどかです。

朝食後に果物を食べる習慣と、昼休みに15分歩く習慣では、そもそもの難易度が違う。仕事の忙しさ、体調、家族との生活、帰宅時間、冷蔵庫に果物があるかどうか。人の習慣は、意志だけでなく、暮らしの細かな事情を背負って歩いています。

だから「続かない自分」は、ただ根性が足りない人ではありません。

もしかすると、自分の生活に対して、少し大きすぎる目標を背負わせていた人です。あるいは、行動の置き場所がまだ決まっていない人です。「毎日運動する」では予定表の外を漂っていたものが、「昼食後に5分だけ歩く」になった瞬間、やっと生活の中に椅子が用意される。習慣は、努力の天才よりも、行動にちゃんと住所を与えた人のほうへ近づいてくるのかもしれません。

もう一つ、この研究には地味ですが大きな救いがあります。

一度、行動をやり損ねても、習慣づくりが大きく壊れるわけではなかったのです。

これは、連続記録に一喜一憂してきた人には朗報です。

日記を一日書かなかった。散歩を雨で休んだ。寝る前のストレッチを忘れた。すると心の中の厳格な係員が、すぐ赤い判子を押したがります。

「継続、終了です」
「これまでの努力、無効です」
「また月曜日からやり直してください」

いやいや、少し待ってください。

習慣は、ガラス細工ではありません。一日できなかっただけで、粉々になるようなものではない。むしろ大事なのは、抜けた日を“失格の証拠”にしないことです。次の日に戻る。次の朝食後にまた果物を食べる。次の昼休みにまた少し歩く。

この論文は、習慣化を「完璧に連続させる技術」から、「何度でも生活に戻ってくる技術」へ、そっと言い換えてくれます。

66日という数字より、私はこの考え方のほうが好きです。

続ける人とは、一度も止まらない人ではない。
止まったあとに、「まあ、次でいいか」と戻ってこられる人なのだと思います。

阿部牧歌(管理人)
阿部牧歌(管理人)

私たちの生活にどう活かせる?:習慣化を続けるコツは?研究から学ぶ、無理なく行動を続ける3つの工夫

この論文を読んでいて、いちばん大事だと思ったのは、「もっと強い意志を持とう」という話ではないことです。

習慣化がうまくいかないと、私たちはすぐに自分を責めがちです。

「自分はだらしない」
「やる気が足りない」
「意志が豆腐どころか、湯葉かもしれない」

けれど、この研究が見せてくれたのは、習慣が育つかどうかは、意志の強さだけで決まらないということでした。

大切なのは、新しい行動を毎日の流れにどう置くか。そして、途中で崩れてもどう戻るかです。

ここからは、この研究を私たちの生活に持ち帰るなら、どんなふうに使えそうかを考えてみましょう。

1.「いつやるか」を先に決める

まず大事なのは、目標に住所をつけることです。

「毎日、運動する」
「毎日、勉強する」
「毎日、本を読む」

これらは立派な目標です。立派すぎて、少し宙に浮いています。

人は忙しくなると、「あとでやろう」と言います。そして「あとで」は、たいてい行方不明になります。冷蔵庫の奥に消えた調味料くらい、見つかりません。

そこで役に立つのが、すでにある習慣の後ろに、新しい行動をくっつける考え方です。

たとえば、

「朝食を食べたら、歯を磨く前に白湯を飲む」
「昼ごはんのあとに、5分だけ歩く」
「お風呂から出たら、ストレッチを1回する」
「布団に入ったら、日記を一行だけ書く」

こんなふうに、「何をするか」だけでなく、「どの場面でやるか」まで決めます。

すると、毎日やってくる出来事が合図になります。

朝食が終わる。
「あ、白湯の時間だ」

お風呂から出る。
「あ、ストレッチの番だ」

新しい習慣を、自分のやる気に任せるのではなく、生活の流れに預けるわけです。

やる気は気分屋です。朝は元気でも、夜には「今日はもう解散で」と言い出します。けれど、朝食後や入浴後といった生活の合図は、案外まじめです。

2.最初は「笑ってしまうほど小さく」始める

習慣をつくろうとするとき、人は急に壮大になります。

「明日から毎日30分ランニング!」
「毎晩、本を50ページ読む!」
「お菓子は完全禁止!」

未来の自分に対する期待が、急に国際大会レベルです。

もちろん、大きな目標を持つことは悪くありません。ただし、習慣のスタート地点では、大きさよりも“戻りやすさ”が大切です。

研究で扱われた行動も、「朝食後に果物を食べる」「昼食後に少し歩く」といった、日常に置きやすいものが中心でした。

つまり、まずは行動の入口を小さくする。

「腕立て10回」ではなく、「床に手をつく」
「読書30分」ではなく、「本を開く」
「部屋を片づける」ではなく、「机の上のコップを一つ下げる」

小さすぎると思うかもしれません。

でも、習慣づくりの初期に必要なのは、毎日自分を感動させることではありません。「これなら今日もできる」を積み上げることです。

一回の行動が小さければ、疲れている日にも残れます。雨の日にも残れます。仕事でへとへとになり、「今日は人間として横になりたい」としか思えない日にも残れます。

立派な一歩より、翌日も出せる一歩。

習慣は、最初から大木を植える話ではありません。まずは、鉢植えを倒さず置ける場所を探す話です。

3.休んだ日は、「失敗」ではなく「空白」として扱う

そして最後に、たぶんこれがいちばん大切です。

一日できなかったとき、自分を裁判にかけないことです。

散歩を休んだ。
日記を書けなかった。
早寝するつもりが、動画を見ていたら深夜になった。

そんな日はあります。

そのとき、心の中で判決を出したくなります。

「継続は途切れた」
「もう自分には無理だ」
「来月から本気出す」

しかし、この研究は、一度行動をやり損ねたことが、習慣づくり全体を大きく壊すわけではないと示しています。

大事なのは、休まなかったことではありません。

休んだあとに、戻れることです。

一日書けなかった日記は、翌日に一行書けばいい。
歩けなかった日は、次の昼休みに3分だけ歩けばいい。
寝坊した朝は、夜に白湯を飲んでもいい。

習慣は、完璧な連続記録を競うゲームではありません。

生活には予定外が起きます。体調も崩れます。急な仕事もあります。家族との用事もあります。布団が驚くほど魅力的に見える季節もあります。

そんな現実の中で続けるには、「一度も外れないこと」より、「外れても戻る道を残しておくこと」が大切です。

この論文から持ち帰りたいのは、たぶんこの三つです。

行動にタイミングを決める。
最初の一歩を小さくする。
できなかった日があっても、次の日に戻る。

習慣化とは、自分を厳しく管理する技術ではありません。

少しずつ、自分の生活と仲良くなる技術なのだと思います。

阿部牧歌(管理人)
阿部牧歌(管理人)

少し注意したい点:習慣化は66日で完成する?研究結果を鵜呑みにしないための注意点

ここまで読むと、この研究はかなり希望のある話に見えます。

「習慣は、少しずつ育つ」
「一日休んでも、全部終わりではない」
「気合いより、生活の流れが大事」

うん。どれも、続かない自分を責めがちな私たちには、やさしい知らせです。

ただし、論文を読むときは、おいしい結論をそのまま丸飲みしないことも大切です。

たとえば、焼きたてのパンを見つけたとき。「これは絶対においしい」と思っても、ちゃんと中まで焼けているかは少し見ますよね。研究も同じです。面白い結果を喜びつつ、「これはどこまで言えるのかな」と、少しだけ切って中身を確かめる。そのひと手間があると、知識がぐっと丈夫になります。

「66日」は、習慣化の締切日ではない

まず、いちばん大事な注意点です。

この研究でよく知られる「66日」は、全員が66日目に習慣を完成させた、という意味ではありません。参加者ごとの変化をもとにした目安のひとつであり、実際には習慣がかなり自動的になるまでの推定期間には大きな幅がありました。早い人もいれば、ゆっくり育つ人もいたのです。

つまり、66日目の夜に急にファンファーレが鳴って、

「おめでとうございます。本日より、あなたは散歩を自動で行う人です」

となるわけではありません。

人によって生活は違います。仕事の忙しさも、体調も、家族との時間も、朝の機嫌も違う。果物を食べる習慣と、毎日30分運動する習慣では、そもそも必要な準備も負担も違います。

数字は、地図としては役立ちます。でも、命令書として読む必要はありません。

「66日続かなかったから失敗」ではなく、「自分の生活に合う形を探しながら、少しずつ自動化していく」が、この研究に近い受け取り方です。

この研究が見ていたのは、主に健康に関わる小さな行動だった

この研究で参加者が選んだのは、食べること、飲むこと、体を動かすことに関する行動でした。しかも、「朝食後に果物を食べる」「昼食後に歩く」といった、毎日の生活に置きやすい行動が中心です。

ここは、少し注意が必要です。

たとえば、「毎朝コップ一杯の水を飲む」と、「小説を毎日5,000字書く」では、話がかなり変わってきます。

水を飲むには、コップと水があればいい。
小説を書くには、時間、集中力、題材、気分、場合によっては心の中の編集長との交渉まで必要です。

さらに、禁煙、借金の返済、依存の問題、つらい気分への対処などは、単に「習慣をつくる」という言葉だけでは片づけにくいテーマです。生活環境、心身の状態、人間関係、専門的な支援など、いくつもの要素が関わってきます。

この論文は、「小さな健康行動を、同じ場面で繰り返すとどう育つか」を教えてくれる研究です。

だからこそ、私たちはその知恵を借りながらも、すべての目標にそのまま当てはめるのではなく、自分の課題の大きさに合わせて使う必要があります。

「一度休んでも大丈夫」は、「何度休んでも問題なし」ではない

この研究では、一回の行動機会を逃したことは、習慣形成の流れに大きな悪影響を与えなかったと報告されています。

これは、とても心強い結果です。

日記を一日書き忘れた。
散歩を雨で休んだ。
ストレッチをする前に寝落ちした。

そんな一日があっても、すぐに「全部終わり」と考えなくてよい。これは、たしかにその通りです。

ただし、この結果は、「休みが何日も何週間も続いても、同じように大丈夫」という意味ではありません。

一度の空白と、行動そのものが生活から消えてしまうことは、別の話です。

たとえるなら、電車を一回乗り過ごしたのと、駅そのものへ行かなくなるのは違います。一回の乗り過ごしなら、次の電車に乗ればいい。でも、何日も駅へ向かわなければ、目的地にはなかなか近づきません。

この研究が教えてくれるのは、「休むな」ではなく、「休んだ日を理由に、やめないで」ということです。

「自動的にできる」と「人生が変わる」は、少し違う

この研究が追っていたのは、行動がどれほど自動的に感じられるようになったか、という点でした。参加者は毎日、自分の行動や感覚を記録していました。

ここも、見落としたくないところです。

たとえば、毎朝の散歩が自然にできるようになったとしても、それだけで仕事の悩みが消えるとは限りません。日記を書く習慣がついたからといって、人生の迷いがすべて整理されるわけでもありません。

習慣は、人生を整えるための大事な道具です。

でも、万能の魔法の杖ではない。

道具が一つ増えることで、暮らしは少し扱いやすくなる。自分への信頼も、少しずつ育つ。けれど、複雑な問題には、休むこと、人に相談すること、環境を変えること、必要な支援につながることも、ときには同じくらい大切です。

この研究は、私たちに「小さな行動を続ける力」を教えてくれます。

ただし、その力を過信しないこともまた、上手な使い方なのだと思います。

数字をお守りにしすぎず。
一日できなかった自分を敵にせず。
自分の生活に合う大きさで、何度でもやり直す。

そのくらいの受け取り方が、この研究をいちばん長く、やさしく役立てる方法なのかもしれません。

阿部牧歌(管理人)
阿部牧歌(管理人)

まとめ:習慣化は何日かかる?研究から学ぶ、続く行動を育てる3つのヒント

「明日から毎日やるぞ」と決めたのに、三日後にはその決意が部屋のすみに転がっている。

そんな経験があると、つい思ってしまいます。

「自分は続ける才能がないのかも」
「意志が弱いのかも」
「そもそも、習慣化に向いていない生き物なのかも」

でも、この研究が見せてくれたのは、もう少しやさしくて、現実的な景色でした。

習慣は、強い意志を持つ人だけが手に入れる勲章ではありません。

同じような場面で、小さな行動を何度も繰り返しているうちに、「やろうかな」と考える前に体が動くようになる。その静かな変化こそが、習慣化の正体です。

そして、習慣が育つ早さは人によってかなり違います。研究では、自動的に行動できる感覚が十分に高まるまでの推定期間に大きな幅があり、よく知られる66日という数字も、全員に共通する締切日ではありませんでした。

だから、友人が二週間で朝活を始めたからといって、自分も二週間で朝5時に目覚める必要はありません。

あなたにはあなたの生活があります。

仕事で疲れる日もある。
雨が降る日もある。
冷蔵庫に果物がない日もある。
布団が国宝級の吸引力を発揮する朝もある。

そんな毎日の中で習慣を育てるなら、覚えておきたいことは三つです。

まず一つ目は、行動に「いつやるか」という住所を与えることです。

「毎日運動する」より、「昼食後に5分歩く」。
「毎日読書する」より、「歯を磨いたあとに本を一ページ開く」。

行動を生活の流れに結びつけると、毎日やってくる出来事が合図になります。やる気にすべてを任せるより、朝食後や帰宅後という日常のほうが、ずっと頼りになることがあります。

二つ目は、最初の一歩を、拍子抜けするほど小さくすることです。

腕立てなら一回。
日記なら一行。
片づけなら、机の上のコップを一つ下げる。

小さな行動は、立派ではないように見えるかもしれません。でも、疲れている日にもできる行動は、長い目で見るととても強いのです。

習慣づくりは、初日から大きな花火を打ち上げる話ではありません。生活の片隅に、小さな種を置いて、毎日水をやる話です。

そして三つ目は、一日できなかった自分を、すぐ失格にしないことです。

この研究では、一度行動をやり損ねても、習慣が育つ流れに大きな悪影響は見られませんでした。

日記を書き忘れた夜があってもいい。
散歩を休んだ日があってもいい。
ストレッチをする前に寝落ちしても、人生の習慣化事業が破産したわけではありません。

大切なのは、「一度も休まないこと」ではなく、「次の機会にまた戻ること」です。

習慣とは、完璧な人が守る連続記録ではありません。

少し抜けながらも、また日常へ帰ってくるための道です。

今日、何か一つ始めるなら、大きな宣言はいらないかもしれません。

「夕食後に、コップ一杯の水を飲む」
「寝る前に、本を一ページだけ読む」
「靴を履いたら、家の外に一歩出る」

そのくらいで十分です。

気づけばやっている自分は、派手な決意の先ではなく、こういう小さな一回一回のなかで、ゆっくり育っていくのだと思います。

阿部牧歌(管理人)
阿部牧歌(管理人)

あとがき

この論文を読んで、私は少しだけ安心しました。

なぜなら私は、「続ける」という言葉に、どうにも立派すぎる制服を着せてしまいがちだからです。

毎日やる。
一度も休まない。
決めたことを守る。
雨の日も風の日も、花粉の日も、眠い日も。

そんなふうに考えると、習慣づくりは急に体育会系の合宿みたいになります。朝から笛が鳴っていて、少しでも休むと心の監督が腕組みをしている。こちらとしては、ただ夜に本を数ページ読みたいだけなのですが。

でも、この研究は、そんな厳しい監督に「ちょっとベンチへどうぞ」と言ってくれるようでした。

習慣は、毎日完璧にできる人だけのものではない。

同じ場面で、小さな行動を繰り返しているうちに、少しずつ体になじんでいくもの。途中で一日抜けても、それだけで全部が無効になるわけではない。大切なのは、できなかった日の自分を叱り飛ばすことよりも、「まあ、また次でいいか」と戻ってくること。

この考え方は、習慣だけでなく、生き方そのものにも少し似ている気がします。

人は、毎日きれいに前へ進めるわけではありません。

やる気がある日もあれば、何もしたくない日もある。自分を好きになれる日もあれば、鏡の前で「本日の私、なんだか取り扱いが難しいな」と思う日もある。

それでも、次の日にもう一度起きて、顔を洗って、少しだけ動く。

その「戻る力」があるなら、人は案外、ちゃんと進んでいるのかもしれません。

アドラーの昼寝では、心理学の論文を読んで、「すごい研究でした」で終わらせたくないと思っています。

論文の中にある数字やグラフの向こうには、たいてい、私たちの朝があります。寝坊した朝、疲れた夜、やろうと思ったのにできなかった日。そして、もう一度やってみようかなと思う日があります。

この論文は、そんな毎日に向けて、小さく言ってくれているように感じました。

「急がなくていい」
「一日抜けても大丈夫」
「また戻ればいい」

だから今日、何かを始めるなら、壮大な宣言はいらないのだと思います。

「夕食のあとに水を飲む」
「寝る前に本を一ページ開く」
「靴を履いて、玄関の外に一歩出る」

そのくらいの、小さな約束で十分です。

習慣は、人生を一晩で作り変える魔法ではありません。

でも、何度でも戻れる小さな行動は、気づかないうちに、私たちの毎日を少しずつ住みやすくしてくれる。

そんなことを、この論文から受け取りました。

阿部牧歌(管理人)
阿部牧歌(管理人)

制作ノート

出典論文:Lally, P., van Jaarsveld, C. H. M., Potts, H. W. W., & Wardle, J. (2010). How are habits formed: Modelling habit formation in the real world. European Journal of Social Psychology, 40(6), 998–1009. DOI:10.1002/ejsp.674

掲載・確認先Wiley(出版社公式ページ)Google Scholar

記事について:本記事は、上記論文の内容をもとに、一般の読者向けに要約・解説したものです。原文の趣旨を尊重しつつ、読みやすさを重視して再構成しています。

制作体制:本記事は、GPT-5.5 を用いて下書きを作成したうえで、当サイト管理人・阿部牧歌が内容を確認し、表現や流れを整えながら仕上げています。機械の速さと、人の目と感覚の両方を生かしながら、読みやすく信頼できる記事づくりを目指しています。

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