アラン・ウィグフィールド(Allan Wigfield)の論文一覧:「できそう」と「やりたい」の間に、やる気の発電所を建てた心理学者

アラン・ウィグフィールド(Allan Wigfield)の論文を読む女性
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アラン・ウィグフィールド(Allan Wigfield)のプロフィール

アラン・ウィグフィールドは、「人は、何なら頑張れるのか?」という、学校でも職場でも人生でもずっと消えない大きな問いに向き合ってきた心理学者です。

たとえば、同じ宿題を前にしても、すぐ取りかかる子もいれば、「あとでやる」と言いながら机の周りを三周して、急に引き出しの整理を始める子もいます。大人だって同じです。「勉強したほうがいいのは分かっている。でも、なぜか手が動かない」。そんな心の現象を、気合いや根性の不足として片づけず、丁寧に研究してきたのがウィグフィールドです。

彼が長年大切にしてきた考え方のひとつが、「人が行動するには、できそうだという見通しと、それをやる意味の両方がいる」という見方です。

つまり、人はただ「これは大事です」と言われても、なかなか動けません。「大事なのは分かるけど、私には無理そうです」という気持ちが強ければ、やる気はしぼみます。反対に、「私ならできるかも」と思えても、「それ、何の役に立つの?」と思っていれば、心のエンジンはかかりにくい。やる気とは、根性という一本の太いロープではなく、「できそう」と「やる意味」がより合わさってできる、少し繊細な編みひもなのです。

さらにウィグフィールドは、「価値」といっても一種類ではないと考えました。楽しいからやる。自分にとって大事だからやる。将来の役に立つからやる。あるいは、やらないと困るからやる。人は案外、いくつもの理由をポケットに入れながら行動しています。そしてそこには、「時間がかかる」「失敗したら恥ずかしい」「ほかのことを諦めなければならない」といった負担もあります。

ここが、ウィグフィールドの研究のやさしいところです。やる気が出ない人を見て、「怠けている」と決めつけないのです。もしかすると、その人は自信をなくしているのかもしれない。やる意味を見失っているのかもしれない。あるいは、頑張るための心の余白が、すでに残っていないのかもしれない。やる気の問題を、本人の性格だけでなく、学びの内容、周囲の関わり方、これまでの経験まで含めて考えようとしたところに、彼の研究の深さがあります。

ウィグフィールドは、とくに子どもや青年が、学校生活のなかで「自分はできる」と思う気持ちや、「これは自分にとって意味がある」と感じる気持ちを、どのように育てていくのかを研究してきました。読書への意欲や読解の学びにも力を注ぎ、「読めるようにする」だけでなく、「読みたくなる」をどう支えるかを考えてきた人物でもあります。

これは、なかなか重要な視点です。本を読まない子に「読書は大切です」と百回言っても、心の中で「でも面白くないし」「どうせ読めないし」となっていたら、言葉は玄関先で靴を脱げずに帰ってしまいます。だからこそ、興味を持てる題材に出会うこと、自分で選べること、小さくできた実感を積むこと、誰かと面白さを分かち合うことが大切になる。ウィグフィールドの研究は、そんな当たり前に見えて見落とされやすい心の動きを、研究としてきちんと見つめてきました。

メリーランド大学で長く研究と教育に携わり、現在は名誉教授として知られるウィグフィールド。彼の仕事は、やる気を「本人の中にある謎の燃料」として扱うのではなく、環境や経験のなかで育ち、ときに弱まり、また育て直せるものとして捉え直しました。

「頑張れない自分」を責めたくなったとき、彼の研究はこんなふうに問いかけてくれます。

“あなたは、それをできそうだと思えていますか?”
“それは、あなたにとってどんな意味がありますか?”
“そして、そのために払っている負担は大きすぎませんか?”

やる気がないのではなく、やる気が育つ条件が、まだそろっていないだけかもしれない。アラン・ウィグフィールドは、そんな希望のある見方を、教育と心の研究に残した心理学者なのです。

参考文献・確認先:メリーランド大学:Allan Wigfield 公式プロフィール / Google Scholar:Allan Wigfield 論文・引用情報 / PubMed:期待・価値理論に関する代表論文

阿部牧歌(管理人)
阿部牧歌(管理人)

アラン・ウィグフィールド(Allan Wigfield)の研究から学べること

「やる気が出ない」。この言葉は便利です。便利すぎます。便利すぎて、ときどき私たちは、心の中で起きていることを全部まとめて“やる気”という段ボール箱に放り込んでしまいます。

勉強したほうがいいのは分かっている。仕事の準備もしなければならない。運動だってしたい。部屋も片づけたい。けれど、なぜか手が動かない。そしてスマホだけは、こちらが頼んでもいないのに、驚異の集中力で触れてしまう。

そんなとき、「自分は意志が弱い」「怠け者だからだ」と結論を急ぐ前に、アラン・ウィグフィールドの研究は、少し違う角度から心を見てみようと提案してくれます。

彼の研究から学べる大切なことは、人が何かに取り組むには、大きく分けて二つの気持ちが必要だということです。

ひとつは、「自分にもできそうだ」という見通し。
もうひとつは、「それをやる意味がある」と感じられることです。

この二つがそろうと、心の中で小さな発電機が回り始めます。反対に、どちらかが止まると、やる気は急に節電モードに入ります。

たとえば、「資格を取ろう」と決めたとします。

資格が将来に役立つと思えていても、「自分には難しすぎる」「前に失敗したから、また無理かもしれない」と感じていれば、参考書を開く前から心はぐったりします。反対に、「これならできるかも」と思えても、「でも、取ったところで何になるの?」と意味が見えなければ、今度は机に向かう理由が薄くなります。

つまり、やる気は単純に「強い人にだけある燃料」ではありません。

「できそう」と「やる意味」が、心の中でちゃんと出会えたときに育ちやすいものなのです。

ここからまず学べるのは、やる気が出ないときに、自分を叱るより先に、質問を変えてみることです。

「なんで私はこんなにだめなんだろう」ではなく、
「これは、今の自分にできそうな大きさだろうか」
「私は、このことにどんな意味を感じられているだろうか」

この二つを静かに尋ねてみる。

それだけで、心の会議室の空気が少し変わります。責める会議から、作戦を立てる会議へ。議長が怒鳴る会議は、たいてい長引くわりに何も決まりません。

そしてウィグフィールドの研究は、「意味がある」と感じる理由も、人それぞれ違うことを教えてくれます。

純粋に面白いからやる人もいます。
自分らしさにつながるからやる人もいます。
将来の仕事や暮らしに役立つからやる人もいます。
大切な誰かの役に立ちたいからやる人もいます。

ここで大事なのは、「楽しくなければ続かない」と決めつけないことです。

もちろん、楽しいことは強いです。楽しいことは、心の冷蔵庫にプリンがあるくらい強い。しかし人は、いつも面白さだけで動くわけではありません。「今は少し面倒だけれど、未来の自分を助けるためにやる」「自分が大切にしたい生き方につながるからやる」という動機も、立派な力になります。

たとえば、毎日の仕事がいつも楽しいとは限りません。むしろ、「今日もメールが三十通」「会議が二本」「コピー機が絶妙なタイミングで紙づまり」という日もあります。それでも働き続ける人がいるのは、仕事の中に生活を守る意味、誰かの役に立つ意味、成長につながる意味を見つけているからでしょう。

ただし、ここで忘れてはいけないものがあります。それは、「負担」です。

どれほど意味のあることでも、疲れすぎているとき、時間がなさすぎるとき、不安が大きすぎるとき、人は動けません。やる気の話になると、「価値を見つけよう」「前向きになろう」と言われがちですが、ウィグフィールドたちの考え方は、行動には努力や時間、失敗への怖さ、ほかのことを諦める痛みといった負担もあると見つめます。

これは、とても人間的な視点です。

「やる意味は分かる。でも、今の自分には重い」

そんな状態は、甘えではありません。荷物が重いなら、気合いで背骨を増やすより、荷物を分けるほうが先です。

勉強なら、一冊を終わらせようとせず、今日は二ページだけ読む。
仕事なら、全部を片づけようとせず、最初のメール一本だけ返す。
運動なら、一時間走るのではなく、靴を履いて外へ出るところまでにする。

目標を小さくすることは、志を小さくすることではありません。むしろ、「自分にもできた」という感覚を取り戻すための、かなり賢い戦略です。

ウィグフィールドの研究を暮らしに生かすなら、やる気がない日にこそ、次の三つを確かめてみるとよいでしょう。

「私は、これをできそうだと思えているだろうか」
「私は、これにどんな意味を感じているだろうか」
「今の私には、負担が大きすぎないだろうか」

この三つに答えていくと、問題が「自分の根性」ではなく、「取り組み方の設計」に見えてきます。

やる気とは、心の中に突然降ってくる稲妻ではありません。できそうな一歩があり、その一歩に自分なりの意味があり、背負う荷物が少し軽くなったときに、ぽっと灯る小さな明かりです。

「頑張れない自分」を責める前に、その明かりが灯る条件を整えてみる。

アラン・ウィグフィールドの研究は、私たちにそんな、少しやさしくて、けれど現実的なやる気の育て方を教えてくれるのです。

阿部牧歌(管理人)
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アラン・ウィグフィールド(Allan Wigfield)の論文一覧

1.『やる気の設計図:信念・価値・目標が行動を動かすしくみ』ジャクリーン・S・エクルズ、アラン・ウィグフィールド(2002)

Eccles, Jacquelynne S., & Wigfield, Allan. (2002). Motivational Beliefs, Values, and Goals. Annual Review of Psychology, 53, 109–132.
DOI:10.1146/annurev.psych.53.100901.135153

「やる気がないんです」と言うと、心の中の係員が「では、やる気を一名、お呼び出しします」と放送してくれそうですが、現実はそんなに単純ではありません。本論文は、人が動く理由を「自分にもできそう」という見通しと、「それをする価値がある」という感覚から読み解いた、やる気研究の大きな見取り図です。面白い、役に立つ、自分らしい。けれど時間もかかるし、失敗も怖い。そんな心の綱引きを丁寧に整理し、「なぜ頑張れるの?」に光を当てます。根性論の前に、心の設計図をのぞいてみたくなる一本です。

阿部牧歌(管理人)
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この論文の要約を読む
【心理学論文】やる気が出ないのはなぜ?「できそう」と「大切」が行動を動かすしくみ
【心理学論文】やる気が出ないのはなぜ?「できそう」と「大切」が行動を動かすしくみ
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